私の視点
光陰矢の如しとは申しますが、このブログを立ち上げさせて頂いてから既に8ヶ月が過ぎ、スライドショーも含めて今回がちょうど75本目の原稿(ブログ)となります。
初回でワールドカップに臨む日本代表と、それを報道するメディアに対する疑問を投げ掛けて以来、フットボールにまつわる様々な話題について持論を展開してまいりましたが、多くの方々が様々なコメントを寄せて下さいましたことに対し、厚く御礼申し上げます。
皆様からのコメントを読むことで、自分の意図が伝わることの喜びを噛み締めたり、逆に自分の表現力の至らなさを知ったりすることが出来ました。
また、ややもすると独りよがりになりがちな持論や提案に対して多様な意見、視点があることを知り、大変参考になりました。
そんな中で非常に興味深い発見があったのですが、それは個々の選手や、選手の動向についての記述をした時には、皆様からのコメントが多くなるということであります。
具体的には中田英寿選手引退に関する私の想い、マテラッツイの発言とジダンの頭突きに関する私見、そしてレッズに在籍したサントス選手移籍の報に接して持論を述べたときでございます。
そして、その時にお寄せ頂いたコメントの多くは選手個人を批判するもの、或いは選手の優劣に関するものだったのです。
また、私のブログに限らず、ネット上では代表チームを中心とした選手の出来、不出来や監督の人選、采配について盛んに議論が行われているように見受けられ、皆様と私とでは視点や関心事が違うことをひしひしと感じる次第です。
「あなたはジャーナリストであり、少なくともJリーグ開幕前からフットボールビジネス全般で生計を立てているのだから、視点や興味の対象が違って当たり前だろう。」とお叱りを受けてしまいそうですが、それにしても・・・です。
例えば、私は選手のパフォーマンス、特に凡ミスや致命的なプレーについて言及することは殆どなく、少なくともそこに論点が絞られることはありません(ラフプレーやフェアプレーに反する行為に関しては別)。
それは、プロのフットボール選手として生計を立てていくこと自体が如何に困難か、また月並みな言い方ではありますが、プロ選手が如何に上手であるかを熟知しているつもりだからです。そう、基本的に彼らをアスリートとして、アーティストとしてとても尊敬しているのです。
私自身、ある程度のレベルでかなりハードなトレーニングを積んだ競技者であったことを自負しているだけに、プロ選手にまで上り詰めた選手達を、下手くそだのボケだのと批判する気にはとてもなれないのです。
例えば、前回のワールドカップの日本対クロアチア戦で、柳沢選手がゴール手前3,4メートルの位置から信じられないシュートミスをしました。私の親友Iさんなどは酒の席ではありますが、あのプレーは絶対に許せないと主張します。
しかし、私はフォワードの選手でしたし、何百という試合をこなしてきた中で、どんなレベルの選手であってもあのような凡ミスがあることを肌で感じてきただけに、彼を攻める気にはどうしてもなれなません。
そして、あの試合について論じるべきは、柳沢が入れてさえいればとか、駒野へのファウルはPKだったとか言うことではなく、監督の人選をはじめとした日本協会の強化システムのあり方についてだと私は考えるのです。
確かに試合を観戦する際、どこに視点を置いてどう批判しようが個人の自由です。しかし、どこに視点を置くかによって試合の印象は全く違ってきますし、視点が外れていると往々にしてフラストレーションが溜まってしまうことになります。
そこで今回は、私がブログを書く際の視点について、できるだけ解りやすい例を引用してご説明申し上げたいと存じます。
まず、私にとって選手は作物の種や苗のようなものです。例えば、同じサツマイモでも様々な品種があって、味も値段もピンキリ。差し詰めJリーガーともなれば、その品種は栄養豊かでカロチン吟量が人参より多いベニハヤトといったところでしょうか。
しかし、どんなに良い品種であっても、それを植える土壌が悪ければおいしいサツマイモは育ちません。もし、ダイオキシンなどが土壌に含まれていれば、口にすることすら出来なくなります。
そしてそのサツマイモの苗を植える土壌こそが、Jクラブや日本協会の強化管理部、或いは育成部なのであります。
ところが私はJリーグ開幕前後より、幾つかのクラブと関わりを持つことによってJリーグの一番の問題点は、苗ではなく畑にあることに気が付くに至りました。気付かざるを得なかったと申し上げたほうが正確かもしれません。そしてビックリするような現状に唖然とせざるを得ませんでした。
「こんな畑にどんな良い品種を植えたってまともに育たないぞ。」と!
もっと言えば「消費者はダイオキシンを含んだサツマイモを知らないうちに食わされているぞ!」と!!
