わが国における官製市場開放について③ 東京LEC 法律文化 07年1月号より

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官製市場開放の歴史と仕様書の発展の歴史(2)

-公共調達のパラダイムシフト-
 これまで、官民協働事業の現状把握および国内外の官製市場開放の流れを概説し、英国のNPMの考え方や適用されているルールを説明してきた。今回から、官民協働事業で利用される入札方式の発展の歴史とその具体的な仕組みを紹介していく。従来の公共調達の手法では、公共調達の具体的な手法や手段であるインプットを公共が設定し、民間に価格で競争させた。これに対して、NPMの進んだ国の公共調達では、公共は達成したい結果(アウトプット)を示し、その解決手段や手法であるインプットを民間事業者に提案させる※1。この公共調達手法の変化は、パラダイムシフトと呼ぶにふさわしい。今回は、わが国とEU諸国の公共入札手法の違いを、このアウトプット仕様書の概念を利用して説明する。

公共事業調達の枠組みの日英比較
 アウトプット仕様書利用の有無に関連した次の3つの観点から、わが国と、NPMの浸透したEU諸国の公共調達に関する法やガイドラインの比較を行ってみよう。
 ①従来の公共調達手法とPFI手法等のNPM新手法の関係
 ②事業のライフサイクル(検討・発注・整備・運営)での官民の役割分担
 ③新手法に用いられるコスト削減の仕組みや要素

(ア)従来の公共調達手法とPFI手法等のNPM新手法の関係
 まず、わが国の場合、PFI手法は「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」に基づく特別な手法である。そして、法的に認められた一般的な契約は、国の事業は会計法第29条「契約」に基づいて、地方自治体の場合は地方自治法の第234条(契約の締結)に基づいて①一般競争入札、②指名競争入札に基づいた契約、③随意契約の3種類に分類されている。どのケースも、インプットを公共が設定し価格で事業者を選定する従来の公共調達の典型例であり、アウトプット仕様の観点からの抜本的な改善検討は行われていない。
 これに対して、2004年のEU公共調達指令に基づいて2006年1月に改定された英国の公共調達条令では、公共事業の入札の手続きの種類を①開放手続き、②制限手続き、③競争的対話手続き、④交渉手続きの4つに分類している。PFI等のNPMの新しい手法は、競争的対話手続きや交渉手続きで用いられるが、仕様書の書き方や事業者の評価の仕方は公共調達すべてに共通して適用されており、NPM手法の特有のものではない。 具体的に条令の「仕様書の書き方」と「事業者評価の仕方」を見てみよう。
 仕様書の書き方は、まさにアウトプット仕様書とはどのようなものであるかを示している。「サービスもしくは物品の購入の場合に仕様書が規定するもの」は、「材料、品物、サービスの特徴、すなわち、品質や、環境パフォーマンスレベル、すべての要求を満たす設計、適合性評価、パフォーマンス等を含んだもの」である。そして「工事の場合に仕様書が規定するもの」は、「工事、材料、物品の特徴、すなわち、それらの許認可、環境パフォーマンス、全ての要求を満たす設計、適合性評価、パフォーマンス、設計、見積もり、検査等に関連したルール、およびその他の技術的な条件」である。仕様書に特定の技術や性能を示すことは適切ではない。選定方法は「発注者の観点から最も経済的に有利な提案」もしくは「最も低価格の提案」を選定するためのものである。前者の定義は「品質、価格、技術的メリット、美的および機能的特徴、環境特性、運営コスト、コスト効率、アフターセールサービス、技術支援、配送日、配送期間、完成(組立)期間を含んで検討した結果から判断されるもの」であり、総合評価であることが分かる。

