自由の穴
【6月22日 AFP】あなたは人類存続の危機に、5人の男女とともに火星へ向かう宇宙船内にいる。
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(c)AFP/Richard Ingham
電車の信号機の故障があって、長いこと車内で待たされることになった。英国では毎度のようによくある話。私は半ば苦笑いと、ため息交じりで次のアナウンスを待った。
「大変申し訳ありませんが、この列車は次の駅が終着となります。○×へお越しのお客さまは電車を乗り換えていただきますようお願い申し上げます」。乗客は「またか」とうんざりとした表情。
それでも電車を換えなければ、目的地にはたどり着けない。仕方がないので多くの人は荷物を抱え、ぞろぞろと電車を降り、次の電車が入ってくるプラットフォームへと向かった。
乗り換えのためのプラットフォームで立ったまま20分もして、次の電車がフォームに入ってきた。すでにその電車は別方面からの始発でほぼ満席。点々とある空席をやっとこさ探して座り込み、ほっと一息。
しかし電車が動き出して間もなくして、車内が不自然に騒然としているのに気づいた。その音は、私の席のすぐ後方から聞こえてくる。おそらく小型のMP3プレーヤーから音が漏れているものだろう。ボリュームはほぼ最大。ユーロビートのリズムが無神経にあたりの空気を波打たせる。
...........
その音は、さっきまでさんざん待たされ、疲れた乗客の耳には尋常でない騒音となって車内中に響き渡った。まったく運が悪いこと。そう感じていたのはもちろん私だけではなかった。ある子連れのファミリーの父親が、たまりかねて腰を上げた。そしてその音源のほうに向かってつかつかと歩いていき、一言「お願いだからそのラジオの音を下げてくれませんか」と軽く注意した。
音源の主は20歳そこそこの、平凡な様相をした金髪の若い青年だった。彼は気取った口調でこう返した。
「これはおれの音楽で、あんたが本を電車の中で本を読むのと同じだよ。どうしておれが今の状態を変えなきゃならないのか分からない」
注意した男性はちょっとむっとした様子でこう言った。
「でもそのラジオの音のせいで、ほとんどの人が迷惑しているんですよ。君が聞いている以上にこちらにも聞こえている。屁理屈を言っていないで、そのラジオの音量をほどほどに下げてくれないかな」
若者は、しらけた顔で男性を見上げながら、
「どうしておれがおれの音楽を変える必要があるの。みんな好きなことを電車の中でしているじゃん。第一これはラジオなんかじゃないんだよね、古い人だね、おじさん」
こうしたたちの悪い口調から、二人はいまにもケンカ腰になりそうな気配だった。が、男性は、この若者は注意を聞きはしないと諦めたのか、そのままその場を立ち去った。かと思うと間もなくして、穏便にことをすますにはこれしかないということで、乗務員を連れてきた。
乗務員はちょっと困った顔をしながら、なだめるように手を変え品を変え、若者の振る舞いを治そうとした。それは無理な話だった。どんな言葉でも、若者は音楽のボリュームをかえようとはせず、反抗的な態度を取り続けた。
若者は最後まで自我を曲げようとはせず「ふざけるな」といったような罵声をあげ、いまにも暴れだすほどの勢いとなってきた。結局、若者は次の駅で、数人の係員に半ば強制的に電車から連れ出されていった。
豊かな国に限ってよくある話だ。平等主義や、弱者への保護、個人の主義主張が尊重され、それが少しでも傷付けられれば裁判沙汰になりかねない世の中。けれども、そうした平等主義や個人主義を傘に、社会の常識のレベルを履き違えたまま子供から大人になってしまう人もいる。
あの若者も、一見して育ちがよさそうに見えた。おそらく、両親からは蝶よ花よと甘やかされて育っただろう。育ちのよさとワガママと、社会的認識の欠如が紙一重となったその様を見て、個人主義の限界はこのあたりにあるかもしれないと私は思った。
ある一定の理解あるグループの中にあって、自由と平穏は成り立つ。個人あるいはグループが自らの主義主張を正義や常識であると過信しすぎるのは危険だ。実際に、どんな社会でも、その地で生きていけるということは、つまりさまざまな人々の営みの上で成り立っていることを、もっとよく吟味できる世の中であればいいのだが。
カテゴリー[ 旅 ], コメント[2], トラックバック[0]
登録日:2007年 08月 14日 01:49:47
コメント
久々にガンダーラハウス拝読。
傍若無人、自分勝手、勝手な権利主張等々、どの国の巷でも散見される
できごと。20歳の青年ないしアンちゃんに注意をする。本当に自信があれば
、注意した人間に圧倒するような信念と願わくばとっさの暴力に対蹠できる
武道の心得があれば、そしてこれが一番大事であるが、そのとき、その場面での
周囲のひとの無言の応援の気持ちが感じられれば、20歳の悪がきは音楽の
ボリュームを素直にか不承不承にか下げざるをえなかったであろう。しかし、
現実には注意をした紳士は引き下がり、次なる手を打った。それはそれだで
よい。ただ、そのとき、その場面で勝負できるような紳士であれば、それに
こしたことはない。よのなかが平和で、過剰な権利擁護の精神ばかりが
目だって著しい甘えた世の中では、電車のなかのバカアンちゃんみたいなのが
多く発生する。誰も注意をしない。無関心を装う。注意された方は周辺が
弱いことを知ってるから、注意されればされるほど、かたくなにそれを拒否する。
場合によっては喧嘩沙汰になる。最悪の場合、刃物騒ぎに拡大する。
それが怖いのでだれも行動しない。鬱積した感情を家に帰って家族にぐちる。
これが現実です。
ではどうしたらよいか。
まず、悪いやつにはっきりその場で物申す勇気と自信をみながもつことである。
きちがいに刃物を放任するのでなく、相手方を抑えこむ緊急行動力をもつ
ことである。それが養成されるのは、訓練と教育によるしか方法がない。
”そのとき自分がリーダーだ”との自信と一定水準以上の「相手に負けない」
レベルの武道(柔道でも、合気道でもよい)の心得をトレーニングをもって
身につけることである。さもないと、誰かがやってくれるだろうの人任せの
精神では世の中はよくならない。
上記の意見にはいろいろ賛否があろう。
ただし、結論的にいえることは、逃げてばかりいる世の中では、
電車のなかのバカアンちゃんは益々増長し、害毒を巻き散らすおとなにしか
成長していかないということである。
上記に関わる鍛錬と教育システムをいかように推進していくか、
これは喫急の課題であるように思えるのだが。
ガンジー @ 2007年 08月 16日 07:43:10
貴重なご意見をありがとうございます。
海外をいったりきたりしていると、日本と世界(各国)との間の
常識と非常識のずれに、たびたび出くわします。
英国でよく見受けられるのは、なまじっか多くの人々が
弁が立ち、ポイントを明確についてくる才を持つだけに、
本筋でないものが、フェアプレー精神のベールにかかって
本筋であるかのような錯覚をうけがちなことです。
結局は、モラルの問題なのでしょうが
それも、教育レベルからみてみると
大人が追う責任は本当に大きいですね。考えさせられます。
mika @ 2007年 08月 18日 03:31:03
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ライター・ジャーナリスト・エディター。東京生まれ千葉育ち。玉川大学文学部外国語学科(現比較文化学科)を卒業後、広告制作会社、新聞社勤務を経てフリーランスとなり各誌に寄稿。現在は日本と英国を中心に活動中。「ガンダーラ・ハウス」は気軽なエッセイ集です。お問い合わせや近況などは、上記Informationリンクからどうぞ。
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