史上最大の買春作戦(上)-ギネスものの集団買春は、組織的に行われた-

売春宿に警察の強制捜査が入る - 中国

【西安/中国 6日 AFP】中国北部の陝西省(Shaanxi)西安(Xian)で5日、売春宿が強制捜査を受けた。中国では1949年の共産革命以降、売春はほとんど根絶されたが、25年間の資本主義経済改革によって再び見られるようになった。写真はソファーの上で身を寄せ合う若い売春婦たち。(c)AFP

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 中国では売春婦のことを「鶏」(ガイ)といい、その元締めのママさんのことを「鶏頭」(ガイタウ)と言う。また、お酌から売春までお供をするホステスさんのことを、「三陪小姐」ともいう。中国刑法では、売買春はともに違法。公式にはこのような職業はないはずだが、写真のようなカラオケクラブ、あるいは理髪店、サウナ、ディスコなどの形をとって、この種の風俗店は広汎に存在する。重罰を課しても根絶できないから、春節(正月)や国慶節(革命記念日)、さらに全人代(全国人民代表大会)直前ともなると、当局による見せしめ的な「掃黄」(風俗取り締まり)が猛威をふるうのだ。
 写真の場合、左端で後ろを向いている白いジャケット姿の女性が鶏頭。他の女性たちが鶏だ。顔を隠した状態で撮影されるのは、この種の「掃黄」ではおきまりの儀式。彼女たちは裁判にかけられ、多くの場合、三カ月程度の強制労働が課せられる。
 ところで、本ブログの冒頭を飾った株式会社幸輝(以下「幸輝」)の集団売春事件。昨年来悪徳リフォーム事件を捜査してきた京都府警が、詐欺と特定商取引法違反容疑で、今年4月11日から、「幸輝」社員らを次々と逮捕している。7月15日現在、逮捕者は元取締役も含めて10人。刑事裁判も始まっており、被告は起訴事実をほぼ認めた。
 忘れてはならないのが、リフォーム詐欺の莫大な利益で行われた中国「慰安旅行」。2003年12月12~17日に珠海中級法院(地裁相当)lで中国人被告14人に対する裁判が行われたが、裁判の直前、中国紙『新京報』は事件の顛末を詳報していた。『読売新聞』はこれを、「起訴状とみられる」と断じている。
この「起訴状」に、日本の国内媒体で報じられた数々の「幸輝」社員の証言や、独自取材で得た現地情報を総合すると、あらためて異常な「慰安旅行」の実態が浮かび上がってくる。
関係者逮捕を機に、あらためて珠海集団買春事件をふりかえってみた。

◆中国刑法では売買春ともに違法、重罰!

