民主党の何俊仁副主席、暴漢に襲われ重傷-日本とも深い関わり-
【香港 10日 AFP】民主主義派の国会議員アルベルト・ホー(Albert HO)氏は、活動家への人権侵害に反対するため、中国の有名な弁護士ガオ・チーシェン(Gao Zhisheng)氏とともにハンガーストライキを行っている。写真は8日、香港で記者会見を行うホー議員。(c)AFP/MIKE CLARKE
香港民主派の重鎮で、歴史問題などで日本とも少なからぬ因縁を持つ何俊仁(アルバート・ホー・チュンヤン、55歳)民主党副主席(立法会議員)が、8月20日午後、中環(セントラル)のファーストフード店で暴漢に襲われ、鼻、額、顔面などに重傷を負い、病院に担ぎ込まれた。
何俊仁副主席(写真)は弁護士出身。イギリス植民地時代からの立法評議会議員で、1989年の六・四天安門事件(第二次天安門事件)以来の生え抜きの民主活動家。太平洋戦争で日本軍政下におかれた香港で強制された軍用手票の補償を求めた香港軍票訴訟(1993-2001)では、被害者調査に奔走。日本の歴史修正主義者たちの「新しい歴史教科書をつくる会」の動きに対抗した超党派グループ「第二次世界大戦の史実を糾明する連絡会議」(維護二戦史実連席会議)を2001年に結成。さらに、日中両国が領有権を主張している尖閣諸島(中国名:釣魚台)をめぐり、保釣行動委員会(釣魚台を護る行動委員会)を組織し、自ら船を調達し魚釣島上陸をめざすなど、民主党と香港の大衆運動を架橋するすぐれた実務家、運動家として、日本とも深い因縁がある。
写真のハンガー・ストライキにみられるように、中国の維権律師(人権派弁護士)救援運動など、中国民主化への情熱を傾けてきた。このため、日本政府、右翼だけでなく、中国当局からも警戒されている。
その何俊仁副主席が襲われた。香港じゅうに衝撃が走っている。
(写真下)趙紫陽追悼式典に出席した何俊仁副主席(写真左)。花束を持っているのは、香港民主派の長老、司徒華支連会主席(2005年1月、香港ビクトリア公園特設斎場にて)。
◆あっと言う間の惨劇
この日の香港はたくさんの熱中症患者が出るほどの炎熱地獄。事件は日曜日の白昼、涼を求める大勢の市民で賑わうセントラル(中環)のマクドナルドでおこった。
何俊仁副主席はおよそ100名ばかりの民主党の仲間たちと、MTR灣仔(ワンチャイ)駅前の修頓足球場(サッカー場)から、中環のピークトラム駅近くにある香港政府ビルまで、消費税導入反対のデモを終えたばかり。午後5時20分にデモが終わり、林子健民主党常務委員(31歳)とその母親の3人で、セントラルの中国航空グループビル1階にあるマクドナルドで、アフタヌーン・ティー(下午茶)の真っ最中だった。
およそ10分ばかり歓談していたところ、鳥打ち帽をかぶった20~30代にみえる3人の中国籍の男性がつかつかと何俊仁副主席らのもとに歩み寄り、突如としてこん棒やヌンチャクを取り出し、何俊仁副主席に襲いかかった。そばにいた林子健常務委員は、とっさに母親を庇った。男たちは何俊仁副主席の顔面を一撃、また一撃、さらに一撃!
