赤シャツ軍団は陳水扁総統を引きずりおろせるか?-実況編-
台湾建国記念日、団結呼びかける総統と辞任要求する野党 - 台湾
【台北/台湾 10日 AFP】自身と親族の汚職疑惑で辞任を要求されている陳水扁(Chen Shui-bian)総統は、10日の国慶節(建国記念日)に行った演説の中で、民主化運動に積極的に取り組むことを宣言し、国民全体の団結を求めた。一方、総統官邸から少し離れた場所では、野党国民党(Kuomintang、KMT)の支持者数万人が、同党のシンボルである赤い衣服と帽子を身につけ、陳総統の辞任を求める抗議集会を開いた。写真は同日、台北市内の道路を埋めるKMT支持者による陳総統辞任要求デモ。(c)AFP/PATRICK LIN
10月10日、中華民国台湾の第95回双十節(国慶節、建国記念日)は、ますます高まりを見せる陳水扁総統辞任要求のなかで、波乱の一日となった。
辞任要求の中心は、施明徳元民進党主席が呼びかけた「倒扁百万運動」(陳総統を倒す100万人運動)に結集した、無党派市民を中核とする人々。
彼らは、与党民進党のシンボルカラーである緑、野党国民党のシンボルカラーである青(藍)と区別するため、自分たちの運動のシンボルカラーを赤(ないしはエンジ)に定めた。
AFPの写真キャプションにもあるように、固い民進党支持者は、「背後で国民党(KMT)がテコ入れしている」と噂するが、この運動の中核はあくまでも無党派市民。「緑藍不分別」(与野党支持を問わず)を掲げており、来るものを拒まない。このため、野党陣営の支持者も多数参加するようになり、運動はさらにひろがりをみせている。
龍眼は、この日一日、台北市街をめぐり、夕方のデモは施明徳と行動を共にした。
あらためてこの日の一日の動きを振り返ってみたい。また、AFPニュースのすばらしい写真を使って、波乱の記念式典と、「倒扁百万運動」の一日の動きをスライドショー「台湾、波乱の双十節-引きずり下ろされる陳水扁総統」にまとめてみた。テレビでしか見ていない式典会場の混乱ぶりもわかり、この日の動きがより立体的に理解できると思われる。あわせてご覧いただきたい。
◆世界に向け、大恥をかかされた陳水扁総統
2006年10月10日午前、晴天。第95回中華民国台湾の国慶節(双十節)は波乱の幕開けとなった。施明徳元民進党主席が提唱する「倒扁百万運動」がますます勢いを増し、この日に合わせて総統府、式典会場を包囲する「天下圍攻」行動に台湾全島から二百万人を動員すると会見で発表していた。
台北市警察は隣接県市の応援も得て、七千人以上の警官隊を動員。総統府、式典会場一帯を全面封鎖。式典の行われる10日の昼間は、中山駅と台大醫院駅はノンストップ。式典会場に近い台大医院駅で降りようと思っていた龍眼は、やむなく中正紀念堂駅で下車。改札や地上への出口には大勢の警官が配置されており、中正紀念堂側の出口はすべて封鎖。やむなく南門側の出口から地上に出なければならなかった。
同じころ、式典会場では女子高生によるマスゲームやチアガールの演技、儀仗兵の分列行進が始まっていた。会場に沸き起こる「総統、好!」「総統、好!」(総統閣下、こんにちわ! こんにちわ!)の轟き。じつはあらかじめテープに吹き込んでおいたもの。それでも、式典は順調に進行しているかに見えた。
ところが、その時だ。「総統、好!」の大音響に混じって、会場のあちこちから「阿扁、下台!」「阿扁、下台!」(阿扁、辞めろ! 辞めろ!)の掛け声が聞こえてきた。「阿扁、下台!」の掛け声は、まず野党席から起こり、スタンド後方の海外台僑らの来賓席にも、ウェーブのように広がっていった。
