2006年 10月
スローフード志向の落とし穴
味覚の博覧会「サローネ・デル・グスト」が開催中 - イタリア
【トリノ/イタリア 27日 AFP】北西部ピエモンテ(Piedmont)州トリノ(Turin)で、スローフード協会主催による味覚の博覧会「サローネ・デル・グスト(Salone del Gusto)」が開催されている。150か国から参加者が集まる2006年度は、高品質な食材、継続が可能な農業、多種多様であることを推進する方法を模索し、「正しいグローバリゼーションへの種まき」をスローガンに掲げる。写真は26日、会場に並べられたイタリアのオリーブオイル。(c)AFP/FILIPPO MONTEFORTE
スローフードという言葉は、ファーストフードへのアンチテーゼとしてイタリアで誕生した。きっかけは、今から20年前の1986年、イタリア初のマクドナルドがローマにオープンしたことだった。ハンバーガーに代表される、どちらかというと質よりも量や価格に重きがおかれるファーストフードが、自国の食文化に悪い影響を与えるのではないかという懸念が生まれたためだった。長い歴史に培われ、その土地に根ざした食材や料理といった食文化を守ろうというのが基本概念。スローフード協会のホームページでは、「スローフードとは良質・安全・正当な食のことである」と言っている。「安全」という言葉には、地球環境はもちろん、動物の繁殖や人間の体にとっても害のないものという意味が含まれ、「正当」には生産者が正しく保護されるべきという意味が含まれている。また消費者の「食育」についても推進している。
*食文化を守る法律
ヨーロッパでは、昔から土地固有の食文化に関する感心と同時に、自分の生産物に対する生産者の誇りも高い。そのため、それを保護する法律も早くから整えられてきた。最も有名なのはフランスのA.O.C.=Appellation d'Origine contrôlée(アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ)だろう。日本語では原産地呼称統制法と呼ばれる。ワインやチーズなどの伝統的な食品に対して、製造地域・方法などが厳密に定められており、その食品の品質はもちろん、その歴史・伝統を守り、後世に伝えていこうというもの。伝統を守り、プライドをもって農産物を生産している生産者を保護するという意味も含まれている。
残念ながら、日本にはこうした法律はまだない。だが、近年のスローフード志向で、土地固有の食文化や食材への感心が高まっているのも事実。例えば、スーパーで生産地だけでなく、生産者の名前や写真が農産物に添えられていたり、有機・無農薬農産物の専門店を街中で普通に見かけるようになったのも、こうした志向を反映したものだろう。
*スローフード志向の落とし穴
日本人は流行りもの、ブランドものに弱いと思う。スローフードも一過性のものになってしまうのではと不安だ。また、スローフードの概念を誤って解釈している人も多いような気がする。「スローフード=美食」、「スローフード=ビオ」などなどの限られた視野で捉えられていたりする。もちろん、それらもスローフードの概念のうちのひとつだが、決してそれだけではない。またワインにありがちな話だが、「有名なA.O.C.産品を輩出する生産者のみが素晴らしい」、「そのブランドを冠しているかいないかだけで価値を決める」などなどの誤解もよく耳にする。
私は、一番大切なのは、その農産物が生まれた背景・歴史を知り、その価値を正しく理解したうえで、おいしく、そして楽しく味わうことだと思っている。別にブランドものじゃなくたっていい。安くても素晴らしいものは素晴らしいし、おいしいものはおいしい。これはヨーロッパだけでなく、日本はもちろん、世界中であてはまることだろう。というわけで、今日もスーパーで見つけた日本円で数百円という地元の小さなワイナリーのワインで乾杯。美味。
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登録日:2006年 10月 28日 23:59:59
“ワインの王様、王様ワイン” Tokaj トカイ
「王のワイン=トカイ」はハンガリー産に限定、ようやく勝ち取った伝統の名 - フランス
【パリ/フランス 18日 AFP】パリのハンガリー大使館で16日、「トカイ(Tokay)ワイン」のブランド名移譲式典が行われ、フランスのアルザス(Alsace)産ワインから「トカイ」の名前が公式に消える。
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(c)AFP/FRANCK FIFE
