「フセイン時代」は終わったが……
【バグダッド/イラク 30日 AFP】政府系テレビ局、アルイラキーヤ(Iraqiya)は30日、サダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領が絞首刑に処せられたことを確認したと伝えた。
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死刑判決が確定していたサダム・フセイン元イラク大統領(69)に対する絞首刑が30日実施された。70年代末から独裁政治で権勢を振るった「フセイン時代」が終わったとはいえ、判決確定からわずか4日のスピード処刑が国際社会に多くの疑問や批判を残したことも否定できない。新生イラクの治安確立はまだ難行苦行の状態にあり、フセイン元大統領が仕切ったと言われるイラン・イラク戦争中の戦争犯罪や、自国住民に対する非人道的な毒ガス使用問題などの解明は闇に葬られることになった。
◆ 未解決の問題
フセイン元大統領ら3被告の直接の罪状は1978年7月、イラク中部の村で起きたシーア派住民虐殺事件だ。事件はフセイン政権への反逆行為や元大統領に対する暗殺未遂の報復として起きたとされ、犠牲者は約150人にのぼったという。米軍占領下で施行された基本法(暫定憲法)などに基づいて設置されたイラク高等法院が今年11月5日に有罪の死刑判決を下し、12月26日には控訴院が控訴を認めず、死刑判決が確定していたものだ。マリキ現政権下の法律では「死刑確定から30日以内に執行」と定められているため、刑が執行されるのは時間の問題と見られていた。しかし、フセイン政権時代には、クルド人やシーア派住民らが厳しく弾圧され、その犠牲者は30万人とも40万人ともいわれている。とりわけ国際社会でこれまで大きな問題とされてきたのは1988年に北東部ハラブジャで化学兵器によってクルド人住民約5000人が殺された「ハラブジャ事件」や、旧イラク軍がクルド人地区で行った「アンファル作戦」によって約18万人の犠牲者が出たとされる事件などがある。高等法院では、今回の事件と平行してアンファル作戦の指導者らに対する証人尋問が続けられている。クルド人住民にしてみれば、より大量の犠牲者を生んだ上記の2事件に対して、フセイン元大統領がどこまで関与していたかが重大な関心事だった筈だが、フセイン処刑によって、その完全解明はほぼ不可能になったと言わざるを得ない。
◇ 報復裁判で終わったのか
民主化を進める現在唯一のマリキ政権下で行われた高等法院、控訴院の判断はそれなりに尊重しなければならないだろう。だが、これだけ世界を震撼させたフセイン元大統領の戦争・人道犯罪であっただけに、フセイン時代の歴史の暗部を十分に解明することなしに、被告の死によって解明の道が閉ざされたのは、残念なことでもある。シーア派とクルド人が中枢を占めるマリキ政権としては、フセイン処刑を歴史的事実とすることによって、破壊活動を続ける一部スンニ派組織に対する元大統領の影響力に終止符を打ちたかったに違いない。死刑判決確定後、ジバリ外相が「我々は歴史の暗い章を閉じなければならない」と語っていたように、「フセイン時代の終焉」を内外に印象づけることを通して国民融和の新たな弾みとしたい政治的狙いもあったのではないか。しかし、スンニ派住民や旧フセイン支持勢力にとっては、スピード処刑が「報復裁判」に終わったとの印象を与え、新たな憎悪のサイクルをあおる恐れもなくはない。
◆ 国民和解へつなげる努力を
人権団体や一部の西欧諸国は元大統領の死刑執行に強く反対し、イラクの司法制度ではなく、国際法廷によって過去の重大人道犯罪を徹底的に解明するよう求める意見も少なくなかった。またアメリカ主導で高等法院などの制度が施行されたために、最高刑に死刑が組み込まれていたとの批判もある。しかし、イラク人側にしてみれば、「自国の独裁者を自国の法廷で裁くのは当然」というナショナリズム意識もある。アルカイダ系のテロ組織が以前から「フセインを処刑せよ」と叫んでいたとも伝えられ、宗派、部族関係が複雑に入り組んだ状態のイラクで、フセイン処刑の影響がどのようにあらわれてくるかは予想しがたい部分もある。いずれにせよ大切なことは、「フセイン時代の終焉」を国民的和解と協調への本道につなげていくことだ。そのための努力と工夫がマリキ政権、周辺諸国、米英などに問われているのは間違いない。
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登録日:2006年 12月 30日 16:20:12
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- プロフィール
- 多田 格<Tada Itaru>
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- ■職業:ジャーナリスト
■主な経歴:欧州、北米などで海外特派員を10年以上務め、国際政治・安全保障、軍備管理・軍縮、米国家戦略、日米同盟関係などの分野を多角的に取材、論評している。
■専門分野:国際関係、国連、軍備管理、国家戦略など
■ひとこと:日本の政治は視野を広く持ってほしい。「やればできる」のアメリカ式楽観主義と英国の戦略観をもっと見習っては
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