脱「日本版PFI」のススメ に関しての質問をうけました
さて、”脱「日本版PFI」のススメ”が書店に配本されてから10日程たちましたが、既に読み終わった方から次のような質問を受け取っています。
> 1.省庁と金融機関の間の「直接契約」というのがありますが、
> 両当事者の債権債務関係はどうなっているのでしょうか。
> (ともに事業者を第三者とする「第三者のためにする債務」を負って、
> それが双務関係になっていて、不履行の場合に損害賠償請求権が
> 省庁と金融機関の間に生じる、ということなのでしょうか)
【直接契約は誰が結ぶのか?】
本稿では、直接契約の詳細については、ふれませんでしたが、
直接契約が、発注者と金融機関の2者間の契約であるというのは誤解です。
(ただし、わが国では、そうなっているケースがほとんどのようです。)
本来の直接契約とは、金融機関、発注者、事業者(SPC)の三者の契約であるはずです。
それは、事業者の利害が絡んでいるため、事業者なしには契約できないからです。
【直接契約が不要なケース】
発注者が任意にもしくは、発注者側の責任で契約を解除する場合には、発注者は事業者に対して補償する必要があります。
そうでなければ、危なくて事業者は投資をすることが出来ません。
また、発注者としても、契約を解除するまえに、解除するとどのくらいのコストがかかるかを算定しておく必要があります。
そのため、実際の英国のPFIでは、入札の段階で、事業者に補償の方法を次の3種類の中から選ばせます。
① オリジナルベースケースに基づいて補償する方法
② 契約終了時の市場価格に基づく方法
③ 契約解除日以降のオリジナルベースケースの利益率に基づく方法
この補償方法の決定は事業者だけによる意思決定ではなく、融資をした金融機関と事業者が同意したものです。
このような発注者の理由によって契約が解除される場合の補償条件が明確に設定されていれば、特に、直接契約がなくても問題はありません。
【なぜ、直接契約は必要なのか】
ところが、事業者による債務不履行を原因として契約が解除される場合には、事業者は、前述の3つの方法が適用できず、契約終了時の市場価格に基づく方法を適用することが決まっています。
ちなみに、初期の英国のPFI事業では、発注者の支払いなしで契約が解除されたものやわが国と同様に、融資残高の支払いを補償するようなものもあったようですが現在は、全てのPFI事業は、市場価格に基づいて清算されると決まっています。それが最も官民にとってフェアな条件だからです。
さて、金融機関は、事業者に対する融資を行う場合、事業契約を精査し、契約が生み出すキャッシュフローのバリューを担保にして融資を行っていますが、事業がうまくいけばこそ、融資が回収できるわけですから、契約が解除されるようなケースでは、市場価格が相当落ち込んでいる可能性があり、融資残高が回収できなくなる可能性が大です。
実は、このポイントが最も重要であり、このような融資回収不能リスクを金融機関が抱え込んでいるので、金融機関が事業に介入して事業を立て直すインセンティブが働くことになるのです。
【なぜ、金融機関は事業を立て直すのか】
そもそも、事業者の不履行が発生したとしても、SPCはペーパーカンパニーですので
主要下請け業者のどこかに問題があることになります。
そのため、主要下請け業者を変更することによって事業の建て直しが行われるのが一般的です。事業者に能力があれば、下請け業者を変更します。ところが、下請け業者をSPCが自ら変更できるような状態であれば、債務不履行による契約解除にまでは到っていないわけですから、そのような状態になったということは、SPCには、下請けを変更する能力が
ない状態になっていると考えられます。
そこで、事業者(SPC)は、契約の建て直しを第三者に引き継ぐ(これを契約の更改【Novation of contract】と呼ぶ)ために金融機関に事業建て直しの権限を委ねる必要が生まれるのです。
また、発注者にとっても、自分らが介入したり、新しい事業者を再入札で選んだりすることは大変手間のかかる作業ですので、金融機関に事業の建て直しのチャンスを与えることは、発注者にとってのメリットともなります。
【更改契約(Novation of Contract)]】
このような問題を解決する仕組が直接契約です。
直接契約とは、発注者と事業者と金融機関の三者による契約締結です。
直接契約において重要なポイントは、事業者の債務不履行が生じたら、契約を解除する前に、まず、金融機関に事業介入させる権利を与えることです。契約を解除されると、有す残高を全額回収することは困難ですが、金融機関が事業に介入し、事業の建て直しが出来れば、金融機関にとっても融資残高が問題なく回収できますのでメリットとなります。
事業者もしくは事業者の下請けの交代が必要な場合には、事業者を変更しなければなりませんので、直接契約の中で、事業者は、新たな事業者にたいして、従来の権利義務全てを更改する(引き継ぐ)ことを合意しておきます。
【流動性のある市場がない場合=再入札が出来ない場合】
話をあまり複雑化したくはないのですが、全てのPFI事業は、市場価格に基づいて
清算されると決まっているといいましたが、それは、再入札を行って事業を継続する権利を引き継ぐ新たな事業者が入札することを意味します。その入札額が市場価格となります。ところが、流動性のある市場が存在しない可能性があります。つまり、誰も事業に興味を示さないケースです。
そのような場合には、発注者が仮想の応募者がいた前提で、名目上の事業価値を算定して清算することになります。
【浮動担保について】
