英国パブの煙

パブでの禁煙法導入に備え「嗅ぎタバコ」人気が復活 - 英国

【ロンドン/英国 16日 AFP】ロンドンのパブで「嗅ぎタバコ」を楽しむ人々が増えている。
≫続きを読む…
(c)AFP

AFPBB News


私がいまノートパソコンを置いている小さな机の前には、通りの角に立つ一軒のパブを見渡せる窓がある。そのパブは何やら300年くらいの歴史があるらしく、大きくはないがいつもけっこうな賑わいを見せている。英国では定番であるペチュニアやロベリアのハンギングバスケットが、晴れている日には古いすすけた建物に彩りをつけている。

パブの外に置かれたピクニックテーブルで昼からのんびりとリアルエールを傾けている人々の姿が見渡せる。どちらかといえば、ミドルエイジ以上の人々や、ファミリーに人気があるような、落ち着いた雰囲気のパブである。けれども、週末になるとけっこうこれが騒がしくなる。2階の窓を少し開けているだけで、わいわいと盛り上がっている様子が聞こえてくる。パブの近くであれば当たり前の光景だし、多少の騒がしさはお互い様ということなのだが・・・。

・・・

7月のある日の週末の夜、いつにもまして例のパブが騒がしいのに気づいた。何やら、それは店の外に置かれたピクニックテーブルの周りに座る人々、あるいは店の外にたむろする人々の「人口密度」に関係しているようだった。その「人口密度」は、住宅地の一角にある由緒あるパブにしてはちょっと過剰な感じがした。

どうして急に、あんなに人が増えたんだろう。何か人を集めるようなイベントでもあったのだろうか。そんなことを考えている間にも、外からの騒がしさは家の中まで届いてくる。窓から薄闇の中でおしゃべりや酒を楽しむ人々の様子を見て、私は間もなく一つのことに気づいた。

実は7月1日から、イングランドのパブがすべて禁煙になったのである。けれども、店の外まではパブ禁煙政策は及んでいないので、いつもなら店内にいるはずの喫煙者のほぼすべてが外に出てタバコをふかしている。だから「人口密度」が実際に過剰なのだ。確かに、つい先日まで「喫煙OK」で、ある日突然、行きなれた場所で「禁煙」になったら、ヘビースモーカーにとっては大変な仕業だろう。

そういえば、7月1日以前に乗った電車のテーブルや各席の上にも、「車内では絶対禁煙、ご協力をお願いします」というような「ビラ」が置かれていた。電車内ではともかく、パブでの禁煙は、人々の健康にはいいことだが、英国らしい一つの風景がなくなることをも意味する。一昔前の映画を見れば、男女ともどもタバコをふかすのがステイタスであった時代をよくうつしとっている。けれども今はそれも過去の歴史。

今年の英国のサマータイムはやたらと雨が多い。おかげで、島の各所が洪水に見舞われ、対策が不十分であったとして新首相の方策がすでに槍玉に上がっている。どの国も政治論では同じような話が展開するものである。とにかく雨ばかりの日々で、窓から見渡すペチュニアとロベリアは、だんだんサマータイムの終わりを示すかのように雨にぬれて頭をもたげ始めている。

雨だというのに、ピクニックテーブルに立てられた日よけ用のパラソルに隠れるようにして、陽の光ではなく雨をしのぎ、タバコの火が消えないようにしながら煙をくゆらすパブの客たちの姿がある。雨脚が強くなったころに、悠然と傘も差さずにパブにやってきた白髪の老人は黒いスーツを着ていた。ひょっとしたらグレーのスーツだったのかもしれないが、どしゃぶりの中を歩いている彼の服は真っ黒に見えた。今日の英国ではほとんど見ることができない、夏目漱石時代の英国紳士の姿を思わせた。もちろんそれは目の錯覚に違いないし、果たしてその老人が嗅ぎタバコを携えていたかどうかも定かではない。

