呂秀蓮の思い、馬英九の思い-それぞれが見せた複雑な表情-

退陣を迫られる陳総統、支持者たちが大集会 - 台湾

【高雄/台湾 30日 AFP】汚職疑惑により大規模な辞任要求に直面している陳水扁(Chen Shui-bian)総統の支持集会が30日、高雄(Kaohsiung)で行われ、数万人の支持者たちがデモで通りを埋めた。写真は、高雄の集会でスローガンを叫ぶ陳総統。(c)AFP/Sam YEH


AFPBB News


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 このほど結党20周年を祝った民主進歩党(民進党)。

国民党一党独裁時代には「党外」と呼ばれ、投獄、白色テロなどの弾圧を一身に受けてきた。 それがミレニアム総統選挙で劇的な勝利を収め、執政6年あまり。政権掌握後は、「民主派政党」としてよりも、「独立派政党」としての色合いを前面に押し出したかに見える。

 議会で多数を占める野党勢力に阻まれ、これといった政治的実績をあげられないなかで、陳水扁総統は台湾民衆の心のなかの、「台湾人意識」を揺さぶり、これを奮い起こすことで、かろうじて政権を維持してきた。

 だが、民進党関係者に相次いだ収賄疑惑。陳総統の家族にもインサイダー取引疑惑が露顕し、ついに総統自身にも、国家安全局資金をめぐる流用疑惑がかけられた。

 この夏から始まった施明徳元民進党主席らによる「倒扁100万人運動」は日増しに勢いを増し、高雄市で開催された民進党結党20年集会は、激しい逆風のなかでの開催となった。

 写真を見てもわかるように、狂おしいまでに気持ちを昂らせる陳水扁総統。そのかたわらで、呂秀蓮副総統が、妙に冷めた表情をしている。もしも、陳総統が任期半ばで退陣する事態となれば、否応なく彼女が「中華民国第11代総統」に昇格するのだ。

 もう一枚の写真を見ていただきたい。2004年12月、当初は劣勢を伝えられていた国民党が、立法委員選挙(総選挙に相当)で辛勝し、野党陣営で過半数を確保した時の記者会見の様子。ひさびさの勝利にはしゃぐ連戦国民党主席(当時)を横目に、腕を組んで複雑な表情を見せる馬英九台北市長(現国民党主席)。それぞれの置かれた立場が、晴れ舞台での表情にも見て取れる。

 台湾政治の節目節目で見せた二人の表情から、「倒扁運動」に揺れる台湾の、今後を占ってみたい。 

◆「呂秀蓮総統」に現実味が出てきた

呂秀蓮副総統の複雑な表情の原因は、自身に総統昇格の可能性が出てきたからだ。

9月16日に台北で行われた陳水扁総統支持派の集会には、陳総統側近の遊錫●(方二つに土)前行政院長の姿こそあったが、呂副総統はもとより、民進党の次期総統候補の最右翼と目される蘇貞昌行政院長や、謝長廷台北市長候補ら、民進党の顔とも言うべき幹部たちが揃って欠席した。

 施明徳元民進党主席らがよびかけた「倒扁百万人運動」が、インターネットやFMラジオなどを駆使して、無党派市民や若者らに予想以上の浸透を見せるなかで、いつまでも陳総統と行動を共にすることは、得策ではないと思い始めているのだ。

 だが、まがりなりにも2300万の台湾人民の直接選挙で選ばれた「第10代中華民国総統」。
だれも、そんな陳総統の首に鈴をつけられない。

 そんななか、陳総統の支持率、民進党の支持率は超低空飛行を続けている。このままでは、自分たちも巻き添えを食らい、あとが無くなる。今年末の台北、高雄市長、県市長選挙。来年末に小選挙区制度を導入して行われる立法委員選挙(総選挙に相当)。そして、08年春の総統選挙。これらをどうやって乗り切っていくのか。

