日本人鍼灸師、欧州フットボール界を刺す!?(9)
【6月29日 AFP】サッカー、ドイツ・ブンデスリーガのヴェルダー・ブレーメン(Werder Bremen)は、所属するイヴァン・クラスニッチ(Ivan Klasnic)との契約を1年間延長したと発表した。
クラスニッチは3月に受けた腎臓移植の手術から、トレーニングに復帰してきたばかりだった。(c)AFP
《クラスニッチ》
Kさん夫妻と私がブレーメンに滞在した2週間の中で、トップチームの練習に合流できなかった主力選手達、いわゆるリハビリ組が8人もいました。
しかし、Kさんの針治療の効果もあって、我々の帰国後、ニーメイヤー選手、フリッツ選手、フリングス選手、ボロウスキ選手は順次トップチームに合流し、試合にも復帰しています。(残念ながら、一昨日のニュースで、フリングス選手は再び同じ靭帯を痛め、またしても戦線離脱となったようですが。)
残る選手はグロウインペインの手術を受けたばかりのフント選手、不眠症と体調不良に悩まされている元ブラジル代表のカルロス・アルベルト選手、右足後部の付け根からハムストリングにかけて炎症を起こしている元ドイツ代表のオヴォモイェラ選手、そしてクロアチア代表のクラスニッチ選手でしたが、クラスニッチ選手だけは彼専用のトレーナーが付きっ切りでリハビリのメニューをこなすという極めて特別な存在でした。
もうご存知の方も多いかも知れませが、同選手は二度にわたる腎臓移植を克服し、戦列復帰を目指して正に賢明にリハビリを行っているところだったのです。
同選手は昨年の11月に虫垂炎の手術をした際に合併症を引き起こし、腎臓移植を余儀なくされる事態に陥ってしまいました。本年1月に母親から腎臓の提供を受けて手術を行いましたが、拒否反応が出て失敗。その後、3月に父親から腎臓の提供を受け2度目の手術を敢行し、こちらは無事に成功しました。
ここで特質すべきは、ブレーメンのクラブとしての対応です。同クラブは臓器移植を受け、復帰の目処が立たない選手に対して、全面的なバックアップと契約の延長を申し出たのであります。
その要因としては、何よりもシャーフ監督がクラスニッチ選手を貴重な戦力と捕えており、彼への信頼が厚いことが挙げられます。また、ブレーメンのように欧州に於いて(予算規模的に)第2勢力ともいえる中堅クラブは、様々な創意工夫をしながら結果を残さねばならず、今回のような不運さえなければ、ビッグクラブへ買われていく可能性の高かったクラスニッチ選手を、全面的に支えることで引き止めたかったこともあるでしょう。
それにしても、2度にわたる腎臓移植手術から無事に復帰できる保障はどこにもなく、シャーフ監督とアロフスGMの決断には相当な勇気が必要だったことでしょう。また、目先の戦略や口先だけの支援の約束など、一流選手には直に見破られてしまいますから、彼等なりに信念を持っての申し出であったと思います。
実際、我々がクラスニッチ選手に接した限りでも、冗談好きの明るい性格なので悲壮感は窺えませんでしたが、何としても復帰するんだという意気込みだけはキッチリと伝わってきました。そしてその奥には、家族は勿論のこと、シャーフ監督を始め自分を支えてくれている全ての人の期待に応えるのだという強い意志を感じ取る事が出来ました。
また、いつも我々の顔を見ると、どこで覚えたのか大声で「コンニチハ!オゲンキデスカ!!」と明るく挨拶をしてくるのですが、フォワードとして独特な嗅覚と感性で得点に絡むそのプレースタイルからも、間違いなく彼がオプティミストだと確信できます。そして、その楽天的な性格も一連のトラブルを乗り切るのに多いに役立ったに違いありません。
さて、そんなクラスニッチ選手ですが、一度だけ専属のトレーナーに連れられてKさんの治療を受けにやって来ました。
幸い流暢な英語を話すので色々な話ができたのですが、驚いたことに両親から譲り受けた腎臓は左右の下腹部に移植されていたのです。二つの大きな縫い傷を指差しながら「こっちがお袋からもらったときのもの、そしてこっちが親父からもらったときのものだよ。今、一番働いてくれているのがこの親父からもらったやつ。」とクラスニッチ選手。「自分の腎臓は2つとも残っているんだけど、従来の10%位しか働いていないんだよね。」と屈託がありません。
「明日は、リーグによるメディカル・チェックがあるので、少しでも体調が良くなるのなら、受けられる治療は何でも受けようと思って・・・。」と正直に話す姿勢にも好感が持てますが、Kさんとしては術後の回復や免疫力促進のためにこそ針治療は大きな効果が見込めるので、本当は毎日でも治療したかったようです。
そうは言いながらも1回でも治療しないよりはマシですから、Kさんはクラスニッチ選手の腎臓系、心肺系のツボを中心に丹念に針を打っていきました。
残念ながら、翌日のリーグ主導で行われたメディカルチェックにはパスできなかったようですが、その後も落ち込む様子を見せず、黙々とトレーニングに励む姿を見て我々はエールを送らざるを得ませんでした。
最近のニュースによると、ブレーメンの2軍とも言えるU-22チームの練習試合に出場して2ゴールを叩き込んだようです。また、今週火曜日に行われたドイツカップでは、これまたU-22チームの一員として出場し、格上の古巣ザンクトパウリ相手に大活躍。アシストも決めて勝利に貢献しました!
臓器移植の不安と戦いながらも、懸命にトレーニングに励む同選手の姿を垣間見た者として、こんなに嬉しいことはございません。
今後は、一日も早く1軍に復帰し、大暴れして欲しいと祈るばかりです。
頑張れ、クラスニッチ選手!! (つづく)
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登録日:2007年 11月 02日 16:49:40
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:一昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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