2006年 09月 30日
なぜ哀愁のリスボンか?
【東京 29日 AFP】総務省の発表によると、8月の完全失業率は7月と変わらず4.1%となり、1998年4月以来の低水準となった5月の4.0%をやや上回る数値を維持している。写真は都内で29日、出勤するビジネスマン。(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA
【ファドと地唄舞】
「哀愁の京都」と呼ぶ人はいないだろう。しかしなぜか、ポルトガルの首都リスボンに関しては、旅行会社の宣伝文句では「哀愁のリスボン」である。狭い通り、どこまでも続く坂道、そしてファドの哀しげな歌声などからくる印象なのだろうか。今月、休暇をとって1週間、リスボンで過ごしたが、哀愁とは程遠い、明るく、のびやかな街である。近代的なビルは見るに耐えないほど醜悪だったが、旧市街の中心は色鮮やかなタイルで飾られ、壁の色は、ワイキキのホテル・ロイヤルハワイアンのようなピンク色だったり、もっと濃い赤色だったり、カラフルで美しい。道はすべて石畳で、東京の味もそっけもないアスファルトの道とはまるで違っていて、歩いていて心が軽くなる。それなのにどうして「哀愁のリスボン」なのだろうか?夜は定番のファドを聴きにいった。ファドの調子も、歌い手も物悲しげであるが、じっと耳をすませていると、日本の地唄舞「雪」を思い出させた。地唄舞「雪」は武原はんの舞で有名になった。雪の降るなか、恋しい男を思いやる女性の情感あふれる舞である。ファドの多くは恋の歌であるので、両者はとても似ている。哀愁というセンチメンタルな言葉で表現しきれない、壮絶なまでの人間の情念の美しさをぼくは感じた。その美しさはジェロニモス修道院の回廊にも感じられた。
【べレンの塔とポルトガルの精神】
リスボンに行こうと決心したのが、今年の初めだが、それまではリスボンは海に面した港街だと信じて疑わなかった。観光案内でリスボンの地図を見たら、なんとテージョ川という大河の河口に近い港街である。その点でロンドンやニューヨークのマンハッタン島に似ている。帆船時代、直接海に面した港よりも、河を少しさかのぼった地点にあって、外敵の攻撃や嵐から船を守りやすかったのだろう。日本の江戸も東京湾の奥深くにあり、港を成立させている条件は同じである。リスボンの中心地区から河口に近いところにベレンの塔がある。この塔周辺から、ヴァスコ・ダ・ガマはアフリカの最南端をまわりインド航路を切り開いたのである。彼がインドから大量の香辛料をポルトガルにもたらし、ポルトガルは一挙に世界で最も豊かな国になるとともに、香辛料貿易で繁栄していたオスマン帝国の経済力が衰退し始める。ヨーロッパ諸国の植民地経営が本格的に開始され、世界史が大きく変わるきっかけをヴァスコダ・ガマの航海がつくった。ヴァスコ・ダ・ガマが出航したときは、ベレンの塔はまだなかった。真っ青なポルトガルの空の下、見送りの人たちの歓声が沸き起こる中、4隻の船隊が、ゆっくりとテージョ河を下っていく風景が目に浮かぶ。待ち構える危険をものともせず、インドに向かったポルトガル人の強靭な精神に思いをはせるとき、リスボンに哀愁という言葉は似合わない。
【そして 東京】
リスボンから帰国し、東京の街を歩くと、どうしようもなく心が貧しくなる。北京の紫禁城、ローマのバチカン、京都の桂離宮に共通するものは、建物に銭勘定の影が感じられないことだ。東京の現代建築群のほとんどは、収益と費用のやりくり算段のいやしさを感じさせてしまう。ニューヨークの建物も同じ雰囲気があるが、こちらは資本主義の牙城という気迫があり、東京よりもまし。東京の建物群は個性もなく、豪快さも、美しさもない。無秩序で貧しい町並み、乾ききったアスファルト、青空をさえぎる高速道路。東京の街のほうがよっぽど哀しい。哀しくて、醜い。年寄りの駄洒落は禁物だとは思いつつ、東京にふさわしいキャッチフレーズは「哀醜の東京」だと思う。
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登録日:2006年 09月 30日 18:37:58
- プロフィール
- 松下 信武
- (男)
- ■職業:感情心理学の一書生 エグゼクティブ・コーチ&メンタルコーチ
■主な経歴:40歳のとき河合隼雄先生の講義に衝撃を受け、ユング心理学の勉強を始める。その後、Emotional Intelligenceを中心とした感情心理学を研究。現在の肩書きは(株)ベルシステム24・執行役員 総合研究所所長兼ベルカレッジ統括長 日本電産サンキョー・スケート部メンタルコーチ
■ひとこと:レンブラントは絵筆で人間の姿を描き続けましたが、ぼくは心理学をつかって、「こころの肖像画家」になりたいと思っています。
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