世にも不思議なホームゲーム
【2月28日 AFP】タイの政府高官は、2006年9月の無血クーデターで失脚し、海外で事実上の亡命生活を続けているタクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)元首相が28日に、クーデター後初めて帰国することを明らかにした。
≫続きを読む…
(c)AFP/Anusak Konglang
バンコクで行われていたろう者日本代表のデフリンピック予選開催期間と、W杯アジア3次予選タイ対日本戦の日程が偶然にも重なっていたので、観戦に出掛けることに致しました。
6月14日にバンコク郊外にあるラジャマンガラ・スタジアムで行われたこの試合ですが、キックオフは5時20分。東京のように鉄道網が充分に発達していないバンコクでは、同スタジアムへの交通手段は車しかなく、我々もタクシーで会場に向かいました。
ご存知のように本場欧州での国際試合の場合、スタジアムに近づくに連れてレプリカユニフォームや国旗を身に纏ったサポーターがどんどんと増えてきて、高揚感に包まれた一種独特の雰囲気が辺りを支配しているのですが、この試合に関しては様子が違いました。
何しろスタジアムのある広場の入口に辿り着くまでは、これからワールドカップ予選が行われるという気配が殆ど感じられません。広場入口の露店でさえ、フットボールとは全く関係のない日用雑貨や洋服を売っていて、売り子のおばさんたちは我関せずといった涼しい顔をしています。
広場に入って、漸く試合を観戦に来た人達が目に付き始め、タイ国旗をあしらったマフラーやヘアバンドの売り子の掛け声が響いて、それらしい雰囲気となってきます。
私がスタジアムに到着したのは試合開始直前でしたので、必ずしも正確なスタジアム周辺の描写ではないかもしれませんが、そこには世にも不思議なワールドカップ予選の光景が繰り広げられていました。
まず、ホームチームであるタイのサポーターが、何とものんびりしているのです。既に予選敗退が決定していたからとはいえ、試合にかける意気込みというものが全く感じられません。ホームでやるからには、一矢報いるぞといった反骨心の欠片もないのです。
更には、タイのレプリカユニフォームを着ている人も見当たらず、フェイスペインティングをしたり、ちょっと目立つ格好をしている人達は、タイ在住と思しき西洋人だったりします。(※因みに、タイ王室のロイヤルカラーである黄色を基調とした現在のタイ代表のユニフォームのレプリカは、何故か今年の11月に販売されるそうです・・・。)
むしろレプリカユニフォームを着ているサポーターの数は、圧倒的に日本が多く、タイの
プレミアリーグ偏重の歪んだフットボール市場の弊害を目の当たりにした気分になります。
ご存知の方も多いかとは存じますが、タイではイングランドのプレミアシップの人気が殊の外高く、老若男女を問わず、フットボールファンはリヴァプール、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナル、またタイの大富豪タクシンが買収をしたマンチェスター・シティーに夢中です。人気の裏には同リーグが非合法の賭博の対象となっているという事情もあるものの、その関心度の高さは日本とはまったく比較になりません。
東南アジア諸国全般にそういう傾向が見られますが、特にタイは顕著で、海賊版天国である同国では、プレミアシップ所属クラブの最新のレプリカキットの偽物が、本物の発売日から僅か1、2週間後に市場に流出するといった有り様です。
また、海賊版だけではなく、タイ人の平均月給の半分はする本物のレプリカキットが飛ぶように売れるお国柄です。
なお、タイ人のプレミアシップ好きの典型的な事例といえば、前述のタクシン元首相のマンチェスター・シティー買収劇でしょう。
同氏がタイ国のフットボールのためにシティーの買収額を投資すれば、どれだけタイのフットボール界が発展するか想像もつきませんが、残念ながらタクシン氏はタイ国内のフットボールにはその価値が無いと判断したようで、同国内フットボールの整備や育成は置き去りのままなのです。
このように、タイでは国内リーグへの関心は自ずと低くなり、その延長線上にある代表チームの人気も低迷してしまうといった図式が存在します。
さて、キックオフ直前にスタジアムの中に入ると、6万人収容のスタジアムは5分から6分の入りといったところで、驚いたことにホームのタイのサポーターと、アウェーの日本のサポーターの数がほぼ同数か、やや日本が多い印象を受けました。そしてレプリカユニフォームを着たサポーターに限れば、日本人の方が圧倒的に多いという何ともおかしな光景が展開されていました。
それは先程も述べましたように、タイは国内フットボールの人気が低迷しており、代表への期待も薄いと言う悲しむべき現状があり、これは構造不況ともいえる問題に起因します。
例えば、全国規模のリーグが存在せず、トップリーグの殆どがバンコク市内とその周辺地域のチームで構成されています。そして運営はオーナーのポケットマネーか、企業の広告宣伝費で賄われており、セミプロチームとはいえ、その経営基盤は極めて脆弱なのです。
代表も、結局は金満オーナーが順番に会長職に就任するので、強化にも一貫性がなく、長期的展望に則った強化がなされません。
タイ国は、これまでボクシング、セパタクロー、陸上競技(短距離)、そして最近ではスヌーカーやゴルフ、更にはテニスなどで優秀な人材を輩出しており、フットボールに関してもかなり高いポテンシャルを秘めているはずなのですが、いかんせん国内事情が悪すぎるというわけです。
