2007年 06月
*連載 PFI事業導入可能性調査のポイント(下)成功には「当たり前のこと」を確認すべし

2007年(平成19年)5月17日(木) 地方行政
─6段階で6つの管理項目を検証─
前回(5月14日号)は、英国の国家会計監査局(NAO)が示す、最良の選択肢を得るための要素などについて述べた。最終回である今回は、PFI手法の採否を判断するための導入可能性調査の在り方や、VFM(Value For Money=金額に見合う価値)の算定方法について説明する。
導入可能性調査とは一体何か
導入可能性調査とは、「PFIを適用することを検討している事業について、①市場の意見を反映させ、②公共の要求するサービスの品質が確保されつつVFMが生まれると同時に、③民間事業者の得意分野で競争が働き、優れた事業者が利益を生み出す可能性の有無を確認し、④その民間事業者の利益の源泉となる業務委託の適切性を評価するための調査」である。
わが国では「PFI手法ではVFMが出ないことが分かったので、従来型手法で事業を実施することに決定した」という新聞記事をしばしば目にするが、VFMが出る根拠と同様に、VFMが出ない根拠も示されないことが多い。VFMが出る理由、もしくは出ない理由を明らかすることを発注者が求めなかったから明らかにしなかったのか、参照した過去のPFI導入可能性調査でVFMの算定根拠が明らかに示されていなかったから明らかにする必要はないと横並びで判断したのか、それともVFMを算定する術すべを知らなかったのか──その理由は定かではないが、VFMを算定する根拠を示すことができない調査を導入可能性調査と呼ぶことはできないはずである。
導入可能性調査に基づいて事業にPFI手法を導入するかどうかの判断をする以上、VFMの算定根拠を示す必要がある。
それでは、VFMが出るか出ないかは、どのように検証すべきなのであろうか。
導入可能性調査の位置付け
まずVFMを算定する前に導入可能性調査の位置付けについて考えてみる。事業の初期段階で最も重要な点は「事業目的が明確に設定できたかどうか」を検証することである。
前回説明した英国の国家会計監査局(NAO)報告書から作成した図表1(「NAOの適切事業取引監査の視点」5月14日号3㌻)のうち、「A:事業目的を明確にすること」で示した四つの要素を思い出し、注目していただきたい。
第一の要素は「優先度の高い事業に取り組むこと」である。事業を統括する当局はさまざまな施策を実施していると考えられるが、施策に優先順位を付け、優先順位の高いものだけを実施対象として選定することが重要である。
第二の要素は「達成可能な事業結果(注10)の明確化」である。発注者は、求める結果(アウトプット)を表現し、その結果を出すために必要なノウハウにおいて公共セクターよりも民間が優れているものを見つけ出す。その民間のノウハウを使って問題が解決できた場合の便益を暫定的に評価するためには、公共サービスに特有な条件(安定性や公平性)下でも民間事業者のノウハウが発揮できるかどうかを確認する必要がある。
第三の要素は「パートナーシップの最良の形態の設定」である。発注者は、事業の特性を反映した適切な支払いメカニズムを示した上で、事業者のイノベーションを制限する可能性のある条件の理由付けを明確に示す。同様に最も上手にリスクを処理できるものがリスクをとる最適リスク配分を設定しなければならない。
そしてこれらの要素に基づいて第四の「導入可能性調査によるケース分析」を行う。ケース分析には ①目的の明確化、②選択肢の種類と事業特性を考慮したそれぞれの評価結果、③事業スケジュールの概略、④事業提案を評価する分野の検討結果、⑤発注者としての財務上のコミットメント範囲、などが含まれていることが望ましい。
VFMの算定の仕方
VFMは、民間事業者にヒアリングしたら出てくるという単純なものではなく、ある程度の準備をした上で民間事業者にヒアリングしながら導き出すものである。
それではどのような準備が必要であろうか。前述の「NAOの適切事業取引監査の視点」と前回図表4として掲載した「OGC(英国政府取引事務所)のアウトプット仕様書の全体枠組みの事例」をもとにその進め方を説明しよう。
導入可能性調査において最も重要なのは、事業目的を明確にすることである。そのためには、第一に「優先度の高い事業に取り組むこと」が重要である。PFI事業に限らず、事業を推進するための趣意書を記載する場合に最初に必要なのは、「何故そのプロジェクトを実施するかについての背景」を記載することである。この背景に、①事業の歴史や、②ニーズの認識、③放置すると悪化する問題点、④上位計画および、⑤並行して動いている他の施策とのバランス、等を含めると発注者がどのようにその事業に取り組もうとしているかの考え方がよく分かる。