ハンガリーの「トカイ」は、フランスの「Sauternes ソーテルヌ」、ドイツの「Trockenbeerenauslese トロッケンベーレンアウスレーゼ」と並ぶ、世界三大貴腐ワインのひとつ。
貴腐ワインというのは、貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌)がついたブドウから作られるワイン(ちなみにトカイの主要品種はFurmint フルミント)。貴腐菌がつくと、ブドウの実の水分が蒸発して干しブドウのようになり、実の糖度が増す。このブドウで作られた貴腐ワインは、極上の甘口デザートワインとなる。貴腐菌は、地理的かつ気象的条件が整って初めて貴腐ワインをもたらす。それ以外の土地では、同じ菌が付着したにもかかわらず、ブドウは腐ってしまうのだ。ある意味、ひとつの奇跡が生むワインと言えるだろう。そのため昔から高価なワインであり、王族や貴族だけが楽しめる特別なワインだった。タイトルに「王のワイン=トカイ」とあるのは、フランスのルイ14世が「ワインの王様、王様ワイン」と称えたと言われているため。
*トカイワイン
トカイという名は、ハンガリーの首都・ブダペストの北東にあるトカイ・ヘジャリア地方の名に由来する。この地方では12世紀からワインが作られていたとされ、中世の面影を今に残す丘陸地に広がるブドウ畑や町並み、ワインセラーなどが「Tokaji Wine Region Historic Cultural Landscape」として、2002年にユネスコの世界遺産にも登録された。
トカイは大きく以下の3タイプに分けられる。
・Tokaji Aszu Essencia トカイ・アスー・エッセンシア
貴腐ブドウのみでつくられた、正真正銘の貴腐ワイン。
トカイの中の最高級品。
ちなみに「アスー」というのが「貴腐ブドウ」のことを指している。
・Tokaji Aszu Puttonyos トカイ・アスー・プットニョシュ
プットニョスというのは、貴腐ブドウをすりつぶしてペースト状にしたものを入れる容器の単位で、1プットニョシュは25kg。
このタイプのトカイの名は、醸造前のブドウジュース・136リットルに対して、アスー(貴腐ブドウ)を何プットニョシュ加えたかで表わされている(例:Tokaji Aszu 3 puttonyosu)。
3プットニョシュから6プットニョシュまであり(ただし6プットニョシュはまれ)、もちろん、6プットニョシュが一番甘くなる。
・Tokaji Szamorodni トカイ・ソモロドニ
貴腐ブドウと貴腐菌のつかなかったブドウを選別せずに作られる。
スイート(甘口)とドライ(辛口)がある。
*個人的所感
今回、フランスのアルザスが「トカイ」の商標使用を取りやめることに合意したそうだが、一般消費者が、こうした生産者の努力を正しく理解するにはまだまだ時間がかかるだろう。記事中にCognac コニャックの話が出ているが、つい最近も、コニャックをブランデーの代名詞として使っている人に会った。そのドイツ人は、ドイツ産のブランデーをコーラで割ったカクテルを飲んでいたのだが、「俺は毎晩、こうやってコニャックを飲んでいるんだ」と嬉しそうに説明してくれた。コニャックはフランスのコニャック地方で作られたブランデーに対してしか使えない名前なのだが・・・。この手の話はよく転がっている。シャンパーニュ(シャンパン)ではない単なるスパークリングワインをシャンパーニュとしてメニューに載せている店があったり、バーボン片手にやっぱりスコッチはうまいという人がいたり、アメリカではいまだに辛口白ワイン=シャブリと思っている人も多かったり。おいしければ何だっていいじゃないかということなのかもしれないが、自分たちの作っているワインの歴史や文化的背景に誇りをもち、真摯に農作物や土地に根ざしたお酒やチーズなどの生産に取り組んでいる生産者との温度差を思うと切なくなってしまう。
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登録日:2006年 10月 19日 19:17:40
「ドン・ジョヴァンニ」初演の地でビール文化を満喫
モーツアルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」が上演される - イタリア
