イーストアングリア①

エリザベス女王、80歳を機に住居を移転 - 英国

【ロンドン/英国 16日 AFP】15日付けの英日刊紙のタイムズ(Times)によると、21日に80歳になるエリザベス女王(Queen Elizabeth II)は、主な住居をロンドン中心部のバッキンガム宮殿(Buckingham Palace)からロンドン西部のウィンザー城(Windsor Castle)へ移す予定だという。
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(c)AFP/Manoocher DEGHATI

AFPBB News


イーストアングリア(East Anglia)とは、東部イングランドでもノーフォーク(Norfolk)、サフォーク(Suffolk)、ケンブリッジシャー(Cambridgeshire)、それにリンカンシャー(Lincolnshire)の南部、エセックス(Essex)北部のあたりをさす総称である。その名を冠したイーストアングリア大学に在籍していたとき、あるひとつの絵を見つけた。ブルームズベリ・グループの英国人の画家、ロジャー・フライ(Roger Fry)が描いた「Blythburgh Estuary, Suffolk, 1892」という風景画である。私にとって奥行きがありながらもどこか平面的で母国のものを思わせたのか、とにかく一度見てからというもの忘れることができず、小さな縮小版のポストカードを手に入れて部屋に飾るようになった。以来、その小さな額におさめられたイーストアングリアの風景は、私の生活に何らかの形で姿を見せている。
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絵は、サフォークの田舎の光景、イーストアングリアの自然の恵みを静かに伝えている。数本立ち並ぶ木の向こうに、地を這うように蛇行するマーシュ(marsh:沼地、湿地)が、深い濃緑のふちどりを帯びて、淡い夕暮れに溶けゆく地平線へとのびていく。

その先には点在するいくつかの木立と、おそらくは寒村に唯一たつ教会の尖塔がかすかに小さく浮き立っている。前面にある木は視界をさえぎらず、背後の奥行きを際立たせる。果てしない平面、そして音もなくたたずむ水面。

サフォーク=「ジョン・コンスタブル(John Constable)の故郷」としたほうがぴんと来る人も多いかもしれない。コンスタブルが描き続けた彼の故郷サフォークは、イーストアングリア地方の南部にあたる州だ。そして冒頭のフライが描いたように、この地方は平地あるいはきわめてなだらかな丘陵に囲まれ、湿地や流れのゆるい小川が巡り、乾いた空気と湿地の水の対比が、深い緑とともに素朴な静けさを際立たせる。

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ロンドン・リバプール・ストリート(London Liverpool Street)駅から、グレートイースタンレイルウェイ(ONE)で北東方面に下る。ロンドン通勤圏のコルチェスター(Colchester)をすぎてしばらくして、イーストアングリア地方に入っていく。(バスに乗り換えて少し内陸にあるラヴェナム(Lavenham)という古い町も有名)。瀟洒な住宅地マニングトゥリー(Manningtree)やサフォークの中心となる街イプスウィッチ(Ipswich)に停車する。イプスウィッチから内陸方面に乗り換えると、ベリー・セント・エドマンズ(Bury St. Edmunds)という修道院の廃墟で有名な町にもいける。北上するとノーフォークへ。車窓の風景はますますイーストアングリア色を増していく。

列車はやがて終着駅ノーリッジ(Norwich)にたどり着く。ノーフォークの首都ノーリッジの街は、イーストアングリア生粋の自然に囲まれ、ぽっかりと浮かんだ小さな島のような風情だ。私はこのノーリッジの街の郊外にあるイーストアングリア大学にしばらく通っていた。

ノーリッジは、小高い丘陵と川、城と大聖堂、市場そして城壁などを含め、中世の都市計画を色濃く残す街だ。地図をみるとわかるが、この地方は海をはさんでオランダに極めて近いエリアで、17世紀まではフランドル交易などで栄えた。当時はロンドンをしのぐほどの人口や市場規模を抱え、ブリテン最大の街の一つだったという。

繁栄の跡はイーストアングリア地方の道路が放射線状に、ノーリッジに向かってひかれていることからもわかる。街には立て込んだチューダー様式の張り出し窓や、頭をかがめなければくぐれない小さな扉、ゆがんだチェインバーをたくみに組み合わせた漆喰の壁、両手を広げれば両脇が点いてしまいそうな細い路地裏・・・そしてひとつの街に存在するものとしてはヨーロッパで最大といわれる大小教会の数々。

ノーリッジが繁栄していた17世紀まで地図と、同じころのロンドンの地図を見比べてみる。いまではちょっと想像もつかないが、歴史家も認めるように、このふたつ、かつてはほとんど同じような規模であった。だがロンドンは17世紀後半に起こった有名なロンドン大火のせいで、多くの古い建物を消失してしまった。

もしロンドンが大火にまみえなかったら、あるいは大戦での空爆の被害がなかったら、いまのシティなどもろもろのエリアには、チューダー様式の競り合ったチェインバーの家々が残されていたろうか。過去の栄光はいずこへ、今もなお中世のサイズのままの古都ノーリッジと、大きくふくれあがった首都ロンドンの姿を見ると、街にもそれぞれに岐路があるのだと感じさせる。