第二に「達成可能な事業結果の明確化」をすることが重要である。この達成可能な事業結果を明らかにする手法が「アウトプット仕様書」である。英国における最近の仕様書の標準化の流れでは、求める結果を「投資に関連する建物関連要求」と、「投資に関連しない支援サービス」の二つに大きく分類してアウトプットで表現する手法が確立されている(注11)。この仕様書を作成する時点で要求水準書の要素を洗い出す段階から、「モニタリングの手法や頻度」の設定に連動させて仕様書を作成することが望ましい。特に、「公共には十分なノウハウがないためできないけれども、民間であればできる可能性のある業務」については、「民間事業者がとれるリスクの範囲を想定しながら要求を設定」していくことが重要である。
第三に、この作業と並行して「リスク分析」を行う。リスクとは「特定の活動に連動した将来の不確実性」を示すものであり、その振れ幅に応じてリスクコストが変動する。導入可能性調査時には、シナリオ分析を用いるのが一般的である。今まで公共の管理下で発生していたコストに関連する事象を民間に管理させた場合にコスト削減につながる要素がある場合には、それがVFMを生み出す要素となる。
第四に「PFI事業が理想的に機能した場合に構築できるであろうパートナーシップの最良の形態を事前に設定する」ことが重要である。ここでは、事業の特性を反映させた支払いメカニズムを検討する必要がある。詳細は後の調達段階で検討するにしても、例えば不具合が生じた場合の緊急対応のレベルを何段階に分けるか、サービスの品質が低下した場合の支払い減額の仕組みをどの程度に設定するかなどを検討しておく。また、民間収益事業を導入できる可能性がある場合には、民間提案を制限しないような条件設定にすることが重要である(注12)。また、最適リスク配分を模索するためにも、ステークホルダー(利害関係者)や専門家を交えて議論する「リスクワークショップ」を開催し、早い段階からリスクを包括的に認識しておくことも必須である。
このような準備をした上で、民間事業者から、概算見積もりをもらったり、VFMを生み出す仕組みについてのヒアリングを実施したりする。この場合、アウトプット仕様書の概要や、リスク分担、モニタリング、減額の仕組みなどを含めて事業の概要をまとめた後で、概算見積もりへの協力と民間ヒアリングを行い、アウトプット仕様書を含めた事業の前提条件の適切性を確認し、必要に応じて前提条件を調整する必要がある。
最後に、「 導入可能性調査の位置付け」の章の最後でも触れた、「導入可能性調査によるケース分析」の留意点について示しておく。発注者である公共サイドは、前記のようなヒアリングなどの結果をまとめ、民間事業者(特定目的会社=SPC=も含む)の見積もり内容やリスクの比較などを行い、VFMを算定し、必要に応じて仕様書の内容、モニタリング、減額の仕組みを見直し、VFMを調整する。導入可能性調査の報告書には、①事業の目的(調査の過程でより明確化したもの)、②選択肢の種類と事業特性を考慮した各選択肢への評価結果、③事業スケジュールの概略、④事業提案評価分野の検討結果、⑤発注者としての財務上のコミットメント(関与・責任)範囲──といった要素も含めることが望ましい。ただし、最も重要なのは、①民間資金を利用することと連動可能な要素から、②従来の事業コストよりも安く、③しかも従来よりも品質の高いサービスを、④確実にする仕組み──の構築が可能であることを報告書によって証明することである。
英国の「PFIプロジェクトの実施を評価するための枠組み」
NAOは、二〇〇六年五月にそれまでのPFIの考え方(前述のPFI事業のVFM評価方式と
同様の考え方)に追加する形で、「PFI事業の実施を評価するための枠組み」を公表した。この事業評価枠組みはプロジェクトを、①戦略分析、②入札、③契約締結、④運営前の業務推進、⑤運営の初期、⑥運営成熟──の六段階に分けると同時に、すべての段階に共通する六つの重要な事業管理テーマを確認をするというものである。ちなみに、六つのテーマ(管理項目)とは、①発注者が求めた通りの事業となっているか、②PFI手法が業務実施の適切なメカニズムであるか、③ステークホルダーが事業推進を支援しているか、④プロジェクト管理の品質は高いか、⑤コスト、品質、柔軟性のバランスは最適か、⑥効果的なリスク配分と管理が行われているか──である。
PFIの導入可能性調査は、①の「戦略分析段階」であるから、この段階で、前述の六つのテーマにどのように取り組んだかを検証することになる。具体的な検証の要素を図表5として示す。この図表5は、縦軸にテーマを置き、横軸に各段階を置いたマトリックス(行列)のうち、「戦略分析段階」だけを示したものである。
