NPL風洞とスーパーアグリ
<F1>ヘレステスト初日、佐藤琢磨 121周を走行して14番手タイムを記録 - スペイン
【ヘレス/スペイン 13日 AFP】F1、ヘレステスト・初日。スーパーアグリ(Super Aguri)の佐藤琢磨(Takuma Sato)は、121周を走行して14番手となるベストラップ1分20秒977を記録した。(c)AFP/JOSE LUIS ROCA
スーパーアグリがテディントンの国立物理学研究所(NPL)の風洞を使用しているという記事をみた。おいおいちょっとまって欲しい。F1で風洞というとき、最も難しいのはローリングロード装置のインストールである。記事が正しければNPLで50%モデルを用いて風洞実験を行っていることになるが、常識的にそれは考え難いのである。
■マクラーレンが使用していた風洞
NPL風洞はマクラーレンが自社風洞を完成させるまで、F1コンストラクターとしては独占的に20年近く使用していた風洞であることで有名なものである。マクラーレンがパラゴン(MTC)の自社風洞の落成式を行ったのは2000年の11月であるが、NPL風洞を使用しての開発は2003年まで継続していた。
■風洞モデル大型化への対応の遅れ
1996年までのマクラーレンはNPL風洞で33%モデルを使用して開発していた。1999年、当時マクラーレンのテクニカル・ディレクターだったアドリアン・ニューウィは40%モデルで開発を行っているとインタビューで答えていたが、風洞はインペリアルカレッジのホンダ風洞を使用したと語っていた。マクラーレンが50%モデルの使用を開始したのはライバルチームと比べても遅い方であったのだ。
■数々の買収工作と失敗
もちろんその間も努力を怠っていたわけではなく、50%化への努力を継続していた。そこで問題となるのはまたもやローリングロード装置の開発とそのインストールなのである。
1997年中盤、フェラーリがジョン・バーナードと袂を分かったとき、マクラーレンはバーナードがフェラーリのためにBAeのFilton風洞にインストールしていた50%ローリングロード装置の買収に乗り出した。しかしこれは失敗に終わる。というのも、フェラーリの次に契約したアロウズのためにそのローリングロード装置をべドフォードのDERA風洞(現在はRedbullが所有)に移設した(と思われる)ためである。
また1999年には、今度はベネトンがファーンボローのDERA風洞にインストールしていたローリングロード装置の買収交渉も行っていた形跡がある。というのも、同年はベネトンの自社風洞が竣工した年であり、ファーンボローの施設はもう使わないだろうという算段からだった。ちなみにではあるが、このローリングロード装置もベネトン時代のバーナード(ゴルダミングに設立したベネトン・アドバンスド・リサーチ・グループ時代)が開発し、インストールしたものだといわれている。この買収工作の結果については明らかとなっていないが、この頃の情報誌には「マクラーレンはノーサンプトン大学の風洞で開発」という記事が散見された。筆者はノーサンプトン大学にF1が開発できる風洞があることを知らないし、また、F1のエアロダイナミシストでノーサンプトン大学出身という者も一人として知らない。・・・もしかしたら、であるがサザンプトンのミッシェル風洞(F1なら40%モデルまで使用可能)か、1999年当時のニューウィのインタビューにあるように、インペリアルカレッジのホンダ風洞を使用していたと(無理に)解釈するべきであろう。要するに記事は誤りであった・・・と考えたい。
・・・しかしここまで書いてみて思うことは、バーナードの偉大さである。最後には「空力音痴」とまで言われていたバーナードであるが、90年代のF1の風洞史をこうして紐解いてみても、バーナードの先見の明ばかりが目に付くのである。
■「NPL風洞使用」は誤報か?
で本題に戻るのであるが、50%のローリングロード装置の開発とインストールには巨費と時間がかかる。バーナードがBAeとレンタル契約を結び、Filton風洞をF1開発用にモデファイしたとき、1994年の5月に契約したもののFilton風洞をF1開発用にモデファイする作業は難航。金額も計画を圧迫し、結局本格使用できたのは翌年の1995年の412/T2からであった(412T1はFDDがサザンプトン大の風洞で開発)。
マクラーレンですら実現できなかったNPL風洞の50%モデル使用のための改修を、スーパーアグリができるとは思えない。やはりこれは誤報であって、当初の発表通り、ベン・ウッドらスーパーアグリのエアロダイナミシストらはローラのテクノロジー・センターにある50%風洞をレンタルして開発していると考えた方がよいだろう。
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登録日:2007年 01月 05日 16:43:50
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- 久慈 護
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- ■現在の職業:図書館職員。
■経歴:米国留学中にパイロットライセンス取得(ME+Inst.)。商船大学を経て、東大先端研で英国モータースポーツ工業を研究。
■得意ジャンル:英国モータースポーツ工業史、「のりもの」全般。IT。スタジオジブリもの。
■ひとこと:キャリア形成や自己実現において、「個」の力だけの徒手空拳でどこまでできるのか、ということに大変興味があります。
■連絡先:kuji_f1@yahoo.co.jp
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