超人気! 香港の「過激派」国会議員-長毛、梁国雄を知らずして香港を語るべからず-
【香港 24日 AFP】香港で23日、ネパールの民主化運動を支援するデモが行われた。6日にネパールで始まった、ギャネンドラ(Gyanendra)国王の直接統治に反対する大規模民主化運動デモを支援するもの。ヒマラヤの王国ネパールでは、国王独裁反対者が退陣圧力を続けると明言しているが、国王は首都カトマンズ(Kathmandu)に新たな外出禁止令を発令している。写真は23日香港でプラカードを掲げてネパールの民主化運動を支援する少女。(c)AFP/Philippe LOPEZ
ギャネンドラ国王の独裁に反対したネパール民衆の闘いに、強力な援軍が出現!
少年時代から30数年あまり、街頭デモひとすじに生き、香港では誰一人として知らぬ者がいないという、独立民主派の立法会議員(国会議員)、長毛(ロン毛)の登場だ。
長毛こと、梁国雄(写真左)。香港生まれ香港育ち、50歳独身、離婚歴あり。物ごころついた時から街頭運動一筋、逮捕歴数えきれず。
一昨年9月の香港立法会議員選挙に新界東選挙区から立候補して当選。香港、中国のみならず、アジアの民主化、貧しい民衆の国際連帯を訴える。
◆街頭デモ、ゲバルト一筋30数年!
ネパールの反独裁民主化運動に呼応して、即座にデモが起こるのは、国際都市香港ならでは。そのフットワークの軽さには、いつも驚嘆するばかりだ。
その香港で、この種の街頭デモを組織すれば、その戦列には、必ず長毛の姿がある。
大柄な体躯、浅黒い顔に自慢の長髪、そしてトレードマークになっているボリビアの革命家、「チェ・ゲバラ」のTシャツ。4月23日のデモにも、先頭でマイクを持ってアジる長毛の姿があった。
長毛は、子どもの頃から、街頭デモ一筋。団塊世代の大学生たちと一緒に、警官隊と肉弾戦をくりかえしてきた。逮捕歴は数えきれず。今までに納めた罰金も、かなりの金額にのぼるはずだ。
長毛の母親は1940年代に香港に渡航、イギリス人家庭の住み込み家政婦だったという。貧しい母親には長毛を育てる余力がなく、幼い長毛は他家に預けられて育った。
母親の影響もあり、幼いころは香港左派(中国共産党系)の工連会の活動に参加。やがて祖国中国のあり方に疑問を持ち、新左翼の革命的マルクス主義同盟に参加。のちに仲間と語ってトロツキスト団体、四五行動(http://members.hk.net)を組織した。
四五行動の「四五」とは、中国近代史に登場する「五四運動」と紛らわしい。そもそも4月5日とは、中華世界ではお彼岸にあたる清明節。香港では毎年墓参の人々で高速道路が渋滞する。墓地では線香や冥通券(死者に手向ける擬似紙幣、紙札)が燃やされるため、失火による山火事が話題になるのもこの日。四五行動の「四五」とは、過去の民主化闘争に力尽き、闘いに倒れていった先輩たちを追悼する意味があるようだ。
だから長毛は、闘いに倒れた活動家の魂とともにデモに出かける。このために用意される街頭闘争の大道具は、決まって「棺桶」。長くパートナーを組む元ダンサーの古思堯と、でっかい棺桶を担いで警官隊に体当たり。双方に生傷が絶えないから、警官隊からは、いつも目の敵にされてきた。
議員になる前は、議会の傍聴席から大声で野次を飛ばし、横断幕を広げては、衛視につまみ出されていた。こうした長毛のパフォーマンスは、数えきれない。香港のテレビや新聞はこれを面白がって、いつもこれを大々的に報じてきた。
「また、長毛が面白いことをやらかした!」
だから、香港市民で、長毛を知らない人間はいない。もしいたら、そいつはモグリだ。
過去に長毛は、日系建設会社の現場でストライキを組織し、解雇されたこともある。
だから、なかなか定職にはありつけない。知り合いの工務店に身を寄せ、アルバイトで糊口してきた。過去数十年間、議員になる前の月収は凡そ5千香港ドル(約7万3千円)。
これだけでは到底食べていけない。
