かたや死刑 かたや無罪-集団買春 「幸輝」の犯罪-
【西安/中国 23日 AFP】オートバイによるひったくり事件が急増する中、中国南部のある省ではひったくり事件抑止のために中国全土で広く行われる死刑を「財布のひったくり」にまで適用することにした。これまでバッグや財布の強奪には最高懲役3年の刑が科せられていたが、新しいガイドラインでは最低刑が懲役3年、最高は死刑となる。写真は22日、中国北部陝西省(Shaanxi province)の西安(Xian)で逮捕したひったくり犯から取り戻した品を見せる警官。(c)AFP
地面に叩きつけられる犯人。すばやく後ろ手に手錠をかける公安。中国ではひったくりでも死刑を適用と聞いて、あまりにも重い量刑に私たちは戦慄する。
量刑の重さで思い出されるのが、三年前、中国南部の珠海市で日本企業が引き起こした集団買春事件だ。買春をあっせんしたホテル幹部やナイトクラブのママさんたちには、同年12月の裁判で、財産没収、無期懲役などの判決が次々と言い渡された。法廷には、「不公平裁判」を叫ぶ女たちの慟哭がやまなかったという。
ところが、当の集団買春事件を起こした「幸輝」は、その後日本国内でも数々のリフォーム詐欺に関係していたことが判明したが、一切おとがめなしなのだ。
◆「ここに日本人がいないことをどう思うか?」
2003年12月12日朝8時半、私を乗せた車が珠海中級法院(地裁相当)に乗り付けたのは、14人の中国人被告を乗せた車が裁判所に入っていく緊迫した場面(写真)だった。銃を構え、隊列を組んで行進する武装警官たちの姿も見える。
開廷まもなく、裁判所の係員が「非公開裁判」という張り紙を持って、廷外にあらわれた。カメラのフラッシュがいっせいにたかれる。
現地入りを決意したのは前日の朝だった。香港紙の報道から、翌日の集団買春事件の裁判開始を確信した私は、その日の夕方の便で香港入り。夜中にマカオに渡り、ホテルにチェックインしたのは午前2時。朝7時には、珠海との境界の関門に並んでいた。
裁判所前には、数十名の中国人記者たちが詰めかけていた。裁判が近いという情報が流れ、一カ月近く前から法廷前のホテルに陣取って「合宿」していたのだという。あわただしい入廷の場面が終わるや、記者たちはホテルのレストランで飲茶を始めた。
私も香港・マカオ・広西省などから来た広東語圏の記者たちのテーブルの仲間に入れて貰った。公安当局は、中国人被告らの裁判に先立ち、集団買春を持ちかけた「幸輝」社員三人を、中国刑法の「組織買春罪」でICPO(国際刑事警察機構)に手配していた。中国の記者たちは、はるばる日本から来た私に、「ここに日本人がいないことをどう思うか?」と、さかんに聞いてきた。
12月16日、珠海中級法院は、売春を組織したホテル幹部ら二人に財産没収と無期懲役を。他の12名に2年から15年の刑期と5,000元から35,000元の罰金を判決した。このうち懲役2年、罰金5,000元の判決を受け入れた一人を除き、13人の被告は口々に「不公平裁判」を主張し、泣きながら控訴した。廷内には女たちの慟哭がいつまでも響いていたという。
問題なのは、中国人の感情を逆撫でするような集団買春をおこなった「幸輝」の扱いだ。川口順子外相(当時)は、「女性の人権を侵害するようなことがあったとすれば遺憾」と述べ、福田康夫官房長官(当時)は、「わが国の国内法にのっとって対応する。ICPOの手配だけで身柄拘束とか、そういうことはできない」と話していたが、そもそも日本には「買春」を取り締まる法律がない。結局、外務省のアジア大洋州局の中国課長補佐が、「幸輝」の取締役一人から事情聴取しただけで、国際手配された三人が引き渡されることはなかった。
◆「集団買春-悪徳リフォーム」をつなぐ線
その「幸輝」が、昨年5月、ひょんな事から再び脚光を浴びた。
埼玉県富士見市の認知症老姉妹の全資産を食いつぶした悪徳リフォーム事件に、「幸輝」の名前があったのだ。「幸輝」は集団買春事件直後の2003年9月末から10月にかけて、すでに蓄えが尽きていた老姉妹宅で次々と契約をとり、信販会社に640万円余りのローン契約を結ばせていた。これが焦げつき、老姉妹の自宅が競売にかけられたのだ。