ここからVFMは、ブラックボックスから生まれるのではなく、一見当たり前の項目をひとつずつ確認することで、政策的に事業から生み出すものであることが分かる。副次的要素である民間収益事業等はVFM算定に含めないことが望ましい。
おわりに
このように、PFI手法には民間資金を利用することによってVFMを生み出す要素が数多く含まれている。そしてPFI手法の導入可能性を検討する段階から、それらのVFMを生み出す要素を活性化させるための仕組みの構築が求められる。
PFI手法は単なる割賦払いの手法として認識すべきではない。公共事業調達の手法を根本的に転換させるイノベーションやブレークスルーを見つけ出すために、民間事業者にBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング=意欲的かつ測定可能な目標を設定し、それに達する過程をリデザインすることで革新的な効率化とコスト削減を達成すること)を提案させる方法としてとらえ、導入可能性調査段階では、そのイノベーションやブレークスルーを生み出すための「要求水準」と「サービスのモニタリング」と「業績に連動した支払いの仕組み」によって構成される「三位一体の基本的な仕組み」を構築することに焦点を当てる必要がある。この三位一体の基本的な仕組みが構築できたときに、民間事業者へのリスク移転が完成する。世界標準PFIと日本版PFIの一番大きな違いは、この三位一体の有無にある。
要求水準、モニタリング、支払いの仕組みを連動させ、その仕組みの中で、柔軟な運営をすることによって事業の継続改善が可能になる。このPFIの仕組みは、分離分割発注が基本であった外国企業が、日本企業が得意としていたフルターンキー(設計から工事完成までのすべてを請け負う方式)による一括発注を、合理的に、しかも柔軟に遂行するために構築したルールである。ルールを決めずに柔軟に対応する日本のやり方と、ルールを決めて合理的にしかも柔軟に対応する世界標準のどちらを採用するかは発注者の自由である。しかし、政権交代に伴って管轄部署が頻繁にかわる諸外国の公共セクターと、担当者が頻繁にかわるわが国の公共セクターの共通点は多く、ルールが明確で柔軟性のある長期契約を締結することのメリットはわが国でも大きいはずである。
PFI事業のアドバイザーは、PFIが本来生み出すべき付加価値提供のため、世界標準PFIの仕組みを習得し、実行すべきであると筆者は自戒も込めて確信している。読者はいかにお考えであろうか。ご批判を待ちたい。
◇ ◇ ◇ ◇
(注10)NAOの報告書の原文では「Make the project deliverables clear」で「事業を通して達成可能なものを明らかにすること」である。 (注11)「法律文化」07年3月号P46〜p49
(注12)例えば、一階に民間収益施設を入れることが技術的には可能でも、「公共施設だから公共窓口の一階設置が絶対条件」だとすると、本来生み出されるはずの利益が出なくなってしまう可能性があるので留意する必要がある。
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登録日:2007年 06月 17日 00:52:06
*連載 PFI事業導入可能性調査のポイント(中)「達成したい結果」を示す要求水準書がカギ

2007年(平成19年)5月14日(月) 地方行政 掲載
─最良の選択肢を得るための方法─
前回(5月10日号)は、わが国におけるPFI事業導入可能性調査の形骸化問題と、なぜPFIを使うとVFM(Value For Money=金額に見合う価値)が生じるのかというメカニズムについて説明した。今回は、PFI事業における合理的なVFM検証の考え方について述べる。
PFI手法による取引のVFMを検証する方法
PFI手法によって取引を成功させるためには四つの柱が重要であり、そのそれぞれの柱を支える四つの支柱(合計十六の支柱)があると一九九九年の英国の国家会計監査局(NAO)報告書(注5)は説明している(図表1)。この報告書は、VFMの要素を理解することに役立つ。
PFI手法を使った事業取引から最善の結果を生み出すための四つの柱は、A:事業目的を明確化すること、B:適切なプロセスを投入すること、C:最良の選択肢を選定すること、D:事業取引成功を検証すること──である。
その中でも、具体的にNAOが認識している「VFMを生み出す要素」は、Cの第三の柱「数
多くの選択肢から最良の選択肢を選び出す部分」の中に確認できる。
