*連載 PFI事業導入可能性調査のポイント(下)成功には「当たり前のこと」を確認すべし

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2007年(平成19年)5月17日(木) 地方行政
─6段階で6つの管理項目を検証─

前回(5月14日号)は、英国の国家会計監査局(NAO)が示す、最良の選択肢を得るための要素などについて述べた。最終回である今回は、PFI手法の採否を判断するための導入可能性調査の在り方や、VFM(Value For Money=金額に見合う価値)の算定方法について説明する。

導入可能性調査とは一体何か
 導入可能性調査とは、「PFIを適用することを検討している事業について、①市場の意見を反映させ、②公共の要求するサービスの品質が確保されつつVFMが生まれると同時に、③民間事業者の得意分野で競争が働き、優れた事業者が利益を生み出す可能性の有無を確認し、④その民間事業者の利益の源泉となる業務委託の適切性を評価するための調査」である。
 わが国では「PFI手法ではVFMが出ないことが分かったので、従来型手法で事業を実施することに決定した」という新聞記事をしばしば目にするが、VFMが出る根拠と同様に、VFMが出ない根拠も示されないことが多い。VFMが出る理由、もしくは出ない理由を明らかすることを発注者が求めなかったから明らかにしなかったのか、参照した過去のPFI導入可能性調査でVFMの算定根拠が明らかに示されていなかったから明らかにする必要はないと横並びで判断したのか、それともVFMを算定する術すべを知らなかったのか──その理由は定かではないが、VFMを算定する根拠を示すことができない調査を導入可能性調査と呼ぶことはできないはずである。
 導入可能性調査に基づいて事業にPFI手法を導入するかどうかの判断をする以上、VFMの算定根拠を示す必要がある。
 それでは、VFMが出るか出ないかは、どのように検証すべきなのであろうか。
 
導入可能性調査の位置付け
 まずVFMを算定する前に導入可能性調査の位置付けについて考えてみる。事業の初期段階で最も重要な点は「事業目的が明確に設定できたかどうか」を検証することである。
 前回説明した英国の国家会計監査局(NAO)報告書から作成した図表1(「NAOの適切事業取引監査の視点」5月14日号3㌻)のうち、「A:事業目的を明確にすること」で示した四つの要素を思い出し、注目していただきたい。
 第一の要素は「優先度の高い事業に取り組むこと」である。事業を統括する当局はさまざまな施策を実施していると考えられるが、施策に優先順位を付け、優先順位の高いものだけを実施対象として選定することが重要である。
 第二の要素は「達成可能な事業結果(注10)の明確化」である。発注者は、求める結果(アウトプット)を表現し、その結果を出すために必要なノウハウにおいて公共セクターよりも民間が優れているものを見つけ出す。その民間のノウハウを使って問題が解決できた場合の便益を暫定的に評価するためには、公共サービスに特有な条件(安定性や公平性)下でも民間事業者のノウハウが発揮できるかどうかを確認する必要がある。

第三の要素は「パートナーシップの最良の形態の設定」である。発注者は、事業の特性を反映した適切な支払いメカニズムを示した上で、事業者のイノベーションを制限する可能性のある条件の理由付けを明確に示す。同様に最も上手にリスクを処理できるものがリスクをとる最適リスク配分を設定しなければならない。
 そしてこれらの要素に基づいて第四の「導入可能性調査によるケース分析」を行う。ケース分析には ①目的の明確化、②選択肢の種類と事業特性を考慮したそれぞれの評価結果、③事業スケジュールの概略、④事業提案を評価する分野の検討結果、⑤発注者としての財務上のコミットメント範囲、などが含まれていることが望ましい。
 