それだけではない。6月28日には京都で統合障害をもつ60代の男性が、「幸輝」に不要な工事を強要されたとして、契約の無効と原状回復を求める裁判を提訴した。
埼玉の事件は、「幸輝」が全額を返還したことで決着。京都の裁判も、「幸輝」が債権をすべて放棄することで、10月に和解が成立したが、事件はまだまだ続く。
11月7日、埼玉県警と京都府警は合同で、大阪府吹田市の「幸輝」本社と、東京都大田区の同社東京支店を一斉捜索。埼玉県警は、上尾市の70代男性に対する「不実の告知」の容疑で逮捕した。これでようやく、「幸輝」の一連のリフォーム詐欺と、集団買春事件との解明が進むかと思われたが、そうはならなかった。
11月27日、埼玉県警は「証拠不充分」を理由に、処分保留のまま二人の「幸輝」元社員を釈放。今年3月17日には、起訴を断念したと発表した。県警は、「充分な証拠を揃えられなかった」というが、検察との確執を指摘する声もある。
◆事件の解明は終わっていない
もはや「幸輝」への追及はこれまでかに見えたが、後日譚がある。
3月27日、大阪国税局は、「幸輝」が2億円余りの脱税をしていたとして、重加算税、消費税未納分も合わせて1億円余りを追徴課税していたことが明らかになった。脱税の手口は、売上の一部を米盛昌敏前社長の個人口座に入金していたというもので、国税当局はこれを会社の収入と指摘した。「幸輝」は集団買春事件直後にも、国税当局から脱税を摘発された「前科」があるが、ともに修正申告に応じている。
だが、「幸輝」の脱税は、事件の氷山の一角にすぎない。
龍眼が問題にしたいのは、集団買春事件も、一連のリフォーム詐欺事件も、真相があいまいのまま、事態が収拾されていることだ。
和解におわった幸輝京都訴訟で、「幸輝」側が、集団買春事件や埼玉県富士見市の認知症老姉妹事件に言及したくだりがある。
「(「幸輝」は)悪質な会社ではない。企業として買春などしたことなどない。ただ、会社が従業員の福利厚生の一環として中国に社員旅行をした際に、一部従業員が暴走したことは事実である。この件に関しては会社役員も責任を痛感し、代表者はその職を辞し、従業員も500名を80名にリストラし、優秀な従業員のみに絞って事業を進めている。
そして、毎月各消費者センターを巡回し、クレームが出ていないかを尋ね、クレームには早急に対応する体制を整えている。
富士見市の認知症姉妹の件に関しても、消費生活センターと協議した際、工事は必要ない工事ではないとの説明を受けている。ただ、消費生活センター担当者より、妥当な範囲で支払う必要があるとは考えていることで代金減額の話が出たが、(「幸輝」が)不要な工事をする悪質業者でないことを理解していただけたのであれば十分であり、請求権を放棄しますと答え決着した。報道されたほど多数の業者が入っていることは知らなかった。」
(平成17年8月30日付、「幸輝」京都訴訟「被告第一準備書面」の一部要旨)
この釈明、 どれほどの人を納得させることができるだろうか?
*最後までお読みいただき、ありがとうございます。本ブログの「史上最大の買春作戦(上・中・下)で、「幸輝」による珠海集団買春事件の顛末と、リフォーム詐欺との関係を詳細に明らかにしました。あわせてご覧ください。
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登録日:2006年 04月 03日 16:42:53
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- プロフィール
- 龍眼
- (男)
- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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