中国の衛星破壊能力(ASAT)に神経尖らす米政府

中国が人工衛星撃墜実験に成功、塩崎官房長官が懸念を表明 - 東京

【東京 19日 AFP】中国が弾道ミサイルを使った人工衛星の撃墜実験に成功したことが18日、明らかになった。
≫続きを読む…
(c)AFP/Ted ALJIBE

AFPBB News


 中国が人工衛星撃墜実験に成功したことについて米政府が重大な懸念を示した最大の理由は、軍事超大国アメリカを支える軍事情報技術の中でも人工衛星は最も脆弱な部分にあたるからだ。衛星位置決定システムは、弾道ミサイル、巡航ミサイルなどの攻撃兵器に用いられる精密誘導システムの根幹にある。また潜在敵国などの地上情報の観察や写真撮影に使われるスパイ衛星にしても、戦場と米国の司令塔を結ぶ情報通信衛星にしても、敵の攻撃に弱い急所に相当する。

 ◇ 着々と進む宇宙軍事能力

 中国の宇宙開発は1950年代半ばに始まり、その主体は軍だ。90年代には、欧州など海外の衛星打ち上げを請け負うビジネスに着手し、すでに20基以上を打ち上げた実績がある。2003年には初の有人宇宙飛行船「神舟5号」の軌道投入に成功し、05年秋には2回目の有人宇宙船「神舟6号」を打ち上げた。有人宇宙飛行に成功したのはロシア(旧ソ連)、アメリカに次いで世界3番目の国となった。今回の人工衛星破壊実験は、そうした宇宙開発の延長線上にある。

 ◆ 人工衛星破壊能力(ASAT)

 米航空宇宙誌「エビエーション・ウィーク・アンド・スペース・テクノロジー」が報じたところによれば、中国は11日午後(中国現地時間12日朝)、四川省の衛星打ち上げセンター付近から同地域の上空の高度約800㌔を周回中の気象衛星「FY-1C」を破壊したという。米政府もこの情報を確認し、中国当局に懸念を伝えたと発表した。弾道ミサイルに搭載された迎撃体(KKV)を直接衛星に衝突させ、その運動エネルギーによって破壊する方式をとったとされる。これは米国がミサイル防衛(MD)で進めている破壊方式の一つでもある。もちろん自国の衛星であり、その飛行経路はあらかじめ詳細に分かっているから、敵ミサイルを迎撃・破壊するのと比べれば、格段にやさしい技術であるとも言える。しかし、人工衛星を迎撃・破壊する能力(ASAT)を証明したのは1980年代のアメリカ、旧ソ連に次いで3カ国目であり、アメリカにとっては衝撃的なニュースとなったことは否定できない。

 ◇ 超大国の「目」がつぶされる?

 というのも、各種の人工衛星システムは超大国にとってなくてはならない情報源であると共に、軍事的に最も脆弱な部分でもあるからだ。第1に、アメリカが運用している全地球位置決定システム(GPS)は20数個の測地衛星網によって、米軍兵士や部隊からミサイル弾頭に至るまで正確な位置を瞬時に確定する(その能力の一部がカーナビにも応用されている)ものだ。この衛星網を通じて、敵の標的を正確にたたく精密誘導システムが支えられている。第2に、アメリカはミサイル発射早期警戒衛星を宇宙に張り巡らして、赤外線探知装置によって世界の主要地域でミサイルが打ち上げられた際には即時に感知するシステムだ。この早期情報に基づいて米国や同盟国の防衛態勢が築かれている。第3には、北朝鮮、イランを初めとする国々の地上情報をキャッチし、識別するスパイ衛星網。第4にはそれらの情報を瞬時に米本国に伝える通信衛星--などなど、各種の衛星情報収集システムが軍事超大国を支えている。いずれの衛星も、今回のようなASATにはきわめて脆弱で、攻撃を防ぐ兵器も装甲も備えているわけではない。いかに強力な剣士といえども、非力な忍者たちによって目つぶしを食らえば、ひとたまりもないだろう。

 ◆ 中国秘密主義の危険性

 とりわけ今回のような実験を事前通告なしに行う中国の体質について、アメリカは神経を尖らせている。老朽化した気象衛星を破壊するのは中国の勝手かもしれないが、破壊された小片群は長い間、「宇宙の粗大ゴミ」として宇宙空間を漂い続けるために、他国の平和的な商業衛星に衝突して破壊したり、障害を起こす恐れも少なくない。事前に通告して破壊するのならば、各国ともにそれに備えることができるが、今回は違った。中国国防省当局者は「実験について関知していない」とさえ語っている。それが事実ならば、軍部が勝手に行ったことになり、シビリアン・コントロール(文民統制)のあり方にも関わる危険な事態と言うことになる。中国軍部のホンネは「我々にも衛星破壊能力があるゾ」と、アメリカを脅すための政治的実験だったのかもしれないが、そうした態度では米中間の信頼醸成など遠い先の話になる。日本やオーストラリア政府も中国の態度を非難したのは当然のことだ。国際的なエチケットを知らないのか、それとも知っていた上で日米豪などを脅せると思ったのだろうか。アメリカは黙ってはいないだろう。

コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2007年 01月 19日 21:11:13

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2007年 01月 >

1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31


プロフィール
多田 格<Tada Itaru>
(男)
■職業:ジャーナリスト
■主な経歴:欧州、北米などで海外特派員を10年以上務め、国際政治・安全保障、軍備管理・軍縮、米国家戦略、日米同盟関係などの分野を多角的に取材、論評している。
■専門分野:国際関係、国連、軍備管理、国家戦略など
■ひとこと:日本の政治は視野を広く持ってほしい。「やればできる」のアメリカ式楽観主義と英国の戦略観をもっと見習っては
最近のトラックバック
カテゴリー
お気に入りリンク
検索