 中国の掃黄(売買春取締)で真っ先に思い出す事件は、2004年9月の香港立法会選挙に立候補していた民主党の何偉途候補が、選挙運動期間中に広東省東莞で買春におよんだところを、当局に踏み込まれた事件。何候補はトランクス一枚でベッドに座らせられ、観念した格好で現場写真を撮られた。これが報道各社にも提供され、翌日の香港各紙には、何候補のぶざまなカラー写真が一面トップに踊った。枕元にはクシャクシャに丸められた女物の下着。使用済みのコンドーム。後方の寝乱れた上掛けが、妙にリアルだった。
 「選挙運動中に買春とは!」、「なんとも呑気な」とお思いの諸兄も多いと思うが、中選挙区比例代表制の香港では、何偉途候補の序列では当選圏入りは難しい。もともと数合わせの候補だから、どこかしら油断もあったかもしれない。それこそ、昨年の「小泉旋風」のような奇跡でも起きないかぎり、何候補は「ダイゾウ君」になることさえ出来ない。しかも何候補は貿易商。商用で広東省に出かけるたび、東莞で買春する習癖があったようだ。中国の公安当局はそれを察知していて、民主派に効果的なダメージを与える選挙運動期間中に摘発したのだ。
夫の背信にもかかわらず、何候補の妻子はけなげにも減刑嘆願を提出。しかし、裁判所は売春した呉小姐ともども3カ月の労働改造を命じた。新聞紙上には、何候補がほかの囚人たちと一緒にジャージ姿でジョギングする姿などを続報していた。民主党は「不当弾圧」と声明を発表したが、あとのまつり。選挙民の眼差しはすっかり冷め、民主党は立法会選挙で、比較第一党から第三党にまで転落したのである。
 さて、1997年10月1日に改訂施行された中華人民共和国刑法には、第八節の358条から362条にかけて、売買春に関する細かな規定がある。
 それによると、「管理売春、または他人に売春を強制したものは、5年以上10年以下の懲役、並びに罰金に処す。ただし、以下の状況下で行ったものに対しては、10年以上または無期懲役、並びに罰金もしくは財産没収とする」(第358条)とされ、「大規模な組織売春を行ったもの」、「大多数の者に売春を強要、もしくは多次にわたって強要したもの」は、さらに刑罰が加重されることが規定されている。(二代目一条さゆり著『中国的陰陽世界~中国の下半身事情~』私家本、中国刑法の条文も一条さゆり訳)。
 また、「売春の勧誘、収容(場所の提供)、紹介などを行ったものは、5年以下の懲役、拘役(強制労働)、管制(管理下に置かれる)、並びに罰金に処す。ただし、犯罪性の高いものは、5年以上の懲役、並びに罰金とする。14歳未満の女子に売春の勧誘をしたものは、5年以上の懲役並びに罰金とする」(第359条)と、売春を組織した者の処罰が大きく加重されることを規定している(一条さゆり、前掲書)。   
 2003年9月の珠海集団売春事件で、中国人被告らへの珠海中級法院(地裁相当)の判決では、集団売春の舞台となった珠海国際会議センター大ホテルのスタッフや、同ホテルの金色年華ナイトクラブの経営者に、中国刑法の第361条が適用された。
 すなわち、「旅館業、飲食業、娯楽業、タクシー業などに従事するものが、その身分を利用し、売春を組織、脅迫、勧誘、収容、紹介など、売春行為を行った場合は、第358条、第359条の規定にのっとり処罰する。その者が職業上の責任が重大な地位にあった場合、もしくは前科があった場合には、厳重に処罰する」(第361条、一条さゆり前掲書)。
 この裁判と並行して、広東省公安部門は、裁判に先だつ11月26日、「幸輝」のH、T、Fの3人を国際刑事警察機構(ICPO)に国際手配。日本政府に犯人の引き渡しを求めた。その法的根拠は、前出の中国刑法358条付則にある「組織買淫罪」だ。中国では、売買春の行為者はもとより、これを「組織した者」はさらに刑罰が加重される。
ギネスものの集団買春をおこなった「幸輝」の、珠海での足跡を追ってみよう。

◆「幸輝」は集団買春の下見旅行をしていた!

