所論緒論/札幌市・新定時制高校PFI事業、応募者なし 日刊建設工業新聞 07年3月7日

談合問題に起因する過大な事業者リスク負担で成り立たなくなるPFI事業

<入札不成立の理由の誤解:>
札幌市の新定時制高校PFI事業に応募者がなかった。
「市の計画課は、その理由を“企業の間では、予定価格の安さや事業期間の長さ、違約金の高さへの懸念が強く、『大きな利益が見込めないのにリスクが高いと判断されたから』”と認識しており、『市教委はその対応策として事業期間の短縮など条件を緩和して再募集する方向で調整している』と報道された。この報道内容の真偽確認は行っていないが、事業者が指摘しているリスクは、少なくとも事業期間が長いことから生じる大規模修繕リスクではない。

<札幌市だけではないPFI事業の入札不成立:>
公表されているPFI関連資料を読み込んだ上で、民間事業者およびいくつかの自治体にヒアリングしてみたところ、この基本協定書の条件が理由でPFI事業入札が成立しない問題は、札幌市だけでなく、ほかの市でも発生していることが分かった。
事業者が嫌っているリスクとは、基本協定書の中にある違約金の額が大きすぎる点である。

<基本協定書の談合防止条項に絡む入札不成立問題:>
基本協定書の違約金条項は、談合問題が発覚した以降に導入されたらしく、複数の自治体で共通して二つの違約金が規定されている。ひとつは、「当該事業で談合等の不正を働いた場合の違約金(当該事業談合ペナルティ)」であり、もうひとつは「当該事業に関係なく、事業者事由により契約締結できなかった場合の違約金(一般契約不成立ペナルティ)」である。事業者から当該事業の談合ペナルティが高すぎるというコメントはあるが、この条項が入札を取りやめる理由になるとの指摘は無い。入札不成立の原因となっているのは、一般契約不成立ペナルティである。このリスクは事業者としてコントロールしきれないという。
さらに、これらの協定書には、違約金問題以外にも共通している不合理な点がある。それは、「協定書の締結目的」は、「契約が締結されるまでの市及び事業者の双方の義務について定める」ものと規定されており、しかも「実際に、首長交代や、議会の承認が得られない為に契約締結できなかった例が過去にあった」にもかかわらず、発注者側の理由で契約締結できなかった場合の違約金について触れられていない点である。

<札幌市はどのような対処を取るべきか:>
当該事業では、民間事業者の基本協定書に関する全ての意見書が違約金の削除を求めた。また、基本協定書に関する質疑応答でも、23の質問のうち18(約8割)は、この違約金に関連するものであった。特に、一般契約不成立ペナルティは原因特定が難しく、入札額の10%にもおよぶ違約金を払うという条件は事業者として飲めないという明確な意思表示が見て取れた。
解決策の展望がありそうなのは、基本協定書に関する質疑応答の中で「10%」としていた違約金を「10%を限度として」と市が緩和した点である。一般に、大規模事業で契約締結に時間がかかる場合、作業を止める訳にはいかないので、契約当事者が、「お互いの契約締結の意思を示す同意書(基本協定書に該当するLOI : Letter of Intent)」を結ぶ。海外のPFI事業でも、公共である以上、議会の承認が得られなければ契約を締結できないし、民間事業者も取締役会の承認を得られなければ契約を締結することが出来ないためLOIを結ぶ。何らかの理由により契約締結出来ない場合には、契約不締結の原因となった側が、事前に合意した違約金を支払うか、もしくは、それまでかかった相手の費用を実費精算で負担する。契約締結できなくなる可能性はお互い様であり、ここには一方的なペナルティの発想は無い。札幌市の再募集では、是非この考え方を用いてもらいたい。

<その他の問題点:>
最後に、今回の紙面の関係上、詳しくは述べないが、当該事業は、PSC算定根拠問題や、修繕リスク分担問題等、基本協定書問題以外にも、さまざまな問題を抱えていると思われる。圧巻なのは、当該事業は市が市債で資金を調達して、施設整備後に市がゼネコンに施設整備費を一括支払いするため、民間資金が必要ない点である。民間資金を利用としないのに何故PFI事業と呼ぶのか理解に苦しむのは私だけではないはずだ。

カテゴリー[ 所論緒論 ], コメント[1], トラックバック[0]
登録日:2007年 03月 27日 22:29:48

コメント

私もひじょ~に疑問に思います、この民間資金の不要なPFI。
いわば、よく言われるところのプロポーザルに維持管理がくっついているような調達案件にしか見えません。
どのあたりがPFIなのか?
もっと幅広い概念を持って、この事業を眺めるべきものか?
質問回答なども読んではみたものの、ヒントを見つけることができませんでした。
談合による違約については(10%という割合が妥当かは別として)まだ解りますが、一般契約不成立のペナルティを考えると、『ホントにやる気があるのかな?札幌市?』と勘繰らずにいれません。
普通、あまりに怖過ぎて参加できませんよね、誰ひとりとして。
このPFI?は、どのような意図の下でGOサインがでたものなのか?
いまだに疑問です。

北の誉 @ 2007年 05月 19日 01:55:25

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
最近のトラックバック
検索