頑張れ!ろう者の日本代表!!(2)

日本ろう者サッカー協会技術委員長の田澤龍太郎さん。長身で甘いマスクのナイスガイです。
ろう者の男女日本代表チームが合宿を行っている茨城県の宿舎で、日本ろう者サッカー協会の高橋会長と慣れない筆談を行っていると、暫くして長身の青年がやってきて、「始めまして!強化委員長の田澤です!」と笑顔で私に挨拶をされました。
田澤さんは、同じ聴覚障害でも耳が全く聞こえないわけではなく、補聴器の助けを借りながら読唇術なども学び、恐らくは大変な努力の末に通常会話が出来るレベルまでに到達された方とお見受けしました。
とにかく、爽やかなイメージそのままの好青年で、高橋会長と筆談で悪戦苦闘していた
私の通訳を買って出てくださったばかりではなく、昼食中のろう者日本代表男女チームとそのスタッフの紹介をしてくださったのです。
実は私、人の出す気(オーラ)を敏感に感じる特技があり、それを武器にラジオ等のピッチ解説で勝敗の予想等をさせていただいていたのですが、田澤さんの出されるオーラに人を包み込むような暖かさを感じた次第です。「この人は聴覚障害者であられるけれども、何か違うぞ」と。
「オーラの泉」の番組内で江原氏が語っているようなオーラのことは分かりませんが、人は誰でも「気」なるものを発しており、手のひらはその気が最も出ている部位なのです。
気孔師が手のひらをかざすのもそのためですし、「手当て」の語源は、手のひらを病気の箇所に当てて、気を送り込むと痛みが和らぐことを太古の時代より知っている人間の営みにあります。
皆様にも幼い頃、頭にたんこぶを作ったり、腹痛を起こしたりした時に、お母さんがよしよしと手のひらで患部をさすってくれ、安堵感を得たという記憶があるはずで、気を感じるということは特別なことでも何でもないことがお分かりいただけるかと存じます。
どうも私は、その気を感じ取る能力がどうも一般人より強いようで、スポーツ選手の出す気の強弱が良く分かるのです。
例えばドーハの悲劇の試合では、後半に入ると日本選手の疲弊度が顕著となり、反対にイラク選手達の出す気は凄まじかったので、とても日本チームが勝てるとは思えませんでした。ですからニッポン放送の実況中継で「このままで終わる(日本が逃げ切れる)とは、とても思えません。」とコメントした次第です。
話しが横道に逸れてしまいましたが、そんな私が、何か特別なオーラを感じた田澤さん。その生い立ちを訊ねてみると、やはりフットボールと共に素敵な人生を歩んでおられました。
現在はろう者フットボール協会の技術委員長を務めていらっしゃる田澤さんですが、17歳まではテニス選手として本気でプロを目指していたといいますから、運動神経は抜群であったようです。実際、長身ながらもバランスの取れた体型、そして長い手足に逞しい太ももを見れば、彼がスポーツマンであることは一目瞭然です。
そんな田澤さんとフットボールとの出会いは、高校生活最後の体育祭でクラス対抗試合にGKとして出場した時のことだそうです。
その対抗戦で、思わぬ活躍をして優勝に貢献し、一躍クラスのヒーローとなった田澤青年は、フットボールとチームプレーの魅力を知り、フットボールの世界に足を踏み入れることになります。
時を同じくしてJリーグが開幕し、日本で凄まじいフットボール・ブームが巻き起こったことも手伝って、田澤青年はチームを作りたいと思い立ちます。それもどうせならば、聴覚障害者と健聴者のミックスチームを作ろうと考えるところが、彼らしいところ。チーム名をEJAXとしますが、これはオランダの強豪AJAXと英語で耳を表すEARを絡ませたものだそうです。
そういった経緯で結成されたEJAXのメンバーは、「フットボールを心から一緒に楽しむ」をモットーに、草大会を中心に健聴者だけのチームや、聴覚障害者だけのチームなどと数多くの試合をこなし、心・技・体を磨いて行くことになります。
やがて健聴者と聴覚障害者の混合チームであるEJAXは、その特性上、様々な人々や団体と出会うこととなり、その結果、ある者は東京聴覚障害者連盟サッカー部に所属するようになったり、ある者は全国ろうあ者体育大会に出場したりするようになります。
また、健聴者のメンバー達もある者は聴覚障害者チームのコーチになったり、ある者は地元のチームでプレーするようになったりで、それぞれの道を歩み始めたことを機に、一時発展的解散をすることになりました。またいつの日か、同じメンバーでフットボールを楽しむことを願いつつ・・・。
大学生であった田澤青年はというと、1年間、米国への語学留学を敢行し、同じ留学生仲間であるブラジル人、メキシコ人、韓国人、オーストリア人、フランス人、そしてイタリア人達と多国籍チームを結成し、放課後、毎日のようにフットボールに明け暮れます。
その時に出会ったイタリア人の友人とは特に仲良くなり、1ヶ月間の長い冬休みを利用してイタリアに渡りますが、そこで田澤青年は本物のフットボール、いやカルチョと出会い、深い感銘を受けたのです。
イタリア語でカルチョを語り、イタリア人に混じってボールを蹴るなど、本物のカルチョ文化に触れた経験は、彼のその後の生き方に大きな影響を与えることになります。また、ちょうどその時期は、中田英寿選手がペルージャで衝撃のデビューを飾ったシーズンで、イタリア人の日本人観に変化の兆しが現れるのを肌で感じるなど、お金では買えない貴重な経験を重ねたのでした。
帰国後は積極的に聴覚障害者の大会や、全国ろうあ者体育大会に出場し、全国大会優勝を経験するなど、豊かで実り多いフットボールライフを満喫します。
一方、卒業後は、手話の出来る添乗員として旅行代理店に勤務することになりますが、そんな中、日本ろう者サッカー協会の高橋さんと出会い、それまでの全てのフットボールに纏わる経験が評価され、協会の強化委員長の任を受けることになったというわけです。
私が、このような田澤さんの略歴を知って思ったことは、フットボールという競技の魅力を知った上で、さらにフットボールの持つ国際性、文化性を海外に出て肌で感じた人は、豊かな人生を歩んでおられるということです。
高橋会長もそうなのですが、海外で生まれたフットボールという崇高な文化に日本で縁し、その後に本場でFOOTBALL(決してサッカーではありません)なり、CALCHOの洗礼を受けた人は、その素晴らしさを伝えずにはいられなくなります。
私も中学1年生の時からフットボールを始めましたが、大学1年生の時に本場欧州でカルチャーショックを受け、その原体験が後の人生を決める大きな要因のひとつとなり、今日に至っております。
そういった意味では、日本ろう者サッカー協会の高橋会長も、田澤強化委員長も、私も、本場の洗礼を受けて、一歩深くフットボールの世界にのめりこんだ者達であり、出会うべくして出会ったのかもしれません。
以前にも述べましたが、フットボールは人種、国籍、性別、年齢、宗教、そしてイデオロギーの壁を超越した、フットボールという崇高なる文化を愛する人と人の繋がりの尊さ、素晴らしさを私に教えてくれました。そして、今回はフットボールが健聴者も聴覚障害者の壁など関係なく繋がりあえることを教えてくれたのであります。 (つづく)
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登録日:2008年 02月 22日 14:01:21
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- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
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