ミュージックとフットボール(Ⅰ)
確か今から25年ほど昔のことだったと思います。カナダ人の友人と武道館にロッド・スチュワートのコンサートに行ったときのことです。
コンサートも終盤に差し掛かったところで、ステージには濃紺のスコットランド代表のユニホームに身を包んだロッドが登場し、ビートの利いた曲に合わせてステージ上に散乱するビーチボール(のようなもの)を、観客席めがけて蹴り始めたのです。2階席でそれを眺めていた私ですが、ロッドは噂にたがわずフットボール好きなのだなと実感しました。
それから更に数年が経ち、第4回トヨタカップでリバプールが二度目の来日を果たした時のことでした。国立競技場のメインスタンド最上段には、インディペンディエンテと対戦するリバプールのケニー・ダルグリッシュを応援するロッドの姿があり、日本テレビの通訳としてバックヤードのパスを携帯していた私は、ケニーに頼まれてフットボールグッズをロッドに届けに行くことになりました。
そっとロッドに近づき、“Excuse me?”と声を掛けると、ロッドは中指、いや失礼、人差し指を立てて口に持って行き、“Shhhh”と合図をするではありませんか。
きっと私をファンと勘違いをして、今は試合中だから(サイン等は)だめだよと言いたかったのだと思いますが、すかさずケニー・ダルグリッシュからの託物ですと、リバプールのマフラーと帽子をすっと彼に差し出しました。するとロッドは急に表情を崩し、笑顔でグッズを受け取るや「ケニーにありがとうと伝えてくれ。」とだけ言って、再びピッチに視線を注いだのでした。
この時私は、ロッドのフットボールに対する愛情は本物だと確信した次第です。
さすが、ロンドン郊外に位置するブレントフォードFCのアプレンティス(小遣いを受け取りながらプロを目指すユース世代の選手)としてプロ選手を目指していただけのことはあります!
また、これも20年近く昔にTBSの“PURE ROCK”というハードロック系の番組に登場する菊池君というマペットの声の出演を私がしていた時のことです。
デフレパードというシェフィールド出身の超人気バンド(当時)が、ゲストとしてスタジオにやって来たのですが、ヴォーカルのジョー・エリオットが胸に大きく“THE BLADES”とプリントされたTシャツを着ているのを見逃しませんでした。
“THE BLADES”は英語で勇者達という意味ですが、シェフィールド・ユナイテッドのニックネームで、ジョーは同クラブのサポーターだったわけです。
「あんた、SHEFIELD UNITEDのサポーターだね?」と訊ねると、「ああ、残念ながらあとの連中はみんなウェンズデー(同じシェフィールドを本拠地とするSHEFIELD WEDNESDAYのこと)のファンだけどね。」と茶目っ気たっぷりに答えるのでした。しばしジョーとはフットボール談義で盛り上がったのですが、周りの日本人スタッフが「ニヤニヤとこの二人は一体何を話しているのか?!」とでも言いたげに、怪訝な顔をしていたのが忘れられません。
なお、1982年には、ワールドカップ・スペイン大会のエキジビション・コンサートでローリング・ストーンズが炎天下の中、ビセンテ・カルデロン(アトレティコのホーム・スタジアム)を舞台に激しくロックしたのを目の当たりにしましたが、ワールドカップ毎にイングランドの試合を応援に来るミック・ジャガーも、筋金入りのフットボール・ラバーであります。
その他にも、英国系のオアシス、ロビー・ウィリアムス、ジャミロクワイ、アイアンメイデン、ディープパープル、シンプリーレッドといった連中は皆フットボールフリークですし、英国人に限らず、フリオ・イグレシアス、プラシド・ドミンゴ、ジプシー・キング、アレクセイ・ララスといったミュージシャン達も、フットボールには目がありません。
わが国日本の音楽界にも、古くはYMOの高橋さん、山本コウタローさんを筆頭に、ドリカム、ゴスペラーズ、ポルノグラフィティー、Mr.チルドレン、リップスライム、タクヤ、ケツメイシ、秋川雅史、森山直太朗等々、数え上げたら切りが無いほど沢山のフットボール愛好家が存在しています。
フットボール発展途上国の日本ですら、これだけのフットボール好きのミュージシャンがいるのですから、本場欧州や南米では、尚の事であるのは容易に想像出来ます。
例えば、皆さんとは縁の薄いロシア共和国にも、大変なフットボール狂ミュージシャン達がゴロゴロといます。そして、そんなフットボール好きなロシアのミュージシャン達が作った「スタルコ」というチームが存在するのですが、彼らが中心となって今夏、とてつもないイベントを開催しようとしているのです。
(つづく)
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登録日:2007年 06月 16日 01:18:46
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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