2007年 01月

BOTにメリットがあるのではなく、リスク移転の仕組にメリットがあること

PFI事業がBOTであることのメリットは特に無いという私のコメントに対して「としさん」から、BOTのメリットが2点あるというご意見/質問をいただきました。
実際に機能した場合に得られるメリットをご指摘いただきました。このメリットを享受するためには民間へリスク移転する仕組の構築が不可欠です。

1.「としさん」のコメント
>第1に、BOTによる大規模リスクの移転です。
>BTOとして施設建設後、公共へ施設を引き渡します。
>施設所有者は当然公共となります。
>BTOでは施設の移転により、債権として確定してしまうため、サービスの水準
>によらず、建設費相当分は支払う義務が生じることになると思います。
>ただ、民間へ移転したい大規模修繕リスクなどは施設所有者が公共になるため、
>移転できないことになります。
>民法上の規定の瑕疵担保も10年となり、PFI事業期間内では対応できません。
>契約書上に修繕リスクの移転条項を盛り込んだとしても、施設所有者は公共で
>あるため、民間が修繕することはできないと思います。
>現実的にBTOで大規模修繕リスクの移転は可能なのでしょうか?
>公共側として民間に特に移転したいリスクは、大規模修繕リスクだと思います。
>特に設備関係の場合には、メーカーである民間が一番リスクを知っています。
>このリスクを移転し適切に管理することによりLCCを下げることが、PFIの大きな
>メリットであると思います。
>第2に、サービス水準に連動した支払いです。
>BTOでも、サービスレベルに連動して建設費相当分まで損害額を請求する規定
>を設けるということも考えられます。
>現実にある自治体ではBTOでも建設費や維持管理費という名称ではなく、
>全て委託費としてサービスにある程度連動した支払いをしているケースもあります。
>ただし、民法に言う遺失利益以上の損害を請求することになる点が気になります。
>BOTであれば、サービスの水準に連動した支払いを行うことに問題はないと思い
>ます。
>また、民間のファイナンス上も施設を担保に入れることにより融資を受けやすい
>などのメリットもあると思うのですが。

2.公共リスクを民間に移転するために業績連動支払いが用いられる。
「としさん」の着眼点はとても重要です。大規模修繕だけではなく、民間事業者が公共よりも管理がうまい分野があれば、そのリスクを民間に移転することが可能ですし、そのリスクは民間に移転すべきものです。「リスクの移転」と「業績連動支払い」は2つの別々のメリットではなく、連動したひとつのメリットです。
ただし、BOTであること、すなわち、これらのメリットを得られることではありません。
以下BOTとリスク移転の仕組の導入の違いについて、としさんの意見を引用しながらコメントします。

3.BOTとリスク移転の仕組は同じではない
としさんのコメントにある「リスクを移転し適切に管理することによりLCCを下げる方法」が構築する必要がありますが、この仕組は、BOTであるだけで構築できるものではありません。

4.現実の二つのケース
実際のケースで見てみましょう。
わが国のPFI事業の中には、以下の二つのタイプがあります。
1) 支払い費目を施設整備費の割賦支払い分と運営費を分離したBOT方式
2) 支払い費目を一括してPFI事業のサービス購入費としているBOT方式

5.割賦で債務を確定するとリスク移転は出来ない
一つ目の支払い費目を分類しているタイプのものは、たとえBOT方式であっても契約締結時に事業者に対しての支払いが確定する点がBTOの割賦支払いと同じです。
すなわち、施設に不具合が生じたとしても、割賦支払いとして確定した債務を削減することは困難です。

6.リスク移転を可能にする業績連動支払いの仕組
二つ目のタイプにリスク移転する仕組がうまく組み込まれたときに、リスク移転が可能になります。ただし、リスク移転が可能な施設の所有形態とリスク移転が出来る仕組が構築されていることは同じではありません。
リスクを移転する仕組とは、コスト削減のために適切な投資をしなかったり、不適切な投資をした場合に生じる不具合などが発生した場合に、適切な投資を行ったとき以上のコストやペナルティの責任をとる仕組みです。投資の部分を大規模修繕に変えてみると、大規模修繕を移転する仕組が分かります。すなわち、大規模修繕リスクを移転する仕組とは、コスト削減のために適切な大規模修繕をしなかったり、不適切な大規模修繕をした場合に生じる不具合などが発生した場合に、適切な大規模修繕を行ったとき以上のコストやペナルティの責任をとる仕組みです。
必要以上の投資や、大規模修繕をする必要はありませんので、最も少ないLCCで事業を行うことが目的です。実は、この仕組がサービス水準に連動した支払いです。

