誰も書かないフットボール

2006年ワールドカップ・ドイツ大会がいよいよ開幕しました。日本のマスコミは、連日賑やかにジーコ監督と代表チームの動向を取り上げ、ワールドカップ絡みの広告も増えてムードは最高潮!

ただ、報道の内容はというと、本日誰々が練習に合流したとか、午後はシュート中心のトレーニングでしたといった表面上のことばかり。そして、それら報道の根底にあるものは「ジーコ・ジャパンを信じて応援しましょう!」というジャーナリズムとはとても呼べないもので、まるで第二次世界大戦下のプロパガンダのように私には聞こえます。

 
スポーツニュースの特集でも、解説者の皆さんは異口同音に予選リーグは突破できます、行けますと楽天的な意見ばかりを述べています。どうして今回は決勝トーナメント進出は難しいと思いますという人がいないのだろう。しかも彼ら肯定派の根拠を要約すると、日本には優秀な中盤の選手が多い、スピードとテクニックでは負けていない、ジーコ監督には運が味方している、そして代表を熱く応援する多くの国民の後押しがあるといった程度のことしか述べていません。

また、国内の最終調整の場であったキリンカップで日本代表は最下位だったにもかかわらず、それを厳しく批判する報道は皆無でした。専門誌ですら悲観的な寸評は見受けられず、私は首をひねるばかりです。

まず、初戦で敗れたブルガリアはワールドカップの欧州予選でクロアチアと同じ組に入り、本大会への道を閉ざされたチームだということを認識しなければなりません。そのブルガリアが主力選手を欠いた状態で、しかもアウェーの真只中で日本を破ってしまいました。日本の次なる相手はスコットランド。こちらも今回のワールドカップは本大会出場を逃したチームですが、初戦でブルガリアを5対1で粉砕。それもそのはず、何しろブルガリアは日本戦の後、中一日という無茶な条件でへろへろだったのですから。そして今度はそのスコットランドが中一日という過酷なコンディションで、中三日と休養十分の日本代表と戦い、作戦通り引き分けて優勝を飾ったのです。もちろん、スコットランドにとっては完璧なアウェー・ゲームであった上、主力が殆どいない限りなく2軍に近いチームでの来日でした。ちなみに日本は最下位でした。

これらの事実を直視したら、今の代表チームに対してどうして楽天的になれるのか私には全くわかりません。キリンカップは中田英寿、中村俊輔、高原直泰らの海外主力組が出場しなかったから問題ないのでしょうか。1点しか取れなくても、いずれもシュート数とポゼッションで相手に勝っていたから大丈夫なのでしょうか。それともブルガリア戦は、小野、小笠原、三都主らを先発させていなかったから、負けてもやむなしと考えているのでしょうか。

いや、きっと解説者の皆さんは判っておられるはずです。このままではまずいぞと。でも、きっと日本のマスコミに代表チームを批判することを許さない空気が充満しているに違いないのです。ここでワールドカップに向けて一挙に盛り上がって、経済効果を挙げるため、視聴率を取るためには、悲観的なことはいってはいけないぞー、この盛り上がり、特需景気に水をさすようなことはいうなよーといった具合に。

しかし、こうした傾向性はわが国のフットボールの発展に大きな妨げとなり、改善されなければと強く思います。なぜならば日本史における戦中、戦後の外交上のトラブルは、おおむね情報収集力と分析能力の低さとそれを指摘せずに容認したマスコミに起因するといっても過言ではないからです。

戦前、軍部が開戦反対派を押し切って大戦へと突き進み、無条件降伏に追い込まれたのはまさに日本政府の情報収集能力とそれらを分析する能力が低かったからに他なりません。

もっと言うと、世界における自国の位置づけ、軍事力の把握といった自己分析が正確になされなかったために、多くの犠牲を払ったのです。

戦後の北方領土問題、沖縄基地返還問題、拉致問題、竹島問題といった外交上のトラブルも、政府にもっと情報収集力と分析力があればこんなには長引いてはいないはずです。

日本国の政治情勢と、たかがふっとボールの代表チームを取り巻く状況を一緒にするなとのお叱りを受けるかもしれませんが、私には今の代表チームと、戦前の軍事政権がダブって見えて仕方がありません。

冷静に分析すれば勝ち目の低い戦なのに、いや大丈夫、やれば出来ると根拠の薄い楽観論で大戦に突き進んでいた軍事政権と、大本営発表などといってそれに追随したマスコミの姿勢が、いまの能天気な協会および代表チームと、それを報道するマスコミのそれに似ていると感じてしまうのです。対戦相手の分析にしても、軍部は鬼畜米英などと見下していました。今回グループリーグで対戦する相手もブラジルは別格として、クロアチアはとても強いし、オーストラリアもあのフォルラン、レコバ擁するワールドカップ優勝2回の古豪ウルグアイをプレーオフで下して本大会出場を決めた曲者です。絶対に勝たなければならない相手だからこそ、徹底的に分析して可能性を探らなければならないのです。

