頑張れ!ろう者の日本代表!!(4) ~アジア太平洋デフリンピック予選大会を振り返って~

四半世紀以上にわたってフットボールビジネスに携わってきた私ですが、恥ずかしながら、ろう者のフットボール日本代表チームが存在することを私は知りませんでした。
52年の人生の中で、ろう者の方と交流を持つ機会が全くなかった事が、その大きな要因ですが、それはろう者の方々がまだまだ社会に進出しにくい環境に置かれていることの証明に他ならないのかも知れません。
しかし、良く考えてみれば、日本全国には600万人にも上る難聴の方がいらっしゃって、障害者手帳を持つ所謂ろう者の方々が100万人もいらっしゃるのですから、彼等の中でフットボールを愛する人達がろう者の協会を設立し、日本代表チームを組織したところで何ら不思議はございません。そして、まさにその作業を長年地道に遂行されてきた方が、日本ろう者サッカー協会会長の高橋孝司さんであります。
私とほぼ同年代であられる高橋さんは、中学生の時に1966年W杯イングランド大会の記録映画“GOAL”をご覧になってフットボールのグローバルな魅力の虜となって以来、健聴者に混じってボールを追いかける日々を過されました。しかし、いつまでたっても海外に出掛ける機会がなかったため、30歳で競技生活に終止符を打ち、自ら積極的に海外のろう者のフットボール愛好家と交流を重ねるべく奮闘を始められました。今日に至るまでのその道程が決して平坦でなかったことは容易に想像がつきますが、フットボールの持つグローバル性には、その苦労を苦労とも感じさせない魅力があるからこそ、現在の高橋さんがおられ、ろう者の日本代表も存在するのでしょう。
縁あって、今年の2月にろう者日本代表の合宿地を訪れた時も、来年台北にて開催されるアジア太平洋デフリンピック予選大会に出場するため、選手達は寒風吹きすさむ中、元気にボールを追っていました。
そしてそのろう者の日本代表チームを率いるのが、埼玉県立大宮ろう学校教諭の尾上直也さんです。健聴者であられる尾上さんは、大のフットボール好きですが、大学生のときにろう者の教育に目覚められ、晴れてろう学校の教諭になられて間もなく、ろう者日本代表チームの存在を知り、是非お手伝いをさせて欲しいとこの世界に飛び込まれました。「選手達のフットボールを愛する純粋な気持ちに心打たれたので、喜んでボランティアとして活動させていただいています。」と屈託のない笑顔で話されたのが印象的でした。
ところで、6月にクウェートで開催されるはずであったアジア太平洋デフリンピック予選大会は、開催国側の度重なる身勝手な変更と、眼に余る杜撰な運営に業を煮やした世界ろう者スポーツ連盟が開催権を剥奪。急遽、その代替地として、タイのバンコクが選ばれることになりました。スポーツ競技の運営に於けるクウェートの信じ難い横柄な態度は、ハンドボールに限ったことではなかったわけですが、それによって振り回された選手と関係者の皆様が気の毒でした。
何はともあれ、6月9日から17日にかけてタイのバンコクで開催されることになった2009台北デフリンピック予選大会は、参加国が日本、タイ、イラン、イラク、マレーシア、韓国、カザフスタンの7カ国となり、過去のアジア杯や、W杯アジア予選でフル代表が対戦してきたお馴染みの顔ぶれが揃ったことになります。
抽選の結果、グループリーグで日本は、イランと韓国と同組となりましたが、初戦の韓国戦を猛暑の中、激闘の末に0対0で引き分けてしまいました。ポゼッションで韓国を圧倒し、パスワークや組織力でも韓国を凌駕しているにもかかわらず、なかなか好機で得点できないのは、先のヴェトナムで開催されたアジア杯の日韓戦を見ているようでしたが、ろう者のフットボールも、各国の民族性や気質を反映していることを知り、改めてその奥深さを痛感した次第です。
第2戦は何と翌日に敢行され、日本は優勝候補のイランを相手に疲れを隠せず、1対6と大敗。その翌日にイランと対戦した韓国は、守備一辺倒の戦術で0対4とし、狙い通り得失点差で日本を上回ってイランとともに上位リーグ進出を決めました。
日本は残念ながら、イラクマレーシアとともに下位リーグに回ることとなりましたが、グループリーグを見る限りは、イランとタイが抜きん出ていて、日本は3番手に着けられるポテンシャルは持っていると感じました。
