頑張れ!ろう者の日本代表!!(1)

日本ろう者サッカー協会会長の高橋孝司さん。聴覚に障害のあるフットボール愛好家のキャプテンです
今春より、私がスーパーバイザーを務めさせていただいている会社が、あるフットサルのプロジェクトを始動させます。
その会社の代表取締役であられるMさんは、プロジェクトを通じて社会貢献がしたいと常々考えておられたのですが、とあることがきっかけで日本ろう者サッカー協会への協力及び支援をさせていただけないものかということになりました。
そこで、日本ろう者サッカー協会会長の高橋さんにお会いするため、先週の日曜日にろう者の日本代表が合宿をなさっている茨城県神栖市にある宿泊施設を訪ねてまいりました。
実は私、これまでの52年間の人生で、恥ずかしながらろう者の方と面と向かって会話する機会が一度もありませんでした。電車の中や、公共の場所に於いて手話でコミュニケーションを取られているろう者の方々を見かけたことはあっても、実際に自分が対面する機会が何故かなかったのです。
わが国に於いて、耳の不自由な方(聴覚障害者)の人口は約600万人と言われていて、その中で障害者手帳を持っていらっしゃる方が約100万人いらっしゃるそうです。これは約12人に1人とういう割合で非常に高い数値だと思うのですが、何故それらの方々とお会いする機会がなかったのでしょう。
小学校の1年生か2年生の時に、「名もなく 貧しく 美しく」というろう者の夫婦の一生を描いた邦画を観賞して、耳の不自由な方の存在を知った私ですが、以後45年間もろう者と直接お会いすることがなかったのは、わが国が障害者の方々にとって、まだまだ社会進出しにくい国であることの証明に他ならないのかも知れません。
フットボールに携わるようになって、これまでに洋の東西を問わず、肌の色を問わず、老若男女を問わず、そして有名、無名を問わず、実に多くの方々にお会いしてきましたが、ろう者の方に引き合わせてくれたのもフットボールだったということになります。
フットボールは私に様々な場所(51の国と地域、そして約300の市町村)に行く機会を与えてくれ、様々な素晴らしい出会いを与えてくれましたが、今回の高橋さんを始めとするろう者の方々との出会いも私という人間を少し、成長させてくれるものでした。フットボール、万歳です!
さて、約束の当日ですが、待ち合わせ場所であるホテルのロビーに到着すると、高橋さんはソファーに腰掛けて待っていてくださいました。
高橋さんは現在54歳で、私の兄と同年代ですが、1966年ワールドカップイングランド大会の記録映画である「GOAL」をご覧になって感動なさり、それがきっかけとなってフットボールを始められたそうです。当時は、ろう者でフットボールをされている方は極少数であったため、健常者に混じってボールを蹴っておられたといいますから驚きです。
コーチングどころか、ボールを蹴る音や、ボールが風を切る音も聞こえないのですから、ピッチでも相当苦労なさったに違いありません。しかし、母国イングランドで開催された
ワールドカップの鮮烈な映像が、そんな苦労をも吹き飛ばすモチベーションとなったので
しょう。
高橋さんは私のようにボビー・チャールトン、ボビー・ムーア、マーチン・ピータース、ジェフ・ハーストといった伝説のイングランド代表選手に憧れたのでしょうか、それとも若き日のベッケンバウアーに憧れたのでしょうか。或いは得点王に輝いた黒豹エウゼビオだったのでしょうか。ひょっとしたら、アジア代表として堂々ベスト8に駒を進めた北朝鮮代表の面々だったのかも知れません。
私もちょうど同じ時代にイングランドのフットボールに憧れてのめり込み、気がつけばこの年になってしまいましたが、高橋さんとフットボールの関わりを知って、フットボールの魅力は人種、国籍、性別、そして健常者、障害者の違いなどに関係なく、万民に伝播するものなのだと改めて実感した次第です。
フットボールに興じながらも、本場のフットボールに憧れておられた高橋さんですが、いつになっても海外に出掛ける機会を見出せず、30歳になられた時に競技生活を引退されます。そして、自らが発起人となりせめてアジアのろう者達が集ってボールが蹴れる機会を設けたいと、ろう者によるアジア大会の開催に向けての奮闘を始められます。
その甲斐あって、1984年に台湾、韓国、香港のフットボール好きのろう者の皆さんと
協力し、第1回のアジア大会が開催されることになりました。
以来、四半世紀近くが経った今、その大会は7回を重ね、高橋さんはというと、当然のことながらその全ての大会に参加をされ、交流を深めてこられたのです。
“Football unites the world!”(フットボールは、世界を結ぶ!)とは言いますが、高橋さんの情熱と行動は、その言葉が嘘ではないことを証明したと言えますし、裏を返せば、高橋さん自身が地球規模の文化交流が行えるフットボールの魅力の虜になったとも言えるのだと思います。
高橋さんは、そうした流れの中で1999年に日本ろう者サッカー協会を設立なさり、今日に至っておられるというわけです。
ところで、その高橋さんとコミュニケーションを取る方法なのですが、手話を習うこともなく育ってしまった私としては、筆談で意志の疎通を図るしか方法がありませんでした。
まず、初対面の挨拶をノートにしたため、私達が都内でフットサル場を建設、運営するので、その施設をろう者サッカー協会の皆様に提供する等の協力をさせていきたい旨を伝えました。
すると、高橋さんはにっこりと微笑まれ、昨年10月に北海道で行われた「第2回全ろう者フットサル選手権大会」のパンフレットを取り出して見せてくださいました。
フットボールを愛するろう者の方々にとっても、フットサルは手頃に楽しめる競技として浸透しているようですが、全国大会まで開催されているとは驚きでした。
日本ろう者サッカー協会への登録者は、まだ250人程度のようですが、潜在的にはもっとたくさんの方が楽しんでいらっしゃるはずで、フットサルの普及はろう者のプレーヤーにとっても福音となるに違いありません。そして今春、都内に完成させるフットサル場を通じて、彼等に様々な協力をさせていただくことは間違っていないと、意を強くした次第です。 (つづく)
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登録日:2008年 02月 15日 13:01:37
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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