たかがフットボールを戦争の歴史と比較するなんてと笑われるかもしれませんが、一事が万事。ワールドカップもある意味では戦争なのです。情報収集とその分析を徹底し、己の弱点をいかに克服するか、相手の弱点をいかにして突くか、キックオフ直前まで最大限の準備を行うべきなのです。王者ブラジルでさえ、前三後一の精神で大会に臨むのですから。

コメント[11], トラックバック[1]
登録日:2006年 06月 12日 16:12:37

コメント

このブログを読んで涙が止まりません。
総て、おしゃる通りだと思います。
浮かれていた自分を反省しています。
しかし、勇気ある人なんですね。
業界から干されたり、仕事なくなったりしないんでしょうか?
危険だと思われますよね。
微力ながら応援します。
小谷さん、がんばってください。

がんばれ小谷さん! @ 2006年 06月 15日 21:54:13

応援のメッセージありがとうございます。
一人でもあなたのような方がいらっしゃるだけで、書いた甲斐があったというもの。
でも、フットボールの先進国ならば、私のような存在のジャーナリストは当たり前の存在であることを、付け加えておきたいと思います。
あと、作家の馳星周さん、スポーツライターの杉山茂樹さん、そして加部究さんなどもほぼ私と見解を同じくするコメントを発信していらっしゃいます。

小谷泰介 @ 2006年 06月 22日 22:06:35

縁起の悪いことを言えばそれが実現してしまう、あるいは実現した場合それを言った人の責任にされてしまう恐怖心、実現しない場合の信用の失墜等、何れにしてもメリットなんてほとんど無いことをいわゆる「空気を読む」ということで知っているからでしょう。一般人はともかくジャーナリスト(とくに元選手以外)がそれでは悪い歴史を繰り返すだけでしょう。大東亜戦争の敗北と共通があるというより「そのもの」であると日頃から思っております。馳星周、杉山茂樹、加部究などは趣旨は理解できるにしても一々頭にくる文章の書き方をするので大嫌いです。ただ82スペイン大会から見ている身からすれば情報量が多いだけでも幸せに感じたりもします。最終戦の対ブラジルが一時間後にあります。Jリーグ発足後の代表戦ほぼ100パーセント視聴している人間なので負けたら引きずり、サッカーファンになったことを後悔したりしますがでもそれも月日がたてば良い思い出になります、サッカーならなんでも好きですが代表戦は最高のエンターテイメントです。美しい散り際を期待します。これからも小谷さんブログ時々のぞきに来ます。

言霊 @ 2006年 06月 23日 02:51:29

代表の散り際は、美しいというより物悲しかったですね。
これからも、また時々のぞきにきてください。

言霊さん @ 2006年 06月 25日 06:51:00

相撲ではよく心技体という表現が使われますが、サッカー関係からはあまり聞いた憶えがありません。しかし、この表現はひと事で全てを表す、とても含蓄のある言葉だと思います。

この心技体をサッカーに対応する理論と実践に精査し、取り入れてみてはどうでしょうか?

心は、考え方と気持ちの在り方だと思います。考え方とは戦略と戦術で、先日に書いたランチェスター戦略です。強者と弱者それぞれの戦略・戦術が理論化・実践化されています。気持ちとは心の意識化で、モチベーションとイマジネーションです。モチベーションはコーチング、イマジネーションはポジティブな心理カウンセリングです。

技はテクニックで、ランチェスター戦略でいうところの集中と選択です。その選手の得意・特徴・持ち味を徹底的に伸ばし特化することで、足りない部分を補うことです。

体はまず体格で、外国選手に対抗できるように、特に空中戦の攻防では優劣がつきますので、日本選手の平均身長も180cm代になる大型化が必要です。
次は体力で、中田選手が言っていたように持久力です。90分の間、足を止めることなく走り続けられるスタミナです。

総体的に言えることは、科学するサッカーではないでしょうか。確かな戦略と戦術、データに裏づけされた理論と実践が必要だと思います。サッカー関係者の他、ランチェスター戦略、コーチング、心理カウンセラー、大学研究所など、各専門家の協力が必要です。

個人的希望としては、ぜひヒディング監督に日本代表監督を務めて欲しかったですね。

ミック @ 2006年 06月 25日 20:30:17

ミックさん
心技体という表現は日本独特のものというか、相撲界が生んだ簡潔かつ言いえて妙な素晴らしい表現ですね。全てのスポーツが共有できる言葉であり、オシムは彼なりの方法で各代表選手の心技体を、磨いて行ってくれる事でしょう。
2010年にオシム・ジャパンとヒディング・ロシアの一騎打ちが実現したら、見物でっせ、こりゃあ。

小谷泰介 @ 2006年 06月 26日 19:52:40

オシム・ジャパンvsヒディング・ロシア!!

