赤シャツ軍団は陳水扁総統を引きずりおろせるか?-予告編-
【台北/台湾 9日 AFP】民主化運動を率いる施明徳(Shih Ming-teh)元民進党主席が9日、記者会見を行い、10日に総統官邸前広場で行う大集会への参加を呼びかけた。施氏は陳水扁(Chen Shui-bian)総統に対する辞任要求デモを率いており、10日の集会には200万人の参加を見込んでいると語った。写真は同日、台北で記者会見に応じる施氏。(c)AFP/PATRICK LIN
いま台北に来ている。
9月に中国取材で立ち寄った香港で、1989年当時北京で暮らしていた友人が、台湾情勢を見て、「天安門事件を思い出した」と話すのを聞いて、血が騒いだのだ。
きょうは中華民国台湾の国慶節(双十節、建国記念日)。
施明徳元民進党主席率いる「倒扁百万運動」は、きょう記念式典が開かれる総統府周辺に、台湾全土から200万の民衆(台湾の全人口は約2300万人)を集め、陳総統に辞任をを迫る。
はたして「台湾の子」は、自ら総統の座に押し出した『台湾の子』を引きずり下ろすことが出来るのだろうか?
これから一日、現場で顛末をつぶさに見てくる。
◆今年前半は野党主導、後半は無党派主導
陳総統の娘婿の背任事件、呉淑珍夫人の「太平洋そごう株」インサイダー取引疑惑、そして、陳総統自身の国家安全局資金流用疑惑。政権獲得以来、民進党には汚職など金権スキャンダルが絶えなかったが、今年になって、陳総統ファミリーの疑惑が続々発覚。捜査当局も動き出している。
今年前半は国民党、親民党など野党中心の陳総統ひきずりおろし運動があった。これが一段落して、9月からは、施明徳元民主進歩党主席がよびかけた「倒扁百万運動」が勢いを増し、空前の盛り上がりを見せている。この経過は、本AFP-BBニュースの検索に「陳水扁」と入力するだけで、おびただしい数の写真ニュースで、くわしく経過をたどることができる。
彼らは与党陣営の緑(グリーン)、野党陣営の藍(ブルー)と自分たちの運動を識別するため、エンジ色のポロシャツやTシャツをまとい、9月15日にはあいにくの荒天のなか、台北で100万人キャンドルデモ(警察発表は36万人)を敢行。「紅花雨」という人々の魂を揺さぶる愛唱歌も生れた。9月下旬からは、10月6日まで台湾全島を一周する「環島遊行」(台湾一周デモ)を進め、支持者の環を広げてきた。
そして、今日は台北市内に五ヶ所の集結地点を設け、総統府の双十節記念式典会場を包囲する。陳水扁政権は、台湾の主立った大学の学生たちに、双十節パレードへの学生動員を求めたが、今回は軒並み拒否されたという。彼らも「倒扁百万運動」に参加するのだ。
台湾の新聞は、「倒扁百万運動」の関係記事に連日数ページをさき、テレビのニュース・チャンネル(台湾には民視、東森、台視、中天、年代、三立など、ニュース・チャンネルだけで十数局ある)は、毎日24時間体制で倒扁運動のようすを実況中継している。
いまや、台湾で倒扁運動のニュースを聞かない日はないのだ。
日本では、ほかに伝えるべきニュースが多いのか、今回の動きをあまり伝えていないが、陳総統をいただく民進党政権が、成立後最大の政治危機を迎えたことは間違いない。
◆赤シャツ軍団は、陳総統を引きずりおろせるか?
台湾は国民党一党独裁時代からの省籍対立を引きずっており、「当面の現状維持」志向が最大公約数なのに、民進党に政権交代してからの6年、陳水扁政権は、選挙のたびに「台湾人意識」をゆさぶり、無理やり、「独立」と「中台融和」の対立を際立たせてきた。台湾人は両極に引き裂かれ、反目しあった。このような情勢下で、政治的基盤をもたない無党派中道層による政治運動は、これまでにも試みられたことはあったが、成功したためしがない。
だが、野党勢力のテコ入れがあるとはいえ、今回の「倒扁百万運動」は空前の盛り上がりを見せている。龍眼が台北に到着した10月8日にはすでに、台北駅前に赤シャツをまとった数千人の老若男女が昼夜兼行で座り込みを続けていた。彼らは大声で、休むことなく、「阿扁、下台!」(「陳水扁、やめろっ!」)の掛け声を叫び続けている。
実のところ、今日10月10日も、何万人、いや、何十万人集まるか全く想像もつかない。龍眼が総督府前まで近づけるかどうかさえ、じつは危ぶまれる。
双十節の記念式典のため、台北警察当局は、警官隊6000人を動員。
陳総統も、「台湾は自由の国だが、自由をはき違えて不法なおこないをしたら、断固取り締まる」と、特別談話を出した。いっぽう、「倒扁百万運動」を主宰する施明徳元民進党主席は、「万一不測の事態がおきた時には、(責任を取って)腹を切る」とまで言っている。
いま、ニュース局のテレビでは、双十節(国慶節、建国記念日)の式典中継の映像と、陳総統の辞任を求める赤シャツ軍団の集会の映像が、画面を縦に二つにわかち、同時中継されている。波乱の双十節のスタートだ。
台湾の法律では、陳総統を辞任に追い込むためには、立法院(国会)で3分の2の賛成が必要だ。民進党、台連の与党陣営は陳総統を死守する構えだから、きょうの総督府包囲行動が成功したとしても、陳総統をひきずり下ろすのは簡単ではない。
民進党支持者のなかにも、陳総統ファミリーの不正蓄財、財テクぶりに批判的な声が少なくないと聞くが、いまのところ党所属の立法委員には、呼応する動きはない。
お祭り好きの台湾人。これまでの選挙で大量動員には慣れている。でっかいステージ、スクリーン。爆竹、花火、Tシャツ、帽子などの集会グッズ、テレビ中継…。なんでもありには慣れていたつもりだったが、今回の動きは無党派主導。与野党が前面に出ないなか、無党派市民がこれだけの盛り上がりを見せるのは、台湾史上初めてのことではないか?
6年前に陳水扁を総統に地位に押し上げた「台湾の子」たち。彼らが押し上げた『台湾の子』(陳総統)を、「台湾の子」自らが引きずり下ろすことができるのかどうか、たいへん注目している。
今日はまだまだ、ドラマがありそうだ。
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登録日:2006年 10月 10日 10:30:02
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- プロフィール
- 龍眼
- (男)
- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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