我が心のイングリシュ・フットボール(3) 《プレミアシップよ、何処へ行く!?》

プレミアリーグで輝くハル・シティ

【10月10日 AFP】1998年、ハル・シティ(Hull City)はイングランド・プレミアリーグの首位から数えて92番目、イングランドプロサッカーの底辺に位置していた。
≫続きを読む…
(c)AFP

AFPBB News


プレミアリーグ誕生の舞台裏は、大雑把に言えば、長年蜜月関係にあったBBCとイングリッシュ・リーグの関係を、スカイスポーツとFAがタッグを組んで金にものを言わせて切り崩し、その放映権を奪い取ったという、かなりドロドロしたものであります。

日本の場合に置き換えて例えるなら、長い間良好な関係にあった相撲協会とNHKの関係を、スカパーが札束に物を言わせて強引に獲得した(あくまで例え話しです!)と思っていただければ、当たらずとも遠からずと言えるのではないでしょうか。

何が申し上げたいかと言いますと、要はその設立の動機が金儲け、ビジネスマインドに満ち満ちたものであったということです。

確かにスカイスポーツのおかげで、各クラブには以前とは比較にならないほどの放映権料が転がり込み(確か当時のレートで各クラブにミニマムが20億円位が分配されたと記憶しております)、それにボスマン判決が追い討ちをかけて、プレミアシップは一気に勢いづきました。

巨額の資金が、とりわけ人気の強豪、或いは名門クラブに流れ込み、他のリーグと比べて裕福と言われるプレミアリーグのクラブ間にすら、格差が生じてきました。

そして更に、米国人投資家マルコム・ブレイザーのマンチェスター・ユナイテッドの買収に代表されるように外資が次々と流入し、今では主要な強豪クラブのオーナーは殆ど英国人ではありません。アブラモビッチのように本当にフットボールがたまらなく好きで、自分の夢をチェルシーに託しているようなパトロネージュの精神に則った買収ならまだしも、完全に投資の対象として売り抜けようとする姿勢は甚だ疑問です。

事実、タイ人のタクシン元首相は、マンチェスター・シティーを出所の不透明な資金で買収し、僅か2シーズンも経たないうちにUAEの投資グループに売却してしまいました。彼のフットボールに掛ける想いの浅薄さを見る思いでした。

プロフェッショナルなのだから、ビジネス精神に添った行動のどこが悪いというい意見もあるかとは存じますが、文化を扱う以上、公共性や道徳性を尊重せねばならないことを肝に銘ずるべきです。

又、問題は投資家がオーナーになった場合には、資金を常に流用していますから、今回のような世界恐慌に遭遇した場合に、一気にクラブの財政が不安定になるというリスクを孕むことになります。現に、ウエストハムの実質的オーナーであるアイスランド人、マグヌソン率いる投資家グループは今回の金融危機のおかげで天文学的な損失を計上し、クラブの屋台骨が揺らぐ事態となっていることは皆様もご存じでしょう。

その点、米国のスポーツ市場は、「スポーツはゲームであり、全てにおいて極力平等均衡であるべき」という精神に則っており、ドラフトやサラリーキャップに代表される制度が整備されていて、チーム間の戦力の均衡が図られています。だからこそ、MLBのワールドシリーズは連覇が困難であり、昨年ダントツのリーグ最下位であったレイズが、いきなり翌年ワールドシリーズに進出するような現象が起こるのです。

本場のフットボール界が、そうあるべきかどうかの議論をするつもりはございませんが、少なくとも、投資、回収という流れに重きを置くばかりに、ブランド力構築のための強引なスター選手獲得や年俸の吊り上げをしたり、むやみやたらに選手を買い漁ったりするのは感心致しません。

銀河系軍団といわれたレアルが、3シーズンも無冠だったことを本場のオーナー達はもう忘れてしまったのでしょうか。

幸い、年俸や移籍金に纏わる話題が主流のプレミアリーグに、ハル・シティーのような弱小と目されていたクラブが快進撃を続けたり、海峡を越えたドイツのブンデスリーガでも、人口3000人の町のクラブ、ホッフェンハイムが首位を走ったりと痛快な現象が起きているのは嬉しい限りです。