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ノーリッジはノーフォークのちょうど真ん中あたりにある。ここを拠点に、電車やバスで巡るイーストアングリアの旅は案外楽しいものだ。

ネルソン提督が凱旋し、文豪ディケンズがかつて「ブリテンでももっとも栄えた港」と称した港町・グレート・ヤーマース(Great Yarmouth)へと向かう途中には、有名なノーフォーク・ブロード(broad:湖沼地)がある。途中下車して小路を散策するのもいいだろうし、ボートやヨットがすきな人なら毎日通いたいくらいかもしれない。

西へは、ノーリッジからセントラル・レイルウエイに乗る。セトフォード(Thetford)とよばれる広大な森林地帯を縫っていけば、フェンス(fens:沼地、湿地)に囲まれた大学都市ケンブリッジ(Cambridge)や、大聖堂で有名なイーリー(Ely)、ピーターバラ(Peterborough)がある。ちょっと北側の海岸にある、古い港町キングス・リン(King's Lynn)、北西に向かえば大聖堂で知られるリンカン(Lincoln)。ピーターバラの隣の駅スタンフォード(Stamford)には、ピンクがかった石材による美しく洗練された家並みが突如として現れる。

イーストアングリアの果てであり、宝石となりえるもの。それはノースノーフォーク・コースト(North Norfolk Coast)のエリアだろう。地元ノーフォーク人の間ではビクトリア朝時代に流行したリゾート地クロマー(Cromer)やその隣にあるシェーリンガム(Sheringham)が有名だ。それらよりむしろ以西は外国人にとって何度行っても味わいがある。ナショナルトラストが保有するコースト一帯は野鳥やアザラシの楽園であり、近海には良質な北海の魚が回遊する。夏にはロイヤルファミリーが居住するサンドリンガム(Sandringham)一帯も美しい。王室お墨付き、「恋に落ちたシェイクスピア」のロケ地にも使われたのホルカムビーチ(Holkham Beach)は、原始の姿をそのままに白亜の砂浜を残し、イギリスにもこんな素朴な美しい浜があったのかと思わせる。

外国にいると、あれもみたい、これもみたい、と目移りしてしまいがちだ。だが欲張ってもすべて見渡せるわけでなし、時間がある限り近所を、過度の期待を抱かずに気軽に巡ってみるのが、その土地を知るのに一番の方法であり、よい旅づくりの秘訣となることがある。

日本にいてもあまり土地に執着することなく生きてきた私が、たまたまひょんなことから出会ったイーストアングリア。どの目的地に行くにも、一度や二度以上は、ロジャー・フライの描いた世界が車窓から流れては消えていく。それは静かで、決して「無理強いをしない」風景だ。空と大地が裏切りなく、そして限りなく溶け合う接点に、この夏も出会いに行きたい。

カテゴリー[ UK ], コメント[3], トラックバック[0]
登録日:2006年 06月 06日 01:36:13

コメント

<筆者からの補足>

「イーストアングリア」についての記事を
折をみながら数回掲載の予定です。
まずは簡単な旅行ガイド的に・・・・。
この夏イギリスに旅行でも、と
計画されている方のちょっとしたご参考になれば。

なお、以下のHPの情報をご覧いただくと、
筆者がなぜにわけもなくこの地方で和んでいるのか
わかっていただけるかもしれません(笑)
(千葉出身)↓↓↓

http://www.failteweb.com/wallpaper/uk/england/eastanglia/index.html

◆ロジャー・フライの絵はこちらを参照↓↓↓

<Roger Fry - Blythburgh Estuary, Suffolk, 1892>
http://www.richardwebster.net/suffolkcards/acatalog/blythburgh_fry.html

mika @ 2006年 06月 06日 06:34:42

静謐で思索のひと時をエンジョイ。
ゆったりとした風景、軽薄でない重み、それでいていつまでも
そこに浸っていたいのどかさ、魅力たっぷりの落ち着きと広がり。

くすんだローカル色のなかに、日ごろの忙しさを癒してくれる
包容力、千葉のそれは身近すぎて、よく分からないが、
こうして遠く離れた日本から、あなたの描く一枚の絵の
なかに、しばしロマンチックな旅ごころさえ感じさせ、
うっとりと時間をすごすことのできる幸せ。

久しく訪れていない異郷の魅力に感謝。

Y.F. @ 2006年 06月 07日 19:57:00

風景にも出会いがありますよね。
圧倒されるような山の嶺や、壮大な砂漠や海
一瞬にして刺激を与えられる風景もあれば
時間をかけて味わう風景もあるでしょう。
たまたま知ることになったイーストアングリア地方は、
派手さがないがゆえに
空気そのものが心象風景として残るような気がしています。
それはひょっとしたら、育った土地を
思い起こさせるからかもしれませんね。

mika @ 2006年 06月 11日 03:57:02

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◆経歴:ふくしまみか
ライター・ジャーナリスト・エディター。東京生まれ千葉育ち。千葉県八千代市在住。玉川大学文学部外国語学科を卒業後、広告制作会社、新聞社勤務を経てフリーランスとなり、日本や海外で活動中。「ガンダーラ・ハウス」は気軽なエッセイ集です。近況などは上記「ブログ」のリンクからどうぞ。
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