史上最大の買春作戦(中)-ホワイトハウスを揺るがした少女たちの嬌声-
【西安/中国 6日 AFP】中国北部の陝西省(Shaanxi)西安(Xian)で5日、売春宿が強制捜査を受けた。中国では1949年の共産革命以降、売春はほとんど根絶されたが、25年間の資本主義経済改革によって再び見られるようになった。写真はソファーの上で身を寄せ合う若い売春婦たち。(c)AFP
写真は当局の「掃黄」(風俗取締り)で警察車輛に連行される少女たち。社会主義市場経済のもとで、拝金主義が横行する中国では、貧しい生活からなかなか抜け出せない農村出身者のなかに、都会でこの種の職業に手を染める少女たちが多い。
もともと違法な商売だから、就労年齢に下限はない。中学(高校)卒、もしくはそれ未満。中学を出て、打工妹(工場での年季奉公)の経験もなく、いきなりこの職業につく少女たちも少なくない。当然、未成年の少女も含まれている。
中国の少女たちはまだ黒髪のロングヘアーが中心だが、この種の職業に従事する少女たちの間では、ご覧の通り栗色や黄金色に染髪した少女も少なくない。背中が大きく露出した衣装も、堅気の女性にはすくなく、おおむね風俗嬢とみてよい。
さて、珠海粤海大ホテルでの表彰式、そしてホステス(三陪小姐)との楽しい宴会を過ごした「幸輝」の一行は、夜半近くになって、ようやく「国会ホテル」に到着した。いよいよ、めくるめく集団買春の夜の始まりである。
時に2003年9月16日深夜から翌日の未明にかけて。柳条湖事件(九・一八事件)の記念日の前日のことである。
◆ホワイトハウスを模した超豪華ホテル
2000年にオープンした珠海国際会議センター大ホテル(以下「国会ホテル」08年4月、珠海德翰大酒店に名称変更)は、米国のホワイトハウスを模して建てられた豪奢なつくり。入り口をはいると、吹き抜けのある大きなロビーがひろがる。このロビーを中心に、二重にめぐらされた回廊には、宝飾品、服飾など、世界を代表するブランド・ショップが並んでいる。内外の回廊の間には、複数のエレベーターホールが配置されているが、あまりにも広いため、初めて利用する人は迷子になるのがうけあい。
部屋は534室あり、「幸輝」の社員たちが泊まった「スーベリア・ツイン」でさえ優に50㎡を超える広さ。社長が泊まったかもしれないという、同ホテル最大のプレジデント・スゥィート・ルームにいたっては、なんと2600㎡の広さ。中国最大の面積を誇り、室内には巨大なラウンジのほか、寝室がふたつ。このほか書斎、会議室に、なぜか記者会見室まで備え、専属のサウナ、レストラン、広い室内温水プールまである。まさしく大統領府なのだ。
白を基調とした室内は、クラシックな王朝風の調度品に囲まれ、あまりもの豪華さに思わず息をのむ。
ホテル内には、各種レストラン、コーヒーハウスのほか、テニス場、壁打ちテニス、スポーツジム、卓球場、将棋室、麻雀室、室内温水プールをそなえている。また、最大2500人を収容する大小の会議室がある。さらに、地下2階には豪華サウナ、そして別館の3~4階には、今回の集団買春事件で主役をつとめた「金色年華夜総会」も付設されている。
事件後、珠海市最大を誇った夜総会は廃止された。2005年10月に「金色年華歌舞●(居偏に刂の旁)院」とその名称を変えてリニューアル・オープンしたそれは、面積3000平方メートル、高さ12メートルの大型ダンスホールのほか、89室のカラオケルームとディスコルームをそなえる。
そもそも珠海市は、江沢民前国家主席直系の曾慶紅副主席の影響下にあるといわれる。中国政府のなかで、香港・マカオ事務を統括する曾慶紅副主席の肝入りで建てられた「国会ホテル」は、国際会議、見本市などの国際的なイベントを開催するにふさわしい品格と豪華さを具えたものとして設計された。龍眼の知る限りでも、隔年で開かれる国際航空航天博覧会のイベント会場となったほか、2004年のミス・ユニバース(環球小姐)の地区代表選出大会も、同ホテルが会場となった。