 2003年3月。珠海国際会議センター大ホテル(以下「国会ホテル」、08年4月珠海德翰大酒店に名称変更)の王マネージャーのもとに、株式会社幸輝(以下「幸輝」)のHから、「日本の『幸輝』が珠海で表彰式をしたいので、協力してほしい」という要請があった。Hは国際手配書の使用言語欄に、「日本語、中国語」 の両方ができると記された唯一の人物。JTBの下請けをした珠海の旅行業者も、「幸輝」の一行に、「流暢な中国語を話す男が一人だけいた」と証言している。
おりしも広東省、香港で新型肺炎SARSが大流行したため、この話はいったん立ち消えになったかに見えた。ところが8月末、Hら「幸輝」のスタッフが突如として現れ、 マカオの日系旅行業者の案内で、ナイトクラブ(夜総会)などを視察。マカオでも集団買春の事前交渉をした模様だが、条件面でおりあわなかったらしい。そこで、マカオと陸続きの珠海に移って、あらためて同市最大の「金色年華ナイトクラブ」がある国会ホテルで集団買春の斡旋を申し込んだのである。
 旅行を手配したJTBも、「幸輝」の都合に振り回されていた。「当初はサイパンを予定していましたが、「幸輝」が直前になって珠海に変更してきたのです。285人分のフライトを確保するのが大変でした。結局、成田発と関空発で4便に分け、それぞれ添乗員を付けました」(同社西日本広報室)という。しかも、この「慰安旅行」は男ばかり285人。女性はひとりもいない。メンバーの構成といい、旅行地の選定といい、買春目的以外には考えにくい。
  旅行に参加した社員も言う。「もともとはサイパンに行く予定だったんです。でも、サイパンでは女の子が60人くらいしか集められないことがわかり、『それでは社員が女を取り合うことになる』という理由で、行き先が中国になった」(2003年10月31日『FRIDAY』)。
「幸輝」幹部は「中国なら女を一日千人は呼べる」(前出『FRIDAY』)と、豪語していたという。
広東省珠海市は旧ポルトガル領マカオと関門を接する中国の経済特区。鉄道こそないが、主に国内線に使われている珠海空港。そしてキリンビールの技術指導で生産されている「海珠ビール」に代表される豊富な地下水があり、珠江の水運、香港のコンテナ・ターミナルなどとあいまって、工場誘致にすぐれた条件を具えている。市の郊外にひろがる工業開発区には、各種工場、研究所のほか、北京師範大学や中山大学の分校、F1レースも行われる珠海サーキットもある。香港・マカオと珠海市を一本の橋で結ぶ世界最大の「港珠澳大橋」の計画や、広州と珠海を結ぶ鉄道計画もあり、工場進出にはすぐれた環境にある。2005年に在留邦人が倍増したのも、こうした背景があるためだ。
だが、商用ならともかく、これといった観光地の乏しい珠海は、もともと「慰安旅行」向きの場所ではない。ただ、カジノとの共存関係のなかで発達してきたお隣のマカオを模倣した性風俗産業が発達しており、穴場中の穴場として、知る人ぞ知る土地ではあった。
つまり、「幸輝」の中国旅行は最初から集団買春が目的であり、それを決めたのが、8月末の下見旅行だったのだ。
 現地の「国会ホテル」との直接交渉は、北京の大衆紙、『新京報』などに掲載された「起訴状」にくわしい。それによれば、「幸輝」の下見スタッフは、中国語に堪能なHのほか、T常務(事件後「専務」に昇格)と、F総務の3人。8月29日に行われた「国会ホテル」との交渉では、劉雪晶という日本語に堪能な若い女性マネージャーが応対した。
 ところが劉雪晶マネージャーは、「幸輝」のあからさまな「女を5~600人世話してくれ」という要求に、、いったんは難色を示した。上司の葉翔副支配人に相談したところ、「いい商機じゃないか。日本人の希望通りにしてやれ」という指示を受けた。そこで、不本意ながら「幸輝」の注文を受けたということになっている。
劉雪晶マネージャーはさっそく国会ホテルの部屋307室分を確保。しばらくして、「幸輝」からはファックス3枚に分かち書きされた参加社員の名簿が送られてきた。参加者は男性社員のみの285人。名簿はすでに広東省の捜査当局に押収されている。そこで劉雪晶マネージャーは同ホテルの金色年華ナイトクラブの明珠ママさんに、ホステス(三陪小姐)の召集を依頼。ところが「幸輝」が要求した500人という数は、珠海最大のこのナイトクラブでも集めきれない。明珠ママは同僚の張軍英ママにも協力を求め、手分けして珠海市内の他のナイトクラブ、カラオケクラブ、ダンスホールのママさんに応援を求めることにした。かくして、300人以上のホステスが珠海じゅうからかき集められ、「幸輝」の社員たちのために待機させられたのである。

