小さな巨人、本田泰人の引退記念試合に想う

 去る29日、本田泰人の引退記念試合を取材するため、久しぶりに鹿島スタジアムに足を運びました。

 前座試合では、サポーターチーム、帝京OBチーム、本田泰人チームによる20分1本の総当たり戦が行われ、特設ステージや記者会見室では選手達によるトークショーやオークションが行われるなど、アントラーズと本田選手を愛する人々の輪が幾重にも広がりました。

 メインの引退試合では、1993年のチャンピオンシップを再現すべく、アントラーズ1993対ヴェルディ1993と銘打って、当時の現役選手が鹿島に集結。アントラーズはジョルジーニョ、アルシンド、サントス、賀谷、奥野、石井、大野、真中、相馬、黒崎、増田、熊谷、鬼木といった懐かしい顔が勢揃いし、小笠原、本山、曽ケ端らの現役選手が加わって華を添えました。一方、ヴェルディは菊池新吉、中村、加藤、柱谷、都並、北澤、武田、三浦泰年、菊原、戸塚、小倉、ラモスといった豪華キャストに服部、永井等の現役選手が加わった布陣で対抗。

 引退試合とは思えない激しい競り合いや、ボディコンタクトが随所に見られ、見ごたえ充分! ラモスがチャンスとばかりに全力疾走したかと思えば、増田選手が切れの良いドリブル突破で対抗し、相馬選手と都並選手が左サイドの崩し合いを見せるなど、迫力満点でした。

 試合結果は、武田選手のいかにも武田らしいゴールでヴェルディが先制しますが、徐々にアントラーズが盛り返して逆転!何と本田選手のPKを含む4ゴールでヴェルディに快勝するという願ったり適ったりの結果となりました。

 引退セレモニーでは、本田選手の挨拶でグッと来たところに、間髪いれず登場したブラザーコンの歌う“Won’t be long”で場内が一変。本田選手自身が望んだという明るくカラッとした雰囲気の中、参加全選手と惜別の抱擁を済ませ、場内を1週してサポーターとの最後の別れを惜しみました。

 古くは釜本選手に始まり、木村和司、ラモス、井原、北澤、澤登と幾つかの引退試合が行われてきましたが、いつ見ても胸が熱くなります。

 特に本田選手は165cm前後の小兵にもかかわらず、アマチュアの本田技研時代を含めて19年にわたる現役生活を続けたこと、アントラーズの一員として過ごした15シーズンで9つものタイトル獲得したこと、そしてアントラーズの一員として公式戦に473試合(7得点)も出場し、代表としても国際Aマッチに29試合(1得点)に出場したことは偉業中の偉業に値し、引退試合に対するサポーターの想いもことの他強かったように思えました。

 歴代のJリーグを代表するファンタジスタともいえるストイコビッチやビスマルクが最も嫌った選手という称号も大きな勲章ですし、彼のスッポンマークに代表されるファイティングスピリッツはアントラーズの選手のみならず、全てのJリーガーが継承して欲しいものです。

 本田選手には心からご苦労様でしたと申し上げると同時に、今後も様々な形で日本のフットボール発展のために尽力していただきたいと存じます。

 ところで、引退試合を観戦するたびに抱く疑問があるのですが、それはもっと多くの選手の引退試合が行われても良いのではないかというものです。

 例えば、今回の引退試合に出場していた相馬直樹選手。

 2005年の11月に現役を引退しているのですが、12年に及ぶキャリアの中でJリーグ公式戦387試合(13得点)に出場。日本代表の国際Aマッチにいたっては58試合(4得点)に出場し、本田選手同様アントラー黄金時代を築いた立役者の一人です。

 私は彼の堅実かつアグレッシブなプレースタイルが大好きで、監督のみならずサポーターにとっても常に攻守に安定した力を発揮する頼もしい選手であったに違いありません。

 何故、その相馬選手の引退試合が行われなかったのか? それはJリーグが定めるところの規定を満たしていなかったからで、数字的には確か公式戦(代表も含む?)500試合に満たなければ、その対象とはならないのです。

 2000年に半月版損傷の重症さえ負っていなければ、相馬選手も恐らくクリアできた数字だったと思うのですが、本当に残念であります。

 その他にも、今回参加していた選手だけでも都並、柱谷、武田各氏等は引退試合を開催するにふさわしい選手であったと思うし、元Jリーガーとなるとその数は何倍にも膨れ上がります。

 私としては、Jリーグの現行の規定を是非改定するべきだと強く思うのですが、皆様はいかがお考えでしょうか? 具体的には500ではなく350試合くらいにしていただきたいと思う次第です。

 規約の改定にはクラブの意識改革、選手会の活発な働きかけ、サポーターの力が必要だと考えますが、ご存知の通りフットボールの母国イングランドでは、テスティモニアルの精神が広く浸透しているため、比較的多くのテスティモニアル(感謝試合)が模様されてきた歴史があります。

 日本もそろそろ、このテスティモニアルの精神を植えつけなければいけない時代に入ってきていると思うのですが、詳しくは次回のブログで持論を展開させていただきたいと存じます。

コメント[6], トラックバック[0]
登録日:2007年 07月 31日 19:03:11

コメント

小谷さん、こんにちは。
仙太郎です。

小さな巨人。
本田選手を表すのに、これほど適している言葉もないかもしれません。
敵から見るとこれほど、やな選手はいなかったと思います。
Jリーグ創生期を支えて選手が続々と引退し、これから新しい時代に入っていくのでしょうね。