想像しただけでもワクワクする試合ですね。

2、3日前に掲載されたジーコ監督の地国紙のインタビューには本当に落胆しました。内容は「日本代表は、プロ意識がない、精神力がない、歴史がない、たかだかJリーグのプロ10年と欧州の伝統の歴史では勝負にならないなど」と本音の暴露話でした。そういった足りない、それこそ心技体を補い磨きレベルアップをさせるために指導するのが、指導者・監督ではないでしょうか?

トルシェは日本選手をサルと侮蔑していましたし、ジーコにもそうした気持ちが心の奥底にあったのかもしれません。とても残念です。

オシムの歴史的な背景、変遷などや今回のサッカー協会との対応をみると、サッカーや日本に対する真摯な思いが伝わってきます。オシムならきっと日本のサッカーをさらにレベルアップしてくれると確信しています。

オシム・ジャパンに大きな期待をしています!!

ミック @ 2006年 06月 26日 20:49:14

うる憶えの内容でしたので、以下サンスポに掲載された記事を載せておきます。


ジーコ監督、独紙で発言「欧州のレベルに持っていくのは無理」
25日付のドイツの全国紙ヴェルト日曜版は「酔いからさめて」との見出しで02年地元大会では躍進したが、今回は1次リーグで敗退した日本と韓国を取り上げた。

ジーコ監督は両国を「プロ意識、持続力、勝ち抜く精神力に欠けている。何よりも、まだ成熟していない。4年前はそういった不足をホームの利点でカバーした」と分析。さらに、日本の現状については「(Jリーグの)10年ほどの短い期間で、伝統ある欧州のレベルに持っていくのは無理」と語っている。

また、両国の国民的スポーツは野球で「今後はサッカーへ移行するだろうが、もう少し時間がかかるかも」とのジーコ監督の談話を紹介した。

ミック @ 2006年 06月 26日 21:17:59

ミックさん
いつもコメントをありがとうございます。
ジーコ監督の退任会見には、私も失望、憤りを感じました。
ミックさんの言う通りです。日本人の体格的なハンディキャップや、欠点を克服し、世界を驚かせるために4年間が貴方に与えられたのですよと、ジーコ氏に言いたいです。

小谷泰介 @ 2006年 06月 28日 05:40:25

日本、韓国、イラン他とアジア勢の4枠は予選敗退で全滅でした。2010年のワールドカップのアジア予選には、オーストラリアも転籍加入してきます。今回のアジア勢全滅で、出場枠も4枠から2枠に削減されるのは確実でしょう。そうなると、日本の決勝トーナメント出場どころか予選突破も難しい状況です。個人的な予想では、日本は今後本選に出場することはできないでしょう。

サッカー協会は今回の本選の目標順位もはっきりと定めず、責任回避のためにキャプテンが会見で、時期監督としてオムシ氏と交渉していることを意図的にリークしました。サッカー協会がプロ意識の目標と責任の明確化をしないを全くせず、既得権にしがみついているのを見聞きして、選手達はどう感じ、どう思うか。これではプロ意識など到底芽生える訳がありません。

まず、キャプテンや上層部が責任を取って総退陣することで、選手やクラブ、関係者やサポーターも、その真摯で真剣味を感じ、プロとは何か、プロのけじめとは何かを認識すると思います。

ミック @ 2006年 06月 28日 23:46:15

ミックさんへ
アジア勢の予選敗退を受けて、FIFAは次回大会のアジア枠を恐らく4或いは3.5枠に削減するものと思われます。悲しいことですね。
でも、オシム監督なら例え2枠に削減されても、代表を南アに連れて行ってくれるでしょう。でもアジアの発展を考えると、これは大問題です。オーストラリアの転籍加入の問題もありますし・・・・。
要は、地道に着実に一歩一歩、世界で実績を積んでいくしかないのです。オシムとともに、その作業を始めましょうではありませんか!

しかし、ジーコからオシムへの方向転換は間違っていないものの、その過程をおざなりにしてはいけません。責任の所在は勿論、なぜジーコからオシムなのか?ジーコ路線の継承などと馬鹿なことをいっているようでは先が思いやられます。

小谷泰介 @ 2006年 06月 29日 15:54:39

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プロフィール
小谷泰介
小谷泰介
(著者近影:一昨年7月にチェルシーFCのレジェンドで元イングランド代表のケリー・ディクソン氏とともに)

1955年、タイ王国バンコク生まれ。
フットボール・ジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験をベースにしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説はラジオ、テレビで人気を博した。
また、欧州のプロクラブの指導者や選手に知己が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に『拝啓 川淵三郎殿』(モダン出版)などがある。
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