集団売春におよんだ「幸輝」一行のふるまいは、珠海経済特区のシンボルになるはずだったこのホテルに賭けた中国人のメンツや、威信をずたずたに引き裂く行為だったのだ。
『FRIDAY』(2003年10月31日号)、『FLASH』(2003年10月21日号)には、9月17日の午後、同ホテルの玄関前で撮影された「幸輝」一行の集合写真が掲載されている。それぞれの顔にはモザイクがかけられているが、見るからに男性ばかり。全員カジュアルな服装で、背広姿は見受けられない。この最前列中央で、黒っぽいシャツで胸がはだけた感じで座っているのが米盛昌敏社長(当時37歳)。男だけで285人も集まると、さすがに壮観と言うべきか…。
現場には、この無邪気な一行の撮影風景を複雑な思いで眺めている一人の中国人男性がいた。事件後、集団買春事件の一部始終を、『南方日報』、『中国青年報』などに詳細にわたって証言した、河南省の医療機器会社社長、趙広泉さんだ。
◆ウィスキーの瓶を持って、廊下をうろつく男
「国会ホテル」では、おりしも医療制度改革と投資に関する幹部会議が開かれていた。
同ホテルに投宿していた趙さんがこの異常な光景に気がついたのは9月16日の夜半のこと。7階の友人を訪ねようとエレベーター・ホールに出たところ、軽薄な感じの日本の若者たちと、中国人の娘が戯れていた。若者たちは中国人の娘の体に手をまわし、手あたりしだいにまさぐっている。ときおり、聞くにたえない嬌声も聞こえてきた。
1階のロビーに降り立ったところ、ロビーには、200人ぐらいの日本人男性と、ほぼ同じくらいの数の中国人女性がひしめきあっていた。なかには、「慶祝日本平成株式会社創立15年」(原文のママ)というトロフィー持った男性もいた。ここでも男たちは女性と抱き合っている。
目も当てられない光景に、「いったい、あの人たちはなんですか?」と従業員に訊ねたところ、「日本から来た団体さんです」という返事が返ってきた。
まもなくして、新たに旅行会社の2台の大型バスが到着した。中から吐き出される女性たち。人数はさらに増え、日本人の一行は500人あまりであふれかえった。女性たちはひと目で風俗業のホステス(三陪小姐)とわかるいでたち。日本人たちは、ロビーでチェック・インを待っている間も、あたりはばかることなく、ホステスたちと戯れている。
エレベーター・ホールもごった返していた。エレベーターを待つ間、日本人たちはホステスたちの体をまさぐり、とても目も当てられない。なにしろ「幸輝」の一行は285人の大所帯。チェック・インにたいへん時間をとられていた。そのうえホステスたちもいるから、全員がそれぞれの部屋に落ち着くにはさらに時間がかかる。12台あったエレベーターは、その後1時間あまりもの間、上がったり下がったり、休む暇も無く稼働しつづけた。
趙さんはその後も「幸輝」一行のふるまいを観察し続けている。
趙さんの証言によると、「幸輝」一行の部屋は、「国会ホテル」の13階から18階までに割り振られていた。このうち13階から15階までがとくに多く、日本人たちとホステスの笑い声が聞こえてきた。午前3時頃になって静かになったと思ったら、今度は延々と淫靡な嬌声が漏れてきた。趙さんが13階の廊下を歩いていたところ、部屋の扉が半開きになっているところがあり、中を覗き込むと、2人の日本人男性と1人の中国人女性が、アノ行為の真っ最中だった。
趙さんは深夜のホテルの廊下で、ウイスキーの瓶をもって、あちこちの部屋を訪ね歩く日本人男性とも遭遇した。淫靡な声はその後も明け方まで続く。
午前4時を過ぎると、ホテルの各室から「お仕事」を終えたホステスたちが次々とロビーに現れた。彼女たちは(物を盗んでいないかどうか)ホテル側のホディ・チェックを受けたのち、明け方の街に消えて行った。
