クリケット パキスタン代表監督絞殺事件に想う

クリケット・パキスタン代表監督の死因は「絞殺」 警察当局発表 - ジャマイカ

【キングストン/ジャマイカ 22日 AFP】警察当局は22日、クリケットのパキスタン代表監督、ボブ・ウールマー(Bob Woolmer)氏の死因について「絞殺」と発表した。
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(c)AFP/Max Nash

AFPBB News


 現在ジャマイカ共和国にて開催中のクリケットのワールドカップに於いて、パキスタン代表チームのボブ・ウールマー監督が絞殺されるという痛ましい事件が起きました。

 日本人には馴染みの薄いクリケットですが、イギリス連邦に所属する53カ国を中心に世界中で広く愛されている歴史と伝統のある競技です。フットボール同様、イングランドで生まれたスポーツですが、フットボールに次いで世界で2番目に競技人口の多いスポーツであることを知る人はあまり多くないのではないでしょうか。

 母国のイングランドでは、冬はフットボールとラグビー、夏はクリケットやテニスという具合に季節ごとにはっきりと楽しむスポーツが区別されていて、夏場にイングランドを訪れるとスポーツ中継はクリケットかテニスと相場が決まっています。クリケットの国別対抗戦(テストマッチ)の場合、1試合最大で5日間も掛けて行われるので、ルールを完全に理解していない私などはじっと見ているのが苦痛です。

 また、選手の服装といい、途中でティー・ブレイク(お茶の時間)が入ったりすることから、一見優雅に見受けられますが、ボールが硬いため、極稀にヘルメットをしていない選手が頭に打球を受けて重症を負ったり、死亡したりもします。また、観戦する側も、インドなどでは敗戦に打ちひしがれて自殺者が出たり、ショック死するものが出たりとフットボールに負けず劣らず過激な部分があるのです。

 アジアでは前述のインド、そしてパキスタン、スリランカ、バングラデシュ等で人気が高く、それらの国々では貧しい身なりをした子供達ですら道端で木切れを持って裸足でクリケットを楽しんでいます。事実、インド、スリランカ、パキスタンはワールドカップでの優勝経験があり、国民の熱狂度は半端ではありません。

 ところで、今回絞殺されたとされるボブ・ウールマー監督率いるパキスタン代表チームは、優勝候補に挙げられながら、先月の17日に格下と目されるアイルランドに敗れたことで1次リーグ敗退を喫してしまいました。

 その結果を受けて、パキスタンのハイデラバードなどでは、怒った住民らが路上に繰り出し、代表選手のポスターを焼いたりする騒ぎが発生。同監督も批判の的となり、翌18日にホテルの部屋で倒れているところを発見され、病院にて死亡が確認された際には、熱狂的なファンによる犯行説も浮上したほどです。

 当初は敗戦のショックによる心臓発作や自殺説が有力でしたが、22日に地元ジャマイカの警察が絞殺と断定し、殺人事件として捜査を開始しました。

 一説にはクリケットやフットボールはアジアを中心に広く賭けの対象となっていることから、賭博シンジケート絡みの犯行との見方も出ています。何故ならばウールマー監督は自伝を執筆中だったのですが、そのなかで八百長問題を告発する予定だったと言われているからです。また、パキスタンの1次リーグ敗退が賭博組織に大きな損害を与えたことへの報復だという説も根強くあります。

 ホテルの監督の部屋には数人が押しかけた痕跡があることも、組織による犯行説を裏付ける証拠のひとつですが、監督の遺体は首を絞められた痕跡以外に暴行が加えられた様子はなく、推理小説顔負けの謎めいた事件に発展しつつあります。

 とにもかくにもクリケットのワールドカップで優勝候補だったチームの監督が、1次リーグ敗退の決まった翌日、何者かに絞殺されてしまったのです。これは尋常なことではありません。

 どうしてスポーツごときの問題で人を殺さなければならないのでしょうか!?或いは殺されなければならないのでしょうか!? 理不尽極まりないことではありますが、悲しいかな厳然たる理由があるのです。

 歴史を紐解けば、古くは94年のワールドカップ対米国戦で自殺点を献上し、1次リーグ敗退の原因を作ったとして賭博組織の構成員から射殺されたコロンビア代表DFエスコバル選手に始まり、最近ではプレーオフ進出を逃した数日後に何者かに射殺されたNFLデンバー・ブロンコスのCBダレント・ウィリアムズ選手に至るまで、いずれも負け試合の戦犯と見做され、その報復として殺害されている可能性が高いことはお分かりいただけるかと存じます。

 また、元NBA選手のマイケル・ジョーダン氏の実父も何者かによって殺害されていますし、2006年1月にはコロンビア代表のFWべセラも口論の末何者かに射殺されています。また、日本でも殺害こそされませんでしたが、元大宮アルディージャのオランダ人選手が六本木で口論の末にイラン人らしき人物に目をナイフで刺され、選手生命を絶たれた事件が起こっています。

 これらの悲劇の特徴は殺害犯の殆どが断定できず、なかなか逮捕に至らないことにあります。同じ腹いせでも、個人及び一般人ならば比較的犯人を割り出しやすいのですが、この手の事件が殆ど闇に葬り去られていることを鑑みると、組織ぐるみの犯行である可能性が極めて高いのです。

 そう、もうお分かりいただけると思いますが、これらの悲劇の裏側には賭博や麻薬に絡むシンジケートの存在があり、はっきりと断定は出来ませんがエスコバルもウィリアムズも、ジョーダンのお父さんも彼らの手によって殺害されていると確信する関係者は多く、今回のウールマー監督のケースもほぼ同類の事件と見て間違いないでしょう。全くやりきれない話であります。

 翻って我が国は、幸いにも、本当に幸いにも野球賭博やトト絡みで当該チームや選手監督に被害が及んだなどという話は皆無です。例えば天皇杯の準々決勝でキーパーの凡ミスが発端で大番狂わせが起こり、試合翌日にそのキーパーが殺害されることなど、考えただけで身の毛が弥立ちます。日本ではあり得ない光景です。

 それだけにサポーターによる暴力行為や人種差別同様、賭博及びノミ行為撲滅間ペーンをJFAやJリーグが中心となって世界に先駆けて実施し、世界に向けて訴えて行かねばならないと私は考えます。

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登録日:2007年 04月 05日 20:08:06

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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