また、日本でも大分トリニータの初載冠や、モンテディオ山形のJ1昇格といった清貧クラブの躍進に注目が集まり、さながら「フットボールでもっとも大切なのは、決してお金ではないのですよ」という天からのメッセージが、スタジアムの上空を駆け巡っているかのようです。

翻って一世紀と更に四半世紀を加えた歴史を誇る母国イングランドのトップリーグが、その伝統と誇りを損なうことなく、未来永劫に亘って世界の模範たる憧れのリーグであり続けることを切に願う次第です。                     
(終わり)

コメント[9], トラックバック[0]
登録日:2008年 12月 02日 18:32:48

コメント

小谷さん、こんばんは

以前よりこちらのブログを拝見しておりました。小谷さんのフットボールへの想いに感激、共感することも多々ありましたが、書き込むのは初めてです。


最近のフットボール界のビジネス偏重の流れには辟易しておりますので、ハル・シティのようなクラブの躍進には自分も爽快感を覚えます。

ただ、ホフェンハイムは人口こそ少ない村ですが、大企業SAPのバックアップもありますし、来年完成の新スタジアムもSAP本社のあるジンスハイム。このあたりは近年計画的な発展を遂げてきた大都市圏ライン・ネッカー地域(人口240万人)に含まれるので、本質的にはビジネス面も強いかもしれません。もちろん、パトロンのホプ氏が元ユース選手ということには好感がもてますし、フィロソフィーもしっかりしているようですが。

本題に戻すと、自分がフットボールを知った子どもの頃(90年前後)は、まだ一般的には地元の名士が自分の生まれ育った地域社会の中で、名誉やクラブへの愛情などからクラブを支えていたように思えますが、近年投資の対象となってからはおかしくなっているようにしか思えません。

投資家にしてみれば、フットボールも一銘柄に過ぎず、文化的な背景も関係ありません。特に外国人であればなおさら。それに良心すらないとも思っています。ポンド危機で金融テロといえることをしていた連中ですから(フットボールでもイングランドが狙われたのは偶然でしょうか・・・)。

投資家の良心が期待できない以上、フットボールそのものを守っていくためには、FIFAやUEFA、政府のような機関に投資活動を制限してもらうしかないのかもしれません。

母国イングランドのクラブが投資家の手に落ち、近年エスカレートする青田買いをリードしている現状を思うと、もはや誇りは失われたのかと心配です。日本にも本場のようなフットボール文化が浸透してくれたらと長年思っているので、母国がこれでは、まだまだ文化的な結びつきの脆弱な日本のフットボールの今後にもよけいに不安を感じます。


テーマが個人的に気にかけていたことだったので、長くなってしまいました。小谷さんのブログには今後も専門家として、フットボール愛好家としての問題点の指摘、辛口なコメントを期待しております。


最近は冷え込みます。秋に体調を崩されたそうですので、特にご自愛ください。

Sho @ 2008年 12月 02日 22:58:36

Shoさん

はじめまして!長文のコメントをお寄せ頂き、ありがとうございました。

私以上にプレミアリーグを席捲しているマネーゲームを憂い、具体的な提案までなさっている姿勢に感心いたしました。

おっしゃる通り、ホッフェンンハイムのバックにはIT系の大企業が付いていますが、そのオーナーのホップ氏は、あなたがおっしゃるように同クラブのユース出身のビジネスマンです。
これまで18年にわたってチームを支え続けてきましたが、その間に企業が急成長。新スタジアムもホップ氏の変わらぬチーム愛の延長線上の中から派生した産物であり、その姿勢は所謂プレミアシップを喰い物にしている外資系の投資家とは大きく一線を画すものです。

