わが国における官製市場開放について④-1 東京LEC 法律文化 07年3月号より

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官製市場開放の歴史と仕様書の発展の歴史(3)

-改革を促す「アウトプット仕様書」-
 前回は、欧州では、価格だけで競争する一般競争入札から「発注者の観点から最も経済的に有利な提案」を選定する入札にシフトしていることと、その背景にアウトプット仕様書の普及があることを紹介した。また、「価格が最も安い」から「経済的に有利」にシフトするために、例えば英国では経済的有利性を判断する価格以外の11項目の評価要素を利用して総合評価していることに触れた。
 この総合評価の潮流は世界的なものであるが、わが国では逆に価格だけの一般競争入札が増加している。それは、ここのところ続けて発覚した談合事件に対する反動のためとも言われるが、このことは「経済的に有利な提案を選択すること」の放棄と同じなので留意する必要がある。
 今回は、欧米のNPM先進諸国において、従来のインプット仕様書からアウトプット仕様書へ移行していった歴史およびその背景を説明しよう。

インプット仕様書からアウトプット仕様書への発展の歴史

ア)インプット仕様書 
 従来の公共事業の発注方法は、国内外を問わず、工事に使用する材料・機材・工法・試験・基本設計図等のすべてを発注者が策定し、金額だけで競争させていた。この発注方式は、発注者が公共事業運営に「投入するもの(インプット)」を事前に規定することから、「インプット仕様書」に基づく発注方式という。この方法は発注者が最良のインプットが何であるかを知っている場合には、入札価格という最も客観的な要素で事業者を比較選定することから、競争上の公平性を担保できる最適な手法である。

イ)BPR※1の導入
 ところが、技術の複雑化と特殊化が進み、公共の今までの発注ノウハウだけでは、革新的な解決手段を含んだ最適なインプットを見付け出すことが困難になってきた。そこで外部の専門的ノウハウを利用した改革の手段であるBPRの考え方が公共セクターでも導入された。欧米において、この見直しが行われたのは1990年ころである。
 BPRは、本稿の第1回目で述べたように既存の仕組みの改善ではなく、プロセスをゼロベースで見直す改革である。

ウ)アウトプット仕様書誕生の背景 
 一般の企業ではBPRを社内の業務改革に利用する場合、特定のコンサルティング会社や企業を選定しパートナーシップを組むことが可能である。しかしながら公共は、事業者選定上の公平性を担保しなければならないため、特定の企業を任意に選ぶことが難しい。そこで、民間のノウハウを活用するために、発注者として達成したい結果(アウトプット)を明確に示し、民間事業者にその手法や手段を自由に提案させる方法が導入された。このような背景から誕生した公共調達手法は「アウトプット」を事前に規定することから、「アウトプット仕様書」に基づく発注方式と呼ぶ。

エ)アウトプット仕様書を最初に導入したCUPガイダンスNo.30
 従来は、暗黙の前提として「公共が公共施設を所有して公共事業を運営すべきだから、その施設の設計や施工管理も公共が責任を持って行うべきである」という考え方と「品質と価格の間にはトレードオフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反)の関係があり、価格を下げるためには品質を下げざるを得ない」という考え方があった。
 この従来の考え方をBPRの発想で打ち破ろうと、英国のサッチャー首相は、公共調達のベストVFMを達成するための基本的な考え方を「CUPガイダンス」として公表した。このガイダンスの30番目のものが1991年に公表された「仕様書の書き方※2」である。このガイダンスは、仕様書のあるべき姿を概念的に述べた上で、資料1(右頁参照)のように、仕様書は①機能仕様、②パフォーマンス仕様、③技術仕様――の3つで記載可能であること、そして、これらの仕様の組み合わせも可能であるが、「技術仕様書」では提案が制限される為、「機能仕様書」と「パフォーマンス仕様書」を利用することが望ましいと示した※3。

オ)アウトプット仕様書とPFI手法
 このガイダンスはすべての公共調達に適用されたため、「アウトプット仕様発注」が普及し、それに伴い「サービスの提供方法を見直せば、より廉価にサービスを購入しつつ、従来と同様の成果が達成可能である」ことが実証された。そして、この考え方は「公共による施設所有は目的ではなく、(施設を利用した)公共サービスの提供が目的」なのであるから、「不具合なく施設が利用できる機能」と、「施設に付随したサービスの適切な品質(パフォーマンス)の維持」さえ満たすことができれば、「公共は施設を所有する必要はない」というえ方につながった。従来、不具合やサービスの品質低下のリスクは、施設調達後に発生する問題であるので、当然のこととして施設を所有している公共が取っていた。ところが、要求する機能とパフォーマンスを適切に設定し、民間資金を使って事業者に施設整備をさせ、その施設提供サービスを購入するPFI手法の考え方を使えば、従来公共が責任を取っていたこれらのリスクを施設調達段階で従来のコスト以下で事業者に移転できるため、
コスト削減できる。PFIがサービス購入型調達と呼ばれ、VFMはリスク移転から生まれると言われる理由はここにある。