悲鳴をあげて逃げまどう何俊仁副主席。襲撃は3分ばかり続いた。周囲の客たちも現場から離れるので精一杯。母親を逃がし、何俊仁副主席の前に立ちはだかろうとした林子健常務委員も頭と手を殴打され、頸部と胸に負傷した。
男たちが四方八方に逃げ去ったとき、店内には顔面を血だらけにした何俊仁副主席がうずくまっていた。
警察が現場にかけつけた時は、ちょうど何俊仁副主席と林子健常務委員が救急車で病院に送られるところだった。暴漢たちはすでに逃走。2人はただちにクィーンズメァリー病院に運び込まれ、集中治療室で手当を受けた。何俊仁副主席は手足には骨折はないものの、顔面を激しくやられている。額、目、鼻などを殴打されたため、顔面は腫れ上がり、右目を切った。鼻すじを骨折し、大量の出血があった。
20日夜21時30分(日本時間22時30分)、何俊仁副主席は集中治療室から一般病棟の「K21室」に移された。移送のおり、大勢の記者が駆け寄って写真を撮ったおり、何俊仁副主席は記者たちの呼びかけに両手を挙げて応え、「大丈夫だ。ご心配いだだき、ありがとう」と話したという。
◆曽蔭權行政長官も慰問
事件は香港各界に衝撃を与えた。
クィーンズメァリー病院には、党友の李永達民主党主席、李銘柱(マーティン・リー)元民主党主席のほか、民主建港港進連盟(香港立法会最大会派の親中国派政党)の劉江華議員、公民党(穏健民主派政党、旧称:45条関注組)の湯家驊議員らが駆けつけた。
李永達民主党主席(立法会議員)は、「たいへん驚いた。何俊仁副主席は個人的な怨みをかうような男ではないと信じている。政治的な背景があるのではないか?」と話した。また、湯家驊議員は、「私たち公民党のもとにも、何者かの脅迫状が舞い込んでくるようになった。恐ろしいことだ」と話している。
この日の夜には、曽蔭權(ドナルド・ツァン)行政長官(香港の大統領に相当)も病院に駆けつけ、15分ばかりの面会を許された。曽蔭權長官は、「草の根をかき分け、地の果てまで追いかけてでも、犯人をつかまえる」とコメントしている。
香港警察では、馬宏洲高級警視(警部に相当か?)が何俊仁副主席から事情聴取したほか、事件がおこった中環中航ビルのマクドナルド一帯に封鎖線を張り、警察犬を動員して捜査にあたっている。目撃者情報を集めるとともに、店舗のビデオカメラの画像記録を精査し、犯人像につながる手がかりがないか、遺留品がないか、慎重に捜査を進めている。
香港特別行政区政府の李少考保安局長は、「香港は平和な法治社会だ。私たちはかかる暴力行為を絶対に許すことはできない。警察は事件を重く受け止め、すでに捜査を始めている。犯人検挙、事件解決に全力をあげる」というコメントを発表した。
◆思い出されるマウントデービスの「手錠」事件
龍眼は事件の第一報を8月20日夜の香港TVB(無線広播)のWebサイトにある動画ニュースで知った。20日夜の時点で「YAHOO!香港」(雅虎香港)に『明報』の速報記事が2本あり、友人が李銘柱(マーティン・リー)に電話したところ、「命に別状はない」と答えていたが、現場は相当混乱している様子だったという。21日朝になり、ウェブ上に香港各紙の記事が出揃い、事件の詳細がわかったことで、あらためて事態の深刻さを知った。
注目すべきは、兇徒たちが何俊仁副主席だけを狙っていることだ。しかも攻撃目標は顔面に集中している。兇徒たちは何俊仁副主席の命を狙ったのではなく、何俊仁副主席に恐怖心やダメージを与える目的で行われた犯行と見ている。
何俊仁副主席らが組織する保釣行動委員会は、8月12日に香港を出航し、尖閣諸島の魚釣島に上陸する計画があったが、せっかく調達した「釣魚台2号」を中国の海關当局に差し押さえられてしまい、計画は延期になっていた。
また、写真にみられるように、身柄を拘束された中国国内の人権派弁護士(維権律師)、高智晟弁護士救援のハンストを行うなど、土地収用などに絡む官吏の不正告発と、これに対する武力弾圧が相次ぐ中国国内の動向に、何俊仁副主席は心をいためていた。
中国国内の動きとも連携するこうした何俊仁副主席の活躍ぶりを、政治的に煙たがっている人士は、決して少なくない。
思い起こされるのが、2003年の七・一国家安全条例反対50万人デモ直前の時期、香港島郊外の魔星嶺(マウント・デービス)で手錠やヌンチャクを持った男たちが香港警察に逮捕された事件だ。男たちが中国の公安だったため、捜査は中止。男たちは大陸に返された。中国政府に対して弱い立場にある香港特別行政区政府としては、できることはここまで。民主派の大規模デモに必ずといっていいほど現れる「普通話(中国標準語)を話す不気味なビデオ男たち」といい、香港で公然と活動する中国公安の姿が目立ち始めている。
今のところ、今回の事件の背景はわからない。なにしろ香港は珠江デルタ、南シナ海を通じて世界とつながっている国際物流都市。事件が起きた中環(セントラル)は、港澳埠頭や中港埠頭に近く、犯人たちが脱出するにはうってつけ。漁船をチャーターするという方法もある。犯人たちはとっくに香港を脱出しているだろう。
戦時下の東江縦隊(抗日ゲリラ)や塩の密売コースでもわかるように、海に囲まれた香港は、逃げるにはうってつけの場所。今回は市街地での犯行で目撃者も多そうだが、犯人たちは鳥打ち帽を被るなど、顔の特徴をごまかす工夫をしていた。しかも犯人たちは申し合わせたかのように八方にわかれ、群衆にまぎれこんで逃走した。事件は周到に計画されていたとみていい。
それにしても、何俊仁先生、龍眼が香港を訪問した時にはいつも高級レストランでご馳走してくれたのに、民主党の仲間とはマクドナルドでアフタヌーン・ティーとは…。ふだんは意外と質素な生活ぶりだった。
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登録日:2006年 08月 21日 05:21:22
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- プロフィール
- 龍眼
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- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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