新幹線が奪う鉄道旅行の醍醐味-台湾高速鉄道開通

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今年1月5日、延期に延期を重ねた台北-高雄間の新幹線(台湾高速鉄道)が開通した。他にも開通時の写真があるが、車輛全体をイメージできるものを探して、試運転時の写真を採用した。

台湾高速鉄道は当初、フランスの鉄道技術で進められる予定だった。ところが工事の途上、李登輝のツルのひと声で一転、日本の新幹線を採用することになった。

フランスの広軌鉄道のインフラに、標準軌を採用する新幹線の軌道、車輛を導入するちぐはぐ。新幹線の制御システムを導入するためトンネルやらなにやらいろいろ支障が出てきた。 これらをすべて適合させるために試行錯誤を繰り返し、延期に延期を重ね、ようやく開業にいたったのだ。

「台北-高雄間」とはいうが、 当初は台北郊外の板橋から高雄まで。陳総統は人気者の小泉純一郎前首相を招待して開業を華々しく祝う算段だったらしいが、延期がたたりこれも実現しなかった。

台北-高雄間をわずか90分で結ぶ高速鉄道の開業。もっとはしゃいでもいいのかもしれないが、龍眼はあまりうれしくない。

この歳になっても、「青春18きっぷ」に胸踊らせ、「ムーンライト」に嬉々としている龍眼としては、台湾高速鉄道の開通で影響を受ける在来線(台鉄)の将来のほうが心配なのだ。

台湾には、全島を一周する日本植民地時代以来の鉄道網がある。

日本では見受けられなくなった貨客列車。海と山が迫る東部幹線の車窓風景。スペアリブに煮玉子がのった台湾独特の駅弁(写真)。

台湾高速鉄道の開業を機に、鉄道旅行の醍醐味を紹介したい。

◆一昼夜で全周できる台湾

 台湾のコンビニなどで売っている交通部台湾鉄道管理局発行の『旅客鉄道時刻手冊』という冊子がある。日本の時刻表にあたるが、台鐵が管理している全ての旅客列車の時刻だがポケット時刻表よりも薄い小さな冊子に全部載っている便利モノだ。
  
 この冊子(龍眼の手許のものは2002年3月12日版、25新台湾$=約90円)に従うと、台湾を一昼夜で廻る計画は幾通りにもつくることができ、さほど難しいことではない。

 まず、成田から午後便で桃園国際空港(旧中正国際機場)に入り、高速バスで台北まで約1時間。台北で食事などして時間をつぶし、台北駅午前1時8分発の花蓮行き自強号(東部幹線北廻線、宜蘭線)で瑞芳、宜蘭を経由して花蓮駅到着は午前4時26分。花蓮で朝食を済ませ、花蓮駅午前5時56分発の台東行き自強号(東部幹線花東線)で台東駅に午前8時46分着。

 さらに一休みして、台東駅9時17分発高雄行き呂光号(南廻線)で、屏東などに停車して高雄駅には12時8分着。高雄でゆっくり昼食をとったとしても、高雄駅13時40分発台北行自強号(西部幹線)で、彰化、板橋のみ停車して、まだ暗くならない17時59分に台北駅に到着。特急(自強号)と急行(呂光号)を使うのでいくぶん料金はかかるが、それでも日本のJR特急などに比べるとはるかに格安。宿泊代も一泊分節約できる。

 切符を買うとき、特急の自強号、急行の呂光号、準急の復興号か、その他の平快、柴快、普通、冷気客車などの区別と、速い列車の座席指定の有無が問われる煩雑さはあるが、
窓口で行き先と時間、列車の種別を書いて示せば、おおむね通じる。

 日本と異なるのは、列車が入線する直前まで改札から月台(プラットホーム)に入れないこと。台湾ではプラットホームは列車を待つ場所ではなく、乗るために通過するスペース。人々は目的の列車が入構する直前まで、駅構内の待合室で思い思いにくつろぐ。

 日本植民地時代に建てられた台北駅のエスカレーターを登ると、さまざまなメニューを
そろえた食堂が軒をならべているフロアーがある。焼きそば、ビーフン、お粥、米粉、魯肉飯、台南担仔麺、焼き飯、カレーライス、ソフトクリーム。ポピュラーなものはなんでも揃う。往年の百貨店のお好み食堂を彷彿させ、とても楽しい。

 列車を乗り継ぐ待ち時間は、地方都市の民情視察にもってこいの時間だ。台湾の街の
雰囲気にも、共通するところもあればそれぞれに異なるところもある。少し歩くだけでも、
その土地のもつ雰囲気、空気というものを実際に感じ取ることが出来るはずた。

◆龍眼の台湾鉄道一周旅行

 もう少しゆっくり時間をかければ、温泉巡りやグルメ三昧も可能だ。 とくに東に海岸、西に山脈が迫る東部幹線沿線には、原住民の踊り、民族文化。南方澳、台東などの漁港から
あがる新鮮な魚介類、そして海鮮料理と、魅力的な観光資源が目白押し。

 龍眼の場合、立法委選挙、総統選挙取材のたびに地方にも足をのばしてきた。2004年
3月の総統選挙では、念願の台湾鉄道一周旅行を実現(本ブログ、「浮き輪を持って温泉へ」参照)。

 たどったコースは、台北駅14時49分発の呂光号で終点の蘇澳駅へ。冷泉を引く蘇澳の合法旅館や、公共浴池(冷泉プール)で冷泉(鉱泉)を堪能し、翌日は蘇澳新駅から龍眼
の本名の姓を駅名にしている「和仁駅」を探訪した。

