フットボールとミュージック(Ⅲ)

モスクワに到着した翌日、滞在先のホテルで大会の発案者であるユーリ・ダビドフ氏と初めて顔を合わせましたが、第一印象はいかにも温厚そうな人物という感じでした。
英国出身のハリウッド・スターだったダドリー・ムーアを髣髴とさせる風貌に人の良さがにじみ出る笑顔で、アートフットボールへの熱い想いを語ってくれましたが、何万キロも離れた欧州の地で自分と同じ構想を抱くだけでなく、その構想を同じ時期に実行に移そうとしている人物がいたことにびっくりし、何か運命的なものを感じた次第です。
私は、約20年前にテレビやラジオの世界で仕事が出来るようになったのをきっかけに、アクション漫画の巨匠でフットボールフリークの望月三起也先生のお力を借りて「THE ミイラ」を立ち上げ、それ以来ずっと活動を続けてきましたが、ユーリも15年前にロシアのミュージシャンでフットボール好きな仲間を集めて、「スタルコ」というチームを結成し、弛まぬ活動を継続していました。
さらに、両チームともボランティア精神に則ってチャリティー活動を続けてきたことも共通項であり、ショウビジネスの世界とフットボールのワールドワイドな結び付きを否応なしに感じたのでした。
そうなのです!ロッド・スチュワートにせよ、ミック・ジャガーにせよ、オアシスにせよ、そしてロビー・ウィリアムスにせよ、どんなにショウビズの世界で著名であっても、フットボールの世界では一介のファンに過ぎず、彼らはフットボールのために自分の力が役立つのならば奉仕の心で力を貸そうとするのです。
そうした活動は、母国イングランドを始め、欧州各国のみならず、日本、韓国、香港、タイといったアジア諸国でも繰り広げられ、今や世界各地で行われています。
実際に「THE ミイラ」は、韓国の「イレブンチーム」と日韓共催ワールドカップを記念して4年間にわたって交流を続けましたし、「スタルコ」も近隣のチェコ、ポーランド、ウクライナといった国々のショウビズ・チームと交流試合を重ねてきた歴史があるのです。
そんな土壌の中で、ショウビズのワールドカップを開催したいという欲求が生まれても不思議はなく、現にロシアと日本の代表者がその実現に向けて動き出していたというわけです。
私は2002年ワールドカップのエキシビションとして考えていた大会を“SHOWBIZ CUP”と名付けていましたが、ユーリは“ARTFOOTBALL”として前年の2001年に開催しようとしていました。
モスクワを本拠地とするディナモ・モスクワやトルペド、そしてCSKAモスクワのスタジアムでグループ・リーグを、そして決勝は8万人を収容するルジニキー・スタジアムで行うというFIFA主催の大会並みのプランで、ユーリは全ての開場を車で巡って案内してくれました。また、毎夜、各国のミュージシャンがチャリティー・コンサートを開く予定となる広場も見せてもらい、「俺は今年、“ARTFOOTBALL”を開催するから、君も来年、“SHOWBIZ CUP”を頑張れ!」と、力強い声で励ましてくれたのです。
ところで、その後の顛末はといいますと、“ARTFOOTBALL 2001”も、“SHOWBIZ CUP2002”も開催されることはありませんでした。
私の企画した“SHOWBIZ CUP”は前述のような理由で、また、“ARTFOOTBALL”は、主催者であるモスクワ市の文化部が他の部署に統合されて予算を捻出できなくなり、これまた土壇場で中止、いわゆるドタキャンを喰らってしまったのです。日本チームを取りまとめていた私も対応に大変でしたが、ユーリは地獄のような日々を送らざるを得なかったようです。世界中のチームに対する損害賠償だ何だで、生きた心地がしなかったのではないでしょうか。中止が決まってから半年間は、虚無感と脱力感と自己嫌悪で廃人のようだったとは、奥さんのナタリーの弁です。
しかし、それから6年が経過した今年の4月下旬に日本サッカー協会経由で私のもとに、1通のレターが届きました。その内容ですが、驚いたことにARTFOOTBALL2007を今夏に開催するので日本チームを招待したいというものだったのです。 (つづく)
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登録日:2007年 06月 22日 20:42:59
コメント
面白い展開になってきましたね、早くこの続きが読みたいです。
東海太郎 @ 2007年 06月 27日 10:04:56
東海林太郎様
ARTFOOTBALL参加のため、長らくご無沙汰してしまいましたが、無事大会を終え、一昨日帰国致しました。これから、ガンガンと続きを掲載したいきますので、楽しみにしていてください!
小谷泰介 @ 2007年 07月 09日 11:21:21
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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