VFMの算定の仕方
 VFMは、民間事業者にヒアリングしたら出てくるという単純なものではなく、ある程度の準備をした上で民間事業者にヒアリングしながら導き出すものである。
 それではどのような準備が必要であろうか。前述の「NAOの適切事業取引監査の視点」と前回図表4として掲載した「OGC(英国政府取引事務所)のアウトプット仕様書の全体枠組みの事例」をもとにその進め方を説明しよう。
 導入可能性調査において最も重要なのは、事業目的を明確にすることである。そのためには、第一に「優先度の高い事業に取り組むこと」が重要である。PFI事業に限らず、事業を推進するための趣意書を記載する場合に最初に必要なのは、「何故そのプロジェクトを実施するかについての背景」を記載することである。この背景に、①事業の歴史や、②ニーズの認識、③放置すると悪化する問題点、④上位計画および、⑤並行して動いている他の施策とのバランス、等を含めると発注者がどのようにその事業に取り組もうとしているかの考え方がよく分かる。
 第二に「達成可能な事業結果の明確化」をすることが重要である。この達成可能な事業結果を明らかにする手法が「アウトプット仕様書」である。英国における最近の仕様書の標準化の流れでは、求める結果を「投資に関連する建物関連要求」と、「投資に関連しない支援サービス」の二つに大きく分類してアウトプットで表現する手法が確立されている(注11)。この仕様書を作成する時点で要求水準書の要素を洗い出す段階から、「モニタリングの手法や頻度」の設定に連動させて仕様書を作成することが望ましい。特に、「公共には十分なノウハウがないためできないけれども、民間であればできる可能性のある業務」については、「民間事業者がとれるリスクの範囲を想定しながら要求を設定」していくことが重要である。
 第三に、この作業と並行して「リスク分析」を行う。リスクとは「特定の活動に連動した将来の不確実性」を示すものであり、その振れ幅に応じてリスクコストが変動する。導入可能性調査時には、シナリオ分析を用いるのが一般的である。今まで公共の管理下で発生していたコストに関連する事象を民間に管理させた場合にコスト削減につながる要素がある場合には、それがVFMを生み出す要素となる。
 第四に「PFI事業が理想的に機能した場合に構築できるであろうパートナーシップの最良の形態を事前に設定する」ことが重要である。ここでは、事業の特性を反映させた支払いメカニズムを検討する必要がある。詳細は後の調達段階で検討するにしても、例えば不具合が生じた場合の緊急対応のレベルを何段階に分けるか、サービスの品質が低下した場合の支払い減額の仕組みをどの程度に設定するかなどを検討しておく。また、民間収益事業を導入できる可能性がある場合には、民間提案を制限しないような条件設定にすることが重要である(注12)。また、最適リスク配分を模索するためにも、ステークホルダー(利害関係者)や専門家を交えて議論する「リスクワークショップ」を開催し、早い段階からリスクを包括的に認識しておくことも必須である。
 このような準備をした上で、民間事業者から、概算見積もりをもらったり、VFMを生み出す仕組みについてのヒアリングを実施したりする。この場合、アウトプット仕様書の概要や、リスク分担、モニタリング、減額の仕組みなどを含めて事業の概要をまとめた後で、概算見積もりへの協力と民間ヒアリングを行い、アウトプット仕様書を含めた事業の前提条件の適切性を確認し、必要に応じて前提条件を調整する必要がある。
 最後に、「 導入可能性調査の位置付け」の章の最後でも触れた、「導入可能性調査によるケース分析」の留意点について示しておく。発注者である公共サイドは、前記のようなヒアリングなどの結果をまとめ、民間事業者(特定目的会社=SPC=も含む)の見積もり内容やリスクの比較などを行い、VFMを算定し、必要に応じて仕様書の内容、モニタリング、減額の仕組みを見直し、VFMを調整する。導入可能性調査の報告書には、①事業の目的(調査の過程でより明確化したもの)、②選択肢の種類と事業特性を考慮した各選択肢への評価結果、③事業スケジュールの概略、④事業提案評価分野の検討結果、⑤発注者としての財務上のコミットメント(関与・責任)範囲──といった要素も含めることが望ましい。ただし、最も重要なのは、①民間資金を利用することと連動可能な要素から、②従来の事業コストよりも安く、③しかも従来よりも品質の高いサービスを、④確実にする仕組み──の構築が可能であることを報告書によって証明することである。