【ミラノ/イタリア 12日 AFP】2006年で生誕250周年を迎えるオーストリアの作曲家ヴォルフガング・アマデウス・ モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)作、ベネズエラ出身の若手指揮者、グスターボ・ドゥダメル(Gustavo Dudamel)によるオペラ「ドン・ジョヴァンニ(Don Giovanni)」が10月10日から11月12日までスカラ座(Teatro alla Scala)で上演されている。写真は11日、同オペラでパフォーマンスを行う役者たち。(c)AFP
先週末、プラハへ行ってきた。週末旅行のテーマは「プラハのビール文化満喫」。きっかけは、仕事で出かけた東部ドイツで魅せられた、東ヨーロッパの食文化とチェコビールのおいしさだった。テーマに基づいて行動する中、「ドン・ジョヴァンニ」初演の舞台であるプラハ国民劇場で、同演目を観劇することができた。
1786年にウィーンで初演された「フィガロの結婚」は、ウィーンではあまり人気が出なかったものの、プラハで大絶賛の嵐を得た。「ドン・ジョヴァンニ」は、そんなモーツァルト人気に目をつけたプラハ国民劇場の依頼によって作られた。初演は1787年10月29日。話を至極簡単に要約すると、どうしようもない女たらしの貴族が、その放蕩の数々の末に地獄に落とされてしまう、というもの。観劇後に思ったのは、日本の時代劇同様「勧善懲悪」というテーマが見え隠れしていたなということだった。クライマックスであるドン・ジョヴァンニが地獄に落とされるシーンは、毎回、演出家の力量が問われる部分だそうだが、今回の場合は、素人目に見ても“ショボさ”が拭えなかったように思う。
*プラハのビール文化
日本でも一般的なビールのタイプであるピルスナーはチェコ生まれ。チェコではこうしたラガー(下面発酵)タイプのビールが多い。東部ドイツで私が魅せられたのは黒ビールだった。黒ビールといっても、有名なギネスのようにスタウトやポーターといった上面発酵タイプではなく、こちらもやはり下面発酵タイプで、ドイツでいうところのデュンケル(ダークラガー)だ。チェコ語では「Tmave トゥマーヴェ」(デュンケル同様「ダーク」の意)と呼ばれる。だがチェコのトゥマーヴェは、ドイツのデュンケルよりも色が濃い。というより黒い。やはり東部ドイツのマイセンで、シュヴァルツビアなるものをいただいたのだが、こちらの名前のほうがしっくりくる(シュヴァルツは「黒」という意味)。
今回はプラハのビアパブをメインに飲んで回った。ビアパブ(またはビアホール)は、チェコ語で「Pivnice ピヴニツェ」という。たいていの場合、ビール1杯(500ml)が150~250円という安さなのだが、その味わいの奥深さに驚かされる。生ビールそのものにコクがあり、丸い味わいなのは当たり前で、地元の人から愛されている良質のビアパブになると、その泡のまろやかさ、きめ細かさに目をみはってしまう。すっきりとしつつ、やわらかい口当たりのビールとクリーミーな泡が口の中で優しく溶け合う。ピルスナーだけでなくトゥマーヴェも同様で、見た目の黒さからは苦味の強い味わいを想像してしまうが、まったくそんなことはなく、ほのかな苦味と心地よい甘味(決して甘ったるいというわけではない)と、これまた生クリームのようにふんわりとした泡が織り成すハーモニーがたまらない。スルスルと飲めてしまう。
が、残念ながら、こうした極上のビールが楽しめる昔気質の良質なビアパブの数は減りつつあるのだそうだ。観光客相手のカフェやレストランが増えたり、経営者が変わってビールに対する情熱が失われてしまったり、またはそこに集うチェコ人の気質が変わってしまったりと、理由はさまざま。それでも、地元の人たちの生活に深く深く根をはっているビール文化が、完全に消え去ってしまうことはないと思いたい。細々とでもいい、ビールを飲み干してもなおグラスの底に残るきめ細かな泡のように、長く長く続いてほしいと思う。
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登録日:2006年 10月 13日 20:02:05
自らの命を絶つということ
【モスクワ/ロシア 6日 AFP】ロシアでは毎年6万人が自殺しており、リトアニアに次いで世界第2位の自殺大国となっている。
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(c)AFP/ALEXANDER NEMENOV
この夏、肉親2人の死を受け止めなくてはならなかった。2人とも長く闘病生活を送っていたが、いつも笑顔をたやさず、病気の自分のことは二の次にして、何よりも私たち家族のことを大切にしていた2人だった。彼女たちは最期の最期まで一生懸命に生き抜いた。1人は母で、まだ58歳だった。その無念は想像に余りある。