図表1は、「事業取引から最善の結果を生み出す要素」をまとめたものである。この中の第三の柱である「最良の選択肢を選定する」ために、次の四つの要素(NAOの報告書では四つの支柱と呼ばれている)があることが分かる。
C1:適切な範囲の中で解決策を推進しているか
C2:入札の評価要素は適切なものであるか
C3:最も経済的に優れた案を選定しているか
C4:落札案と実際の契約内容の違いをどのように調整したか
これら四つの支柱を具体的に評価する要素を示したものが図表2(4㌻)である。ここにはNAOの認識している「VFMを生み出す二十の要素」が示されている。これらの要素を共通の特性で分類して、多い方から並べ替えると、財務要素が五つ、リスク要素が四つ、建設要素が三つ、運営要素が三つ、その他の要素が三つとなり、財務関連要素とリスク関連要素の数が、建設関連要素および運営関連要素を上回っていることが分かる。
目次や、略語集まで含めて全部で八十㌻あるこの報告書では、これらのVFMの要素を生み出す源泉としてアウトプット仕様書の重要性が述べられている。
アウトプット仕様書とは特定の手法や手段を前提としてその性能を規定する「技術的仕様を示した性能発注」とは異なり、発注者の求める結果(アウトプット)を示し、その結果を達成する手法や手段を自由提案に任せる。ただし、要求する結果が達成できているかどうかの検証方法と、要求する結果が達成できなかった場合の回復基準や不適切な対応を行った場合の減額基準も同時に示す。技術的性能を示してVE提案(コスト削減を目的として手法や手段を見直す事業者提案)を認めるだけでは、その結果をどうやって検証するのか、また、どんな措置をとるかについての基準がないため不十分である。
PFI事業で民間資金を利用するのは、民間提案による事業プロセスの見直しによる効果を公共事業に生かすためである。具体的にNAOは、VFMの確認作業として、「アウトプット仕様書(要求水準書)」「モニタリングシステム」「支払いメカニズム」が適切に連動し、従来公共がとっていたリスクが民間に確実に移転する仕組みが構築されているかどうかを検証する。
わが国のPFI事業におけるVFM検証も、同様の考え方をする必要があるはずだ。
アウトプット仕様書の重要性
VFMを生み出す要素として示されている「アウトプット仕様書」とは、わが国のPFI事業で
用いられている仕様書と同じようなものであろうか。答えは否である(図表3=5㌻、注8)。
世界標準のPFI手法とは官民の長期的なパートナーシップを構築するための手法であり、双方が結果に満足するWIN─WINの関係を構築できるように、飛躍的躍進をもたらすアイデアを利用し、大幅な事業コスト削減が求められる。このアイデアを生み出すために「要求水準書」と「モニタリング」と「業績に応じた支払い機能」を連動させる仕組みが用いられる。そして、この仕組みをうまく機能させるために民間資金とガラス張りの会計システムが必要となる(注6)。
一方、わが国のPFI事業の現状は、「財政状況が苦しいので、従来と同じ施設を従来よりも安いコストで整備したい。しかも、割賦払いで支払いを平準化したい」という要望を満たすために、複数の業界のメンバーにチームをつくらせて競争させ、競争がうまく働けば、発注者のコストが下がるという仕組みであるが、民間資金を利用する必要性は無い。また、このような公共コストが下がれば民間事業者の利益率も下がる「片方が勝てば片方が負けるWIN─LOSEの関係」における交渉では、「ゲーム理論(複数の主体が行う意思決定が相互にどのような影響を与えるかを数理的に研究して、経済・社会現象を説明しようとする理論)」で検証されたように、最適な成果は出せない。
VFMを最大化するためには、信頼関係とWIN─WINという利害の共有化が必要である。
信頼関係を維持するために会計をガラス張りにする。そして、大幅に事業コストを削減することができた場合には、そのコスト削減分を官民で配分し、公共はVFMの向上を達成し、民間は利益を向上させるという考え方でPFI事業を成り立せることが不可欠である。
従来の仕組みを単に改善するだけでは、資金調達コストの増加(調達主体が民間なので公債より金利が高くなる)や、(これまでは不要だった)アドバイザリーコストを上回る利益を生み出すような原資(価値)は生み出せない。飛躍的進歩をもたらすアイデアによる解決方法が現れなければ、公共のコスト削減と民間の収益向上の同時達成が困難であることは明らかである。このような飛躍的進歩に必要なアイデアをもたらす抜本的プロセスの見直しに「アウトプット仕様書に基づく発注方式」(注7)が不可欠なのである。