7.サービスの水準に連動した支払いが出来る施設所有形態のみでは不十分
「としさん」が気付いたように、BOTであれば、サービスの水準に連動した支払いを行うことに問題はありません。しかしながら、サービス水準に連動した支払いが出来る施設の所有形態であることと、サービスの水準に連動した支払いの仕組を構築することは同じではありません。

8.発注者がリスク移転の仕組の枠組みを設定する
サービスの水準に連動した支払いの仕組を構築するためには、まず、発注者が明確な事業枠組みを設定しなければなりません。

このような事業枠組みの設定が出来ないまま事業者に自由な提案をさせると、事業提案の水準が異なり、相互比較することが出来なくなったり、主観的な判断が働きやすくなるため非合理的な判断を招きやすくなったりします。

9.リスク移転の枠組みと事業者提案の関係
事業者は発注者より提示された事業枠組みの中で提案内容をセルフコミットします。そのセルフコミットした中に民間に移転されたリスクに関連する仕組がすべて含まれ、しかも、その仕組は事業者がコントロールできる仕組であることが重要です。このようなセルフコミットする仕組があるので、その仕組を精査する必要が生まれます。
もし発注者の主観で減額が発動する仕組になっていれば、その発注者の主観部分が融資額に影響を与えないようなNO RISK融資でなければ貸せなくなってしまいます。つまり上記「4.1) 支払い費目を施設整備費の割賦支払い分と運営費を分離したBOT方式」になってしまい、業績連動支払いが出来なくなり、リスク移転が出来なくなってしまいます。
言い換えると、事業者にリスク移転したプロジェクトに金融機関が融資できるケースは、事業者のリスク管理能力に信頼性がおける状態であり、融資が確実に回収できるという実質的な保証、もしくは実績による裏付けが取れる場合のみです。
ところが、事業者のノウハウを利用した異なった事業提案によるセルフコミットメントを比較しなければならないので、比較可能なセルフコミットメントを提示させる必要があります。

10.比較可能なセルフコミットメント作成に必要な発注者が設定する事業枠組み
ここでは、詳細については述べませんが、その解決策として提示された事業提案が比較できるような状態になるようにリスクを移転するためには、発注者は最低以下の7項目を事業枠組みとして設定する必要があります。
1) それを提供するために「施設整備費が必要な施設提供サービス」と「施設整備費が必要でない施設に付随したサービス」の区分
2) 施設提供サービスおよび施設付随サービスのサービス水準
3) それぞれのサービスの要素の洗い出しとそのサービス不履行の定義
4) モニタリングの手法と頻度
5) 不具合や品質低下がモニターされた場合の報告書の内容
6) 不具合や品質低下の減額の度合いや減額の仕組
7) 事業提案の評価基準及び評価水準

結論
PFIの募集要項を開示する段階で上記10で示したような、事業の枠組みを発注者として示し、事業者に、事業者提案及びその提案を評価するための具体的なモニタリングの仕組、モニタリングの結果を支払いに反映させる仕組等を含めたものを提案させ、それを評価することによって始めてリスク移転の仕組を構築することが出来ます。

リスク移転の仕組を構築するためには、事業そのものを分析する必要があります。
事業内容を細かく分析し、事業の要素を洗い出し、それぞれの要素毎に適切なモニタリングの手法と頻度、重要度、修繕許容時間、減額割合等を設定し、事業者提案を想定した上で評価要素や評価基準を設定するのが発注者の役割です。

この役割が十分に出来て初めてリスク移転の仕組を構築する準備が出来ます。

BOTですよと条件設定することは一方的に出来ますが、リスク移転の仕組を構築することは、一方的には出来ません。発注者が事業枠組みを設定し、その枠組み内で事業者に事業提案させセルフコミットさせ、そのセルフコミットを審査して融資させる、そして、その融資条件を発注者が承認するという手順が必要です。この手順が終わって初めて契約締結が出来ることになります。

従って、BOTはメリットを享受するための十分条件とはなりえず、リスク移転の仕組の構築が必要不可欠であることが分かります。

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登録日:2007年 01月 04日 19:24:01

プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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