(イ)事業のライフサイクル(検討・発注・整備・運営・終了時)での官民の役割分担
 次に、検討段階から最終的な契約終了時に至る事業のライフサイクルにおいての
官民の役割分担について見てみよう。
 わが国の場合、国の公共調達では、民間事業者の改善提案(VE)を評価するために「総合評価落札方式による一般競争入札」を導入した。ただし、公共調達の主要な部分を事業者に価格で競争させるという原則は変わっていない。また、価格で競争させるためには、提案内容が大幅に異なると合理性に欠けることから、提案内容が一定の仕様の範囲で収まるように、特定の手法に基づいた技術的な性能を記載する「性能発注仕様書」が用いられている。この性能をアウトプットととらえ、アウトプット仕様書と分類する文献もあるが、筆者は、前提となるインプットの性能を規定していることからインプット仕様書として分類する。
 地方自治体の場合は、既に行政改革によって仕様書を作成する職員まで削減してしまっているところが多く、国のように基本的な仕様書を独自で策定することが困難である。そのため、仕様書作成業務も含めた「設計施工一括発注方式」を民間事業者に求める傾向にある。このような状況の中で自治体はインプット仕様書の策定をやめ、民間提案の制限を撤廃した日本版アウトプット仕様書※2を策定する傾向にあるが、日本版アウトプット仕様書では、異なった提案内容の客観的な評価が困難なので改善する必要がある。
 EU諸国では、第1回でも説明したように、発注者は達成したい結果(アウトプット)を示し、手段や手法を民間事業者に提示させる。資料は、インプット仕様書とアウトプット仕様書の違いによって公共調達のパラダイムシフトが起こり、官民の役割分担が変わったことを示している。

(ウ)新手法に用いられるコスト削減の仕組みや要素
 最後に、NPMの仕組みについて述べておく。わが国でも、NPM先進国の考え方が導入され、公共調達における費用のバリュー・フォー・マネー(VFM:お金の生み出す価値)を向上させることが重要であると認識されている。ただし、わが国特有の談合制度による競争を阻害する要因が、業界の異なるメンバーによって構成されたコンソーシアム同士が競合することによって取り除かれたり、分割発注で生じていた不明確な責任分担部分をカバーするための管理費や予備費等を設計施工運営の一括発注によって取り除けたりできる場合、このような要因によるコスト削減は、PFI手法による民間資金の利用によるコスト削減とは関連していないので留意する必要がある。
 EU諸国では、PFI事業のVFMは民間資金を利用することによって従来公共がとっていたリスクを民間に移転できる場合に大きくなると認識されており、競争によるコスト削減や分割発注を一括発注にすることで達成可能なコスト削減とは区別して、官から民へのリスク移転によるコスト削減のVFM算定を行う。NPMにおけるVFM算定には、この官から民へのリスク移転は不可欠な要素である。リスクの算定については、別途述べることにする。
 以上から、NPMの導入が進んでいるEU諸国では、価格だけで評価する一般競争入札のような公共調達は既に存在しておらず、アウトプット仕様書に基づく新たな公共調達の仕組みへとパラダイムシフトしたことをご理解いただけただろうか。次回は、このアウトプット仕様書の発展の歴史を振り返ってみよう。

※1 2004年の公共調達に関するEU指令で、このアウトプット仕様を利用することが決められたため、欧州諸国ではアウトプット仕様が標準化されている。
※2 この背景には、「民間のノウハウを活用するためには規制を撤廃する必要があるとする完全民営化や経済活性化の考え方」と、「公共調達においてアウトプット仕様書の範囲内で自由に民間ノウハウを活用し提案するという考え方」が混同されている可能性がある。アウトプット仕様書は、異なった民間ノウハウに基づいた提案を公平に評価する基準として機能する必要があるため、民間提案の範囲を規定する必要がある点に留意しなければならない。日本版アウトプット仕様書は、提案の評価項目や評価項目ごとの配点表が簡略化されているケース(専門性の必要な分野であっても専門部会を開催せず、評価委員会が短時間で評価するケース)や、「主観を点数化して」後付けで優劣の説明をするケースがある。

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登録日:2007年 07月 31日 21:44:34

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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