行きつけの蘭街坊(ランカイフォン)のパブ「クラブ六四」(現在は閉店、九龍て名称を変えて営業)の飲み代はいつもタダ。タクシーや茶餐庁(大衆食堂)でも、「お前からはカネは取れねぇ」などと言われて、タダになることが多い。
長毛の激しい主義主張についていけるかどうかは別に、彼のまっすぐな行動は、お金持ち優先の香港政治から切り捨てられた貧しい人々にとって、一服の清涼剤。底辺の人々に暖かい眼差しを向ける長毛に、香港市民は共感を示してきた。
「長毛」の生きざまは、香港民衆と共にあったのだ。
◆香港市民を「アッ」と驚かせた立法会議員当選
「長毛」が初めて立法会議員に挑戦したのは、香港返還三年目の2000年におこなわれたミレニアム選挙。民主派支持者の多い新界東区からの出馬ではあったが、「前線」のスター、劉慧卿(エミリー・ラウ)女史や、独立民主派として強い基盤をもつ黄宏發(アンドリュー・ウォン)などの有力候補者がひしめき、「長毛」は泡沫候補という下馬評だった。
ところが蓋をあけてみると、「長毛」は次点。最下位当選した民主党の郭家富(アンドルー・チェン)候補にわずかに及ばない2万票あまりを獲得する善戦で、次の選挙に望みをつないだ。
2003年11月の区議会選挙(統一地方選に相当)では、小選挙区制を強いられる不利のなか、親中派の牙城、蔡素玉女史が地盤を固める北角選挙区に民主派共同の落下傘候補として出馬。フタをあけてみると蔡候補に肉薄する善戦で、相手陣営を大いに慌てさせた。
そして一昨年9月。ようやく直接選挙枠が定数の半分(60議席中30議席、残り30議席は職能団体のボスの互選で決まる間接選挙枠)に到達した第3回立法会選挙に、「長毛」は満を持して新界東選挙区から立候補。民主派有力候補の全員当選を期するため、長毛は選挙戦のライバルを、財界寄りの田北俊(ジェームス・デェン)自由党主席に向けた。
その田北俊候補にはわずかに及ばなかったが、長毛は60,905票(10.14%)を得て当選。
ワリを食って落選したのは、地盤が固いと見られていた現職の黄宏發議員だった。
長毛が当選を決めた9月12日の夜、私は九龍湾の国際展示貿易センターに設けられた開票センターで地元記者たちと選挙結果を見守っていた。返還後香港の選挙も回数を重ね、外国メディアの注目度も日増しに落ちてきた。香港特区政府は経費節減のため、今まで発行してきたメディア向けの英語、中国語の選挙カタログの発行を中止。プレス向けには、ペーバーや、ウェブ情報などで、これを代用する倹約ぶりを示した。そればかりか、低投票率を見込んで、投票用紙の印刷枚数まで倹約していた。
このため、一部の投票所では、用意された投票用紙が足りず、有権者が事実上投票を拒まれるという、信じがたい事態まで発生していた。
いつも低投票率の香港だが、2003年7月1日の50万人デモなど国家安全条例(治安維持法に相当)問題で攻勢に立つ民主派が、この日の選挙では過半数議席獲得を目指していた。このため、2004年立法会選挙に対する市民の関心は高かったのだ。
だが、こうした混乱の中で、当初は優勢を伝えられていた民主派は混迷。民主派全体では直接選挙枠の総得票の6割を獲得しながら、要となるべき民主党の得票が伸び悩み、比較第一党から第三党に転落する番狂わせまであった。そもそも香港民主派は中小政党の寄り合い所帯。鉄壁の組織を誇る親中国派政党に有利な、拘束名簿式中選挙区比例代表制を強いられ、民主派全体での過半数議席獲得には届かなかった。
しかし、ひとり長毛の得票は伸び続けた。当選はまちがいない。当選を決めた候補者が一人また一人と開票センター姿を現すなかで、長毛がうす茶色のジャケットを羽織ったラフな格好で姿を見せたのは明け方近く。たちまちマイクを持った記者たちが群がり、黒山の人だかりが長毛の移動行く手をふさいだ。
英語放送のテレビクルーが長毛の前に食い下がる。白人男性のリポーターが、「君は議員になっても、デモで暴れるつもりか?」などと叫んでいる。これに、「もちろん!」、「行動あるのみ」などと、英語で手みじかに答える長毛。