 呂秀蓮副総統にとって、陳総統の去就は自分自身のことでもある。もし、陳総統が辞任を決意するようなことがあれば、台湾の法律の規定により、間違いなく呂秀蓮自身が中華民国第11代総統に昇格するのだ。

 民進党への支持が低迷し、混迷する台湾政局のなかで、2300万台湾人民の舵取りをどうしたらいいのか…。そんな複雑な思いが彼女の硬い表情から読み取れる。

◆馬英九台北市長が動かない理由

 馬英九台北市長が腕組みをして苦笑している姿は、龍眼が2004年末の立法委員選挙の勝利会見で撮影したヒトコマ。同年3月の総統選敗北の重苦しさを払拭するような勝利に、国民党の連戦主席は舞い上がっていた。居並ぶ幹部たちも上機嫌。国民党はこの選挙で、01年立法委員選挙で失った多くの議席を奪還。第一党にこそなれなかったが、議席数で民進党に肉薄、比較第二党の地位を確実なものにした。さらに、立法院で過半数を占める野党連合の中軸として、政局の主導権を握ったのだ。

 二たび総統選挙に敗北し、長い野党生活で深刻な財政難に陥っていた国民党。この選挙で政権奪還の足掛かりをつかんだ意義は大きかった。

 顔を紅潮させ、饒舌だった連戦主席。だが、連戦が主席に居座り、二たび総統選挙に挑戦し続けて敗退した間に党財政は窮迫。人事は停滞し、世代交替も思うように進まない。

 05年8月、劇的な中国訪問を花道に連戦主席は引退。国民党主席選挙で馬英九台北市長が王金平立法院長を破り大勝。ようやく国民党主席の地位についた。馬主席は深刻な財政危機に陥っていた国民党の台所を再建するため、党本部ビルを売却。職員のリストラ、機関紙『中央日報』への援助中止、停刊を決めるなど、財政再建に大ナタを振るった。しかし、もともと巨大な国民党組織。まだまだ党内を完全に掌握したとは言えない。

 馬英九国民党主席にとって、今は党内基盤を固める段階。無党派市民中心の倒扁運動にしゃしゃり出る段階ではない。国民党はあくまでも08年春の総統選挙での政権奪還に射程を置いている。政局はその間にもまだまだ動く。「倒扁百万人運動」をよびかけた施明徳元民進党主席が世論調査で馬英九と同率の58パーセントという高い満足度を獲得(TVBS、9月20日調査)して一位に躍り出ても、いっこうに動じない。馬英九はさらに先を読んでいるのだ。

◆明日の主役たちの現在

台湾情勢に関する前回のブログで、龍眼は「陳総統も呂副総統もボロボロにされる。悪影響は民進党全体に及ぶ」と書いた。だが、民進党にとっては、呂副総統の総統昇格という展開のほうが、今後のためにはよりましかなと思い始めている。

なぜならば、
第一に、陳総統ファミリーに象徴される汚職・腐敗のダメージを断ち切ることが出来る。
第二に、際限なく広がりを見せる「倒扁運動」の軛を断ち切ることが出来る。
第三に、中華民国台湾憲政初の女性総統を演出できる。
第四に、民進党で少なくとも二代の総統を出した歴史を刻むことが出来、今後につなぐことができる。

過去の経験から、呂秀蓮副総統の失言癖など、不安要因もある。だが、蘇貞昌行政院長、謝長廷台北市長候補(高雄市長)ら次期総統を狙う民進党幹部にとって、仕切り直しにより、陳総統時代を引きずったことの悪影響を最小限にとどめ、新たな政局を作ることの出来るメリットは大きい。

いっぽう、08年総統選挙で、次期総統に一番近い位置につけているとされる馬英九国民党主席は、今回は模様ながめに徹し、ほとんど動かないだろう。彼には国民党改革の仕事が山積しており、今は積極的に打って出る段階ではないからだ。

台湾情勢は、当面目が放せない展開が続く。

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登録日:2006年 10月 05日 05:20:49

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プロフィール
龍眼
(男)
本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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