1部に昇格した今季もさしたる補強をせず、いまだに攻撃的フットボールで首位を快走し
ているのですから、まさに快挙です。これこそが、フットボールの醍醐味の一つだと思いますし、フットボールへの愛の勝利ではないでしょうか。

ブレイザー氏がMAN U.を買収しようとした時に、サポーターが反対運動を起こしたように、今後はサポーターも賢くなり、真剣にフットボールのあるべき姿を求めて行かねばならないのではないでしょうか。

ハッキリ申し上げて、お金は大切ですし、魅力的です。イエロ、バティストゥータ二始り、
Jからもエメルソン、アラウージョ等がオイルマネーの魅力に引かれて、レベルの低く閑古鳥の鳴くカタールリーグへと移籍していったことを見れば、一目僚善ですね。

結局、根本にフットボールへの愛と畏敬の念がないと、バランスを欠いて、最終的には良い結果を生まないことが多いと感じます。

また、今後もご意見をお寄せ下さい。

小谷泰介 @ 2008年 12月 03日 00:17:01

はじめまして。
匿名で失礼します。

小谷さんに個人的に連絡差し上げる方法はございますでしょうか?
こちらのサイトにはメアド等が載ってないようですが、もし方法がございましたら
お教え下さるとありがたいです。

決してご迷惑をおかけするような内容ではございません、一応念のため。

よろしくお願いします。

匿名希望 @ 2008年 12月 05日 00:02:58

匿名希望さん

AFP BB News actiblogの私の担当であられる方のメールアドレス(iida@clc.net)に、貴方の連絡先を添えてその旨お伝えいただければ、連絡を差し上げられるかと存じます。

宜しくお願い致します。

小谷泰介 @ 2008年 12月 05日 00:34:27

小谷さん、はじまめして。
いつも楽しく拝見させていただいてます。

日本国内のサッカーは天皇杯とCWCを残すところとなり、ストーブリーグの話題もちらほら出始めているところですが、小谷さんは来期浦和を指揮することになったフィンケ氏がどのような監督かご存知ですか?

ご存知であれば小谷さんの評価をお聞きしたいです。
新聞(スポーツ誌ですが‥)には“ドイツのオシム”とまで書かれ、戦術家で素晴らしい監督のような書かれ方をしています。
もしそれが本当なら、氏が浦和を指揮するということは間違いなく日本サッカーにとってプラスではないかと思うのですが。
小谷さんのご意見をお聞かせ下さい。

宜しくお願い致します。

ともちゃん @ 2008年 12月 10日 13:57:32

小谷さん。今朝スポニチを見ていたら少しショックな記事を目にしました。

日本サッカー協会は、現在アドバイザーでもある前日本代表監督であるオシムさんとの契約を延長しない事を決めたようです。

スポニチの記事を抜粋すると「昨年11月に急性脳梗塞(こうそく)で倒れて代表監督を退任したオシム氏に対し、協会はアドバイザーとして残留させる形を取った。経験豊富な老将に求めたのは(1)指導者養成と若い世代の選手育成に関するアドバイス(2)海外のさまざまな情報の提供――の2点。だが、主だった仕事は11月の公認S級コーチ養成講習会の特別講師だけ。前日本代表監督の頭脳を有効利用できず、“飼い殺し状態”となった。オシム氏は将来的には現場復帰を望み、複数のJクラブも興味を示している。アドバイザー契約は現場復帰の“足かせ”になるため、苦渋の決断の末に契約更新を見送った。

 10月の再来日後はJリーグの視察を続けており、田嶋専務理事はトヨタ・クラブW杯についても「見に行ってもらう」と話した。ただし、協会の後ろ盾がなくなれば「日本をいい方向に変化させたい」というオシム氏の願いはかなわなくなる。体調面を考えれば早期の現場復帰も不可能。無給となれば日本にとどまる理由はなくなり、自宅のあるオーストリアに戻る可能性も高い。「考えながら走るサッカー」を具現して多大な影響を与えてきた功労者を、日本は手放すことになる。」とスポニチには記されていました。