筆者が過去のデータを整理した結果、このような官民のやり取りの仕組みが完成したのは、二〇〇二年前後であるということが分かった。英国の公共調達に「アウトプット仕様書が最初に導入されたのは一九九一年であるので、仕組みの確立に十年以上かかっているが、当時の最先端事業改善手法であるBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング=事業プロセスを見直し、革新的な効率化とコスト削減を達成する手法)に注目し、「アウトプット仕様書」を調達ガイダンスに組み込んだことは注目に値する。
ルールづくりのうまい英国人は、要求水準策定だけでなく、モニタリングや支払価格調整の仕組構築にも秀でており、この「官民のやり取りの仕組み」は継続改善されている。
仕様書の基本は不変
仕様書の書き方についてのガイダンスも幾度となく書き換えられているが、その基本的な考え方に変更はない。「公共は達成したい結果(アウトプット)を示し、その結果を導き出す提案を民間事業者に出させる」という考え方(注9)である。現在の公共調達のガイドラインを策定しているOGC(Office of Government Commerce=政府取引事務所。財務省管轄下にある調達ガイドラインを整備する機関)は、適切なアウトプット仕様書のひとつの事例として図表4のような全体枠組みを示している。
このアウトプット仕様書の完成したものは、募集要項の一部となって入札の段階で事業者に配られる。アウトプット仕様書の概要は、導入可能性調査の段階で構築されていることが適切であり、アウトプット仕様書の良し悪しによって、事業の成否が左右されてしまうので留意する必要がある。そして、このアウトプット仕様書は、導入可能性調査の段階で概要を固め、意見の招聘や、質疑応答などの手続きを通し、なるべく数多くの利害関係者の意見を反映させながら、入札の募集要項を配布する直前まで改善され続けることが望ましい。
最終回となる次回は、VFMの算定方法などについて述べる。
◇ ◇
(注5)PFI事業のVFMはどうして生まれるかの理由を合理的に検討した文献はわが国では少ないが、英国で出されている報告書にはVFM算出根拠の説明に説得力があるものが多い。中でも、NAOが一九九九年八月に出した、「PFI手法による取引のVFMの検証」と、二〇〇六年五月に出した「PFI事業の実施を評価するための枠組み」という二報告書は、両者の関連性が明確であり、なぜ新しい枠組みの設定が必要であったのか、新しい枠組みによる事業評価によってどのような点が改善されるのかという理由が明記されており理解しやすい。
(注6)PFI事業でSPC(特定目的会社)を設立する目的のひとつは、事業会計をガラス張りにすることで、ゲーム理論における「囚人のジレンマ」から抜け出し、官と民が信頼関係を構築することで最適な均衡点を見つけ出すことである。しかし、わが国では、SPCの会計がガラス張りになっていないためこの機能が働いていない。なお、この「囚人のジレンマ」とは、共犯とされる相手が自白するか黙秘するかで自分の量刑に大きな違いが出るという設定下で、自白(裏切り)と黙秘(協調)という二つの選択肢を与えられた二人の囚人が遭遇するジレンマである。二人とも黙秘すれば合計の量刑が最も軽くなるが、お互いに疑心暗鬼になる。信頼関係のないことがマイナスを招く例であり、経済などの分野でも使われる。
(注7)英国の公共調達に「アウトプット仕様書」が導入されたのは一九九一年の中央購買局(CUP=Central Unit on Procurement)ガイダンスNo.30以降である。このガイダンスでは「機能仕様書」「パフォーマンス仕様書」「技術仕様書」と三分類し、調達側が技術仕様書を示すと、提案内容が制限されるため、「機能仕様書」や「パフォーマンス仕様書」を利用することが望ましいとしている。この時期には、まだ、要求したサービスのモニタリングとその品質評価、および評価結果と支払いを連動させる仕組みの構築等は前提とされていなかった。しかし、その後の英国におけるPFI発展の歴史を見ると、この仕様書の書き方のガイダンスの導入から発注革命がスタートしたと筆者は確信している。「法律文化」 2007年3月号P46~P49、官製市場の開放の歴史と仕様書の発展の歴史⑶東京リーガルマインド㈱を参照されたい。
(注8)前記論文「官製市場の開放の歴史と仕様書の発展の歴史⑶」を参照。
(注9)わが国のPFI事業でしばしば見かけられる「ある手法を前提としてその性能を記載する性能発注」や、「アウトプットを検証することができない仕様書」をアウトプット仕様書と呼ぶことは適切ではない。
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登録日:2007年 06月 13日 21:03:44
*連載 PFI事業導入可能性調査のポイント(上)「新たな価値」の算定根拠を検証すべし
