南西イングランド小紀行(3)
英国のサマータイムは夜が長い。午後7時をまわっていたが日が沈む気配はなく、駆け足を披露してくれた牛たちもまだまだ仕事中だ。夕食を準備してくれるというので、それまでの間に徒歩数分のところにあるというビーチまで散歩することにした。
Cさんたち以外にも、新しい住人がいた。その一人にビーチへ遊びに行く途中に紹介された。Mさんはチェシャー出身の男性で、「プロスペクト・ハウス」の一番部屋数の多い広いフラットをセカンドハウスとして購入した、いわゆるアッパーミドルだ。Cさんいわくオリジナルのモダンアート作品がMさんのフラットにところせましと飾られているところあたり、「かなりお金持ちなんじゃないかしら」とのこと。
英国ではアッパーミドルや貴族などのお金持ちに限って、ガーデニングでうす汚れた、いたって適当な服を着ていたり、信じられないくらい気さくで気取らず、くったくがなかったりする。(そのくせ値段もわからないような高級ブランド品がゴミ箱に投げ捨てられてあったり、高級車を洗車せずに乗り回していたりする)。
どうやらMさんもそのたぐいなのだが、私と握手して「ブリテン出身ですか?それとも外国生まれなのかな?」とさらりと紳士的に質問。こういった内容のあいさつ自体、日本ではあまりないけれども、多国籍国家の英国ではそれほど珍しいことではない。私が「日本ですよ」と答えると、世界漫遊の旅の思い出がよぎったのか、Mさんは余計に目を輝かせた。彼は一通り自分の世界旅行の自慢話を披歴し始めていたけれども、おしゃべりな英国人のお話はきりがよいところで終わりにしなければ日が暮れてしまうだろうから、ビーチに向かうべくごく丁寧に辞去した。
「プロスペクト・ハウス」からビーチまでは、案内のとおり5分くらいの道のり。崖の頂上にある家から、自生する植物が茂る海岸の散策路を下りていくと、海岸の家々に特有のピンクや黄色などの目立つ色合いの空家がぽつぽつと、海辺を遠く見晴らすように崖にへばりついていた。このころには霧も晴れ上がり、沈む夕日は薄紫色に大空を染めて、「スタートポイント」と呼ばれる燈台が小さく見渡せた。
砂利のビーチ。波は静かで、近寄ってみると南国の入り江の水のように清んだ波打ち際。適当な場所を見つけてビーチの真ん中に座りこむと、100メートルくらい先に、二人の男性が言葉一つ交わさず、ボートを押しながら海岸へ向かうのが見えた。漁に向かうのだろう。こんな明るい静かな夜の海で、いったいなにが釣れるのだろう。かつてあったという漁村はいまは廃墟になり、ごく残り少ない人々だけがその村の面影を引き継いでいるようだった。
(4)へつづく
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登録日:2009年 06月 12日 01:24:47
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ライター・ジャーナリスト・エディター。東京生まれ千葉育ち。千葉県八千代市在住。玉川大学文学部外国語学科を卒業後、広告制作会社、新聞社勤務を経てフリーランスとなり、日本や海外で活動中。「ガンダーラ・ハウス」は気軽なエッセイ集です。近況などは上記「ブログ」のリンクからどうぞ。
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