「自由のアジェンダ」を選んだブッシュ大統領

ブッシュ政権のイラク新政策に、党内外から批判が殺到 - 米国

【ワシントンD.C./米国 12日 AFP】ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領が10日発表した苦肉のイラク新政策について、民主、共和両党から批判が噴出している。
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(c)AFP/PAUL J

AFPBB News


 ブッシュ米大統領が10日発表したイラク新政策は、議会民主党などの予測に反して、あくまでもイラクの民主化達成を求めるという内容だった。昨年末、超党派のベーカー・ハミルトン委員会が提言した政策変更は、米兵の犠牲がこれ以上増えないうちに段階的撤兵を図るというものだったが、それではイラク戦争の失敗と敗北を認めてシッポを巻いて撤退することになる。「退くも地獄、進むも地獄」と表現したメディアもあったが、逆風が吹きまくる中で、ブッシュ大統領にとっては最後まで「イラクを放棄するわけにはいかない」という決断だったに違いない。

 ◆ 逆風だらけの政治環境

 新政策発表直後の米世論調査によると、61%が米軍増派計画(約2万1000人)に反対と答え、支持は36%しかなかった(ワシントンポスト紙)。米上院外交委員会でも、明確な支持を表明する声はほとんどなく、イラク政策の先行きに悲観的な見方が大勢を占めている。しかし、調査を党派別に見ると、民主党支持者の9割が反対している一方で、共和党支持者の73%は新政策を支持しており、米メディアの報道から受けるイメージほどネガティブな反応ではないことも事実だ。民主、共和党を含めて否定的な意見が目立つ理由の一つは、08年大統領選に向けた国内政治だ。今年後半になれば、来年の予備選に向けて両党から出馬表明がほぼ出揃い、早くも前哨戦が始まる。その場合に、国民の評判が悪いイラク問題に関してはどの候補にとってもブッシュ政権を支持するのはイメージ上大きなマイナスになる。「ここは米軍増派に反対しておくに越したことはない」という政治判断が各陣営の胸中にあるのは容易に想像できるはずだ。

 ◇ レガシー(引退後の評価)を気にした大統領

 一方のブッシュ大統領にとっては、残る任期の2年間に大統領引退後の名声や評価(レガシー)を今から築いておかねばならない。イラン・コントラ事件で大きく傷ついたかつてのレーガン大統領、経済運営で失敗したブッシュ父大統領、不倫疑惑に追い回されたクリントン大統領--など、前任者たちもこの時期にはスキャンダルとネガティブ・キャンペーンの嵐に包まれた。最大でも2期4年に任期を限られたアメリカ大統領にとって、最後の2年は何がどうあれ、評価を下げたままレームダック状態に陥るのが最近の傾向でもある。にもかかわらず、ブッシュ大統領が①米軍増派②バグダッド周辺の治安回復③今年11月までの治安権限移譲④経済復興支援--などを柱とする新政策を打ち出した理由は、最後まで自らが掲げてきた「フリーダム・アジェンダ」を貫徹することが自身のレガシーにつながると考えたからだろう。

 ◆ フリーダム・アジェンダ

 そのフリーダム・アジェンダとは、簡単に言えばイラクに自由と民主主義を定着させることによって、中東の中心地域に「民主化モデル国家」を樹立し、イスラム過激テロとの思想闘争に勝つという政策である。いわゆる「中東民主化構想」の根幹につながるもので、その底流は新保守主義派(ネオコン)と宗教保守の考え方が混在する中から出てきたと言ってもよいだろう。イラク戦争の失敗、不調に伴って、2期目のブッシュ政権からは多くのネオコンが退場を強いられたが、彼らの掲げた政策の基調はブッシュ大統領自身によって、かえって強まったとさえ言えるかもしれない。これに対して、「そんなお題目はいいから、早いところイラクから手を引け」というのがベーカー委員会の報告に盛り込まれた現実主義者(リアリスト)たちの提言だった。確かにイラクの現状を厳しくとらえるならば、米兵の犠牲者も3000人を超えてしまったし、できるだけ米兵の犠牲を少なくするためには早いところ手を引いてしまったほうが短期的には得策に見える。しかし、それではイラク戦争を始めたアメリカの責任は一層厳しく問われるだけであり、ブッシュ大統領にとってもイラクの自立と安定を達成せずに逃げ帰るのでは、レガシーを完全に喪失してしまうことになる。大統領引退後も「無謀な戦争を始めた挙句、シッポを巻いて逃げた大統領」という悪評が永遠について回ることになるだろう。

 ◇ 成否のかぎ握るイラク政権

 もちろん、新政策が成功する保証はないのが現状だ。それでも、無責任にイラクの現状を放置して撤退するのは最悪のオプションである。問題は、新政策に反対する民主党にも「ではどうすればイラクは安定するのか?」という対案がないことだ。他に案がない以上、一時的な増派によって治安の安定化を図るのは見通しゼロではない。宗派対立による暴力の約8割はバグダッド周辺50㌔圏内に集中しているとされ、その他の地域では暴力はそれほど起きてはいない。治安確立の大きな要因と責任がマリク首相が率いるイラク政権にあることでは国際社会の見方もほぼ一致している。国連や国際社会にとって、新政策の滑り出しをとりあえずは静観する以外になさそうだ。

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登録日:2007年 01月 12日 21:49:42

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プロフィール
多田 格<Tada Itaru>
(男)
■職業:ジャーナリスト
■主な経歴:欧州、北米などで海外特派員を10年以上務め、国際政治・安全保障、軍備管理・軍縮、米国家戦略、日米同盟関係などの分野を多角的に取材、論評している。
■専門分野:国際関係、国連、軍備管理、国家戦略など
■ひとこと:日本の政治は視野を広く持ってほしい。「やればできる」のアメリカ式楽観主義と英国の戦略観をもっと見習っては
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