ところで、引退試合の規定についてですが、そもそもそんな規定は必要なのでしょうか。
現役時代に一番活躍したクラブやファンからの自然発生的な声があり、引退試合をするのが一番理にかなっていると思います。

サッカーという自由と責任が混在するスポーツで、引退試合の規定があることに、違和感を憶えます。

仙太郎 @ 2007年 08月 02日 09:02:02

仙太郎さん

コメントありがとうございます。

サポーターの自然発生的な声で引退試合ができれば、こんなに素晴らしいことはありませんが、現実を直視すると日程の問題や運営の問題等々難問が山積みではないでしょうか。

私には、一挙両得ではありませんが、良いテステイモニアルのアイデアがあるので、次回ご紹介させていただきます。その際にまたご意見を聞かせてください。

小谷泰介 @ 2007年 08月 02日 13:20:57

こんにちは小谷さん。

今回のテーマである本田泰人さんの引退試合とは少し話がずれてしまいますが、
小谷さんは現在のJリーグの日程やスケジュールなどをどう思っていますか?
先月のアジア杯で日本は4位に終わってしまいましたが、その際浦和のエンゲルスコーチが日本代表についてコメントしており、エンゲルス氏は日本の敗戦について「選手の体が動かなかったから」と指摘し、理由について、「通常は考えられない。ドイツでは事前合宿は2、3週間は必ずやる。日本は準備期間が少な過ぎた」と述べています。

さらには「もし、J18節がその日になければ、最低でも14日間は合宿ができた。連続で2週間あれば、一度は体を休ませられるが、9日間では無理だ」とも述べています。

小谷さんもご存知のとおり、今回の日本代表は、J18節(6月30日)終了後に集合。ベトナムへの移動日を含めて、初戦(7月9日)まで、わずか9日間の時間しかありませんでした。
しかし、なぜアジア杯直前の30日にJ18節が行われたのかというと、アジア杯直後のオールスター戦(4日)がある影響で、Jリーグ消化日程がギリギリになっているため、
やむおえず、そうなってしまっているらしいです。

エンゲルス氏は「夏休みにオールスターをやるのは、野球をまねてだろう。欧州にはチャリティーはあるけど、オールスターという考え方はない。野球とサッカーは違うということを日本は気づかないとね」と、日本のサッカー文化の未成熟さを指摘していました。

最後にエンゲルス氏は「優勝したイラクの25歳の選手と、日本の25歳の選手を比べてみてほしい。これまで送ってきた人生を比較したら、どんなに条件が悪かったとしても、4位になった日本の選手は『情けない』というしかないでしょう」とトドメの一言です。

確かに今のJリーグにはいくつかの問題が山積みなのは事実かもしれません。
やっぱり今のリーグ体制を変えていくのって結構難しいですかね?
最後になりますが今回のテーマである本田泰人さんの引退記念試合とはほとんど関係のない文章になってしまい申し訳ないです。

ボン @ 2007年 08月 03日 11:45:55

ボンさん

コメントをありがとうございます。

エンゲルス氏の発言に関しては全く知らなかったので、大変に参考になりました。

確かに日本にオールスター戦があるのは野球の影響であることは間違いないでしょうね。(ちなみに米国のMLSにオールスターはあるのでしょうか?知っている方がいらっしゃったら、是非教えてください。)

私個人としては、あまり必要性を感じていません。かといってないほうが良いとまでは言いませんが、過密日程に拍車をかけるようであれば、検討する余地はあるでしょう。
日本のフットボールの発展のために本当に必要なものなのかどうかを。

後、日程上の問題に関しては、やはり日本も早く世界基準のカレンダーにするべきだということを痛感します。

優勝したイラクの選手についてですが、これはもう立派の一言ですね!ただし、逆境をバネにしたり、祖国への想い、つまり共通の認識でチームをまとめるのは、立派な心理作戦というか戦術であり、イラクはその戦術を最大限に活用したこともまた事実だと思います。

奇しくもエンゲルス監督が率いた消滅寸前のフリューゲルスが、天皇杯で劇的優勝を果たしたのも同じケースだと言えると思います。

小谷泰介 @ 2007年 08月 07日 01:40:38

小谷さん、こんにちは。
仙太郎です。

MLSにもオールスターはあるそうです。
1996年から行われています。
Jリーグの方が早いので、多分真似たかなと思います。

Jリーグにオールスターがあって、ヨーロッパにあるのはスポーツの成り立ちの違いが影響しているのではないでしょうか。
日本でサッカーは完全に娯楽です。
だから、オールスターは成り立ちます。

でも、ヨーロッパにおけるサッカーは娯楽でもありますが、それ以上の存在ではないかと思います。
生活の一部というか、人生の一部のように見受けられます。

だから、完全に娯楽であるオールスターゲームは受け入れられないのでしょうね。

仙太郎 @ 2007年 08月 09日 10:46:20

仙太郎さん

MLSにもオールスターがありましたか!貴重な情報をありがとうございます。

もともとオールスターというのはアメリカ的発想で、それは貴殿がご指摘の通りエンターテインメント(娯楽)が発達した国だからだと思います。

その点、欧州に於いてフットボールは娯楽というより、もっと生活に密着したもの、つまり生活の一部なのだと思います。あなたのおっしゃるとおりですね。

良い悪いは別として、日本のスポーツ界は欧州より米国の影響をより多く受けていることを改めて感じます。

小谷泰介 @ 2007年 08月 09日 12:42:11

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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