病気に蝕まれた体は痩せ細り、少しでも体力をつけるための食事は飲み込むのも苦しいという状態で、もはや苦行のひとつでしかなかった。呼吸器の病だったため、ちょっとしたことで息ができなくなってしまう。だから食べたくても食べられない、笑いたくても笑えない、泣きたくても泣けない。母は子供のように無邪気な人で、この15年間、家にいても病院にいても、彼女の周りから笑い声が絶えることはなかった。つい、母が大病を抱えていることを忘れてしまうほどだった。今思えば、その笑顔の影で、どれだけの涙を流していたのだろう。どれだけ不安な夜を過ごしていたのだろう。母はこの15年間、毎日毎晩、休むことなく病気と闘い続けていたのだ。
この半年で病状が急変した。いつしか彼女の顔から笑顔が消えてしまった。私たちが当たり前のようにしている呼吸。彼女はそのためにすべての神経を集中させ、脂汗を流しながら呼吸を整えなくてはならない。病室では、とてつもなく重苦しい時間がじっくりと、そしてゆっくりと流れてゆく。
冒険心にあふれていた母は旅行が大好きな人だった。が、そんな彼女の最期の望みは「歩きたい」、ただそれだけだった。ベッドの上に起き上がるのがやっとで、自分の足で立ち上がることすらままならない。その悔しさに涙する母の姿が忘れられない。彼女はもっともっと生きたかった。もっともっと生きたかったのに生きられなかった。
*世界の自殺者数
一方で、生きられるのに生きていられない人たちもいる。もちろん、止むに止まれぬ事情があってのことだと思う。2000年、世界で約100万人の人が自殺で命を落としたという。40秒に1人の割合だそうだ。この45年間で自殺者の割合は6割増。これまでは男性の高齢者の自殺率が高いのが一般的だったが、現在は若い人たちの自殺率の高さが目立ってきているという。自殺の理由としては人生に対する絶望感や薬物などの誤用による精神的な不調・病気によるものが9割を占めるが、その理由は社会的要因が複雑にからみあったものであるため、一概にまとめることは難しい。
記事中に、自殺者数が世界で一番高いのがリトアニア、次いでロシアとある。実際の数字を比べてみた。
国によってデータを得た年が違うのだが(1984~2005年のいずれか1年)、WHOのHPにある統計によると、各国の人口10万人中の自殺者数で、男性の自殺者が一番多いのはリトアニアで74.3人(2003年)、順にロシア69.3人(2002年)、ベラルーシ63.3人(2003年)。女性の場合はスリランカが16.8人(1991年)とトップ、次いで中国14.8人(1999年)、リトアニア13.9人(2003年)となっている。日本は男性が35.2人、女性が12.8人(いずれも2002年)で、女性はリトアニアについで世界で4番目に自殺率が高い。日本は、主要先進国の中で自殺率が一番高いという話も聞いたことがある。
*個人的所感
自らの命を絶つということには、すさまじい恐怖が伴うのではないだろうか。その恐怖を味わってもなお、その道を選ぶということは、やはり生きられるのに生きていられない“何か”があるんだろう。
私は生きられる限り生きていたい。母の生き様を思えば、生きられるなら生きていなくてはいけないと思う。母の分まで一生懸命に生きよう。
※数字は「World Health Organization」の"Suicide rates per 100,000 by country, year and sex (Table)"を参考にしました
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登録日:2006年 10月 06日 20:06:25
- プロフィール
- 成田美友
- (女)
- ambrosia
- ドイツにある観光公社「Historic Highlights of Germany」でのフリー編集者生活を終え、ドイツから帰国。現在はフリージャーナリストとして活動中
*主な経歴:出版社で旅行ガイドブック、街情報誌の編集、サイト運営会社で食に関するウェブサイトの編集と編集者人生10年目
*ひとこと:土地の歴史や文化に深く根ざしたヨーロッパの食文化に魅かれ、学ぶ日々。米・Society of Wine Educators認定Wine Specialist/日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート
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