カ)PFI手法における民間資金利用の条件
 このように、それまで公共が抱えていた公共施設に付随したさまざまなリスクを民間移転できると、事業のライフサイクルコスト(LCC)が下がり、民間資金を使ってもVFMが生まれる可能性がある」ということが分かってきた。民間資金を使う手法は、収益を生まない公共施設の整備にはそれまで認められなかったが、1992年以降は、民間資金を利用してVFMを最大化することができる場合に限り、民間資金を使って公共事業施設整備
をしても良いことになった。ただし、従来通り「公共が民間資金を利用して施設整備費用を延べ払いすることは禁止」したままである。このように、公共調達に民間資金を使えるようにしたPFI手法は、従来の施設調達手法とは異なったサービス購入手法であり、このPFIの導入はアウトプット仕様書の普及と、民間への施設に関連したリスク移転なくしてはあり得なかったものである。

キ)アウトソーシングと同じ考え方のPFI手法による事業者へのリスク移転
 専門性の高い業務をアウトソースするのと同じ理由で、不動産に付随するリスクの管理は、公共よりも「施設運営ノウハウ」を持つ民間の方がうまい。このような専門性のある業務を、民間に委託してその結果削減されたリスク管理コストを官民で分配して、公共のVFMの向上と民間の収益の向上を同時に達成するのがPFIWIN-WINの考え方である。

ク)施設の整備と施設提供サービスの違い
 わが国のPFI事業は、施設整備の一環として導入された。そのため、施設整備に焦点が当たりすぎ、運営開始後の不具合や品質低下の評価の仕組みが後回しになる傾向がある。そして、客観的な減額の仕組みが構築できないので、サービス開始後に発注者の主観で減額せざるを得ない。しかし、整備費の債務は確定しているため、不具合が生じてもこの部分からの減額ができない――という問題を抱えている。
 これに対して、海外のPFI手法は、民間の施設提供サービスを公共が購入する仕組みである。この仕組みは、不具合のない条件で施設提供サービスを購入するものであるため、不具合が生じた場合には支払いを減額できる。不具合の支払いの減額の仕組みは、事業枠組みとして入札公示前に設定されており、事業者はその枠組みの中で提案を行い、品質の確保をセルフコミットする。したがって、減額発動に発注者の主観が入る余地はなく、事業者はリスクをとる範囲を限定できる――というメリットを持つ。

※1 BPR(Business Process Re-engineering):企業改革において、既存の組織やビジネスルールを抜本的に見直し、プロセスの視点で職務、業務フロー、管理機構、情報システムを再設計(リエンジニアリング)するというコンセプト。「ビジネス・リエンジニアリング」「リエンジニアリング」ともいう。この考え方は、1990年に元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー(Michael Hammer)氏がHarvard Business Review誌に発表した論文で紹介され、1993年に同氏と経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー(JamesA. Champy)氏の共著で出版された「Reengineering the Corporation: A Manifesto for Business Revolution」が世界的なベストセラーとなることで、広く知られるようになった。
※2 ちなみに、このガイダンスは1988年前後に出されたCUPガイダンスNO.9 を差し替えたものである。BPRの考え方は1990年以降であるため、1988年のガイダンスの中にアウトプット仕様書の考え方が含まれていなかったと考えられる。この点を確認しようとOGCに問い合わせたが、当時の担当部署は既に存在せず、担当者が誰であったかもわからないし、差し替えられた古いガイダンスを保管する仕組みがないため、ガイダンスの内容はわからないという返答を受けた。結局NO.9は「なぞのガイダンス」となってしまったが、問い合わせてから1両日でOGCの丁重な返答を受け取ることができたことから政府の公共調達エージェントであるOGCのサービスの高さを実感することができた。
※3 このガイダンスでは、「アウトプット仕様」と言う言葉は用いられていないが、まさにVFMを生み出す仕組みの一つである「アウトプット仕様の概念」が、「機能仕様」と「パフォーマンス仕様」の中に記載されている。

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登録日:2007年 07月 31日 22:18:09

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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