  「和仁駅」は各駅停車しか停まらない淋しい駅だった。両側に山と海岸がせまり、店ひとつない。駅員と保線労働者以外は人っ子ひとりいなかった。小さなセメント工場らしきもの
が見えるが、稼働しているのかどうかわからない。写真を撮ってもらうために駅員に名刺
を差し出すと、駅員は「おおっ」とのけぞり、快く駅名表示を背にした写真を撮ってくれた。

 「和仁駅」に停まる旅客列車は、上り下り合わせて1日14本。貨物車を連結した貨客普
通列車ばかりのようだ。お隣りの「和平駅」(和平とは「平和」の意、実にすばらしい!)に
は別に上下20本ほどの急行と準急列車が止まるが、「和仁駅」にはそれもない。一時間
あまりあとに到着する次の普通列車は、大部分が貨物車輛だった。龍眼は時刻表を見間
違えたかと大いに慌てたが、後ろの方にわずか2輌だけ連結されていた客車を発見。重い荷物を引きずり花蓮行きの普通列車に飛び乗った。

 連結された普通車は、もはや日本では使われていないような旧型車輛。天井には無数
の扇風機が埃をかぶって鈴なりにぶら下がっていた。まるで道教寺院の堂宇の天井に垂
れ下がった髑髏状の線香を見上げたような錯覚に陥った。騒音と振動は激しいが、車内
には他に花蓮まで行くという親子連れ以外、誰も乗客はいない。

 彫りの深い相貌の父親が龍眼をみとがめ、中国語で話しかけてきた。龍眼が日本人だとわかると、えらく珍しい人に会ったといわんばかりに驚いていた。政府新聞局がプレス向けにくれた原住民の意匠をこらした頭巾をしていたため、原住民仲間だと思われたのだ。

 「おいらは太魯閣族だ。こいつはおいらの息子だ。でー、お前は本当に日本人かっ?」

 こどもは見慣れぬ日本人にも、人見知りせずはしゃいでいる。父子にカメラを向けると、
父親は子どもを抱き上げてポーズを撮ってくれた。思いがけない出会いで太魯閣族親子
の貴重な写真が撮れた。原住民の帽子をくれた政府新聞局には、大いに感謝したい。
  
 花蓮駅で駅弁(写真)を買い、急行に乗り継いだ。

 駅弁はおよそ80元(280円)ぐらい。台湾の駅弁には決まって豚肉のスペアリブと、醤油玉子が入る。これに刻んだ青菜や高菜の炒めものが入るのが一般的。台北や高雄の駅
弁も賞味したことがあるが、蒲鉾が入ったり、メンマが入るなど細部の変化はあるが、な
ぜかワンパターン。いろいろ変化に富んだ食材を食べたいむきには、街角の自助餐(セル
フサービス方式の弁当屋)のお弁当のほうが、いろいろ楽しめる。

 台東で降り、台湾有数のリゾート地、知本温泉で一泊。翌日知本駅から南廻線に乗り、
水車が廻る養殖池が次々と現れる風景を楽しみながら、高雄駅に到着した時には夕暮れ近かった。

 その翌日に自強号で台北に戻るのだが、龍眼が乗ったこの日は、陳水扁総統らが暴漢
に銃撃される事件がおこった。思いがけない番狂わせに、観光気分はすっかりふっ飛んでしまった。列車は既に桃園を過ぎており、引き返すにもその元気はなかった。台南には事
件後二度ばかり訪れているが、「台湾独立」を叫ぶ標語がいたるところに貼りめぐらされているなど、台北とは街の雰囲気がかなり違っていた。安平のゼーランディア城や古い堂宇など、歴史的建築物も多く、時間が許せばじっくり見て歩きたい街だ。

◆台湾高速鉄道は地方社会をどう変えるか?

 台湾高速鉄道の開通は、龍眼流のゆっくりズムよりも、効率を優先する考え方だ。

当然のことながら、台北-高雄間を結ぶ航空便や台湾鉄道は、ダイヤの大幅間引きを
余儀なくされる。もっとも、高速鉄道の料金はかなり高いため、民間各社が競合する長距
離バスは、ミネラルウォーター、テレビ、マッサージ付き豪華シート、トイレ付きをウリに、
今後も変わらぬ廉価で、時間にゆとりのある多くのお客さんに支持されるだろう。

  戦々恐々なのが高雄、台南などのホテル業界。高速鉄道の開通で、台北-高雄間が
90分で結ばれたいま、会議などの出張は日帰りが可能となる。ビジネスユースの目減り
をどう補うのだろうか? 便利さは同時に、旅行、ホテル業界などの再編と戦略的見直しを
不可避にする。

  聞くところによると、高速鉄道を迎え撃つ台湾鉄道は、日本のJRの新型特急車輛など
を導入して、在来線特急のスピードアップをはかるという。カーブや勾配のの多い東部幹
線に、振り子式の安定装置を持つ客車を導入することで、快適感も増すだろう。

 地震国台湾は温泉天国でもある。あまたある温泉へのアクセスは、じつは東部幹線の
ほうが地の利がある。台鉄には、鉄道旅行本来の醍醐味を維持して、お客さんをしっかり
つなぎとめてもらいたいものだ。

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登録日:2007年 01月 31日 09:36:17

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プロフィール
龍眼
本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。ながく香港問題に関わり、中華世界の持つ多様性を紹介してきた。著書に、『香港』(梨の木舎)『香港返還狂騒曲』『歴史教科書とアジア』『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)。このほど、日本の香港占領史跡やオーラルヒストリーをまとめた『歳月無聲』(花千樹出版)を香港で出版。「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で食味はジューシィ。そもそも「龍」は中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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