数合わせの死刑執行
【東京 25日 AFP】法務省は25日、4人の死刑囚に対し死刑を執行したと発表した。
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(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA
2006年12月25日、クリスマスの朝。
4名の死刑囚が、刑を執行された。
あと1週間で、2006年は久しぶりに、死刑0の年になるはずであった。通常、クリスマス時期以降、年末年始の執行は、ないという。死刑囚は、毎年この時期を無事に過ごせると、胸をなでおろすらしい。
今日の死刑執行は、完全に「数合わせ」のためである。
■「死刑のすべて」という本
わたしは「たまたま」先週、1冊の本を読了した。それが「元刑務官が明かす 死刑のすべて」(坂本敏夫著 文春文庫)である。そして、この本を読んでいる最中、現在法務省を中心に準備が進められている、日本における裁判員制度の啓蒙のために、学生向け資料を作成している友人と、「たまたま」食事を共にする機会があった。
そこでわたしは、この問題に関する不勉強の対価として、衝撃の事実を知った。「裁判員に選ばれたら、断ることができない」。友人は言う「被告が死刑になるかも知れない、重い事件にも、我々が関わる可能性はあるんだよ」。
■1993年3月26日
この日付を見て、何かを思い出す人はいるだろうか。もちろん私も、本を読むまでは、細かい年月日までは忘れていた。しかし、テレビニュースで流れたあの場面だけは、はっきり思い出したのである。時の法務大臣、故後藤田正晴氏に、マイクが向けられる。「死刑執行が再開されましたね!」。後藤田氏は、質問する記者には視を向けず、苦笑いの表情で去ってゆく。
そう、あの日がまさに、今日に続いているのだった。
1989年11月10日~1993年3月25日までの3年4ヶ月、死刑廃止論議の高まりを受け、世論に押される形で、死刑の執行が停止されていた。その間には、それ以前、以後だったら当然死刑判決が出るであろう凶悪殺人事件の被告が、無期懲役の確定を見たり、被害者ご家族の中には、相当に辛い思いをされた方々も、おられたという。
■「死刑」の現場
この本の内容は、まさに「タイトルどおり」である。刑務官として現場に関わった著者により、これまで私たちが知ることのなかった、「死刑囚」の拘置所生活の様子、執行日確定から、その完了までのプロセスを、文章とイラスト、表や劇画も駆使して克明にレポートがなされている。そしてもちろん、現場の苦悩も。死刑執行のくだりには、気の弱い人は、とても正視できない場面すら、たびたび現れる。
上からの命令ひとつで「殺すために生かす不条理」を、ひとりその身に受け止めなければならない存在が、刑務官から選出される「執行官」諸氏である。
そこには、「上」つまり、現場の「お偉いさん」から上流に遡り、行き着くところ法務大臣が、その「生」の先にあるものは「死」だけという冷たい、そして壮絶な現場・・・いや、むしろ死刑囚にあたたかい人間の心を取りもどさせて、その上で「死」を持って罪を償わせなければいけない「刑務官の職責の重みとジレンマ」を知ることもなく、事務的措置として白黒をつける現実への疑問も、無駄のない表現で、つづられている。
■死刑囚の罪 我々の十字架
無論、死刑を言い渡されるほどの事件を起こす被告の罪は、憎んでも憎みきれない。しかし、どんなに重大な事件でも、「死刑判決」が下ったところで、被害者とその家族でないかぎり、私たちの記憶は、そこで終わる。「これでやっと解決した」と、浅はかに思ってしまうからだ。
その先の暗い闇を、私たちは知る由もない。
執行官は、自分の家族にさえ、「今回の執行には関わっていないよ」と、できるだけ平静を装って答えるのだという。仕事とはいえ、愛する家族が一人の命を奪うことに、耐えられる人はいない。その「事実」を知った家庭を偶然の不幸が襲うと、「夫が死刑を執行したからではないか」と、本気で悩み、妻子が自殺にいたったケースもあるというのだから。
むごたらしく殺された被害者の心情を思うと、短絡的に「死刑廃止」を叫ぶことはできない。しかし、加害者を実際手にかけるのは、命令を断ることのできない、刑務官=執行官なのである。
そして来たる2009年、裁判員制度が開始されると、私たちが、その決定の入り口に、深く関与する可能性が出てきている。私は、みなさんに、まず「死刑のすべて」を読んでいただきたいと思う。
