所論緒論/日本型PFIの特異性と日本版PFIの改善の方向性  日刊建設工業新聞 05-12-08

◇EUROSTAT基準では100%公共債務となる

わが国の国と地方自治体をあわせた累積債務は増え続けており、既にGDPの150%を超えている。健全な財政状況の定義は、国によって違うが、累積債務額が、G8の4カ国を含む25カ国の上限基準値の2・5倍に達しているわが国のPFI/PPPの民間資金調達の100%が公共債務となる状況は世界的なPFIの導入目的から考えると異常である。財政状況の悪化している中での日本版PFIの見直しが必要な理由はここにある。

EUメンバー国は、マーストリヒト条約の合意に基づき、健全な財政状態を保つ義務を負っており、年度財政赤字はGDPの3%を超えてはならず、総債務残高もGDPの60%以内に保たなければならない。そのため、欧州単一通貨EUROを導入した諸国の中では、フランス・ドイツ・イタリアの年度赤字が3%を超えて問題化している。また、拡大EUメンバー諸国のひとつであるハンガリーの財政赤字が急拡大しており、予定していた欧州単一通貨EURO導入を先延ばしにしなければならなくなっている。

このマーストリヒト条約の健全性を示す財政健全基準は、PFI手法を生みだした一つの要因であった。すなわち、政府が施設整備をするために国債を発行すると政府の累積債務となるが、民間事業者が民間施設を整備するために資金調達をした場合には、その民間債務は公共の債務ではない(公会計から債務をオフバランスできる)という考え方からPFIが生まれたのである。このようにPFI導入の初期の段階では、公会計からの債務のオフバランスが強調されたが、今では、オフバランスにするために、本来の目的である最大の価値(ベストバリュー)が生まれなくなるのはナンセンスであるという考え方に変わっており、ベストバリューが生まれるのであれば、民間資金調達の債務が結果的に官民どちらの債務になるかは重要ではなくなっている。

EUも、PPPガイドラインを作成し、ベストバリューの考え方からPPP/PFI手法を推進している。しかしながら、拡大EUメンバー国のうち、特に財政的に苦しい東欧諸国では、ユーロ通貨圏に入りたいため、「施設整備に投資はしたいが、債務を増やすわけにはいかないというジレンマ」に陥っており「公共債務をオフバランスにするためのPPP手法」の積極的な導入が検討されている。

このような背景から、EUROSTAT(欧州統計局)は、加盟国政府の財政状況を正確に統計するために、昨年メンバー各国に次のようなPPPの財務処理基準を示した。

*−民間の資金を使って施設整備を行う場合、次の条件の両方を満たしている場合にのみ、公共セクターは、その投資を民間事業者の投資としてみなすことが可能であり公共セクターの債務としない形で会計処理できる。〈1〉民間のパートナー企業が建設リスクをとっていること〈2〉民間パートナー企業が少なくともアベイラビリティーリスク(注)もしくは需要リスクをとること−*

二つの要件をまとめると、いくら民間が施設を所有していても民間が建設リスクをとっていなかったり、建設リスクをとっていたとしてもアベイラビリティーリスクもしくは需要リスクをとっていなかったりすると、民間の資金調達であっても公共セクターの債務とみなして会計処理をしなければならないというルールである。

英国には、このEUROSTATのルールが導入される前から、官から民へのリスク移転度合いを評価し、官民どちらの債務にするかを判断する基準(財務報告基準FRS−5)があった。そのため、EUROSTATのルールの適用による影響は、英国の財務報告基準上では、民間債務であるものの一部をEU統計上は公共債務として認識しなければならなくなっただけである。既に、PFIの導入目的は、公会計からの債務のオフバランスではなく、ベストバリュー(VFMの最大化)の達成にシフトしており、04年の公会計からオフバランスされているPFI事業関連の債務の割合は全体の43%であったため、EUROSTATのルールの導入による大きな影響はなかった。

ところが、この基準に基づくと、割賦払いで施設整備費をしている日本型PFIは、BTO方式(公共が施設を所有するPFI)は当然のことながら、BOT方式(民間が施設を所有する形態)であっても、割賦払いの部分は公共の債務として認識しなければならなくなる。

債務のオフバランスを目的としたPFIの導入は本末転倒ではあるものの、わが国の財政状況を考えるとオフバランスにすることが可能なリスク移転型のPFI手法を検討する必要があるのではないだろうか?

注=アベイラビリティーリスク=施設の一部が何らかの理由で利用できなくなった場合には、その重要度と事業者の対応の仕方に応じて支払いが減額されるという考え方。施設はエリアごとに重要性に基づいて、利用できない場合の減額割合や、不具合が生じても減額が免除される許容時間が設定されており、全ての施設が利用可能(Available)な状態の場合にのみ全額支払いが行われるという考え方。施設に不具合が多い場合には支払いがゼロになるという条件がつく。

この記事は、ちょっと古いものですが、今でも十分当てはまるトピックですので遅ればせながら載せました。

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登録日:2007年 10月 11日 18:44:53

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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