日本人鍼灸師、欧州フットボール界を刺す!?(5)
<サッカー 欧州選手権2008・予選>ヨアヒム・レーブ監督 アイルランド戦でフリンクスが主将を務めることを明言
《メルテザッカー》
Kさんがヴェルダー・ブレーメンで治療を始めてから3~4日が経った頃でしょうか、シャーフ監督自らが治療室にドイツ代表DFのメルテザッカーを連れてやってきました。
メルテザッカーは23歳になったばかりの若者ですが、知的かつ落ち着いた雰囲気を漂わせた好漢で、監督直々に左膝の調子が悪いので診てやってくれないかと言ってくるぐらいですから、よほど頼りにされているのでしょう。
早速、Kさんは触診を始めたのですが、「ああ、これは典型的なジャンパーズ・ニー(JUMPER’S KNEE)だ。」と一言。
ジャンパーズ・ニーとは読んで字の如く、バスケットボールやバレーボールといったジャンプを何回も繰り返すスポーツの選手に多く見られる症状で、メルテザッカーの場合も、2メートル近い体で何千回とジャンピングヘッドを繰り返したことによる代償なのだということは容易に想像がつきました。
メルテザッカーの症状が、ジャンパーズニーであることをシャーフ監督に伝えると、監督は亀のように首を出し入れするジェスチャーをしながら「彼がヘディングをする時は、ジャンプするんじゃなくて、首を出し入れするだけなんだがなあ。」と、きついジョークを一発。傍らにいるメルテザッカーは苦笑いをするより他にありません。
そんな微笑ましいやり取りの後、膝のお皿の下を押しながら、ここが痛いと訴えた場所を中心に針を刺し、低周波の電流を流すこと10分。そこには不思議なことに、痛みが取れたと屈伸運動をしながら、その感触を嬉しそうに確かめるメルテザッカーの姿があったのです。
また、メルテザッカーは両足の踵にも問題があり、過去に手術をして踵の骨を削った経緯があるのですが、両踵全体が慢性的に赤く腫れ上がっています。従って、シューズも踵の部分を保護するように、アディタス社が特別に改良したものを履いているくらいです。
その踵にも針を打ちましたが、こちらも痛みが和らいだと大喜び。以降、メルテザッカーはレギュラーなのでアウェーゲームもあって毎日というわけには行きませんが、暇を見つけてはKさんを訪ねるようになりました。
プレースタイルとその風貌だけを見ていると、無表情かつクールなイメージを受けるメルテザッカーですが、大きな体を折り曲げて、はにかみながら治療室を訪ねてくる姿は可愛らしくさえあり、下から見上げる彼の顔はよく見ると少年のようです。そして我々に対しても礼儀正しく振る舞い、若くしてドイツ代表のレギュラーを獲得したことへの驕りなど微塵も感じさせないこの長身選手のファンになった次第です。
《ジエゴ》
さて、長身選手といえば、ヴェルダー・ブレーメンは、殆どの選手が180センチを超える大男の集団です。その大男どもがダイレクトのパスをポンポンと繋いでアタッキング・フットボールを展開するから痛快なのですが、その中でひと際小柄なのがエースのジエゴ選手であります。
ジエゴ選手の身長は175センチそこそこですが、非常にがっちりしており、一目で怪我には強いタイプであることが分かります。
しかし、キープ力があってここぞという局面で決定的な仕事をしますから、マークは自ずと厳しくなって当然。従って、大怪我はなくとも、小さな裂傷や打撲は日常茶飯事ということになります。
ある日のこと、チーム付きのフィジオセラピストであるフローリアンが、「外側靭帯の辺りに痛みがあって、我々ではお手上げなので見て欲しい。」とジエゴを連れてやってきました。さあ、ここは腕の見せ所とばかりにKさんが治療に当たったのですが、本当に不思議です。40分ほどの治療を終えるとジエゴ選手が「うん、良くなった!ありがとう!」と感謝の辞を述べるではありませんか。
そして後日、フローリアンがやって来て「あれ以来、ジエゴが痛いと言わなくなったよ、ありがとう!」と、これまたお礼を述べたのです。
天晴れ、針師Kさん!そして針治療の効力や恐るべし!!
私は針治療どころか医学に関しては全くの門外漢ですが、このジエゴ選手の一件から、Kさんの推し進めようとしているプロジェクトは本当に欧州フットボール界に貢献できる価値あるものと実感できるようになったのでした。 (つづく)
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登録日:2007年 10月 19日 12:51:56
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:一昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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