小谷さんはこの記事についてどのように思いますか?僕は協会は残念な決断をしてしまったと思っています。小谷さんの意見を御願いします。

ボン @ 2008年 12月 11日 14:03:19

小谷様

昨年11月、オシムさんが倒れる前に横須賀線の車窓から古河電工のグランドが
見えました。その後、私は代表への関心を失いつつあります。
オシムさん高齢で70歳近いのにファンは期待する半面、日本人指導者も適任はいないのか?元選手でなくともアマの世界(大学、高校等)にでもいないか?
私は日本のサッカーも知り、かつオシムの弟子である広島の監督さんが適任ではと感じております。

サッカーのある生活 @ 2008年 12月 16日 11:57:31

ともちゃんさん

浦和の新監督となったフィンケ氏に関して、詳しく知っているわけではありませんが、はっきりいえることは、今まで浦和に就任したどの監督よりも総合的に優れていると言うことです。

スター選手は必要ないという哲学を持っているため、「俺は特別(スター)だ」と思っている選手とは衝突する可能性はありますが、世界基準からすれば、Jリーグにスター選手など存在しないわけですから、フィンケ氏の思うようなチーム作りをすれば良いと思います。又、フロントもしっかりと同監督をサポートするべきでしょう。

お金をかけることを潔しとしない仙人のような思想の持ち主であるため、浦和レッズのチームカラーにマッチしないのではと考えられなくもないですが、日本の金持ちクラブなど何ぼのものじゃというへりくだった気持ちで、同氏と共に心機一転改革に乗り出せば、浦和は生まれ変わることでしょう。

レッズのサポーターは、大いに期待してよ良いと思います。

なお、ドイツのオシムというのは、日本人ジャーナリストが勝手に言っていることで、ちょっと的はずれではないかと思います。むしろ、フランスのオセールを40年近くに亘って率いたギ・ルー監督に近い存在ではないでしょうか。

小谷泰介 @ 2008年 12月 17日 20:01:23

ボンさん、そしてサッカーのある生活さん

オシムさんが、協会とのアドバイザリー契約を更新しなかったのは致し方ないところでしょう。

あくまで、現場に拘るオシム氏ですが、まだ復調したわけではなく、現場には立てない。さりとて、形式的なアドバイザーでお金を貰うのも気乗りしない・・・。

結果的には、彼らしい決断であったと思います。

オシムさんの後任に岡田さんを選んだ段階で、オシムさんは、協会が自分の切り開いてきた道とは別のルートを、違ったタイプの現場監督で進むことを悟ったに違いありません。

自分の健康管理に対する甘さを反省し、申し訳ないと思うと同時に、「私のやってきたことを何も見ていてくれなかったのか」という協会への失望感は、少なからずあったと私は考える次第です。

しかし、彼も人格者ですから、敢えて異を唱えずに去っていかれたのでしょう。

今、オシムの精神、或いは指導法を継承している日本の指導者は、広島のペトロヴィッチ監督です。彼は今年、チームを成熟させて、大きな仕事を成し遂げました。そして、来季はJ!の舞台で、私達はオシムの風を広島のパフォーマンスの中に見出すことでしょう。

協会が本当に賢ければ、岡田ジャパンが予選突破を果たした直後にでも、ペトロヴィッチ体制に切り替えて2010年に挑むでしょうが、そんな気の利いたことは先ずしないはずです。

来季の監督人事を見ても、各クラブの強化管理部の目がいかに節穴かよーく分かりました。一体オシム氏のJEF 時代と、代表監督時代の何を見ていたのかと言いたくなるわけですが、まあ、それもこれも、今に日本フットボール界の現状であり、実力なのでしょう。

今はまだ、我慢というか、忍耐の時期であると言い聞かせるより他に道はありません。
但し、サンフレッチェ広島には大いに期待したいと存じます。

小谷泰介 @ 2008年 12月 17日 22:32:17

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2008年 12月 >

1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31


プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:一昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
最近のトラックバック
カテゴリー
お気に入りリンク
検索