わが国における官製市場開放について(1回目) 東京LEC 法律文化 06年9月号掲載に加筆
改善だけでは不十分! 改革が必要な官民協働事業
はじめに
第1回目は、官民協働事業の現状の概要把握を行う。具体的には、国内外の官製市場開放の流れを比較し、その違いを明らかにすることによって全体像を把握したい。
世界の官民協働事業の進展状況
まず、筆者自身の英国での体験を紹介する。筆者が英国でPFI業務に関与したのは1998年であったが、当時はブレア政権になってから既に1年経過していた頃であった。当時官民協働事業に関連するガイドラインは入手困難であり、しかも、英国の公共調達ガイドラインは英国内の利害関係者のためだけのものであった。ところが2000年ぐらいから、過去のガイドラインを含めて公共調達に関連するガイドラインがインターネットで公表され始め、英国のガイドラインの影響を受けたオーストラリアやニュージーランドなどの英語を母国語とした公共改革先進国のガイドラインとともに瞬く間に世界標準へとなっていった。
1999年当時、親しくなったPFI事業に関与する複数の英国人弁護士からPFI契約の標準化に関して関係者の間で回覧見直しされていた草稿(現在のSoPC:Standardisation of PFI Contracts)を入手したが、受け取るたびにその厚さが増していったことが記憶に残っている。現在、英国では会社法改定草案(Company law reform Bill)が策定されているが、すでに何回かの書き直しが行われており、改善されるたびに厚さが増しているのを見ると当時を思い起こす。(2006年11月8日付でThe Companies Act 2006として成立(追記))
アジア・太平洋諸国における官民協働事業にはさまざま要素があるため、各国の官民協働事業の進捗状況を客観的に比較することは困難だが、上記の公共改革先進諸国の英文で記載されたガイドラインをバイブルにしている国と、これらのガイドラインには頼らず独自の考え方で公共改革を進めている国の二つに大きく分類できる。調査を行って検証したわけではないが、わが国と台湾とタイを除いたアジア諸国は前者である。これらの国では公共セクターの官僚になるために英語教育を受けることが必須になっていることが多く、また、英国もしくはオーストラリアから経験のあるアドバイザーを受け入れている。そのため、英語を母国語とした公共改革先進国のガイドラインがインターネット上で公表されると同時に、これらの実績のあるアドバイザーが標準ガイドラインとして共有するため、タイムラグ無しにこのような最新情報がバイブルとなって公共改革が進められている。この事実は、当該国の公務員やアドバイザーとの会話から確認できる。ところが、わが国では、他のアジア諸国では一般的になっている先進的な官民協働の考え方が普及していない。(なお、2007年7月に内閣府が公表した「PPP Web Tokyo Conference 2007」に、わが国のPFIの仕組が、標準化された諸外国のPFIの仕組とは異なっていることが記載されている。(追記))
改善と改革の違い
現在の世界標準の官民協働事業の基本理念が「官民の持続可能なパートナーシップの構築」であることに疑いの余地はなく、これは、「発注者である官」と「請け負い業者である民」の関係からの改革である。
ブレア政権発足当時は、この官民のパートナーシップによる公共事業改革は、保守党のサッチャー・メジャー政権の政策を踏襲したと論じられることもあったが、現在では、「公共コストを削減するために民間に徹底して競争させた保守党の考え方」と、「官民が持続可能なパートナーシップを構築するために協働するという新労働党考え方」には、改善と改革という大きな違いがあったことが明らかになっている。この違いは、ブレア政権のブレーンであるアンソニー・ギデンスの提唱する「第三の道」の政治から生まれたものであると考えられる。
「公共コスト削減のために民間競争をさせる」手法は、改善手法であり、その前提として基本的に従来のやり方はそのままにして、従来のやり方のコストを下げるという目標を設定する。これに対して、「官民の持続可能なパートナーシップ構築」は、根本的な部分から見直しを行う改革であり、コスト削減が前提となって設定された目標である。そのため、従来のやり方によってコストを下げることに限定する必要がなくなり、最もコストパフォーマンスの高い手法を見つけ出すという選択肢の選定が可能になる。また、改善の場合は改善結果についてのリスクを民間に移転することは困難であるが、改革の場合は改革提案を民間に提示させることにより、パフォーマンスが出ないリスクを提案者である民間に移転できる。この官から民へのリスク移転が民間資金を使うことによって得られる新たなメリットである。
わが国の改革の遅れと官民のサービス品質格差