おやっ、会場に降りて掛け声を指揮している赤シャツ姿の男女がいる。そうかとおもうと、親民党の立法委員の一団が、赤シャツをまとい、「阿扁下台」と染め抜いた赤い横断幕を掲げて分列行進とは逆の方へ行進をはじめた。慌てふためく係員たち。この「招かれざる」デモ隊は、諸外国の来賓が固唾をのんで見守るなか、数百メートルにわたって行進。ようやく係員に制止された。
スタンドのあちこちで、待ってましたとばかり、嬉々として「阿扁、下台!」を叫ぶ来賓たち。相次ぐ与党民進党議員の汚職事件、陳総統ファミリーの背任、インサイダー取引疑惑。腐りきった政権に愛想をつかした民衆の総反乱は、陳総統がいまや、「裸の王様」状態にあることを、内外に強く印象づけたのだった。
さすがの陳水扁総統も堪忍袋の緒が切れた。
スピーチで、「このような(ぶざまな)式典しか出来ないなら、今後は双十節の式典をしないことを提起したい」と、予定原稿になかった一節を挿入。式典が終わりきらないうちに席を立って会場を後にした。その夜の双十節祝賀晩会では、テーブルについた呉淑珍総統夫人が、しきりに目瞬きするシーンがテレビに映し出され、様子がおかしかった。台湾メディアは「体の不具合ではないか」と報道したが、当局はこれを否定している。
そもそも呉淑珍夫人には、太平洋そごう百貨店の社内抗争に絡み、株式のインサイダー取引や、商品券、宝石などの賄賂受領の嫌疑がかけられている。捜査当局はこのほど呉淑珍夫人の不起訴を決めたが、台湾の市民は納得していない。 そんなこともあってか、この日、陳総統の子どもたちは式典、晩餐会ともに欠席した。なにしろ娘婿の趙建銘は背任で逮捕され、台湾医大病院を解雇されている。じつは陳総統の長男夫妻、娘夫妻と子どもは、日本に緊急避難していたのだ。彼らは10月8日に東京に向かい、11日に台北に戻った。ちょうど龍眼と入れ替わりのコースだった。
◆緑藍不分別-反骨の民進党文化を換骨奪胎-
龍眼は10月10日の午後、中正紀年堂から、台大病院を経由して、台北駅前の「倒扁百万運動」総部まで、炎天下を歩き続けた。交通規制が行われていた中正紀念堂前や台大病院前では、さすがに赤シャツ姿(倒扁運動のシンボルカラー)はまばらだったが、台北駅に近づくにつれ、人々の数が多くなり、駅前のステージでは、周辺の道路までびっしりと埋めつくした赤シャツ姿の大群衆を目の当たりにした。
台北市の警察当局はこの日の「天下圍攻」行動の参加者を12万人余りと発表したが、『台湾蘋果日報』は、「警察は通常、実数の6割程度の数字を発表している」として、この日の参加者を20万人と報じた。主催者の「倒扁百万人運動」が発表した百五十万人はいくらなんでも多すぎるとしても、この日の台北市街地には、間違いなく数十万人の赤シャツ姿の市民たちがいた。龍眼は夕方4時半、デモ出発前の台北駅前で、高台に登って前後左右の群衆を見渡したが、東西南北に通じる道路はすべて赤シャツ姿で埋まり、果てが見えなかった。
強く印象づけられたのが、従来は選挙上手の民進党が培ってきたさまざまなパフォーマンスが、換骨奪胎されてこの「倒扁百万運動」にしっかりと根付いていることだった。赤をシンボルカラーとするTシャツ、ポロシャツの数々。メディアを上手に利用した民衆動員。彼らは「緑藍不分別」を掲げ、従来の与党支持者(緑営)、野党支持者(藍営)を区別することなく、こぞって倒扁運動に加わるよう呼びかけている。
実際、「倒扁百万運動」を呼びかけた施明徳は元民進党主席。陳総統とはかつての同志だった。また、「倒扁百万運動」の中核は無党派の青年たちが構成するが、スタッフのなかには国民党の現職台北市議や、親民党の活動家もいないわけではない。熱心な民進党支持者のなかには、「施明徳は国民党からカネをもらっているのだ」と非難する者もいるが、巨額の借金返済のために党本部を売払い、赤字続きの機関誌『中央日報』を停刊したばかりの国民党のどこに、そのようなカネが余っているのだろうか?「倒扁百万運動」の主役は、あくまでも無党派市民である。
