所論諸論   市場化テストに必要なガイドライン  日刊建設工業新聞 2007 年 10月 31 日

2008年度以降の市場化テストの対象事業数が、16事業追加され41事業になるという。

内閣府による市場化テストの定義は、「ある公共サービスの提供について、官と民が対等な立場で競争入札に参加し、価格・質の両面で最も優れた者が、そのサービスの提供を担う仕組み」であり、総務省による定義は、「公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を図る観点から、透明かつ公正な競争の下で地方公共団体と民間事業者との間または民間事業者の間において、これを実施する者を決定するための手続き(公共サービス改革法に規定する官民競争入札及び民間競争入札=以下『官民競争入札等』という)を含む=以下『市場化テスト』という)」である。

そもそも市場化テストの目標は、公共サービスの効率化、質の向上、担い手の多元化、行政府の生産性の向上と規模の最適化等を、民間ノウハウを使って達成させることであり、コスト削減をするために、高い人件費の公務員を、安い人件費の民間スタッフに置き換えることでコストを削減するための仕組みではない。ベストな改善案を見つけることが目標であり、それを採用するためには、現在解決しなければならない課題を見つけ出し、それを業務水準規定書(Performance Work Statement=PWS)に落とし込む作業が必要である。



以下は、米国の「適切なPWS作成のためのガイダンス」が示したPWS作業手順の概要である。

まず、市場化テストを適切に行うためには、現状分析を行い、現在の手段や手法がなぜそうなっているかを明らかにした上で、民間事業者が同じ目的でプロセスの見直しを行った場合には、どのようなプロセスで実施するかについての情報を収集し整理する。

このとき、複数の民間事業者を集めて意見を聞くよりも、事業者ごとに会合を持ち情報を収集する方が大きな効果が生まれるといわれる。これは、事業者のノウハウを公共に対してアピールしたいという民間の営業活動と、ノウハウを競争相手に開示したくないという知的財産保護のニーズがあるからだと思われる。また、この情報収集の段階で、どの程度のレベルのリスク移転が可能であるかについて、事業者から情報を得ることが次のステップの情報収集にもなる。

情報収集後には、まず、要求を満足させるものは何なのかを分析し、要求する成果を設定する。つぎに、その結果を達成するために必要な業務を分析する。そして、どのような結果であれば満足できるのか、その結果には許容範囲があるのか、あるならばそれはどの程度であるかを分析する。

これらの分析は、業務の特殊性や、事業ごとの特殊性を反映させた形で分析することが重要である。

これらの分析の結果、次の三つの詳細目標を設定する。

〈1〉結果、成果、機能、容量等による要求の記述(手段や手法は用いない)
〈2〉測定可能な業績指標の選定
〈3〉受け入れ可能な品質レベルの設定

そして、いったん設定した三つの詳細目標が適切かどうかを『So What?』テスト(PWSの適切性検証方法)等を利用して検証する。

以上のように、民間事業者に業務を委託して、今まで公共が達成できなかった目標を達成してもらうには、達成可能で、満足のいくレベルで、しかも、モニタリングによってその達成が確認できるようにPWSを設定する作業を行うことが不可欠となる。

このようなPWSの構築によって、民間委託業務のモニタリングが可能になるし、事業者が業績を達成出来なかった場合の対処が検討可能になる。また、このPWSは、公共が競争に勝って、業務を推進する場合に、公共サービスが適正に行われていることを検証するための指標ともなるので、自らが達成することも十分に考慮した上で、その業務水準を設定する必要がある。

わが国もこのようなガイドラインを策定してはいかがであろうか。

このコラムの背景にあるのは、無責任な業務分担とリスク分担によって行われているPFI 指定管理者制度 市場化テストなどに対してのフィードバックをしてもらいたいという意図がある。

かつて、業務委託をするに際しては、ABC手法などによって、その作業の単価算定をやっていた。しかしながら、このようなバーチャルな計算上の単価算定は、変数を任意に設定するだけで価格が大きく変動する。そのため、海外のNPMでは最近あまり聞かれないが、わが国には、いまだABC、ABCと叫んでいる危ない人もいるので注意しよう。

単価の算定に基づいて行う委託によって、コスト削減ができたかどうかを判断することは困難であるが、業務委託は、プロジェクトや、事業所などの、会計上独立したユニット単位、もしくは、組織全体を包括的に委託し、委託後のサービスパフォーマンスを維持させる仕組みを構築しさえすれば、全体でのコスト削減ができたかどうかがわかる。最近の海外における、PFIや市場化テストは、このような考え方に基づいていることが多い。

ただし、わが国のPFI事業のように事業単位で委託しても、委託業務の品質を評価する仕組みがなければ、適切なサービスが提供されているかどうか判断することはできない。コストは落ちてもサービスの質も落ちている可能性があるからである。

いわゆる昔の単なるまる投げ状態になっている可能性がある。業績業務仕様書(PWS:Performance work Statement)を活用した発注の意味はここにある。

米国の連邦政府のサービス調達の50%は、この仕組みで発注されている。

この仕組みは、わが国で用いられている整備する施設の性能を前提とした性能発注とは異なり、業績に連動したサービスを購入する仕組みである。

サービスの購入という概念を、施設整備費の割賦払いに与えた大間違いをフィードバックして、いま世界でもっともトレンディーな性能発注メカニズムになるべく早めにパラダイムシフトしていただきたいと思う。

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登録日:2007年 11月 01日 20:25:46

コメント

熊谷さんに教えていただきたいことがいくつかあります。

1.詳細目標では手段や手法には触れないということだと、詳細分析設定プロセスは手段分析プロセスとは直接リンクしない、並行なプロセスだということですか。

2.官民競争入札の場合、政府の実施部門と契約部門は、明確に組織が分かれてファイアウォールもないと、現状分析プロセスでの民間からの情報収集は難しいように感じるのですが。

3.熊谷さんのご主張は「間接部門のコスト配賦は恣意的に操作できるので、間接部門を含んだ組織単位ごとに入札しよう」ということだと思うのですが、一方で最近の行革の動きは、間接部門に関し規模の経済を働かせるため、多少ミッションが違っても類似のものはくっつけてしまえという方向にあり、ますます市場化テストの環境としては悪くなっているように感じるのですが、いかがでしょうか。

4.Performance work Statementでググるとかなりの文書が出てきますが、最初に読むべきガイドラインとして熊谷さんのオススメがありましたら教えてください。

お忙しい中恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

しきのぴぃちゃん @ 2007年 11月 02日 18:16:18

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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