わが国では、この改善から改革へのパラダイムシフトについて深く論じられてはおらず、「公共コスト削減のために民間競争をさせる仕組み」と「官民の持続可能なパートナーシップ構築のための仕組み」をどちらも財政改革の手法であるとして一緒に論じる風潮がある。民間企業は市場競争にさらされているので、勝ち残るためには図表1のように業務改革によるサービスの向上が求められる。これに対して、競争意識の低い公共では既存のシステムを壊しかねない改革を嫌うリスク回避癖があり、財政悪化に伴いITを中心とした改革導入が遅れており、図表2のように業務効率化の遅延と、過去の公共サービスレベルからアップグレードすることの遅延につながっている。すなわち、過去のレガシーシステムの改善だけでは社会の技術変革に対応することは困難であり、前述した改革提案を民間に任せれば得られる可能性のあるサービス向上のメリットを得ることができないので、優良民間企業 とのサービス品質の格差が広がっているのである。
英国の官民共同事業の最新動向
最後に、EU指令 に基づく英国の官民協働事業は今後のわが国のパラダイムシフトのための参照に値するので、この動向について少し触れておこう。詳細はここでは触れないが 、EUでは公共調達の仕組みの見直しに関してのEU指令が2004年に発令されており、それに基づき、英国では公共調達条例が本年1月末に施行された。この法改正により、いままで分かれていた物品調達、サービス調達、工事発注が一本化され、民間事業者にアウトプット達成の手段を提示させるために公共が機能やパフォーマンスを示す仕様書(パフォーマンス仕様書)の利用が促進された。このパフォーマンス仕様書によって、民間のノウハウを利用する仕様変更提案を認めた時に、物品購入を意図していたのに事業者が経済的にメリットのある(レンタル)サービス提案を提示したり、サービス購入を意図していたのに逆に物品購入の提案がなされたりした場合には、そのような理由では提案を拒絶することができなくなった。「民間のノウハウを最大限に活用するルール」の導入である。
英国でこのようなルールが導入された背景には、公共から民間への業務発注に関する改革の歴史があるので、この公共調達に組み込まれた官民協働の仕組み発展の歴史を紹介する。次回は、公共調達の仕様書の書き方の変遷について紹介する。
振り子のように揺れ動いて収束してきた英国の政策の流れ
一般的に、サッチャー・メジャー政権を継承したブレア政権という見方もあるようだが、私は、コストカッターのサッチャー政権、品質過剰評価のメジャー政権、これらをバランスさせたブレア政権と捉えている。
サッチャー政権では、コスト削減に焦点が当てられ、3E(Efficiency, Effectiveness , Economy)がそのキャッチフレーズとなった。コスト削減に焦点が当たりすぎて、定量化することが困難な品質がある程度なおざりにならざるをえなかった時期であると考えられる。たとえとしてよく挙げられるのが給食の事例である。この当時、子供の栄養、メニューのバリエーション等の給食に必要な要素を考慮した上で、徹底してコスト削減が追求された結果、冷凍食品による給食が増えたことが問題になったといわれる。
いささか行き過ぎたコスト削減をしたサッチャーは、メジャーに保守党の政権を引き継いだ。しかしながら、メジャーは1991年に市民憲章を導入し、公共サービスの品質は、利用者が決定するという考え方を導入した。PFI手法が導入されたのが1992であったことから、初期のPFI事業においては、利用者からのクレームによって、支払が減額されるという仕組がPFI事業に組み込まれていた。ブレア政権に変わり、1999年7月にPFI契約の標準化(SoPC)が公表された段階においても、まだ、お客様は神様です的な発想が残っていた。しかしながら、このような、利用者の主観によって支払が変動するような仕組では、業務のパフォーマンスを客観的に評価することは困難であるため、2002年に要求水準書を客観的なモニタリングの仕組と連動させる仕組が提案されると、瞬く間に、この手法がPFI業界に広がっていった。
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登録日:2007年 07月 29日 12:36:07
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- プロフィール

- Hiroshi Kumagae
- (男)
- 1959年05月06日
- アビーム コンサルティング㈱ ディレクター
- 著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
- ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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