強い人民元が香港ドルを凌駕する
【香港 12日 AFP】香港では1997年の英国からの返還後、初めて1元の価値が1香港ドルを上回り、中国本土からの観光客による消費拡大が見込まれている。写真は香港の中国銀行(Bank of China)で12日、100香港ドル紙幣を手にする銀行員。(c)AFP/MIKE CLARKE

写真は中華人民共和国の法定通貨、人民元の100元紙幣(約1,500円相当)。日本と中国との物価には、およそ8倍の開きがあるというから、使用価値の実感は、1万円を超える。
いつも実感することだが、まとまったお金を人民元に両替すると、日本では滅多に手にすることができない分厚い札束を手渡される。人民元では、一元や五角などの少額通貨も紙幣であることが一般的なので、これがまた始末におえない。財布はいつもアンパンマン状態。しかも、この少額紙幣がいちばんの働きものなのだ。
いっぽう、龍眼の写真(写真下)は、2003年7月1日の50万人デモのヒトコマ。董建華の悪政、とりわけ治安立法(国家安全条例)制定に反対するものだが、はからずしも背景に「人民元兌換」の両替ショップが写しこまれていた。(2003年7月1日、香港島湾仔にて)。
十年前の香港返還後、香港の街角では人民元兌換を前面に掲げる両替ショップが飛躍的に増えた。それだけではない。一般の小売店でも「人民元歓迎」の張り紙を出し、人民元での支払いに応じている。
従来の公定レートでは、100香港ドルに対して人民元は105元。米ドルにリンクした香港ドルのほうがずっと優位を占めていた。ところかその人民元が切り上げ圧力の中でめきめきと台頭。実勢では、とうとう香港ドルを抜き去り、優位に立った。
◆珠江三角州地帯の通貨序列
中国広東省の大河、珠江は長江、黄河に次ぐ中国第三の大河だ。珠江は広東省の省都広州市番禺区で川幅を大きく広げ珠江三角州を形成し、東岸には台湾企業が集中する東莞市や、近年めきめきと力をつけてきた深●(土+川)市を経て、河口部の外海には国際金融都市香港が連なる。他方、西岸には孫文を出した中山市、F1レースの出来るサーキットや、中国の名だたる大学の分校が集中する珠海市を経て、陸続きの内海に世界遺産都市マカオを擁する。この、珠江河口部にひろがる中国有数の経済発展地域を珠江三角州ないしは珠江デルタ地帯と呼んでいる。
この一帯で使われてきた通貨は、イギリス植民地だった香港では香港ドル(港幣)、ポルトガル植民地だったマカオではマカオ・パカタ(澳門幣)、そして中国では、深●(土+川)や珠海などの経済特区も含めて人民元(人民幣)が通用してきた。しかし、このなかで最も信用の高い香港ドルは、マカオで一般に通用してきたし、中国内地でも通用することがあった。要はそれぞれの通貨の持つ力関係がモノを言ったのである。
さて、1997年までイギリス植民地だった香港は、ロンドン、ニューヨークと並ぶ世界的な金融市場を抱え、香港ドル(港幣)は極めて安定した通貨だった。戦後は1米ドルをおよそ7.8香港ドルに固定する「ドル・ペッグ制」とよばれる仕組みを取り、世界通貨である米ドルとリンクした安定した通貨だった。
近代史のなかで、香港に国際貿易港の地位を奪われた旧ポルトガル領マカオには、マカオ・パカタ(澳門幣)という植民地時代から続く通貨がある。しかし通貨のうえでは香港に実質的に従属。マカオ域内ではポルトガル植民地時代から香港ドルが巾をきかせ、公衆電話のコイン以外、さしあたって香港ドル建てで不自由することはなかった。
香港ドルとマカオ・パカタとの交換レートは、100香港ドルに対しておおむね103マカオ・パカタ。マカオ域内で買物するのに、支払いにマカオ・パカタを差し出そうものなら、たちまちマカオ人に不機嫌な顔をされる。それでも、タクシーならば額面どおり受け取ってくれるが、商店で大きな買物をするときには、「マカオ・パカタならいくら追加」などと言われて、「+α」を求められることも少なくなかった。
これまで人民元(人民幣)は、これら香港ドル、マカオ・パカタよりも風下に置かれてきた。マカオの大三巴(マカオを象徴するセントジョンズ教会のファザード)の麓に軒を連ねる骨董屋街で、今は使われていない中華民國の古紙幣を買い求めた時、香港ドルとマカオ・パカタを混ぜて支払いを済ませた。このとき眼鏡をかけた主人は、電卓を取り出してきて、「100香港ドルは103マカオ・パカタ」、「100香港ドルは105人民元」といちいち紙に書いて説明しながら、龍眼の目の前で計算して見せてくれたことを思い出す。
香港、マカオを抱える珠江三角州地帯をかかえる広東省は中国でも名だたる経済先進地帯。この地域において、香港ドル、マカオ・パカタ、人民元の通貨序列は、ながくこのような関係で、均衡を保っていた。
◆台頭した人民元
異変が起きたのは、香港返還を境にしてのことだ。