死刑のおぞましい現実を知ることで、選出されたら辞退できない現代の「赤紙」に対する危険性を、私たちは、今のうちにもっと議論すべきではないだろうか。
コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2006年 12月 25日 23:40:56
コメント
裁判員制度については、今は殆どの人が他人事のように捉えているよう
ですね。
そして、おそらくは実際に裁判員制度がスタートしてから、
「こんな事は予想していなかった」
「この制度はひどすぎる」
と、不平不満を漏らし始めるのでしょう。
ただ、それでは遅すぎるのです。
法務省では、広報用ビデオの貸出や説明会の実施等を行なっているよう
ですが、是非「模擬裁判」を実施してもらいたいと考えています。
(「模擬裁判」ではありますが、現役の検察官、弁護士、裁判官の方に参
加していただき、実際に裁判官として参加する時のシチュエーションに、
限りなく近づけたものにしていただきたいです)
この模擬裁判を経験すれば、多くの人が裁判員制度の難しさ、問題点等
を、肌で感じる事が出来るでしょう。
知識や情報も大切ですが、それ以上に強く心に響くのが「体験」だと思い
ます。
法務省には、そうした体験の場を多く用意していただき、体験に基づいた
意見を反映した上で、裁判員制度をスタートさせてもらいたいものです。
高瀬 @ 2006年 12月 26日 09:57:27
死刑制度の問題は、本当に複雑だと思います。
松本智津夫に死刑判決が降りたときには、「あたりまえや」と思いました。
私利私欲のために人をあやめて、雨風しのげる刑務所でメシ付きで生きていくなんて甘すぎる。
一方で、自分が執行官だったらと思うと、判決に大賛成と言えるかどうかわかりません。
でも、米国では州によって死刑制度のないところもあり、凶悪犯がそういう州に逃げたりするのはよくありますよね。
日本でも、法相が書類に自分の名前を残したくないという理由で、死刑にノーということもあると聞きました。
「ふざけるな!」と思う反面、分からないでもないという複雑な気分です。
今のワタクシは、どちらがいいのか、簡単には結論づけられません。
藤原Hikki @ 2006年 12月 26日 11:10:44
被害者の身内の立場になれば、“死刑賛成”となるのかもしれませんが、私は基本的に死刑反対です。
刑務所の中で、犯した罪の深さによって、待遇が違うなどの差別化をすればいいんじゃないかな?
(そういうのってあるんでしょうか?)
とにかく、一生刑務所に入ってくれていれば構いません。
それよりも、性犯罪者みたいに、明らかに再犯率の高そうな服役囚を、簡単に釈放するのをどうにかしてほしいです。
hideinu @ 2006年 12月 26日 21:16:07
>高瀬さん
模擬裁判、やるべきですよね。
今後中高生に向けては、授業の一環として
そういう時間を確保するようですけれど
この制度が施行されたら、とりあえずすぐにでも対応しなくてはならない私たち社会人に、シミュレーションのチャンスが欲しい。殺人事件の裁判なんて、実際、映画でしか観たことないし。
>藤原さん
この日記を書いたところ、個人的にコメントを下さった方がいます。「刑務官は、その可能性を知っていて、なおかつ普段は単純に“公務員”として、ルーティンワークをこなしているのだから、死刑執行の命令が来たときだけ、被害者面するのはおかしい。と。この問題の多面性、そして奥の深さは、たしかに私たちが一朝一夕で語りつくせるレベルのものではないかもですね。
でも、だからこそ、まずは考えることの第一歩として、「知って欲しかった」のでございます~。
>hideinuさん
日本には「終身刑」がないのも、ひとつ問題を複雑化している要因でしょうね。死刑にならなければ、いつかは娑婆に戻れる、それも、刑務所で「模範囚」を「演じて」いれば、思ったより早く、犯罪者が元の生活に戻れる可能性が高い。。。
私も、(本人の努力如何に関わらず)性質的に再犯の可能性が高い人間を、カンタンに釈放するのは、やめて欲しいと思っています。
くぼ@赤ウサギ @ 2006年 12月 30日 20:51:37
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