とある住宅地の印象

作業の合間を縫っての散歩が楽しい季節になってきた。ほどよくひやりとした空気を頬に感じて歩く。紅葉の色づいた街路樹を見上げながら、かわいた落ち葉を選んで踏みしめ、その軽い音をならせて楽しんでみたり、放課後を過ぎて誰もいない閑散とした小学校の校庭を眺めて子供時代を懐かしく思い出してみたりする。季節の流れはいろいろなことから見て取れるけれど、散歩をする住宅地の様子からも、それらの多くを受け取ることができる。

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実家の周辺は、都心郊外の平凡な住宅地。私の家族はあとから引っ越してきたので、その住宅地の変遷をはじめからつぶさに観察してきたわけではないけれど、ここ数年急ぎ足でまちの様子が変わってきているとは目にみえてわかる。

住宅地は私鉄駅から数分のところから広がり、1960年代後半にはじめて分譲され、敷地面積は70坪くらいの一軒家が多いのだが、ここ数年建て替えが増えてきた。古い家の壁を新しく塗り替えたところや、建て増しをひたすら続けているところ。れんがづくりの三階建ての家、純和風の意匠を凝らした家、そして最近のはやりは南欧風の白系のデザインの家など。一方で分譲された往時をしのぶ、昔ながらの平屋もぽつぽつと残されていたりもすれば、手入れが行きとどかずにすすけてしまった家もあり、家の様相は多種多様だ。

一国一城の主たちによるマイホーム・デザインは、きわめて個人主義的な感じがしないでもない。家のオーナーの多くは数十年こつこつと働いて住宅ローンを返済してきた千葉都民サラリーマンのファミリーだろう。協調性を重んじるといわれる日本人だが、家のデザインでは驚くほど自己主張が多い様子。住宅メーカーの差別化策や流行りのデザインがあることも背景にあるのだろうけれど、ゆえにこのような一般的な住宅地に統一された景観美というのはほとんどない。

最近住宅地内で急速に増えてきているのは、土地を二分割してそこに適当なサイズの家をぎゅうぎゅうづめに建てている建売住宅販売。40年ほど前に分譲した80坪ほどのゆったりした土地は、いまとなってはその半分程度の30~40坪程度に区切られて、敷地の余白はすべて駐車場としてコンクリートで塗り固められ、ほんの一部を申し訳程度に芝生や若木で装飾しているような、コンパクトな家へと変貌を遂げている。

一戸建てが多いが、集合住宅もある。最近は駅の近くにもいくつか高層マンションが建った。私がよく散歩道にしているマンションの前の通りの真横には、この住宅地がまだ発展を遂げる以前からずっとその場所にいた頑固な男性が、古い家の風情をそのままに、そこで飲食の商売をしている。その家の庭はつただらけ、そのつたは家の壁から屋根にかけてうっそうと茂っていて、商売に使う農作物を家の前に雑然と並べている。みごとに雑草を茂らせた状態で、粗大ごみも渾然一帯に敷地内に積み重ねられている。ごぎれいに建てられた瀟洒なマンションの入口の真横がそんな“個性的”な状態なので、マンションの住民にとっても、道を歩く人にとっても少々奇妙な光景ではある。たぶんこの一戸建ての持ち主は、どんなまわりの開発にも屈することなく、自分の世界をつらぬこうとするそうとうの頑固者なのかもしれない。けれどもその人はその人の生き方があり、これまた一国一城の主として、その誇り(あるいは意地)は隣にたつマンションの背の高さとは関係のない話なのだ。

かつて多くのこどもたちで賑わってきた住宅地にも、高齢化の波が押し寄せている。庭の木々が大きくなり、果実はたわわに実るようになっている。ちょっと悲しいのは、昔は一生懸命にいろいろな植物を集めては育てていたのに、いまでは持ち主が手間に感じるようになったのか、それとも飽きてしまったのか、放置されて草ぼうぼうになった庭も見られること。うやうやしく二つの表札を用意している二世帯住宅もずいぶん増えてきている。くるまいすを使えるようにするために、階段を坂にかえてバリアフリーにしている家もまたしかり。

住宅地は入居した人たちと同じ歩みで年をとる。一気に同じ世代が入居した団地では、町もまた住民とともに年を重ね、世代交代が進み始めている。いろいろな年代が混じり合って文化といえるものをつくっていくのはこれからなのだろう。このごろの新興住宅地は景観美を意識する住宅街も増えてきたけれど、はたしてその統一性は将来ずっと保たれるのだろうか。あきずにずっと住める家並みは、何らかのコンセンサスがないと出来上がりにくいのに違いない。それともちぐはぐな家並みもやはり、そもそも日本の景観のひとつなのだろうか。かつての新興住宅地の路地を歩きながら思う。

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登録日:2009年 12月 02日 11:24:42

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福嶋 美香
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◆経歴:ふくしまみか
ライター・ジャーナリスト・エディター。東京生まれ千葉育ち。千葉県八千代市在住。玉川大学文学部外国語学科を卒業後、広告制作会社、新聞社勤務を経てフリーランスとなり、日本や海外で活動中。「ガンダーラ・ハウス」は気軽なエッセイ集です。近況などは上記「ブログ」のリンクからどうぞ。
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