カテゴリー[ UK ], コメント[2], トラックバック[0]
登録日:2007年 07月 26日 19:25:54

コメント

地球規模での環境問題がかまびすしくなるにつけ、禁煙の場所は加速度的に増えてくる。今では多くのテナントビルの喫煙場所は建物の入り口近辺のにわか喫煙所だ。タバコが吸えないなら死んだ方がましだとのたまうタバコ好きも多い。タバコの臭気が立ち込めた喫茶店などもってのほかだという人もいる。どちらの言い分も理解できるが、世の中の趨勢としては、アンチタバコ派が多数。悠然とタバコをくゆらし、なにやら思索にふけってる紳士の横顔がたまらなくいい、というような文学的表現も
死語になりつつある。

あるアメリカのタバコ会社の日本法人幹部の部屋(個室)には、煙害を防ぐため
空気清浄機を設置。タバコが人体に悪いというのは百も承知。にもかかわらず
企業生命を維持するためにせっせとノルマを課し売り上げ増進に躍起。なれど、
こうした企業はいずれ姿を消すだろう。イギリスのパブのタバコのみによる人口密度の変化該当場所の光景もいずれは姿を消すかもしれない。タバコが決定的に
健康に悪いとなったら、さすがに賢明なるイギリス紳士もタバコには手を出さなく
なろうからだ。とは言え、タバコを無性に愛する人たちにとってはこれほど寂しい話もなかろう。しかし環境なんてものはそんなものである。環境を悪くしたのは人間の生存のための生産活動に負うところが大半。公害然り、温暖化現象然り。
タバコが地球環境を汚すということは、自動車の排気ガスのそれと比べれば
問題にならない。けれども、タバコが環境に悪い、健康に悪いという社会認識が増えてくれば、タバコ会社は生産をストップすることを余儀なくされる。よって、タバコ会社の寿命はすでに先が知れている。しかしなお、タバコ好きは何かを考えるはずだ。
戦後すぐに酒が統制されていた時代、酒好きのいなかのおじさん連中は「どぶろく」を自家製としてもぐりで飲んでいた。仮に法律で喫煙が禁止されたとしても、自分の手と知恵でタバコを作るにちがいない。その味はいまのタバコにくらべいいのか、
悪いのか・・・・・。そんなことを思いながら、散歩の途中でみたタバコ自販機の
なんとさびしいことか。猛暑でお茶やジュースの自販機は大繁盛。タバコ自販機
そのものも少なくなってきた。昔はタバコ屋の看板がやたらにあったものだ。
いまは、ない。ほとんどコンビにかキオスクでの販売。環境問題とともに商売の
形態もずいぶんと変化したものだ。

昔、タバコの大好きな友人がいた。彼曰く、タバコの紫煙が大気のなかに
溶け込んでいくあの絵画的なすばらしさ、香りの深さ、最初に吸い込むときの
陶酔感、これは酒以上だよと。

ガンジー @ 2007年 08月 16日 15:42:37

>悠然とタバコをくゆらし、なにやら思索にふけってる紳士の横顔がたまらなくいい、というような文学的表現も
死語になりつつある。

タバコもいずれ、古典的な要素として扱われるときが
くるのでしょうね。それにしてもタバコ会社での出来事
なんともはや。それだけで物語ができそうです。

アメリカ映画(2006)で、「Thank you for smoking」というのがあります。
タバコに対する軽妙なジョークと、タバコ文化そのものに対するラプソディ。
なかなかおもしろかったですよ。

匂いがなく、無害なタバコがもしあるのなら
相当なビジネスになるでしょうが、それがないから
こうやっていろんなことがおきているんですね。

タバコの葉自体に、罪はなし。
それを扱う人の業。

mika @ 2007年 08月 18日 03:26:28

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2007年 07月 >
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31



プロフィール
福嶋 美香
紀行エッセイ リスト
アートギャラリー
ブログ
◆経歴:ふくしまみか
ライター・ジャーナリスト・エディター。東京生まれ千葉育ち。千葉県八千代市在住。玉川大学文学部外国語学科を卒業後、広告制作会社、新聞社勤務を経てフリーランスとなり、日本や海外で活動中。「ガンダーラ・ハウス」は気軽なエッセイ集です。近況などは上記「ブログ」のリンクからどうぞ。
検索