デモを中国語では、「遊行」と書く。日本の『一遍上人絵伝』に描かれている遊行の姿こそ、デモの本来の原形であった。鐘を撞(つ)き、ふしまわしをつけ、おもしろおかしく歌い、踊りながら人々を遊行の渦の中に誘い込む。現在の日本では、政治的に尖鋭な人々が、悲壮な覚悟をもって行うものがデモだと誤解される傾向があるが、それは、デモの意味を取り違えている。
実際、「倒扁百万運動」の参加者には台北市周辺はもとより、全国から参加ツァーを募り、バスを連ねて集まってきた老若男女も多い。運動の担い手には若者が多かったが、デートを兼ねたカップル、高校生のグループ、一族郎党を率いた家族連れ、台北観光を兼ねたお上りさん、そして、物乞いで食費を工面し、台北駅前で座り込みを続けている障害者まで。ありとあらゆる人々が参加していた。なによりも驚かされたのは、台大病院の入院患者が、病院の車椅子を駆って抜け出し、パジャマ姿で参加していたことだ。車椅子にはマジックで、「台大醫院」と記載され、備品№がはっきりと読み取れた。これだけを見ても、「倒扁百万運動」のすそ野の広さがわかるだろう。
◆香港の50万人デモと似ている
台北駅前の集会は、午後4時半からデモに移った。
駅前から忠孝東路を東に進み、敦化北路と交差する繁華街、MRT忠孝敦化駅まで行き、一時間半の静座(座り込み)を経て、再び同じコースを台北駅前に戻るというコース。「倒扁百万運動」の人々は午前中にもデモをおこなっており、この日のデモはつごう2回目。龍眼は幸運にも施明徳総指揮の乗る先頭車をみつけ、施明徳を一目見ようとする参加者の人波をかき分け、かき分け、デモが終わるまで同行させていただいた。
忠孝敦化駅前の座り込みをしている間、沿道のパン屋は僅か15分で商品を売り切ったという。スターバックス・コーヒーや、マクドナルドには、トイレを借りる長蛇の列が続いていた。デモの中途で座り込みの時間を設けたのは、長旅と長時間のデモで疲れている老若男女を気づかう、主催団体「倒扁百万人運動」のきめ細かな配慮の賜物でもあった。
9月に会った香港の友人は、台湾の「倒扁百万人運動」を天安門事件と似てきたと評していた。しかし龍眼は、歩きながら2003年7月1日の香港返還記念日に行われた「50万人デモ」(七一大遊行)を思い出していた。前も後ろも、右も左も、参加者の人波で果てが見えないという体験は、あの時以来のことだ。
2004年7月1日にも繰り返された香港の七一大遊行では、主催者「民間人権陣線」の呼びかけで、ほぼ全員が黒いTシャツを身にまとっていた。この日の香港では、銅鑼灣(コーズウェイベイ)から中環(セントラル)まで、皇后大道(ビクトリア・ロード)を、真っ黒な人々の大群が一本の太い黒線を描いて埋めつくしたのだった。さすれば10月10日の台北は、情熱的な赤いシャツの海に占領されている。
市民団体のインターネットやミニFM局が運動情報の交差点になっているのも香港と同じ。香港には「民間人権陣線」があり、その後「独立民間傳媒」も発足している。台湾には「倒扁百万人民網」があり、当局から正式な認可を取得したラジオは、倒扁、挺扁とも妨害電波までまじえた熾烈な空中戦を演じているらしい。
そもそも、香港の七一大遊行は祖国回帰の記念日。台湾のそれは、双十節(国慶節)。ともに記念すべき日を利用しているのも同じ。しかも、香港は董建華行政長官就任6年目、台湾は陳水扁総統になり6年目というところまで一致している。ともに就任直後は高い支持率を誇りながら、いずれも民意を裏切って人々の怒りをかった。堪忍袋の緒が切れたのが、偶然にも共に6年目。董建華行政長官は、その1年数か月後に「健康上の不安」を理由に任期半ばで辞任した。陳総統にこれだけの時間を与えてしまうと、総統の任期を全うされてしまう。台湾人民はそれより早く、陳総統をひきずりおろすことができるだろうか?