翌9月17日午後3時ごろ、趙さんは、「幸輝」の一行がロビーで記念撮影を行っているところに遭遇した。
「どこから来たんだい?」
「日本から旅行で来たんだ」
「日本のどこから?」
「日本のいろんなところ」
「何人で来たの?」
「380人」(注:実際は男性社員285人、JTBの添乗員4人の289人。380人というのは、当時の、毎日コミニケーションズの『毎日就職ナビ』に掲載されていた数字と一致する)。
「君たちの年はいくつ?」
「一番若いのは16歳、いちばん上は37歳」(注:実際にはもっと年長者が参加している。37歳は当時の社長の年齢)。
「で、何しにきたんだい?」
「決まってるじゃん、中国の姑娘とヤリに来たんだよ」(「国恥日来了日本買春団」『中国青年報』2003年9月26日、「『日本旅遊団国恥日珠海買春』目撃者接受採訪」鄭州晩報2003年9月27日など中華世界の内外で報道多数)
趙さんが熱心に「取材」していた理由については、後日譚もある。
事件当時、北京で事件を取材していた元特派員氏は語る。
「あの夜、趙さんは金色年華夜総会に遊びに出かけたんですよ。ところが、ホステスが全員出払っていて、一人もいなかったんです」。
趙さんが、「小姐たちはどうしたんだい」と事情を訊ねたら、
「あーら、趙さん、運が悪かったわねー。あのね、小姐たちは日本人の団体さんがごっそり持っていっちゃったの。今日は誰もいないのよ。お気の毒ねー」と言われたとか。
「くそー!、日本仔(日本小僧)めー!」と言ったかどうかは知らないが、その夜は悶々として過ごしたすえ、腹いせに新聞記者に一部始終を話したというのだ。
あまりの面白さに、にわかに信じたくなるが、その動機が「(中国人としての)民族的大義」であれ、「(趙さんの)個人的な腹いせ」であれ、微にいり、細に入る証言のおかげで、「幸輝」の集団買春事件は、立体感をもって再現できるようになった。
龍眼の行きつけの世田谷の中華料理店の親父はいう。
「俺も台北に専属の(小指を立てて)コレがいたんだよ。昔はコックを大勢引き連れてよく台湾に遊びに行ったけれども、そんな失敗はしなかったな」。
「その会社は、カネをけちって、ガイドや通訳やホテルのボーイに、『口止め料』を支払わなかったんじゃないかい。 カネをケチったら、とんでもないとばっちりを食らうからな」。
海外で添乗員経験のある旅行代理店の社長もいう。
「ホテルのロビーでもたつかせるなんてことは、素人のやることだ。プロならまずまとめて部屋に上げてしまう。部屋の交換はあとでやったらいい」。
「『幸輝』には、『悪いことをやっている』という自覚に欠けている。どうぞ、『幸輝』をどんどん叩いてやってください」。
◆一夜にして30万元の荒稼ぎ
中国紙が報じた「起訴状」によると、集団買春の仕組みはこうだ。
9月16日夜のパーティーで、「幸輝」側から、社員に「このコンパニオン(幸輝側は「三陪小姐」を一貫してこう呼んでいる)たちは、テーブルチャージが800元、ホテルに連れて帰る場合は1200元です。連れて返りたい人は、係員に申し出て登録してください」とアナウンスがあった。そして、買春希望者登録名簿を集約して、「幸輝」のHと、金色年華夜総会の明紅伝ママと、張軍英ママがとりまとめる。そして、買春費用は後で一括して「幸輝」側から支払われる仕組みだった。
香港紙の報道によれば、9月15日夜、ホテル側と「幸輝」のH、T、Fは(香港の)漁港酒家で最終的な商談をおこない、ホステスの選び方や、部屋に連れて帰る方法、支払いの方法などについて、取り決めていたという。(『明報』2003年11月19日)。
9月17日午前1時、「国会ホテル」の劉雪晶マネージャーは、「幸輝」のT常務から、買春費用30万元(約450万円)を受け取り、葉翔副支配人の事務所に運んだ。葉副支配人は、この中から6万元(約90万円)を抜き取り、劉マネージャーにも3万元(45万円)を与えた。そして、その残りをホステスをかき集めた金色年華夜総会の明紅伝ママと張軍英ママに渡した。