待ちに待った長毛の登場に、開票センターの一角に陣取っていた応援団から、大きな歓声があがった。「長毛!、長毛!」と囃したてる支持者たち。
記者たちの囲みはなかなか解けない。長毛は女性リポーターに手をひかれて、複数のテレビ局、ラジオ局の仮設スタジオを梯子させられたうえ、最後には記者席のノートパソコンの前に坐り、インターネット放送に出演させられている。これを、大学を卒業してまもない、うら若き女性記者たちが囲んでいる。
長毛はおじさんになっても、なぜか、若い女性リポーターにモテモテなのだ。
◆「下流」の人々の国際連帯
立法会議員になり、長毛の生活は一変した。なにしろ香港の立法会議員の報酬は世界最高水準の月額54,390香港ドル(日本円で約80万円)。このほかにも、高額の事務所経費が支給される。長毛は議員になる数年前から、有力大衆紙「蘋果日報」(アップルディリー)にコラムを連載してきた。これらをひっくるめて、推定年収は日本円にして1300万円超。かつての貧乏暮らしが、嘘のようだ。
だが、長毛のエラいところは、選挙時の公約どおり、自身は生活費として月額1万5千香港ドルだけいただき、残りの大部分を事務所経費、人件費など、政治活動費に充て、公開していることだ。その収支内容はホームページ(http://www.longhear.hk)で公開しており、透明度も高い。
選挙区から直接選挙で選ばれた議員らしく、長毛は中環(セントラル)のオフィスのほかに、将軍澳(チュングンオー)、沙田(シャーティン)、大埔(タイポ)の三カ所に地区事務所を開いた。危ぶまれていた政治活動も無難にこなしている。取り組んだ民生要求はかなりの件数。蓋をあけてみれば、保守派議員も顔負けのドブ板政治家ぶりだ。
同時に、自称「トロツキスト」らしく、底辺民衆の国際連帯にも力を入れる。過去のAFP-BBニュースの写真報道を見ると、在香港フィリピン女性たちの反アロヨ政権デモに長毛の姿があった。また、昨年12月から続く、韓国農民らの反WTO闘争にも長毛は積極的に参加している。
長毛は日頃から、公式統計では「700万人弱」の香港の人口を、「800万人」と言い続けてきた。香港で暮らす人々のなかには、香港人家庭で家政婦としてはたらくフィリピンやインドネシア、タイなどから来た外雇(外国人労働者)など、多種多様な民族構成がある。
これらの人々の多くは、市民的諸権利から疎外されており、選挙権もない場合が多い。
だが、これらの人々に差別なくこだわりを見せるのが、長毛の長毛たるゆえんなのだ。
他の民主派議員が参加を躊躇するようなマイノリティの切実な要求にも真摯に向き合うかぎり、香港に長毛の働き場はある。長毛もそれを知っているから、真剣なのだ。
そして、まもなく「労働節」(メーデー)。
長毛は陳偉業ら他の独立民主派議員たちと糾合して、新政治団体「社会民主連線」を立ち上げる。結成宣言が発表されるのは香港一の繁華街、旺角(モンコック)の歩行者天国。5月1日には真っ赤なTシャツで埋められるという。
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登録日:2006年 04月 29日 17:01:28
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- プロフィール
- 龍眼
- (男)
- 本名和仁廉夫。 ジャーナリスト。高校、予備校の教壇生活を経て現職。1990年代から香港問題に関わり、マカオ、台湾、中国、華僑華人世界の持つ多様な観点を紹介してきた。著書に、『旅行ガイドにないアジアを歩く・香港』(梨の木舎)、『香港返還狂騒曲』、『歴史教科書とアジア』、『東アジア・交錯するナショナリズム』(社会評論社)など。自称の「龍眼」とは、中国南部で広く食されるライチに似た果物。淡い茶褐色で、食味はジューシィ。そもそも「龍」とは、中華世界の幻の神獣。「龍眼」はその「龍の眼」に由来している。
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