南西イングランド小紀行(4)
翌朝、「プロスペクト・ハウス」から、車でサルクムというデーヴォン最南端の町へ向かった。デーヴォンの田園風景は、いわゆる緑のパッチワークの楽園だ。ダートムーア国立公園もすぐそこなのだが、湖水地方やピーク地方のような急峻なやまや丘に比べると、だいぶかどが取れて丸みを帯びているように見える。あちこちが低い谷間になっておちくぼみ、朝日がゆるやかに斜面に影を落とし陰影を強めていた。
ゆるやかだがはるか先まで続くなだらかな緑の丘陵の向こうに、やがて忽然とサルクムの町並みが見え始めた。斜面にへばりつくようにテラスハウスが建っている。町中のほとんどは狭い道ばかりでしかも一方通行だということなので、町の外側にある駐車場で車をとめて、小さな送迎バスに乗り込んだ。なるほど小山を染めるように立ち並んだ家々をくぐりぬけ、下り方面に視界が開けると、入り江がその先に広がっているのが見えた。
サルクムはイングランドの伝統的な港町。斜面にへばりつくように家々が立ち並んでいる。Fさんはこの町の出身で、両親は船元だったとのこと。波止場近くの塀によじ登って座り、かなり大きなパスティのランチをいただくと、約束の船を待った。船とはCさんらが事前に予約しておいてくれた釣り船だ。沖に出て釣り遊びを教えてくれるという。
12人乗りの釣り船に乗り込んで、やがて速度を上げながら沖へと進んでいくうちに、波が勢いよく船を打ち始めた。町は入り江になっているので、しばらくの間は両脇に迫りくる斜面に、リゾートホテルや別荘、あるいは個人の屋敷などが建てられていて、いまは廃墟となった、小島に残る古い城跡なども見えて、小説の一編にでも出てきそうな雰囲気だ。
いよいよ湾の入り口までさしかかってくると、急峻な岩盤の岬に深い緑のこけがむし、ブリテンやアイルランド特有の、木々が生えない切り崩したような壁がパノラマに広がってきた。きらきらと穏やかに光る水平線に挑むように、崖たちは屹立している。
潮風をきっていよいよ沖へ。さっきまで静かに感じられた入り江はずいぶん彼方になってしまった。船頭はレーダーで漁場を探しながら船をすすめる。やがていいころあいのところでさっきまでうなりをあげていた船のエンジンがとまると、今度は一気に、沖あい特有の横揺れとともに、釣りざおの使い方や釣り方の簡単なインストラクションがあり、自由に釣りを楽しめる時間となった。
子供と大人が半分くらいだったがいっこうに釣れない。腕っ節のよい日焼けした40がらみの船頭は、いくつか漁場を変えたあと、ようやく1匹、2匹とつれるようになってきた。青い海はすばらしい輝きを放っていた。船頭の青年がアドバイスをすると次々と釣れ始めるから不思議だ。対岸はフランスだろうか。
私は釣りに関してはまったくのど素人。しかも船酔いはひどく、魚釣りを楽しむというよりは、自然の摂理を学んだというような感じだったが、とにかく海の文化はどの国もそれほど変わらないんだろうと、ちょっとつめたい潮風にあたりながら、海辺の光に目を細めた。
(5)へつづく
南西イングランド小紀行 もくじ
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登録日:2009年 06月 19日 03:52:02
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ライター・ジャーナリスト・エディター。東京生まれ千葉育ち。千葉県八千代市在住。玉川大学文学部外国語学科を卒業後、広告制作会社、新聞社勤務を経てフリーランスとなり、日本や海外で活動中。「ガンダーラ・ハウス」は気軽なエッセイ集です。近況などは上記「ブログ」のリンクからどうぞ。
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