あれにはオイラも驚いた!

<サッカー セリエA>社会問題化する中で暴動で死亡した警察官の葬儀が営まれる - イタリア

【ローマ/イタリア 5日 AFP】2日に行われたサッカー、イタリア・セリエA・第22節のカターニア(Catania)vsパレルモ(US Citta di Palermo)戦の暴動で、サポーターが投げた小型爆弾が直撃し死亡した警察官のフィリッポ・ラチティ(Filippo Raciti)さんの葬儀が営まれ、政府関係者など約千人が参列し、葬儀場となったカターニア大聖堂(Catania Cathedral)の外には数千人が弔問に訪れるなど事態の深刻さを窺わせた。
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(c)AFP/MARCELLO PATERNOSTRO

AFPBB News


 サッカーマガジンの本年2月20日号に「報道陣もびっくりの現場事件簿」というサブタイトルとともに、「あれにはオイラも驚いた」なる特集記事が掲載されています。
 フットボール界では著名なジャーナリストの皆さんが、幅広い取材体験の中でも飛び切り驚いたこと(カルチャーショック)をそれぞれに綴っておられるのですが、なかなか読み応えがありました。

 翻って自分にそんな体験があったかと思い返してみると、ありました、ありました。まさに「あれにはオイラも驚いた!」という経験が・・・。
 残念ながらその体験は、二度と味わいたくない最悪に近いものなのですが、昨今話題になっているイタリアのフーリガンによる警官殺害事件にも関連のあるエピソードなので、このブログをご覧の皆様に是非紹介させていただきたいと思います。

 その事件は1992年の冬、私が生まれて初めてセリエAの試合を観戦した際に起こりました。場所はミラノのサンシーロ・スタジアムで、カードはACミラン対ASローマ戦。ミランではフランス人のジャンピエール・パパンが、そしてローマではドイツ人のトーマス・へスラーがエースとして活躍していた時代です。

 
 何しろ初めてのセリエA観戦でしたので、キックオフのかなり前にスタジアムに到着し、その周辺を散策していた時の事です。偶然にもアウェーとなるASローマのサポーター達が、スタジアムに到着した現場に居合わせる格好となりました。
 ローマのサポーターの数は5~600人程度でしたが、何とその四方を武装した機動隊が厳重に取り囲み、さらに前後を数台の装甲車が護衛しながらやって来たのでした。

 イングランドやスペイン、そしてドイツやオランダとも違ったその物々しい警備に圧倒された私は、しばしその様子を見守っていたのですが、あろうことか目の前で行進するローマのサポーターに向かって、沿道の木々の向こう側から投石が始まったのです。
 それは間違いなくホームであるミランのサポーター連中の仕業なのですが、「うわっ、ひどいことをするもんだ!」と驚きを隠せない私を尻目に、四方を取り囲んでいた機動隊員は映画「グラディエーター」のローマ軍よろしく一斉に楯を頭上にかざし、毅然と行進を続けるではありませんか。一方、ローマのサポーターもサポーターで慌てる気配もなく、ジャンパーやコートを捲り上げて頭上にかざし、その歩みを止めません。

 カンカンカンと投げられた石が機動隊員の楯に当たる音を鳴り響かせながら、平然と入場口へと行進を続ける一団の姿に私は強いカルチャーショックを受けました。
 投石という一歩間違えば大惨事に至る状況の中、落ち着いてことに対処する姿は確かに冷静沈着であり、見事なまでの危機管理能力なのですが、それは即ちそういった緊迫状況が日常茶飯事で起こっていることを意味します。私はカルチャーショックも然る事ながら、「セリエAはやばいぞ!」と心底思いました。

 しかしその時は、直後にもっとやばい事態が我が身に降りかかることなど知る由もなく、ただ呆然とその場に立ち尽くしていたのでした。

 厳重な警護を受けたローマ・サポーターが眼前を通り過ぎてから程なくして、今度はその一団が向かった方角から4~50人の若者が血相を変え、蜘蛛の子を散らしたように、私のいる方に向かって全速力で駆け来るではありませんか。更にその背後からは警棒を振りかざした警官達が、これまた全速力でやって来るのです。
 そして、目の前を通り過ぎて行く若者達が先程石を投げたミランのサポーターであり、警察に追われているのだと気付いた時には、既に一人の警官が私に向かって突進を開始していました。 「こ、これはまずい!!」と心の中で叫んだ瞬間、私は生まれて初めて血の気がスッと引くという経験をしましたが、今もってあの感覚は忘れられません。

 必死の形相で“No! Jo 、 periodista!!(違う!私はジャーナリストです!!)”とスペイン語で叫びましたが、時既に遅し。警官は私に向かって警棒を振り下ろしたのでした。

 私はというと、咄嗟に警官に背を向けて屈み込みましたが、ビシッという音とともに警棒が私の背中右半分に見事に命中。「ウッ!」と声を発したと思いますが、突然、息が出来なくなりその場にうずくまってしまいました。

 幸い警官は事態を呑み込んだのか、私に一撃を加えただけでその場を立ち去ってくれましたが、あの状況で思いっきり何発も叩かれていたら一体どうなっていたことやら・・・。考えただけでもゾッとします。

 恐らく1~2分間はそこにうずくまっていたと思うのですが、本場欧州でフットボール観戦を始めてから十数年目にして、初めてフーリガニズムの洗礼を受けたのでした。

 もっとも、こんな洗礼は受けないで済むに越したことはなく、国によってはフットボール観戦をする際に、よく下調べをしておく必要があることを痛感した次第です。

 また、今もって忘れられないことがもう一つあるのですが、それは投石をした連中の殺伐とした乾いた眼差しです。やくざや暴走族のそれに近いといったらよいのでしょうか、麻薬やシンナーに手を出したり、荒んだ生活を送ったりしている人間が持つ独特の眼差しに限りなく近かったのです。

 この時に私は、愛するクラブを応援するのではなく、敵のサポーターを襲ったり威嚇したりするためにスタジアムにやってくる輩(フーリガン)の存在を目の当たりにしたわけですが、これはフットボールに関わる人々だけでは解決し得ない社会問題であり、国と関連機関が協力し合って取り組まなければ収束しないものと断言出来ます。

 私がこの事件に巻き込まれてから既に15年が過ぎ去ったわけですが、イタリアではその間に国も関連機関もフーリガン問題、或いはウルトラス問題に対して、真摯に取り組むことはありませんでした。今回、カターニャで起こった警官殺害事件は、そのツケが回って来たに過ぎません。
 ラテン気質の悪い側面が出た格好ですが、ユベントスやミランの審判買収疑惑の時のように、尻すぼみ状態で終息するのではなく、ウルトラスとクラブの不透明な関係も含めて徹底的に調査し、断固たる処置を施してもらいたいと思います。

 ところで、背中を思い切り殴られた私ですが、その後何事もなく試合を観戦し、無事宿泊先に辿り着く事が出来ました。しかし、ホテルの部屋の鏡で自分の背中を見てビックリ! 何と縦30センチ、幅2センチほどの大きな蚯蚓腫れがくっきりと現れていたのです。しかも、その色がASローマのチームカラーと全く同じ赤茶色だったという落ちまでついて!

※イタリアのフーリガニズムについては、スポーツナビでコラムを担当されているホンマヨシカさんが詳しく記述されており、参考になさることをお薦め致します。

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登録日:2007年 02月 21日 16:00:53

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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