回帰後の香港経済がアジア通貨危機のあおりを受けて低迷するなか、中国経済は右肩上がりの高い経済成長を持続し続けた。「世界の工場」といわれる製造業だけでなく、都市部を中心に消費社会としての実態をそなえてきた。いまや、中国の大都市での消費生活の水準は、日本のそれと比べてみても、さほど差は感じられない。
実勢にくらべて低く抑えられている人民元に対する国際的な風圧もあり、中国商務部は2005年7月、対米ドル相場で4.2%の小刻みな人民元切り上げを実施した。しかしその後も人民元の対米ドル相場は上昇を続けた。
昨2006年末の中国人民銀行の外貨準備高は1兆663億ドル。日本円にして128兆5000億円に相当する。中国は2006年2月に日本を抜き、世界一の外貨準備国になった。
昨年10月末、龍眼は広東省珠海市のホテルで香港ドルを人民元に両替しようとしたところ、ホテルの男性係員は上司の女性にお伺いを立てて許可を得たあと、龍眼に向かって、たいへん申し訳なさそうな顔で、「香港ドル(港幣)と人民元(人民幣)は等価になりますが、それでもよろしいですか?」と、確認を求めてきた。
香港ドルを人民元を等価交換したのはこれが初めての経験だったが、中国内地では龍眼ならずとも同じような経験をしているらしい。広東省深●(土+川)に住む香港人、阮海奇(ユン・ホイケイ)さんは、中国内地でジャケットを買ったところ、釣り銭の100元を香港ドル紙幣で渡されたという。眼を白黒させる阮さんに、店員は「人民元と香港ドルは等価の時代だ」と説明したという。(2006年12月3日付AFP-BBニュースに掲載記事あり)
そして、ついに来るべき時が来た。
今年1月16日、上海市場における人民元の対米ドル最高価は7.7949元を記録。香港ドルの対米ドル相場を初めて抜いた。翌17日にも7.798元、18日にも7.771元と高値を続けた。
先述したように香港ドルは、1米ドルをほぼ7.8香港ドルに固定する「ドル・ぺっグ制」とよばれる仕組みで通貨を安定させてきた。香港は世界的な金融市場であり、米ドルのほかに、ユーロ、人民元など多額の外貨準備があり、絶大な信用をかち取ってきた。だが、その香港ドルが人民元の風下におかれたのだ。
中国経済が好調を続ける限り、とうぶんこの傾向はおさまる気配はない。人民元の再切り上げを予測する向きや、香港ドルが将来、「ドル・ペッグ制」を放棄して、人民元とリンクした「人民元ペッグ制」ともいうべきものになると予測する専門家まで出てきた。
◆現地駐在員には高金利の恩恵も
香港やマカオの銀行では、人民元建て定期預金口座を開設する人が増えてきている。将来性が高く、再切り上げの可能性が取り沙汰されている人民元建ての口座に資産を移すことで、より有利な財テクをはかる算段だ。
日本人の場合、香港ドル建ての普通預金口座だけならパスポートだけで開設できる銀行もあるが、定期預金や人民元建て預金となると、現地に住所がなければダメ。もっとも、お金持ち相手の大口預金については、それなりの抜け道もあるらしく、そのノウハウや代行を行うコンサルタント会社も複数あるようだ。
ただし注意すべきなのは、為替手数料の問題。外貨建て預金である限り、日本円にするには相応の手数料がかかる。また、海外の銀行では、預金額によっては口座管理料がかかることも注意すべきだ。しかも、外貨である以上、手近なところでいつでもどこでも換金できるというわけでもないことにも注意すべきだ。そして、つねに為替リスクをはらんでいる。
香港、マカオなどで事業を展開している大新銀行の最新の利率を見ると、香港ドル建てでも普通預金で、30万香港ドル以上が年利2.8%、1万香港ドル以上は年利2.75%、5千香港ドルから9,999香港ドルは2.25%と、日本では定期預金も到底かなわない高利率を付けている(2007年1月18日付け同行ホームページによる)。
しかもこれが定期預金になると、金額にかかわりなく1カ月もので2.85%、一年もので3.05%。これとは別に、より有利な人民元建ての普通預金や定期預金の商品も少なくない(同前)。
いまのところ、こうした高金利の恩恵を受けるのは、現地法人や駐在員だけのようだ。
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登録日:2007年 01月 18日 06:55:35
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- プロフィール
- 龍眼
- (男)
- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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