◆チャイナ・ドレスで演じた買春トーク

「幸輝」の一行は9月15日午後香港で合流。翌16日の昼間は一日香港観光を楽しみ、夕方に九龍半島の中港埠頭から、珠海行きのフェリーに乘船。フェリーはおよそ1時間あまりで、珠海市の九州港に到着した。一行はあらかじめ手配されたバスで、「優秀社員」の表彰式がおこなわれる珠海粤海大ホテルに向かった。おりしも「国会ホテル」の宴会場が改装中だったため、表彰式とパーティーだけ、別なホテルを使うことになったのだ。
社内の成績優秀者を表彰する恒例の 「日本国幸輝株式会社夏季嘉奨表彰儀式IN・CHINA」(典拠原文のママ)は、300人あまりの男性社員を一堂に集め、同ホテルの副楼三階にある麗晶庁で午後7時過ぎに始まった。現場を目撃した中国人老通訳の投稿(「醜い日本人と醜い中国人」21CN-COM)をもとに、当時の模様を再現してみよう。
老通訳によると、表彰式に臨んだのは、330人(ママ)の男性社員。その多くは1970~80年代生まれの若者だが、30~40代の社員も少数いたという。この老通訳は、過去に「中日両国の国民性格の比較」という卒業論文もあり、今までに多くの会社の同類の儀式を見てきたが、その彼にしても、「幸輝」の表彰式は異様に映った。
儀式は二時間におよんだ。ひとりひとり名前を呼ばれた社員がステージに進み出る。持てる声の限りを尽くして吠えるようなスピーチ。短い紋切り型の口調、紅潮した相貌、社員が登壇、降壇するたびに、全員でおこなう大声の唱和。老通訳はこの異様な儀式に驚き、戦時下の緊迫した場面、とくに日本軍国主義に結びついた日本人の集団性へと思いをめぐらした。そして、この場所には、「武士道精神」が充満していたと感じていた。
長い儀式が終わると、突然ファンファーレが鳴り響いた。そして司会者の「女が欲しいかー!」というかけ声を合図に、長渕剛の「とんぼ」の音楽が鳴り響き、300人あまりのホステス(妓女)が宴会場になだれこんできた。ホステスたちは5分程度で社員たちが座っている円卓の配置につき、男性社員ひとりにホステス一人がつくように坐った。これまで長年にわたって旅行業界に携わっていた老通訳だが、これだけの数のホステスが一堂に集まった光景は、さすがに見たことがなかった。
パーティーが始まると、いままでこわばっていた社員たちの表情は一転、満面の笑みに変わった。中国語会話のマニュアルも配られた。
2005年11月7日。埼玉県警は「幸輝」東京支店の捜索のおり、「幸輝」の訪問トークのマニュアルを押収している(2005年11月11日『毎日新聞』)。 毎日の朝礼でのマニュアル・トークの徹底した習得を通じて、「幸輝」は信じがたいほどの莫大な利益をあげてきた。マニュアルがないと、訪問リフォームもできない。だから、集団買春にも当然マニュアルが必要なのだ。
宴会場では社員たちとホステスとの間で、ぎこちない会話が始まっていた。
「あなたに会えてよかった」、「愛している」、「今晩」、「幾ら」……。(『FLASH 』2003年10月21日号)。
ホステスの肩に手をまわす社員。お酒と食事も入り、会場は華やいだムードになっていた。
ステージでは、余興も始まっていた。「旗袍」(俗に「チャイナドレス」)を着用して女装した、太っちょの男性社員が登壇。大声で会場を沸かせた。ここで、コントまがいの買春指南も行われたようだ。一行が宿泊する「国会ホテル」には、ツインルームが用意されていたが、参加者は「『エッチ用と就寝用に分けて使うように』と、上司から指示を受けた」(前掲『FRYDAY 』)という。
老通訳はとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「中国の伝統的民族衣装である旗袍をなんと心得るか?」
「あやつらをこの会場から叩き出せ!」
激しい剣幕で迫る老通訳。
老通訳は地元旅行社のスタッフを誘って、珠海粤海大ホテルのレストラン部門の責任者に詰め寄った。
「このありさまはどういうことか?」
「このお客様は『国会ホテル』からの依頼でお受けしたものです。私たちはこのお食事だけをお引き受けしたのです。まもなく終わりますから…」と取りなす責任者。
まもなくして、日本語の堪能な「国会ホテル」の若い女性責任者(劉雪晶)もやってきた。 彼女は老通訳らの抗議をひととおり聞くと、東北訛りの中国語で、
「あんたたちにそんなことを言う資格はないわ。さっさと会場に戻って。お客様とホステスたちの通訳をするのよ!」と言いおえるや、会場に戻ってしまった。
老通訳は「この娘は、わが国の東北(満州)が、日本の軍靴に踏みにじられた歴史を忘れてしまったのだろうか?」と、暗澹たる気持ちになった。
さて、麗晶庁では宴もたけなわ。
ステージからは、「女の子を買いたい人は、会社がまとめて払うのでここでお金を支払ってください」(『FLASH』2003年10月21号)という、にわかには信じがたいアナウンスも行われていた。
「お金のない人には会社が貸し出すから申し出るように言われました。夕食時にお金が用意してあって、そこで貸していましたね。ボクも借りました。お金を借りてまで…と思いましたが、その時は買わない奴はバカだという雰囲気になっていましたよ」(前出『FLASH 』)
とは、社員の告白。
報道された「起訴状」によると、「幸輝」一行285人のうち、195人がここで買春の手続きをとったという。
かくして、 破廉恥を極めた宴会は、深夜になってようやくお開きとなった。(つづく)

【付記】4月30日、京都地裁において特定商取引法違反、詐欺容疑で起訴された法人「幸輝」(米盛昌敏社長)と、谷尻浩前社長、濱田宏一郎前営業本部長、南亘前施工管理部長、森本稔前営業管理部次長を被告とするリフォーム詐欺事件の刑事裁判の論告求刑が行われた。検察側は、谷尻、濱田被告に懲役6年、南、森本被告に懲役5年、「幸輝」に罰金300万円を求刑。「幸輝」側は全員無罪を主張した。判決は8月15日午後1時30分、京都地裁202法廷で言い渡される。なお、傍聴券交付情報は、京都地方裁判所までご照会いただきたい。

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登録日:2006年 07月 09日 19:18:08

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プロフィール
龍眼
(男)
本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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