運動の担い手の中心が若者なのも同じ。台湾で「倒扁運動」を担い手は、かつて陳水扁を総統の地位に押し上げた無党派中間層の若者たち。台湾の中間層は、これまで求心力の核となるものがなかったため、なかなか政治的な力にまとまらなかった。今回は施明徳という「はまり役」を得て、一大民衆運動、政治潮流をかたちづくった。
音楽の多用も香港と同じ。香港では戯作音楽家、林子陽がウェブ上で数々の作品を公開してきた。台湾では傳容國作詩、曹發昌作曲の「倒扁主題曲」がすばらしい出来ばえ。ウェブ上で公開され、集会、デモでもくりかえし流されている。とにかく、その音楽のノリが、とってもいいのだ。
日本語訳してみよう。
ミレニアム2000年、歴史が変わった。
(台湾の)新総統、陳水扁が世界じゅうをだました。 みんなの希望は微塵に砕かれた。
うるわしい美麗島(台湾の美称)は見ることかなわず
痛み、苦しみは、言葉では尽くしがたい。
もう怖がることはない。さぁ、指を(下に)突き立てて。
みんなで阿扁を倒そう!
(そうすれば)歴史がすべてを明らかにする。
さあ、みんないっしょに 手をつないで。
阿扁を倒して、幸せになろう。
もう怖がることはない。さあ、指を(下に)突き立てて。
みんなで阿扁を倒そう。
(そうすれば)歴史はたちどころに変わる。
さあ、みんないっしょに 肩を並べて。
一撃で阿扁を倒すのだ。
(間奏時に入る掛け声)
下台、下台! 下台、下台!
阿扁、下台! 阿扁、下台! 阿扁 下台!
阿扁、阿扁、阿扁! 下台、下台、下台!
倒扁運動はまだまだ続いている。さすがに大規模動員は9月15日の36万人をピークに頭打ちを示し始めたが、彼らの運動が大きな力量をもっていることは、10月10日の「天下圍攻」でも、はっきりと示し得た。かれらはすでに1カ月以上になる座り込みの場所を、台北駅前から再び総統府前に移し、陳総統の辞任まで、座り込みを続けるとしている。台北市当局は、10月14日から11月3日までの総統府前座り込みを認める決定を下している。
無党派主導のこの運動、台湾を一変させてしまうのではないか?
カテゴリー[ 台湾 ], コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2006年 10月 13日 21:57:04
コメントを追加
Trackback
この記事に対するトラックバックURL:
- プロフィール
- 龍眼
- (男)
- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
- 最近のエントリー
- [04/23] 三井住友・三菱東京UFJ騙したコシ社、「幸輝」本社ビル買い破綻-続・史上最大の買春作戦(4)-
- [04/02] 橋下府知事も知らなかった?「幸輝」大阪府税1億円滞納の後始末-続・史上最大の買春作戦(3)-
- [01/25] 橋下徹がODAと庇った「大阪の建設会社」の正体(下)-続・史上最大の買春作戦(2)-
- [01/25] 橋下徹がODAと庇った「大阪の建設会社」の正体(上)-続・史上最大の買春作戦(1)-
- [03/11] またしても長毛登場!-香港行政長官選挙3月25日投開票
- [01/31] 新幹線が奪う鉄道旅行の醍醐味-台湾高速鉄道開通
- [01/18] 強い人民元が香港ドルを凌駕する
- [01/03] 美女の中華人類学-外伝(1)中国征婚事情-
- [12/25] 香港のブラック・クリスマス(黒色聖誕節)-今に残る65年前の記憶-
- [12/20] 台湾民主政治の「想定外」と「情報公開」-呉淑珍総統夫人緊急入院によせて-
- 最近のコメント
- [11/11] 食欲の秋。香港、台湾で食すカジュアルな日本食(?)の味覚 まぱんだ
- [03/16] いつでも、どこでも、絵になる長毛-香港街頭運動家の気になるひとコマ- 塩出浩和
- [05/06] 一日に三つの「国境」を越える-連休中国の殺人的イミグレーション- 塩出浩和
- [05/06] またしても長毛登場!-香港行政長官選挙3月25日投開票 塩出浩和
- [12/02] 小泉首相の靖国参拝(中)-入試にも出た石橋湛山の靖国神社廃止論- 憂える浩
- [11/13] 小泉首相の靖国参拝(中)-入試にも出た石橋湛山の靖国神社廃止論- 仲村あきら
- [08/15] 小泉首相の靖国参拝(上)-首相は「心の問題」と言うけれど- 黄狗來
- 検索