英国の「PFIプロジェクトの実施を評価するための枠組み」
 NAOは、二〇〇六年五月にそれまでのPFIの考え方(前述のPFI事業のVFM評価方式と
同様の考え方)に追加する形で、「PFI事業の実施を評価するための枠組み」を公表した。この事業評価枠組みはプロジェクトを、①戦略分析、②入札、③契約締結、④運営前の業務推進、⑤運営の初期、⑥運営成熟──の六段階に分けると同時に、すべての段階に共通する六つの重要な事業管理テーマを確認をするというものである。ちなみに、六つのテーマ(管理項目)とは、①発注者が求めた通りの事業となっているか、②PFI手法が業務実施の適切なメカニズムであるか、③ステークホルダーが事業推進を支援しているか、④プロジェクト管理の品質は高いか、⑤コスト、品質、柔軟性のバランスは最適か、⑥効果的なリスク配分と管理が行われているか──である。
 PFIの導入可能性調査は、①の「戦略分析段階」であるから、この段階で、前述の六つのテーマにどのように取り組んだかを検証することになる。具体的な検証の要素を図表5として示す。この図表5は、縦軸にテーマを置き、横軸に各段階を置いたマトリックス(行列)のうち、「戦略分析段階」だけを示したものである。
 ここからVFMは、ブラックボックスから生まれるのではなく、一見当たり前の項目をひとつずつ確認することで、政策的に事業から生み出すものであることが分かる。副次的要素である民間収益事業等はVFM算定に含めないことが望ましい。

おわりに
 このように、PFI手法には民間資金を利用することによってVFMを生み出す要素が数多く含まれている。そしてPFI手法の導入可能性を検討する段階から、それらのVFMを生み出す要素を活性化させるための仕組みの構築が求められる。
 PFI手法は単なる割賦払いの手法として認識すべきではない。公共事業調達の手法を根本的に転換させるイノベーションやブレークスルーを見つけ出すために、民間事業者にBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング=意欲的かつ測定可能な目標を設定し、それに達する過程をリデザインすることで革新的な効率化とコスト削減を達成すること)を提案させる方法としてとらえ、導入可能性調査段階では、そのイノベーションやブレークスルーを生み出すための「要求水準」と「サービスのモニタリング」と「業績に連動した支払いの仕組み」によって構成される「三位一体の基本的な仕組み」を構築することに焦点を当てる必要がある。この三位一体の基本的な仕組みが構築できたときに、民間事業者へのリスク移転が完成する。世界標準PFIと日本版PFIの一番大きな違いは、この三位一体の有無にある。
 要求水準、モニタリング、支払いの仕組みを連動させ、その仕組みの中で、柔軟な運営をすることによって事業の継続改善が可能になる。このPFIの仕組みは、分離分割発注が基本であった外国企業が、日本企業が得意としていたフルターンキー(設計から工事完成までのすべてを請け負う方式)による一括発注を、合理的に、しかも柔軟に遂行するために構築したルールである。ルールを決めずに柔軟に対応する日本のやり方と、ルールを決めて合理的にしかも柔軟に対応する世界標準のどちらを採用するかは発注者の自由である。しかし、政権交代に伴って管轄部署が頻繁にかわる諸外国の公共セクターと、担当者が頻繁にかわるわが国の公共セクターの共通点は多く、ルールが明確で柔軟性のある長期契約を締結することのメリットはわが国でも大きいはずである。
 PFI事業のアドバイザーは、PFIが本来生み出すべき付加価値提供のため、世界標準PFIの仕組みを習得し、実行すべきであると筆者は自戒も込めて確信している。読者はいかにお考えであろうか。ご批判を待ちたい。
       ◇      ◇       ◇      ◇
 (注10)NAOの報告書の原文では「Make the project deliverables clear」で「事業を通して達成可能なものを明らかにすること」である。 (注11)「法律文化」07年3月号P46〜p49
 (注12)例えば、一階に民間収益施設を入れることが技術的には可能でも、「公共施設だから公共窓口の一階設置が絶対条件」だとすると、本来生み出されるはずの利益が出なくなってしまう可能性があるので留意する必要がある。

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登録日:2007年 06月 17日 00:52:06

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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