PFI事業とは、事業をうまく運営すれば利益が得るような権利が与えられているものであることから、そのような将来のキャッシュフローが生み出すバリューを担保として融資が行われており、金融機関の担保権は、このような事業契約全体に及んでいます。このような担保権は、金額や特定の不動産担保によって担保額を固定するのではなく、企業の変動する営業資産を担保とするものであるため浮動担保(Floating charge)と呼ばれます。(社)リース事業協会は、英国の浮動担保(Floating Charge)に範を採ったといわれる企業担保法制度が導入できるように、法改定を要求しましたが、法務省は、我が国においては、既にこの考え方を利用することは可能となっているとして、「浮動担保」制度は、既に活用できるものであるという見解を示しています。(ちょっと古いデータですが、平成12年1月に公表された、規制緩和推進3か年計画の改定作業状況(中間公表)より)
【直接契約の実態】
ところが、わが国のPFI事業における、実際の直接契約には、このような浮動担保を前提とした直接契約の本来のあり方について記載されていないものも多く、金融機関が事業者に対して不動産担保を取っていることを、発注者に認めさせることがその内容となっているものが見受けられます。
この部分も、本来なら、”脱「日本版PFI」のススメ”に記載したかった部分ですが、あまりはなしを複雑化したくなかったので記載しませんでした。
> 2.「減額係数」というのはどういう基準で決めるのでしょうか。
減額係数の決め方は、重要度、緊急度などに応じて決めるのが一般的です。
例えば、庁舎のPFI事業と、病院のPFI事業を比べてみると良く分かります。
異論はあるかもしれませんが、病院の中で最も重要度の高いエリアは手術室だとします。庁舎の中で、最も重要度の高いエリアは、首長の応接室だとします。
それでは、病院の手術室の電球が切れるのと、庁舎の首長の応接室の電球が切れるのは、どちらが重要でしょうか?前者の重要度が高いことは、一目瞭然でしょう。
それでは、同じ病院の中で、倉庫の電球を切れない状態で保つことの重要性と、手術室の電球が切れないように保つことの重要性には何倍の重要度の違いがあるでしょうか?
庁舎のような施設の場合には、せいぜい3倍程度、病院の場合でも最高で7倍程度の重要度の差が適切であるといわれているようです。
基準は、発注者の考え方と、そのリスクをとる事業者の考え方が折り合ったところできまりますので、競争的対話方式によって、合意されるのが一般的です。
分からない点、質問などありましたら、コメントの欄に記載して下さい。
出来る限り、お答えしたいと思います。
カテゴリー[ 脱「日本版PFI」のススメ ], コメント[2], トラックバック[0]
登録日:2007年 10月 14日 23:54:57
コメント
ご説明、大変よく分かりました。
事業者の債務不履行に際し、公共サービスでは損害賠償や清算はあまり
意味がなく、むしろいかにして事業を継続させるかが重要であるので、
そのための手続を利害関係のある当事者全員で合意しておくのですね。
そして、そのイニシアティブは経済的インセンティブが最も強い
金融機関がとり、事業契約を結んでいる他の二当事者は
この介入を認める義務を負う、ということになるのですね。
減額係数もよく分かりました。これも、PFIの実施の積み重ねで
「相場」が立つということですね。確かに、同じ照明でも
院長室と待合室と手術室ではトラブルのインパクトが全然違いますね。
しきのぴぃちゃん @ 2007年 10月 17日 15:50:24
元某監査法人にいたオーキーです。ご無沙汰しています。本も出版されたそうでご活躍何よりです。
ブログたまに興味深く拝見させていただいております。私は以前にもご議論させていただいたように、熊谷氏の意見に賛成ですので、敢えてここでは意見の異なる点を述べさせていただきます。
直接協定が三者契約であるとの点には、正直かなりの違和感を覚えました。直接協定で規定すべきはレンダーの担保権の行使についての一定の手順を書いたものであり、もちろんその中で事業者代替も含まれますが、事業者には行使されうる担保に関して何らの権利は無く、直接協定にサインするとしたら単に内容をAcknowledgeするだけのはずです。
(権利が交錯するのは金融機関として絶対に受けいれられないはずです。)
つまり直接協定の規定を実行するような段階になった場合に、プロセスの蚊帳の外で、実際に事業者代替が発動される段になって引き継ぎの義務が生じる程度です。
事業者と発注者(公共)との間で直接協定を結び、発注者の事業介入権を定めている例はありますが、それとてもレンダーとの間の直接協定に優先する建て付けとはならないはずです。
PFIに限らず、WBS(事業の証券化-Whole Business Securitisation)の直接協定などでも、事業者が直接協定の契約の当事者となっている例はほとんどありません。
これは金を出す側になればわかります(最近、事業証券化のレンダー側として契約交渉などもしているので)。
以上、また他にコメント致します。
今後のご活躍を期待しております。
オーキー @ 2007年 11月 03日 10:29:56
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- プロフィール

- Hiroshi Kumagae
- (男)
- 1959年05月06日
- アビーム コンサルティング㈱ ディレクター
- 著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
- ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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