2007年(平成19年)5月10日(木) 地方行政 掲載
─民間資金利用の意義の明確化を─
形骸化する導入可能性調査
民間資金活用による社会資本整備の手法として、わが国においてもPFIはすっかり定着したかのように見える。基本方針が策定された以降に実施方針が策定・公表されたPFI事業数は今年四月九日時点で二百六十五件に上り、これに加えて、現在多くの自治体でさまざまな公共事業に対してPFI手法の検討が進んでいる。PFI事業の対象となっているほとんどの事業が実施する必要性の高い事業であるため、実施するかしないかの検討ではなく、その事業をPFI手法で行うかどうかの検討となっている。この検討のための調査をPFI事業導入可能性調査と呼ぶ。
英国の地方自治体も同様に、概要事業計画(Outline Business Case=OBC)と呼ばれる事業計画を立て、VFM(Value For Money=金額に見合う価値)が生まれているかどうかを検証する。ただし、英国の自治体は、民間資金を使ってVFMを向上させればよいだけではなく、官から民への適切なリスク移転を行うために民間資金が使われれていることの検証(注1)に合格しなければならない。
このリスク移転検証ができない限り民間資金を使う必要性は認められない。英国政府は、地方自治体に対して、PFIクレジットと呼ばれる国の補助金を交付しているため、補助金を交付するに値しない事業計画に対しては、補助金を支給しない。民間資金の利用によってVFMを生み出す根拠である公共リスクの民間移転ができていない案件はPFI事業としては認められないのである。
わが国では、前述のように名目上二百六十五件のPFI事業が進んでおり、日本は英国に次いで二番目にPFI事業数が多い国である。しかしながら、英国のリスク移転検証を適用した場合に、PFI事業として認められる可能性のある事業は皆無に近い。なぜなら、現状では、民間資金を利用することでVFMを生み出す根拠を明確にしないまま、PFI手法の導入が決定されているからである。そして、それには、本来なら最も重要な位置付けであるはずの導入可能性調査が形骸化されていることに原因がある。
公債の方が安上がり
本連載では、PFI手法の導入を決定するために、本来明らかにしなければならない「民間資金を利用することによってVFMを生み出すための要因」とは何であるかについて説明する。
そもそもPFI手法とはNPM(新しい公共管理手法)の一つの手法であり、民間資金を利用することによって、公共のVFMの向上と民間事業者の収益向上を同時に達成する仕組みが不可欠である。民間資金を利用することによって生み出されるバリューがないのであれば、民間資金よりも資金調達コストの安い公債によって調達された資金を使うのが当然だからである。
筆者は、これまで本誌に三回わたってPFIに関連した論文を執筆(注2)した。最初の論文では、「PFI手法の利用者である公共が知っておくべき、英国でPFIが導入された背景」を説明し、二番目の論文では、①世界標準と比較して日本型PFIの方向性がずれた背景、②英国型PFI手法とはどのようなものか、③今後のPFIの進め方を検討するうえで見落とされている論点──を整理した上で、④日英のPFI事業を客観的に比較して、日本型PFIの改善を求めた。そして三番目の論文では、英国型PFIの単なる模倣を提唱するのではなく、わが国のPFI事業を改善するために効果的なPFI事業の根幹となる仕組み導入を提言した。これらは、すべて民間資金を利用することによってVFMを生み出すための仕組みについての説明であり、提言であった。
進化を続ける英国のPFI
最初の論文を掲載してから既に三年が経過したが、今でも英国のPFI手法は、日々継続進化を遂げている。例えば、一般的なPFIのリスク分担に基づくPFI契約の標準化が公表されており、数多くの技術解説書や、分野別(道路、病院、学校、公営住宅、レジャー施設、街灯等)のガイダンス等、体系的にPFIを進めるためのガイダンス(注3)が整備されてきた。そして、これらの英国のPFIの流れを受けて発展したオーストラリアのPFIのガイドラインとともに、世界標準になりつつある。特に英国財務省が発行したPFI契約の標準化の第四版(SoPC4:ソプシーフォーと読む)が本年三月末に公表され、PFI事業に関係する世界中のプロフェッショナル(アドバイザーや弁護士のみならず、発注者、事業者、金融機関を含む)が利用し始めたところである。