かくいう日本もJリーグが誕生するまでは、似たりよったりの構造だったわけで、五輪には30年間近くも出場出来ず、ワールドカップなどは夢の夢だった時代が続いていました。
何しろ1990年イタリアW杯アジア予選の日本対インドネシア戦は、何とあの西が丘サッカー場で行われ、満員にすらなっていませんでした。
それが、Jリーグの発足という改革と共に、強化面、興行面で大きな変貌を遂げることになるのですが、その史実はタイのフットボール界も正しい改革さえ行われれば、中東勢に負けず劣らずの強力なライバルになることを意味します。
タイに限らず、中国、マレーシア、インド、ヴェトナム、インドネシアといった隣国やASEAN諸国全般にも同じ事が言えるのであって、シンガポールは小国ながら、既に改革の第1歩を踏み出しております。
タイ代表の不思議なホームゲームを観戦しつつ、かつては日本も五十歩百歩の状況であったことを思い出しましたが、アジア諸国全般のフットボールの底上げのためには、各国に改革の気概と情熱に溢れた、かつての川淵三郎氏のような人物の存在が不可欠なのかも知れないと思った次第です。
コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2008年 07月 28日 10:28:24
コメントを追加
Trackback
この記事に対するトラックバックURL:
- プロフィール
- 小谷泰介
- (著者近影:昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)
1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
- 最近のエントリー
- [12/02] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》
- [11/26] ナナミさん、及びナナミさんのコメントに対してコメントを寄せて下さった心ある皆様へ
- [11/21] お見事!和製ベンゲルこと西野監督!!ガンバ大阪、AFCチャンピオンズリーグを制す!
- [11/14] わが心のイングリッシュ・フットボール(2) ~プレミアリーグよ、何処へ行く!?~
- [11/11] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ!
- [10/31] わが心のイングリッシュ・フットボール(1) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》
- [10/29] MLBの話しではあるけれど
- [10/27] 読書三昧の日々(2)
- [10/20] 読書三昧の日々
- [09/24] 健康第一!
- 最近のコメント
- [12/05] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 小谷泰介
- [12/05] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 匿名希望
- [12/03] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 小谷泰介
- [12/02] 我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》 Sho
- [12/01] ナナミさん、及びナナミさんのコメントに対してコメントを寄せて下さった心ある皆様へ 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 小谷泰介
- [12/01] ナビスコ杯決勝、雌雄を決したのはトップ(社長)の覚悟の差だ! 第3者
- [11/30] ナナミさん、及びナナミさんのコメントに対してコメントを寄せて下さった心ある皆様へ かず@御殿場アウトレット
- 最近のトラックバック
- [12/05] スッキリ♪
- カテゴリー
- 月別アーカイブ
- 2008年 12月 [1]
- 2008年 11月 [4]
- 2008年 10月 [4]
- 2008年 09月 [1]
- 2008年 08月 [3]
- 2008年 07月 [6]
- 2008年 06月 [4]
- 2008年 05月 [8]
- 2008年 04月 [1]
- 2008年 03月 [4]
- 2008年 02月 [7]
- 2008年 01月 [6]
- 2007年 12月 [9]
- 2007年 11月 [8]
- 2007年 10月 [9]
- 2007年 09月 [3]
- 2007年 08月 [7]
- 2007年 07月 [10]
- 2007年 06月 [5]
- 2007年 05月 [6]
- 2007年 04月 [7]
- 2007年 03月 [7]
- 2007年 02月 [7]
- 2007年 01月 [7]
- 2006年 12月 [7]
- 2006年 11月 [8]
- 2006年 10月 [7]
- 2006年 09月 [8]
- 2006年 08月 [7]
- 2006年 07月 [13]
- 2006年 06月 [12]
- お気に入りリンク
- 検索