下位リーグは、イラン戦から3日後にスタートしましたが、上位リーグに進んだタイと下位リーグのイラクがデフリンピックへの参加を表明していないため、最終的にマレーシアを上回りさえすれば、残り4つの椅子を確保できる状況にありました。しかし、ろう者日本代表チームの目標はあくまで下位リーグ優勝です。
幸いにも下位リーグからは、やはり最近ろう者日本代表の存在を知り、JFAアンバサダーとしても是非お役に立ちたいと臨時コーチ役を買って出てくださった元鹿島アントラーズの本田泰人さんがバンコク入り。大事なマレーシア戦を観戦し、翌日の練習にも参加してくださることになりました。
ろう者の代表選手達にとっては、本田さんのような偉大な経歴を持った人物と接する機会などこれまでになかっただけに、一緒に練習をしたり、アドバイスを直に受けられることは願ってもない機会に違いなく、キラキラと眼を輝かせて真剣に本田さんと対峙する姿勢から、そのことを感じる事ができました。
さて、本田泰人さんの心強い存在もあってか、日本はマレーシアに3対0と快勝!続くイラク戦も苦しみながらも後半に1点をもぎ取って1対0で連勝し、見事下位リーグ優勝を勝ち取るとともに、来年開催のアジア太平洋デフリンピック出場権も獲得しました。
最終順位は優勝がイラン、準優勝がタイ、3位にカザフスタンが入り、以下韓国、日本、イラク、マレーシアとなり、イラン、カザフスタン、韓国、日本がデフリンピックへの出場権を獲得したことになります。
さて、大会を振り返って感じたことは、フットボールは世界中で愛されている偉大な文化であるだけに、世界中にはフットボールを愛好するろう者の存在があること。そして、各国のろう者のレベルは、それぞれの国のフットボールの水準と福利厚生、そして文化並びに教育水準と密接な関係があるに違いないということでした。
また、高橋会長、尾上監督を始めとしたろう者協会スタッフの存在は勿論、フットボールへの恩返しとして臨時コーチを快諾なさった本田泰人さんのような人物や、純粋な社会貢献として本年ろう者日本代表の支援を表明したTOTO株式会社のような企業が、今後どれだけ増えていくのかが、ろう者フットボールのみならず、その国のフットボールの行く末を決定付けるのではないかと感じた次第です。
コメント[8], トラックバック[0]
登録日:2008年 07月 07日 18:04:01
コメント
友人の笹川より本ブログを教えられ、いつも楽しく読ませて頂いています。
その友人が本日7月12日に亡くなり、故人しのんで書き込みさせて頂きました。
辛口ながら思いやりのある内容だと言っており、いつも小谷さんと連絡がつけられればと言っていたのを思い出します。
テンセイ @ 2008年 07月 12日 22:50:18
テンセイさん
貴殿のメールで笹川氏の訃報を知り、愕然としております。こんな形で友人に不義理をしてしまい、心苦しい限りです。
「美人薄命」、或いは「憎まれっ子世に憚る」ではありませんが、赤松君といい、長谷川君といい、どうして才能豊かで善良な人達が早く逝ってしまわなければならないのでしょうか。
葬儀には出席できませんが、遠くの空より故人の冥福を心よりお祈り申し上げます。
メールをありがとうございました。
小谷泰介 @ 2008年 07月 13日 00:04:53
サッカーというスポーツは本当に素晴らしいと、記事を読んであらためて思いました。
五体満足な自分には分からない、苦労、ストレスがみなさんにはあることでしょう。
サッカーが少しでも彼らの力になり、希望になる事を遠くから祈っています。
そして、知らない人が多い、儲からない事でも、こうやって積極的に支援する企業。
見てるこっちもうれしくなるし、頼もしいと思います。
ビジネスライクになりすぎて、熱さがなくなった近年の日本代表。。
お金ではない、純粋な部分でサッカーをしている彼らから、学ぶ事、たくさんあると思います。
サッカーを愛するものとして、いずれ自分も何か出来ればと、強く思いました。
読んですぐに思った事を書いたので、まとまりのない文章ですいませんでした。
これからもブログ、楽しみにしています。
パラン @ 2008年 07月 14日 10:34:40
お前なんで来ないんだよ!
34回生28人も来たぞ!
どこで何してんだか・・・・・
さて、私は誰でしょう?
アン @ 2008年 07月 15日 21:46:41
サッカーのことは分からないけど
違う世界で頑張ろう!!!