一方、わが国では、あえて世界標準の流れに逆らうかのように、「わが国のPFIは特殊である」と言って、日本版PFIという名称まで出来ており、その手法を推進している日本版PFIアドバイザーがいる。世界で標準化されつつあるPFIの手法を十分に理解した上で、わが国の特殊性を加味させてPFI手法を構築するのであれば、それを「日本版PFI」と呼ぶことに異論は無い。しかしながら、「いわゆる日本版PFI手法」は、世界標準では禁止されている手法のオンパレードであり、根拠なしにVFMを提示したり、リスク移転のない割賦型の支払い方法を推進したりしている。最近の、民間資金さえ利用しないPFI手法の登場に到っては、PFIという名称を使うことがナンセンスであると考えているのは筆者だけではないはずだ。
まかり通る「根拠なき結論」
先日、ある自治体を訪問した際に、PFI手法の導入が決まったばかりの事業担当者とお話をする機会があった。その時、導入可能性調査の内容について尋ねたところ、そこでも根拠の無いVFM算定が行われていたことが分かった。その事業の導入可能性調査を行ったコンサルタントは、「施設の事業規模と活動の概要を示した上で、PFI事業にするとどのくらいコストが下がるかを民間事業者にヒアリングしたところ、10%程度のVFMが生まれることが分かった」という結論を出したらしい。ところが、民間事業者がPFI事業にするとコストが下がると返答した根拠が、何であったかは示していないという。これでは導入可能性調査とは呼べないはずだ。
例えば、仕様(スペック)のレベルを下げればコストが下がるのは当たり前であるので、もしそのコスト削減がスペックダウンによって算定されたものであったならば、それはPFI手法によるコスト削減ではない。そもそも、民間資金を利用することと、スペックダウンしてコストを下げることの間には相関関係は無いからである。
PFI事業を初めて担当するその自治体の担当者も、導入可能性調査でVFMが出る要因として明確な根拠が示されていなかったのでアドバイザーに尋ねてみたところ、「これが一般的な根拠の出し方である」と他の自治体の事例を見せられたそうで、深追いできなかったらしい。このような対応をするアドバイザーも問題であるが、根拠の無い調査結果に基づいて巨額の民間資金を使うことは適切ではないことを発注者として理解しておく必要がある。
また、これは、私自身が検証したことではないが、ある自治体のPFI担当者によると、二十件以上の地方自治体の導入可能性調査報告書に目を通したところ、納得のいくVFM算定根拠を示している導入可能性調査がほとんどなかったという。最も多いパターンが、「合理的なコスト削減の要素を提示しないまま、民間事業者に対するヒアリングの結果、『コストが下がる』という結論が出た」であるらしい。しかも、明確な根拠が示されていないことはPFI担当者にとっても、アドバイザーにとっても周知の事実であるとも言われている。何故、コストが下がる要因を発注者もコンサルタントも突き詰めようとしないのか不思議である。まるで、「PFIというマジックボックス」を通過すればVFMが生まれるか、PFIという「打ち出の小槌」を利用すればVFMが生まれると関係者がすべて妄信しているようである。
さて、このような由々しき状態が数多くの自治体で発生していることに鑑み、本連載では、PFI事業を導入するという重大な決定をするために用いられているVFMの算定の仕方はどのようなものであるべきかを明らかにしていきたい。
VFMは何故生まれるのか
民間資金を利用したPFI事業でVFMが生まれる理由に、大規模公共事業から巨大赤字が発生するリスクを民間に移転できるという要素がある。従来の公共セクターの事業計画は大規模になればなるほど楽観的となり、事業破綻してしまうリスクを含んでいた。先日、特殊法人の独立行政法人移行時に十二兆円もの税金による穴埋めがあったとの新聞報道があったが、これは楽観的な事業計画から生まれたリスクが顕在化し、それらが積み
上げられた結果であろう。
このような今まで発注者が取っていたリスクを事業者に移管する過程で、事業者は業務のプロセスを見直し、リスクそのものを排除したり緩和したりすることによって、総事業費も削減する。このコスト削減額を官民でシェアできるので、投資コストも削減できる。一般的にとらえられているVFMとはこのコスト削減部分である。
言い換えると、官から民へのリスク移転の過程で従来の事業プロセスを見直し、新しい解決手法(イノベーション)や飛躍的な発想による解決方法(ブレークスルー)の導入で大幅に総事業コストを改善できる。しかも、その提案が機能するかどうかを金融機関に精査させ、融資リスクとして取らせることで大規模事業失敗の場合でも官の側に巨大赤字が残るリスクを排除できるのである。