一方、例えが古くて恐縮ではありますが、選手が苗で、畑が強化管理部であればゼネラルマネージャーは小作人Aです。彼は土地を耕し、肥料を加え、農地全体を管理する責任者で、サツマイモの世話を専門とする小作人Bを選ぶ権利も持ち合わせています。
そしてその小作人Bこそが、クラブの監督であることはお察しいただけると思います。
今年はどの品種の苗をどの業者からどのくらい仕入れるのか、肥料はどうするのか等々、小作人AとBであれこれ相談し、土地を耕した後に苗を植え、育てて行くわけです。
何故なら小作人Aは、小作人Bと協力して質の良いサツマイモを出来るだけ多く生産するように大地主から言渡されているからです。
この大地主は、Jクラブでは社長、日本協会ではキャプテンということになります。
以上が、私の考えるフットボール界の構図であり、全ての発想のバックボーンとなっています。
つまり、私は日本のフットボール界の根本的問題は苗にあるのではなく、畑や、小作人A
やB,或いは時として大地主にあると確信しているのです。
「日本の苗は素晴らしい、世界で勝負できるぞ!でも畑がこれでは!」という思いを抱く
ようになった理由は、今後このブログを通じて折を見ながら述べてさせていただければと
思います。
そして、今回は私の視点を皆様にご理解いただければ、ブログを続けるに当たってこの上ない喜びであることをお伝えしたいと存じます。
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登録日:2007年 02月 23日 16:59:27
コメント
お久しぶりです。僕は小谷さんのコラムが好きですよ。
選手個人の批判だったり、選手の優劣に関するものにコメントが多く寄せられるのは、
「多くの日本人が好きな選手に肩入れし過ぎる傾向があるから」と、僕は感じています。
たとえば身近な野球の世界で言えば、王長嶋を見て育った世代の中には、彼らのなすこと全部が正しいと思う人もいるのも事実ですよね。
逆にテレビを通して映る印象があまりよくないために、その選手の人間性を嫌いになり、終にはその気持ちをスポーツ選手としての評価につなげてしまうというファンも少なくないように思います。例えば、引退してしまったヒデこと中田英寿はそういう意味で、たくさんのファンとそれに負けない数のアンチ・ファンを持つ選手だったように思えます。
例え彼が良いプレーをしても賞賛しない人、というのが少なからずいたように僕には思えました。
正直、僕にも好みの選手やお気に入りの特別なチームがあるのは否めません。
チャンピオンズリーグなどで同時刻開催のとき、お気に入りのチームのゲームを
録画してしまう傾向はその表れと言えるでしょう。
ただそれと選手への評価というのはやはり別に考えるようにしています。
選手への敬意を持ちながらも批判をするという姿勢は間違っていないと思います。
小谷さんの文章には、
選手やフットボールに対する真摯な態度があり、愛情に満ち溢れてると思いますよ。
(えぇ、持ち上げすぎてちょっと気持ち悪い感がありますが…)
ではブログの更新楽しみにしてます。
k @ 2007年 02月 24日 16:10:32
kさん
久しぶりにコメントをお寄せいただきありがとうございます。
仰るように持ち上げ過ぎの感があってちょっと面映い気が致しますが、お褒め頂いて素直に嬉しく思います。
フットボールに対する真摯な態度と愛情を失わないよう、益々精進せねばと決意する次第です。
小谷泰介 @ 2007年 02月 26日 10:22:26
小谷さん、こんにちは
私もkさんと同じく小谷さんのコラムは好きです。
今回の『フットボール界の構図』にも全く同感です。
(それにしても例えが上手ですね)
本当に協会の体質から変える事が大前提だと思うのですが、
世論としてそのことに疑問を持っているのはごく一部ですよね。
A級戦犯としては五輪だW杯だと視聴率稼ぎのための道具として扱う多くの心ないマスコミだと思っていますが・・・
とにかく協会のやり方やコーチの采配などを
もっとテレビ番組で取り上げて
おじちゃんやおばちゃんが活発に議論しているような環境に
早くなれば最高ですね。
よく甲子園や高校選手権で
『このチームは初出場なので、対戦相手である常連校の選手に比べて硬さが見えるようです』
といったような事をアナウンサーが言うのを聞きますが、
連続出場している選手は別としてほとんどの選手は『初出場』ですよね
当日の試合だけを見れば初出場校も常連校の選手も同じように緊張していると思います
差が付くとすれば、試合前までの準備(環境)や監督の経験値、学校・OB会のバックアップ
このあたりは全く初めての学校と常連校では大きな違いが出ると思います。
そしてその差は非常に大きなものです。
これこそまさに『経験』『伝統』といった事だと思います。
フットボールの世界も伝統国に関しては
世の中で一番パワーを持っているであろう
『世論』が発達したからこそ、協会批判や監督批判の場も活発に行われ、
マイナーチェンジを繰り返しながら、近年のドイツのように
多少選手の能力が劣っていたとしてもコンスタントに大会上位に
行けるようなシステムが確立されたのでしょう。
実際に個々の能力に関してはドイツW杯はひいき目を抜きにしても、
準備さえきっちり出来ていればベスト8・4に行くだけの実力はあったと思いますが、
日本に足りなかったのは確実に4年間トータルでの準備の失敗であり
『柳沢が決めていれば』『コンディション調整を間違った』『ジーコに能力が無かった』
などはあくまで枝葉でしかないと思います。
極端に言ってしまえば、W杯が開幕を迎えた時点で終戦だったと考えるべきです。
この反省をうやむやにしているようでは明日がありません。
以前にも申しましたが、小谷さんを含め少数の心あるマスコミ・ジャーナリストの方々には
もっと多くの国民にこの問題の提起をしていただきたいと思っています。
陰ながら応援しています
クライフターン @ 2007年 03月 02日 15:05:53
クライフターンさん
いつもながら含蓄のあるコメントをありがとうございます。
今回に限らず、以前より貴殿から再三ご指摘いただいていること(問題提起)を、このブログのみならず何とか形にしたいと現在思案中です。
恐らく出版という形が最も現実的なのでしょうが、その他にもジャーナリスト講座といった形で実現できないか検討しています。
これからも色々なご意見、アドバイスをお寄せいただきますようお願い致します。
小谷泰介 @ 2007年 03月 05日 16:12:47
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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