BY kannzawa @ 2008年 07月 15日 21:49:20
ち~とは、顔見せれい!
なにやってんだよ!
鳥取より!
by kawahara @ 2008年 07月 15日 21:54:28
バランさん
はじめまして!そしてコメントをありがとうございました。
「読んで思ったことをすぐ書いたので、まとまりのない文章云々」とありますが、とんでもございません。私の文章で、あれだけのことを感じてくださるあなたは、感受性の強い、優しい方なのだと確信いたします。
ろう者の代表選手達の特徴は、一様に目が澄んでいることです。彼らと接していて、忘れかけていた素直な心、また、ひたむきさを教えていただいた次第です。
日本ろう者サッカー協会のホームページ(JDFAで検索)もございますので、一度ご覧いただければ幸いです。
また、コメントをお寄せください。
小谷泰介 @ 2008年 07月 17日 01:21:59
アンさん、KANZAWAさん、KAWAHARAさん
叱咤激励のメールに感謝いたします。
我等男子部34回生の結束の固さを改めて認識した次第ですが、自分がその和を乱す結果となり、ひたすらお詫び申し上げます。
フットボール界と言う巨大なマーケットは魑魅魍魎が跋扈する世界でもあり、たまたまその世界を除いて、身の程知らずにも駆逐に出掛けて大火傷を負ってしまったのが3年前のことです。
以来、ドイツを中心に海外に出ていることが多く、不義をお許しください。
赤松君の時もそうなのですが、なくなる直前に私のことを言っていたとTENSEIさんが教えてくださり、笹川君も生前に私に会いたがっていたとTENSEIさんに言っていたことは、さすがに堪えました。
葬儀には物理的に出られなかった次第ですが、笹川君や赤松君のみならず、先に逝かれた先輩や後輩の皆さんの追善供養は朝晩欠かさずにさせていただいております。
いずれお会いできる日を目指して、日々精進したいと存じます。
アンさん、体の具合はもう良くなったのでしょうか。ご自愛ください。
小谷 @ 2008年 07月 17日 01:41:26
コメントを追加
Trackback
この記事に対するトラックバックURL:
- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
- 最近のエントリー
- [12/02] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》
- [11/26] ナナミさん、及びナナミさんのコメントに対してコメントを寄せて下さった心ある皆様へ
- [11/21] お見事!和製ベンゲルこと西野監督!!ガンバ大阪、AFCチャンピオンズリーグを制す!
- [11/14] わが心のイングリッシュ・フットボール(2) ~プレミアリーグよ、何処へ行く!?~
- [11/11] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ!
- [10/31] わが心のイングリッシュ・フットボール(1) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》
- [10/29] MLBの話しではあるけれど
- [10/27] 読書三昧の日々(2)
- [10/20] 読書三昧の日々
- [09/24] 健康第一!
- 最近のコメント
- [12/05] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 小谷泰介
- [12/05] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 匿名希望
- [12/03] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 小谷泰介
- [12/02] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 Sho
- [12/01] ナナミさん、及びナナミさんのコメントに対してコメントを寄せて下さった心ある皆様へ 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 第3者
- [11/30] ナナミさん、及びナナミさんのコメントに対してコメントを寄せて下さった心ある皆様へ かず@御殿場アウトレット
- 最近のトラックバック
- [12/05] スッキリ♪
- カテゴリー
- 月別アーカイブ
- 2008年 12月 [1]
- 2008年 11月 [4]
- 2008年 10月 [4]
- 2008年 09月 [1]
- 2008年 08月 [3]
- 2008年 07月 [6]
- 2008年 06月 [4]
- 2008年 05月 [8]
- 2008年 04月 [1]
- 2008年 03月 [4]
- 2008年 02月 [7]
- 2008年 01月 [6]
- 2007年 12月 [9]
- 2007年 11月 [8]
- 2007年 10月 [9]
- 2007年 09月 [3]
- 2007年 08月 [7]
- 2007年 07月 [10]
- 2007年 06月 [5]
- 2007年 05月 [6]
- 2007年 04月 [7]
- 2007年 03月 [7]
- 2007年 02月 [7]
- 2007年 01月 [7]
- 2006年 12月 [7]
- 2006年 11月 [8]
- 2006年 10月 [7]
- 2006年 09月 [8]
- 2006年 08月 [7]
- 2006年 07月 [13]
- 2006年 06月 [12]
- お気に入りリンク
- 検索