英国などのPFI手法では、こうした考え方に、サービス品質の評価を組み合わせている。そのため、事業が成功し、コストも安くなり、しかもサービスの品質を向上できるという理想的なPFI事業が構築できる。サービスの品質を評価するには、発注する段階で客観的・合理的なモニタリング手法を設定し、約束通りの業績(パフォーマンス)が出ない場合には、そのモニタリング結果に基づいて客観的・合理的に、事業者への支払いを減額する仕組み(品質評価の結果を支払いに連動する仕組み=注4)を用いる。
ここで留意すべきは、PFI事業特有のVFMは、少なくとも、公共調達上、公共がその気になれば実施できる「分離分割発注を一括発注にすること」や「品質を下げてコストを下げたり、人件費を下げてサービス料金を下げたりすること」から生み出されるものではないという点である。なぜならそれらは民間資金の利用とは関連していないからである。このような一般的な業務改善は、単なる業務改善として実施すればよいのであり、PFI事業がVFMを生み出す仕組みと混同してはならない。
特に、民間委託で削減できる人件費をPFI事業がVFMを生み出す要素としてとらえることは慎む必要がある。もちろん、合理的な業務改善に伴う業務(人員)シフトは奨励されるべきであり、高い給与と単純労働を既得権として容認することが適切ではないことは言うまでもない。
発注者である公共のPFI担当者が導入可能性調査のアドバイザーを選定する場合、単に過去のPFI導入可能性調査やPFI事業契約における実績を評価することは適切ではない。そのアドバイザーがPFI事業において「民間資金を使ってVFMを生み出す仕組みの構築」にどのように貢献してきたかを評価することが望ましい。民間資金を使っていてもVFMを生み出す仕組みを構築できなかったアドバイザリーサービスの〝実績〟は、かえってマイナス要素として評価すべきである。このように、コンサルタントのPFIアドバイザリー実績の品質をきちんと評価するためには、発注者である公共サイドが、PFI事業のVFMが何故生まれるかの理由を合理的に理解しておく必要がある。
次回はVFMが出るかどうかを検証する方法や、アウトプット仕様書の重要性について解説する。
◇ ◇
(注1)英国には、補助金を出すことを承認する財務省(Treasury)が議長となり、地方自治体の監督省庁である「コミュニティー・地方自治省」と、事業管轄省庁、および地方自治体のPFI支援を行う組織(4Ps)の代表者によって構成されるProject Review Group(PRG)と呼ばれる組織がある。PRGは、国家として補助金を出すに値する形で民間資金が利用されているかどうかを二段階評価する。第一段階では導入可能性調査に該当するOBCに基づいて評価し、第二段階では事業契約に基づいて評価する。民間資金を利用することによってVFMが生み出せるような仕組み(要求水準、モニタリング、業績連動支払い、を三位一体に機能させる仕組み)が構築され、リスク移転されていることを検証する。
(注2)「英国でのPFI誕生の背景とその導入の意義」(2004年2月9日号)、「PFI事業のあるべき姿」(わが国のPFI事業と英国のPFI事業の仕組みを比較した論文、2004年3月1日〜11日の四回連載)、「日本型PFI改善
の具体策」(どのような仕組みをわが国のPFI事業に組み込むべきかについて提言した論文 2004年8月2日〜30日の六回連載)の三つ。
(注3)これらのガイドラインは、二〇〇五年度末までに一度公表されたが、二〇〇六年一月の公共調達手法に導入された競争的対話方式の仕組みを組み込んで改善されている最中である。学校のガイドライン等既に改定作業が終わった一部のガイドラインについては公表されている。
(注4)サービスの品質を客観的に評価して支払い額に結び付けることで、品質向上のインセンティブを事業者に与える目的で考え出された。外部委託や民営化した公共サービスの品質をコントロールできなくなったサッチャー政権において、サービス品質確保のために編み出したシステムであり、一九九〇年ぐらいから改善が始まり、現在の仕組みに到達したのは二〇〇二年前後である。
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登録日:2007年 06月 12日 21:08:54
- プロフィール

- Hiroshi Kumagae
- (男)
- 1959年05月06日
- アビーム コンサルティング㈱ ディレクター
- 著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
- ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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