所論緒論/株式会社の学校設立の解禁に伴うサービスの品質低下の危険性 日刊建設工業新聞 070210

求められるサッチャー政権での失敗のフィードバック
構造改革特区推進本部の下にある有識者評価委員会で「構造改革特区で認めた規制緩和について全国展開できるかどうかを検討することになっており、株式会社の学校設立の解禁や、校舎やグラウンドなどの自己所有を義務付ける通知を見直すという。この手法は、発注者にとっては制度の見直しだけで済む安易なものであって、サッチャー政権時の民営化手法と類似している。サッチャー政権での民営化手法では、サービスの品質が管理できなかったことから、わが国においてもこの手法では公共支出の削減とサービスの品質の改善の同時達成がうまくいかない可能性があるので留意する必要がある。

サッチャー政権では、まず民営化可能な公共事業は民営化し、官民の競争によって公共支出の削減とサービスの品質の向上を同時に達成しようとした。しかしながら、短期的なコストの削減は達成することができたものの、民営化するために民間に事業運営の独立性を持たせたことから、サービスの品質を管理することができなくなった。サービスの品質が落ちるのであれば、コストが削減されるのは当たり前であることから、サービスの品質を管理するための改善が求められた。このサッチャー政権の民営化の失敗を是正した手法がメジャー政権時代に導入されたサービスの品質を管理する仕組みを組み込んだPFI手法である。このPFI手法は、わが国の施設整備費の割賦払い型のPFI手法とは異なり、施設を所有する民間は公共が求めるサービス水準を満たした場合にのみ、契約で合意した施設提供のサービス料金を受け取ることができる「(官から民への)リスク移転型PFI手法」である。そのため、サービス水準を満たすことができない場合には、民間はサービス料金を受け取ることができなくなり、施設整備費を回収することさえできなくなる。ただし、サービスの品質を評価する手法は公共が提示した事業枠組みに基づいて事業者が設定するものであるため品質管理可能な指標が設定されており、しかも、その事業安定性は金融機関によって精査されることから、民間への無理なリスク移転にはなっていない。

現在、わが国が検討しようとしている校舎やグラウンドの所有の義務付けを見直すことによって、民間事業者の教育事業参入を促進する方法は、サッチャー政権でおこなわれた民営化と同様に民間の事業運営の独立性を認めている。言い換えると、公共がサービスの品質を管理する事業枠組みを設定していない。このような方法を導入すると、サッチャー政権で起きたように公共サービスの品質を管理できなくなる可能性が高くなる。過去の失敗をいたずらに繰り返すのは税金の無駄遣いであるので、サッチャー政権での失敗のフィードバックをする必要がある。

NPM(新しい公共管理手法)の世界的な潮流は、民営化ではなく、校舎やグラウンドなど学校運営の主体が自己所有することを見直し、施設の維持管理を得意とする民間事業者に公共施設を所有させ、適切な維持管理をすることによってサービスの品質を向上させるというものである。そして、このような公立の学校の施設運営を委託するためには、「株式会社に初期投資させ施設に関連したリスクを移転することによって公共支出を削減しサービスの品質を向上させる手法」が有効であることが実証されている。

世界中の公共セクターが、世界中のベストプラクティスを参照して事業改善の努力をしている。わが国においても同様に、海外の公共セクターにおけるNPMのベストプラクティスを参照して、NPMを改善するための検討をおこなうよう有識者評価委員会に要望する。

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登録日:2007年 03月 27日 22:26:36

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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