頑張れ!ろう者の日本代表!!(3)

画像

合宿所で昼食中のろう者男子日本代表チーム

フットボールを生業として四半世紀以上生きてきたにもかかわらず、日本ろう者フットボール協会の存在や、ろう者の日本代表チームが活動をしていることすら知らなかった私ですが、このほど協会会長の高橋さんや、強化委員長の田澤さんとお会いしてからは、彼らの存在がかなり身近なものになってきました。

実は、ろう者男子日本代表チームは、本年4月にクウェートで開催されるアジア太平洋ろう者体育大会に参加することが決まっていて、フットボール競技には、イラク、イラン、インド、カザフスタン、韓国、クウェート、サウジアラビア、タイ、中国、日本、マレーシア、ヨルダンの12カ国がエントリー。上位4チームには、来年開催されるデフリンピックへの出場権が与えられます。同大会に於いて、日本代表チームは勿論優勝を目指しており、私が2月に彼等を訪ねたときも、まさに合宿の真っ最中であったというわけです。

ろう者日本代表チームの監督は尾上直也さんといって、埼玉県立大宮ろう学校の教諭をなさっておられる健聴者であります。しかし、代表チームの監督とはいっても、日本サッカー協会は、日本ろう者サッカー協会に対して協会傘下の組織としての承認を与えていませんから、無給のボランティア活動ということになります。

尾上さんは、大学で教育社会学を専攻されますが、そこでろう者の教育に目覚められ、手話を習い始めます。その後、大学院まで進まれて、ろう学校への就職を希望されますが、狭き門であったため、埼玉県立白岡高校という一般高校の教諭となられました。

同校は当時、いわゆる教育困難高校で、かなり荒廃していたようですが、小学生の頃よりフットボールに親しんでいた尾上さんは、一念発起して同校フットボール(サッカー)部の顧問に就任。一時は、部員が3名になりながらも、埼玉県東部地区ベスト8に駒を進めるまでにチームを育て上げます。

その後、念願かなって埼玉県立大宮ろう学校の教諭の職を得られますが、フットボールへの情熱は覚めやらず、日本協会のC級ライセンスを取得されました。

そんな熱血教師の尾上さんですが、日本ろう者サッカー協会の存在を知り、代表チームのお手伝いをさせて欲しいと願い出ますが、それではと、いきなりの監督への就任を命ぜられ、今日に至っています。

尾上さんをボランティア活動へと駆り立てるのは、素直で純朴なろう者の人々への親近感と、フットボールへの情熱を燃やすことの出来る人間としての使命感に他なりませんが、手話を駆使しての懸命な指導には、本当に頭の下がる思いでした。

日本ろう者サッカー協会には、南は九州から北は北海道まで、全国に約250人の登録者がいて、2月の男子日本代表合宿には20名の選手が参加。寒風にも負けず、元気良く練習に励んでいたのですが、一見しただけでは彼等が障害者のチームであることは分かりませんでした。

技術と体力は健常者と全く見劣りしませんから、どこかの大学生が練習しているかのようでした。しかし、暫く練習風景を眺めていると、いわゆる声を出して指示や意思の疎通を図るコーチングが殆どないことに気がつくのです。

また、選手達はプレー中にはルックアップすることのみで、状況を判断せねばならないため、どうしても選手同士が固まってしまう傾向があるように思えました。その他には、ピッチ全体を広く使えないということや、ロングパスが少ないこと、そしてドリブルが多いことなどが、健聴者のフットボールと違う点ではないかと気が付いた次第です。

尾上監督は、「フリージングといって、ミスが生じた時に笛を鳴らしてプレーを止め、その場で直ぐ修正する指導法を駆使できないのが辛いところです」と,その心情を吐露されましたが、聴覚障害者に団体スポーツを指導することの大変さは容易に想像がつきます。

因みに、デフリンピック等のフットボール競技の審判団は、主審,副審の他に各ゴール横に2名ずつの副審(計7名)がいて、その全員旗を持って臨みます。そして、選手達に反則行為等を知らせる時は、審判団全員が旗を振りかざして伝えるのだそうです。

しかし、それ以外は健聴者のルールと変わらないので、日本代表ともなるとその実力はなかなかのものです。無名の高校の部活でフットボールに興じている選手よりは、レベルが高いことは間違いなく、実際、一般レベルの高校と練習試合を行うと負けることは殆どないそうです。

実際、今春に九州共立大学に進学される松本卓己さんなどは、健聴者に混じって、名門鹿実(鹿児島実業高校)の2軍でゴールキーパーだった逸材ですし、神奈川県出身の木根淵慶彦さんや、大阪府出身の川見浩一さんも健聴者の本格的フットサルチームで活躍をなさっています。

そんな人達で構成されるろう者の日本代表チームが、クウェートの地にて日の丸を背負って大活躍をされ、来年のデフリンピックへの出場権を獲得なさることを、願って止みません。                                (つづく)

コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2008年 03月 21日 14:22:53

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2008年 03月 >






1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31




プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)、『来日サポーターPERFECT図鑑』(東邦出版)などがある。
最近のコメント
[07/08] 過酷な監督業 レコバ
[07/08] 過酷な監督業 小谷泰介
[07/07] 過酷な監督業 レコバ
[07/07] 過酷な監督業 ボン
[07/04] 過酷な監督業 プーアール
[06/30] EURO2008スペインの優勝は必然の結果 小谷泰介
[06/30] EURO2008スペインの優勝は必然の結果 ボン
[06/30] EURO2008スペインの優勝は必然の結果 プーアール
[06/27] サポーター問題を考える(1) 小谷泰介
[06/25] サポーター問題を考える(1) プーアール
最近のトラックバック
カテゴリー
お気に入りリンク
検索