郷愁について
【ロンドン/英国 20日 AFP】仏画家ピエール・オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)の風景画展「Renoir Landscapes: 1865-1883」が20日、ロンドンの英ナショナルギャラリー(National gallery)で開幕する。
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(c)AFP/NATIONAL GALLERY/HANDOUT
故郷というものがある。それを呼び起こすものの一つに風景がある。私は日本でもとりわけ平らな県とされる千葉県育ち。海に注ぐ浅く広がった河川だったり、水平線なりなだらかな牧歌的な丘陵だったりと、とにかく見晴らしのいい景色に囲まれて大人になった。聳え立つ山の高さにその日の勇気をもらうより、左右に伸びる水平線の広さに未来を考えさせられた。
・・・・
東京都心には祖父母がいたのでたびたび遊びに行った。区内に入るまでの開けた景色全体が私には「当たり前」の世界だった。東京は私にとってはおおかた地元の一部といえるものだけれど、土地のにおいがやっぱりちょっと違う。この感覚はある程度大人になっても変わらない。玉川大学に通っていたころを思い出す。学園の環境はなかなかいいが、とにかく山を開墾したところなので坂道ばかり。私にとっては内陸の高地のように感じられた。冬の冷え込み方と、夏の空気のこもり方は、冬はあたたかく夏は風通りがいい千葉育ちにはこたえたものだ。
学生時代は相模原のアパートから通っていたけれども、学業よりむしろ気候の点でいつもはやく千葉に戻りたいと切望していた。今思えば学生としてはふとどき者。長期休暇になると小田急線代々木上原駅から千代田線に乗り換えて、そこからまた大手町で東西線に乗り換えて、いそいそと千葉の実家に戻るのだったが、浦安から町田に通っている学友君とも道連れに、江戸川あたりを前に地下鉄が地上に出るころ、ビルの平均的な背丈と密集の度合いが低くなってきて、ようやくほっとするものだった。
いまイギリスの古い都のある街の一角でこれを書いている。中世の趣を色濃く残したこの街は、近世初期に途方もなく多かったという小さな教会の数とともに、急で狭い坂道がとにかく多いことで知られている。面積自体はそんなに広くないのに、とにかくどこか目的地に行き着くためには、目の前に坂がある。のぼったりおりたりするので、平らな世界に生きてきた私にはちょっとこたえる。
これは大学のころの環境に似ていると思う。自転車でも動きにくいし、車も運転しないときているので、とにかくどこかに出かけようと思うにも必要以上に坂道用の筋肉を使うことになる。古都の趣はなかなか魅力的ではあるのだけれど、やはり平らな土地に育った者には骨が折れる。とはいえ開けた景色が見たいと思えば、この国では少し郊外に出ればすむことでもある。外国とはいっても、郊外には私の故郷にそっくりのなだらかな丘陵と地平線が広がっている。そこでまたさらにちょっと郷愁に思いを寄せてみる。今、画架に一枚の白い紙が張ってある。そこに、せっかくだからイギリスの風景画を描いてみたいと思っているのだが、まだどんな風に描くかは決めかねている。
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登録日:2008年 05月 20日 19:37:47
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- ◆経歴:ふくしまみか
ライター/ジャーナリスト。東京生まれ千葉育ち。玉川大学文学部外国語学科を卒業後、コピーライター、新聞記者を経てフリーランスとなる。現在日本と英国を中心に活動中。詳細・近況などはNEWSリンクからご覧ください。
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