明紅伝ママはこの中から8万9千元(133万5千円)を、張軍英ママは1万元(15万円)を抜き取り、残りのお金を持って「国会ホテル」の1009号室にホステス動員に動いたママさんたちを召集した。そして、それぞれの働きに応じて、売上金を分配したのである。
阿里山クラブの周絶ママと胡静ママが3万3千元(49万5千円)を、同じく阿里山クラブの葉雪敏ママは2万6千元((39万円)を獲得した。維也納ナイトクラブの曹令莉ママは2万6千2百元(39万3千円)、同じナイトクラブの黄顚ママは1万3千4百元(20万1千円)、銀都ホテルの于韵ダンスホールの李海英ママは1万元(15万円)を得た。そして、チャイナシティ・カラオケクラブの閻軍ママと房銀環ママは合わせて1万6千2百元(24万3千円)を、中天ホテルの星際ナイトクラブの曹暁嵐ママと、趙英梅ママは合わせて2万元(30万円)を獲得したのである(数字は『新京報』2003年11月18日による)。
『読売新聞』が「起訴状とみられる」と断じて転電したこの『新京報』記事の原文の見出しは、直訳すると、「珠海売春事件の内幕-娼婦あっせんで一夜にして30万元の荒稼ぎ」となっていた。中国の物価水準はおおむね日本の8分の1程度。30万元は日本円に換算すると、450万円だが、中国での使用価値は3600万円以上になる。労働者が1カ月500~1000元(7500円~15000円)で暮らしている中国で、このような大金は誰しもが手にすることの出来るお金ではない。
日本の報道機関が 『新京報』の記事を「起訴状とみられる」とまで断じたのには、相応の背景がある。まず、報道が珠海中級法院での裁判(2003年12月12~17日)の開廷間近というタイミングで流されたこと。登場人物が具体的で、資金の流れが明瞭であること。また、現地消息筋からの情報では、のちの判決で上司の葉翔副経理よりも量刑が比較的軽かった劉雪晶マネージャーが、捜査への全面協力を条件に、当局と司法取引したという未確認情報があることなどだ。しかも、これらの情報は、一部の事実誤認、誤解を除いて、その後、日本国内の『FLASH』(2003年10月21日号)、 『FRIDAY』(2003年10月31日号)などが報道した、「幸輝」社員側からもたらされた情報と矛盾しない。
珠海集団売春を、「幸輝」の会社ぐるみ、組織的、計画的犯行と見る理由である。
事件に関係した中国側のホテルスタッフ、ママさんたちが、のちに広東省公安当局によって捕らえられたことは、言うまでもない。(つづく)
【付記】4月30日、京都地裁において特定商取引法違反、詐欺容疑で起訴された法人「幸輝」(米盛昌敏社長)と、谷尻浩前社長、濱田宏一郎前営業本部長、南亘前施工管理部長、森本稔前営業管理部次長を被告とするリフォーム詐欺事件の刑事裁判の論告求刑が行われた。検察側は、谷尻、濱田被告に懲役6年、南、森本被告に懲役5年、「幸輝」に罰金300万円を求刑。「幸輝」側は全員無罪を主張した。判決は8月15日午後1時30分、京都地裁202法廷で言い渡される。なお、傍聴券交付情報は、京都地方裁判所までご照会いただきたい。
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登録日:2006年 07月 16日 09:39:08
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- プロフィール
- 龍眼
- (男)
- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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